microRNA阻害剤による骨肉腫がん幹細胞制御を基盤とした新たな革新的がん治療の実用化を目指す前臨床試験

文献情報

文献番号
201411036A
報告書区分
総括
研究課題名
microRNA阻害剤による骨肉腫がん幹細胞制御を基盤とした新たな革新的がん治療の実用化を目指す前臨床試験
課題番号
H24-実用化(がん)-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
川井 章(独立行政法人国立がん研究センター 骨軟部腫瘍科)
研究分担者(所属機関)
  • 落谷 孝広(独立行政法人国立がん研究センター 分子細胞治療研究分野)
  • 藤原 智洋(岡山大学病院 新医療研究開発センター(整形外科学))
  • 根津 悠(独立行政法人国立がん研究センター 分子細胞治療研究分野)
  • 伊庭 英夫(東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 宿主寄生体学分野)
  • 伊藤 博(東京農工大学 農学部附属動物医療センター 腫瘍科)
  • 尾崎 敏文(岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 生体機能再生・再建学講座 整形外科学)
  • 尾崎 充彦(鳥取大学医学部 生命科学科 生体情報機能学講座 病態生化学分野)
  • 近藤 格(独立行政法人国立がん研究センター 創薬プロテーオーム研究分野)
  • 松田 範昭(株式会社スリー・ディー・マトリックス 事業開発部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
80,730,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がん組織内におけるがん幹細胞分画をいかにして制御するか、様々ながん種で研究開発が進んでいる。本研究班は平成23年度までにヒト骨肉腫細胞株におけるがん幹細胞分画を単離し、その悪性形質に関与するmiR-133aを特定した。さらにlocked nucleic acid (LNA)によるmiR-133a機能阻害により、薬剤耐性や浸潤能などのがん幹細胞分画における悪性形成の制御を見出した。しかしLNA製剤は海外企業が既に特許を獲得している現状を考慮し、本邦で開発されたS-TuD (Synthetic Tough Decoy RNA)を応用し、骨肉腫悪性形質の制御を試みることを第一の目的とした。また、この構造体を大量合成する方法の確立および医薬品開発に必須である規格試験の確立を第二の目的とした。さらに、骨肉腫におけるmiR-133a及び標的遺伝子発現の臨床的意義の解析を第三の目的とした。
研究方法
本年度は、1)S-TuD合成プロトコールの最適化、2)S-TuD製剤の安定性評価、3)S-TuD製剤の超微量検出法の開発、4)S-TuDの血清中での安定性評価、5)イヌ自然発生骨肉腫症例に対する有効性および安全性試験、6)それに伴う腫瘍内および血清中miRNAの発現解析、7)骨肉腫臨床検体におけるmiR-133a標的遺伝子発現解析を行った。
結果と考察
1) 2’-O-メチル化修飾された長鎖1本鎖RNAの大量合成方法の最適化検討をグラムスケールが製造可能な固相合成システムを用い、数百ミリグラム以上の合成を3つの異なる配列を生産生成したところ、1本鎖部分の合成については前年度よりもさらに高収率に目的産物得られ、精製方法の単純化と2本鎖化の最適化を達成した。また、合成時に生じる不純物は大幅に減少し、精製がこれまでは少なくとも2回以上は必要だったところ、各1本鎖共に陰イオンクロマトグラフィー1回の精製のみで望ましい純度を得ることができた。2)S-TuD凍結乾燥品を-20℃と5℃の2種の温度設定で12か月の安定性を確認した結果、いずれの温度においても保存期間中顕著な差異は認められず、判定基準を逸脱するものは認められなかった。このことから上記の保存条件においてS-TuDの安定性には問題がないことが確認された。3) S-TuD-122特異的primerを用いて半定量的RT-PCR 更には、real-time RT-PCR により行ったところ、fMの濃度まで検出できる系が作成できた。4)S-TuD をマウス血清や、ヒト血清内に添加して37℃で保温して解析したところ、3日以上にわたってほぼ消化されることなく血中で安定に存在することが確認された。5)東京農工大学動物医療センターを中心に全国からイヌ骨肉腫症例を登録するシステムのもとに実施した。ヒトで5年生存率が50~70%であるのに対し、犬での1年生存率は30~60%と、依然として根治を見込める安定した治療法は確立されていない。術前あるいは術後の病理検査で骨肉腫と診断された9症例を対象とし、有効性および安全性評価を継続した。全症例において、S-TuD投与に起因すると思われる副作用は確認されなかった。局所再発が認められた2症例および肺転移が起こり死亡した1症例を除き、投与症例群に大きな毒性は認められなかった。有効性においては、7症例においてS-TuD投与プロトコールが完了し、2症例はプロトコール途中で死亡した。治療プロトコールが完遂した7例のうち5例において、転移や再発は現在までに認められていない。生存7例について経過観察を継続している。6)腫瘍組織を採材出来た5例全例にmiR-133aの発現が認められた。解析できた1例は原発巣と比べ転移巣におけるmiR-133aは約3倍亢進していた。また、別の症例においては正常組織と腫瘍組織との比較が可能であり、前者に比べて後者で遥かに高いmiR-133aの発現が観察された。S-TuD-133a投与前後で投与前と比較し1ないし2回投与後の発現量は有意に低下した。7)ヒト骨肉腫組織におけるANXA2発現は、腫瘍細胞の細胞膜および細胞質に観察され、ANXA2陽性腫瘍細胞は、類骨形成能の高い部位で比較的多く観察された。解析した10例中、ANXA2陽性例は肺転移陽性群において4例中1例(25.0%)、一方肺転移陰性例群において6例中4例(66.7%)と前者で低値を示しており、ANXA2発現低下が肺転移に関与することが示唆された。
結論
新規miRNA阻害剤S-TuDの骨肉腫に対する臨床応用に向けての基盤が構築された。将来的には骨肉腫の範疇を超え、miRNA発現異常を示す様々な悪性腫瘍やその他の疾患に対するS-TuDの応用が期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-09-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201411036B
