母子保健情報の登録・評価に関する研究

文献情報

文献番号
199800351A
報告書区分
総括
研究課題名
母子保健情報の登録・評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
柳澤 正義(東京大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤忠明(日本子ども家庭総合研究所)
  • 青木菊麿(女子栄養大学)
  • 中村敬(日本子ども家庭総合研究所)
  • 田中敏章(国立小児病院小児医療研究センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
各種母子保健情報が、国、地方自治体および研究者によって有効活用されるためには、適切な登録、管理、評価のシステム構築が必要である。そのような観点から、具体的な母子保健情報として以下の4つの分担研究課題を設定した。1.小児慢性特定疾患の登録・管理・評価に関する研究、2.マススクリーニングで発見された症例の追跡調査に関する研究、3.「心身障害研究・子ども家庭総合研究報告書」のデータベース化に関する研究、4.成長ホルモン治療の現状と評価に関する研究。それぞれの目的は、1.小児慢性疾患の治療、療育支援および研究を促進するためには、疾患の登録管理を効率的に行い、国、地方自治体、および研究者にその情報を提供する必要がある。2.新生児マススクリーニングで発見された症例の追跡調査は、スクリーニングをさまざまな立場から評価するうえで極めて重要である。3.過去の心身障害研究と平成10年度から実施されている子ども家庭総合研究の成果が広く活用されるためには、コンピュータ利用による報告書のデータベース化が望まれる。4.平成10年2月から、小児慢性特定疾患治療研究事業における成長ホルモン治療に対する公費負担の適応基準が変更されたことにより、実際に成長ホルモン治療の現状がどのように変化したかを把握することが、行政上の評価として必要である。以上の目的から、本年度は3年計画の1年目として本研究を行った。
研究方法
分担研究1. 小児慢性特定疾患の登録・管理・評価に関する研究(分担研究者 加藤忠明)。平成10年度から使用されている新しい小児慢性特定疾患(以下小慢疾患)医療意見書の内容をプライバシー保護に十分配慮しながら、国および都道府県レベルで統計処理を行う方式を検討した。平成9年度試作したCD-ROM(小児慢性特定疾患の登録・管理システム)を用いて、今年度申請された小慢10疾患群の医療意見書の一部をコンピュータ入力、集計、分析した。分担研究2. マススクリーニングで発見された症例の追跡調査に関する研究(分担研究者 青木菊麿)。わが国における新生児マススクリーニングは、1977年から実施されており、集積された治療データは母子愛育会総合母子保健センターの特殊ミルク事務局にデータベースとして保存されている。マススクリーニング対象疾患は小慢疾患に含まれており、小慢疾患のデータベースと特殊ミルク事務局に保存されているデータベースとをリンクさせることによって、より確実な追跡調査が効率よく行われる可能性があり、そのシステム構築を検討した。分担研究3. 「心身障害研究・子ども家庭総合研究報告書」のデータベース化に関する研究(分担研究者 中村 敬)。過去27年に及ぶ心身障害研究および平成10年度から開始した厚生科学研究子ども家庭総合研究事業の成果を記した研究報告書を永久保存することと、これらを広く普及することを目的として、これらの報告書の電子化とデータベース化の方法を検討した。すでに印刷された報告書が対象になる過去の心身障害研究報告書と、各研究者から報告書を電子データとして収集可能な平成10年度以降の子ども家庭総合研究報告書の2分野に分けて検討した。分担研究4. 成長ホルモン治療の現状と評価に関する研究(分担研究者 田中敏章)。成長ホルモンの公費負担適応基準の変更の前後における成長ホルモン治療状況の変化を把握し、今後の公費負担基準の検討のための基礎となる疫学データを収集した。本年度の研究においては、データの多くは、成長科学協会成長ホルモン治療専門委員会・GH関連因子専門委員会に委託
して得られたものを用いた。