報告書区分
総合
研究課題名
microRNA阻害剤による骨肉腫がん幹細胞制御を基盤とした新たな革新的がん治療の実用化を目指す前臨床試験
課題番号
H24-実用化(がん)-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
川井 章(独立行政法人国立がん研究センター 骨軟部腫瘍科)
研究分担者(所属機関)
  • 落谷 孝広(独立行政法人国立がん研究センター 分子細胞治療研究分野)
  • 藤原 智洋(岡山大学病院、新医療研究開発センター(整形外科学))
  • 根津 悠(独立行政法人国立がん研究センター 分子細胞治療研究分野)
  • 伊庭 英夫(東京大学医科学研究所、感染・免疫部門、宿主寄生体学分野)
  • 伊藤 博(東京農工大学、農学部附属動物医療センター、腫瘍科)
  • 尾崎 敏文(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科生体機能再生・再建学講座、整形外科学)
  • 尾崎 充彦(鳥取大学医学部、生命科学科、生体情報機能学講座、病態生化学分野)
  • 近藤 格(独立行政法人国立がん研究センター 創薬プロテーオーム研究分野)
  • 松田 範昭((株)スリー・ディー・マトリックス、事業開発部)
  • 吉村 健一(京都大学医学部附属病院、生物統計学・臨床研究方法論)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がん組織内におけるがん幹細胞分画をいかにして制御するか、様々ながん種で研究開発が進んでいる。本研究班は平成23年度までにヒト骨肉腫細胞株におけるがん幹細胞分画を単離し、その悪性形質に関与するmiR-133aを特定した。さらにlocked nucleic acid (LNA)によるmiR-133a機能阻害によりその悪性形成の制御を見出した。しかしLNA製剤は海外企業が既に特許を獲得している現状を考慮し、本邦で開発されたSynthetic Tough Decoy RNA(S-TuD)を応用し、骨肉腫悪性形質の制御を試みることを第一の目的とした。また、この構造体を大量合成する方法の確立および医薬品開発に必須である規格試験の確立を第二の目的とした。さらに、骨肉腫におけるmiR-133aおよび標的遺伝子発現の臨床的意義の解析を第三の目的とした。
研究方法
全研究期間を通じ、(1)S-TuD臨床応用へ向けた製剤開発、(2)S-TuD製剤の安全性試験、(3)S-TuD製剤の有効性試験、(4)多施設における骨肉腫臨床検体を用いたmiR-133aおよび標的遺伝子の臨床病理学的解析、以上の4項目を主軸として研究を行った。
結果と考察
(1)S-TuDのStem2の鎖長を検討し、最終的に10bpで最適化を達成した。ジーンデザイン社と共同でS-TuDの大量合成方法を検討した結果、陰イオンクロマトグラフィーによる精製が開発当初は複数回以上必要であったが、最終的に1回の精製のみで望ましい純度を得ることができた。また、S-TuD凍結乾燥品を-20℃と5℃の2種の温度設定で12か月の安定性を確認した結果、いずれの温度においても保存期間中判定基準を逸脱するものを認めなかった。S-TuDの検出においてはfMの濃度まで可能となり、S-TuD をマウス血清や、ヒト血清内に添加して37℃で保温して解析したところ、3日以上血中で安定に存在することが確認された。(2)ラットに対するS-TuD-133a単回投与および複数回投与試験(4週間反復投与毒性試験)を行った結果、臨床想定投与量の約100倍の濃度でも明らかな毒性は観察されなかった。他を標的とするS-TuDでも同様の結果であった。また、イヌに対する複数回投与試験においても同様に、S-TuD製剤による明らかな毒性は観察されなかった。(3) S-TuDはin vitro環境下においてLNAよりも高い阻害活性を有していることが骨肉腫細胞でも明らかになった。生体内においてS-TuD投与群では、0.1mg/kg、1mg/kg、10mg/kgの全ての濃度において、腫瘍内miR-133aの発現が強く抑制され、その効果は1週間持続した。マウスを用いた有効性試験では、S-TuD-133a/シスプラチン併用投与群で最も肺転移形成が抑制されていることが判明し、同群において最も長い生存期間が観察された。さらに、東京農工大学動物医療センターを中心に全国からイヌ骨肉腫症例を登録するシステムのもとに有効性試験を実施した。ヒトで5年生存率が50~70%である一方、犬での1年生存率は30~60%と不良である。イヌ骨肉腫9症例を対象とし、有効性および安全性評価を行った。全症例において、S-TuD投与に起因すると副作用は観察されなかった。有効性においては、7症例においてS-TuD投与プロトコールが完了し、2症例はプロトコール途中で死亡した。治療プロトコールが完遂した7例のうち5例において、転移や再発は現在までに認められていない。生存7例について経過観察を継続しているが、既存データと比較し現時点で一定の有効性が確認されている。 (4) miRNA-Argonaute-2複合体に対する免疫沈降法から得られたcDNAの網羅的解析および抽出した遺伝子の機能解析から、最終的にはANXA2などの複数の標的遺伝子を特定した。多施設におけるコホート研究では、miR-133a高値を示す患者群の予後は発現低値を示す患者群の予後よりも有意に不良であった。ヒト骨肉腫組織におけるANXA2発現は、腫瘍細胞の細胞膜および細胞質に観察され、ANXA2陽性腫瘍細胞は類骨形成能の高い部位で比較的多く観察された。ANXA2陽性例は肺転移陽性群において25.0%、一方肺転移陰性例群において66.7%と前者で低値を示しており、ANXA2発現低下が肺転移に関与することが示唆され、骨肉腫におけるmiR-133a機能阻害の臨床的意義が裏付けられた。
結論
新規miRNA阻害剤S-TuDの骨肉腫に対する臨床応用に向けての基盤が構築された。将来的には骨肉腫の範疇を超え、miRNA発現異常を示す様々な悪性腫瘍やその他の疾患に対するS-TuDの応用が期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-09-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201411036C