結果と考察
分担研究1. 小児慢性特定疾患の登録・管理・評価に関する研究。今年度申請された医療意見書の一部をコンピュータ入力し、集計・分析した結果に基いて、ソフトの改良を行い、また、基本的ソフトの内容は同一としながらも、行政のみでなく専門医等、各分野で使用できる複数のソフト開発を行った。今後の当事業の在り方として、・現行のコンピュータ入力内容が継続して活用できる範囲での医療意見書の改訂、・登録方法や診断の誤りの有無を調査・確認する委員会の設置、・医療情報をより正確に集計・解析するため、医療意見書の記載例の作成と各医療機関への配布、・プライバシー保護と情報開示の視点から、医療情報をより役立たせられるシステムの構築、・疾患名とICD10コードとのより正確な対応、などが望まれる。特殊ミルク事務局との共同登録管理は、マススクリーニング疾患の追跡調査用紙を、保健所や小児病院等に置き、小慢疾患申請時に、同時に提出させると効率的、効果的である。今後はプライバシー保護に十分配慮しながら小慢疾患の申請内容を統計処理し、行政および医療関係者に、その情報を提供することにより、小慢疾患の効果的治療や療育支援、また患児のQOL向上に役立つことが期待される。分担研究2. マススクリーニングで発見された症例の追跡調査に関する研究。本年度の集計では、マススクリーニングで発見され、小慢疾患の登録から追跡調査の手掛りが得られた症例はわずかであったが、この方法が周知徹底されれば、今後の追跡調査に有効な手段になると考えられた。申請時に小慢疾患の医療意見書の代りに、現在使用している追跡調査表に直接記入を依頼すれば、追跡調査の効率は一層向上するものと期待される。分担研究3. 「心身障害研究・子ども家庭総合研究報告書」のデータベース化に関する研究。過去の「心身障害研究報告書」は、解体してページごとに画像データとして電子化し、新規の「子ども家庭総合研究報告書」については、研究者から文字情報を生かせる形式で電子データを収集し、データベース化を図る方法が最適と考えられた。現段階での収納ファイル形式は、過去分、新規分ともに、コンパクト性や印刷性が良好で変換が容易なPDF形式を採用するのが最適と考えられた。過去分報告書の電子化は報告書各ページのイメージ変換作業を進めるとともに、報告書の一部を光学的文字認識(OCR)ソフトによりテキスト化を行った。新規分報告書は、報告書の提出ファイル形式、使用ワープロソフトやバージョンなどを指定して収集することとした。また、電子データは将来検索ソフトの改善や収納ファイル形式の変更が可能であるようにオリジナルのまま保存して残すこととした。課題として、作業性や経費のコストを低く押さえ、能率よくデータベース化するためには、報告書の提出様式を統一することが必要であると思われた。特に報告書を電子データとして、コンピュータ画面で閲覧することを考慮すると、報告書の作成形式を一段組みにすることや標題などの統一化を図ることが必要と思われた。分担研究4. 成長ホルモン治療の現状と評価に関する研究。現在、成長ホルモン分泌不全性低身長症として成長ホルモン治療を受けている患児の頻度は、推定される成長ホルモン分泌不全性低身長症の頻度よりも高い傾向があり、これには診断上の問題点もある。特に成長ホルモン測定キットによる測定値の違いにより診断が異なってくる可能性があり、判定には測定値の補正式を用いることが望ましい。成長科学協会のデータベースを用いて、小慢疾患成長ホルモン治療助成基準変更前後における治療適応判定数を検討すると、平成10年度は前年と比して57.4%に減少し、基準の変更が影響していると考えられた。また、低身長外来を訪れる新患のうち成長ホルモン分泌負荷試験を行う数も半減しており、これも基準変更の影響によると考えられた。今後、医療意見書のデータを解析することによって、成長ホルモン分泌不全症の診断および治療方法の改善に寄与することが期待される。
結論
4分担研究課題それぞれについて、平成10年度から始まる
3か年の研究の初年度として、次年度の研究につなげることのできる所期の成果を得ることができた。

公開日・更新日

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