成果

専門的・学術的観点からの成果
近年あらゆる悪性腫瘍で様々なmicoRNA(miRNA)の発現異常が報告されている。我々は日本発miRNA阻害核酸医薬Synthetic Tough Decoy(S-TuD)の骨肉腫への臨床応用を目指した製剤開発、安全性試験、有効性試験を実施した。既存のmiRNA阻害剤よりも遥かに阻害活性の高いS-TuDの大量合成プロトコールを世界に先駆けて確立し、複数の動物種における生体内安全性および有効性が示された。将来的にはmiRNA発現異常を示す様々な悪性腫瘍やその他の疾患に対する臨床応用が期待される。
臨床的観点からの成果
がん組織内におけるがん幹細胞分画をいかにして制御するか様々ながん種で研究が進んでいる。我々はこの10数年治療成績の改善をみない骨肉腫におけるがん幹細胞分画を特定し、S-TuDによるmiR-133a阻害によりその悪性形質が制御されることを見出した。また、miR-133a異常高発現が患者の予後不良と有意に相関するだけでなく、miR-133aの複数の標的遺伝子群も患者の予後と逆相関することを、多施設で集積された組織資料・患者情報をもとに見出し、骨肉腫における新規予後因子としての意義が示された。
ガイドライン等の開発
本研究班ではS-TuDの前臨床試験が主軸に置かれており、実臨床における診療ガイドライン等の作成に到っていない。我々は日本発新規miRNA阻害剤S-TuDの大量合成プロトコールを作成し、安定性試験などの各種試験を経て改良を重ね、効率的な製造過程を示すプロトコールを確立している。
その他行政的観点からの成果
公益財団法人がん研究振興財団主催第一回国際がん研究シンポジウムにおける口演、および、公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団主催核酸医薬品の開発と規制の動向の調査に協力し、厚生労働省の示す医薬品産業ビジョン2013の内容に準じた研究成果を遂げている。
その他のインパクト
本研究は日本経済新聞朝刊(平成24年9月18日付)に取り上げられた。また、本シーズはStem Cells、Nucleic Acids Research等、種々の国際科学雑誌にpublishされている。さらには、Connective Tissue Oncology Society (CTOS)、Orthopaedic Research Society (ORS)等の国際学会で国際的な注目を浴びている。

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
78件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
73件
学会発表(国際学会等)
12件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-09-08
更新日
2018-06-15

収支報告書

文献番号
201411036Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
104,944,000円
(2)補助金確定額
104,944,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 35,733,205円
人件費・謝金 1,477,344円
旅費 4,602,248円
その他 38,929,930円
間接経費 24,214,000円
合計 104,956,727円

備考

備考
自己資金 10,672円 利息 2,055円

公開日・更新日

公開日
2015-10-21
更新日
-