去勢抵抗性前立腺がんに対する新規がんペプチドワクチン療法開発のための第I相・第II相(前半)臨床試験

文献情報

文献番号
201411035A
報告書区分
総括
研究課題名
去勢抵抗性前立腺がんに対する新規がんペプチドワクチン療法開発のための第I相・第II相(前半)臨床試験
課題番号
H23-実用化(がん)-一般-012
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
野口 正典(久留米大学 先端癌治療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 末金 茂高(久留米大学 医学部)
  • 守屋 普久子(久留米大学 医学部)
  • 伊東 恭悟(久留米大学 がんワクチンセンター)
  • 山田 亮(久留米大学 先端癌治療研究センター)
  • 笹田 哲朗(神奈川県立がんセンター)
  • 松枝 智子(久留米大学 がんワクチンセンター)
  • 内藤 誠二(九州大学 大学院医学研究院)
  • 大山 力(弘前大学 大学院医学研究科)
  • 新井 学(獨協医科大学越谷病院)
  • 松本 和将(北里大学 医学部)
  • 植村 天受(近畿大学 医学部)
  • 那須 保友(岡山大学病院 新医療研究開発センター)
  • 江藤 正俊(熊本大学 大学院生命科学研究部)
  • 頴川 晋(東京慈恵会医科大学)
  • 中川 昌之(鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科)
  • 角間 辰之(久留米大学 バイオ統計センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
92,250,000円
研究者交替、所属機関変更
所属機関異動 研究分担者: 笹田哲朗  久留米大学がんワクチンセンター(平成26年4月1日~26年11月15日)   → 神奈川県立がんセンター  (平成26年11月16日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、去勢抵抗性前立腺がん(以下、CRPC)に対する新規ペプチドワクチンの開発及び標準治療であるドセタキセルを用いた化学療法との併用療法の確立である。具体的には、医師主導治験によるCRPC患者を対象とした新規ペプチドワクチンの安全性及び免疫学的最小免疫反応有効量を推定する第I相臨床試験、並びに至適投与量のペプチドワクチンとドセタキセルとの併用による有効性及び安全性の探索的検討を行う早期第II相臨床試験を実施し、早期のproof of concept(POC)を得た後に、製薬企業へ技術移転し、併用療法における新規ペプチドワクチンの実用化を目指す。
研究方法
本研究では、まずはCRPC患者15症例を対象として、前立腺がん患者用に関発されたHLA-A2、A24、A3スーパータイプ、A26拘束性の20種類のがんペプチドから構成される20種混合ペプチドワクチン(以下、KRM-20)の投与量を3群設定し、無作為割付により各群(各用量5症例)に割り付ける。割付結果に従い、KRM-20を割付用量に調製し、合計6回皮下投与を行い、安全性、特異的免疫能変化、免疫学的最小免疫反応有効量等について探索的検討を行う第I相臨床試験を実施する。本試験の主要評価項目は安全性(全有害事象)である。
次に、CRPC患者46症例を対象として、無作為に1:1の割合でKRM-20群又はプラセボ群に割り付け、第I相臨床試験により決定された至適投与量のKRM-20(被験薬)又はプラセボ製剤(対照薬)を10回投与、及び治験薬6回目投与日よりドセタキセルを併用し、併用療法におけるKRM-20の有効性及び安全性の探索的検討を行う早期第II相臨床試験を実施する。本試験の主要評価項目は血清PSA値の50%以上低下率である。
結果と考察
第I相臨床試験終了後、平成25年7月よりCRPC患者46例を対象として、被験者を無作為割付によりKRM-20群とプラセボ群(対照群)の2群に割り付け、治験薬(KRM-20:1mg/0.5mL)又はプラセボ:0.5mL)を合計10回投与、及び治験薬6回目投与日よりドセタキセル(70mg/m2)を5コース投与し、その有効性と安全性の探索的検討を目的とした「KRM-20早期第II相プラセボ対照二重盲検比較試験」を開始し、当該年度は、当該試験を継続実施し、被験者17名より同意を取得し、18名に対し治験薬が投与された。当該試験開始当初は集積期間6ヶ月、治験期間12ヶ月、目標症例数を46症例としていたが、進捗遅延、治験薬投与前中止等により、最終的には集積期間12ヶ月、治験期間18ヶ月、同意取得55症例、症例登録51症例、治験薬投与49症例にて平成26年12月22日に最終被験者の治験が終了した。当該試験終了後、平成27年3月18日に治験薬の割付結果をキーオープンし、その後のデータ解析の結果、有効性については、主要評価項目である「血清PSA値の50%以上低下率」において、KRM-20群56.5%(13/23例)、プラセボ群53.8%(14/26例)と有意差は認められなかったが、今後、無増悪生存期間、特異的免疫能変化、全生存期間等の副次評価項目においても評価・検討を行う予定である。安全性については被験者12名にSAEが発現したが、いずれの事象も治験薬との因果関係は否定されている。また、治験薬との因果関係が否定できない有害事象として、「注射部位反応」等の発現を認めたが、いずれの事象も軽微なものであり、安全性に問題は認められなかった。
 当初の研究計画では、平成24年3月より医師主導治験による第I相臨床試験を開始し、平成24年度後半より早期第II相臨床試験を実施する予定であったが、非臨床試験の実施等により第I相臨床試験が平成24年6月、早期第II相臨床試験が平成25年7月の開始となり、平成26年12月に試験終了となった。当初の計画より遅れが生じたものの、研究分担者及び治験実施医療機関等の協力の下、研究課題を完遂することができた。KRM-20の安全性については、第I相及び早期第II相臨床試験において問題は認められなかったが、有効性については、早期第II相臨床試験の主要評価項目において残念ながら有意差は認められなかった。今後は副次評価項目についても評価を行い、KRM-20の有効性について更に検討する。
結論
医師主導治験開始までの準備に時間を要し、当初の予定より全体的な遅れは生じたものの、当該研究課題に係る医師主導治験を研究期間内に完遂することができ、当該研究事業を100%達成できたと評価している。今後は、当該研究事業により得られた結果をもって製薬企業へ技術移転し、国内初のがんペプチドワクチンの実用化に向け、より一層研究に邁進していく所存である。

公開日・更新日

公開日
2015-09-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-09-08
更新日
-

文献情報

文献番号
201411035B
報告書区分
総合
研究課題名
去勢抵抗性前立腺がんに対する新規がんペプチドワクチン療法開発のための第I相・第II相(前半)臨床試験
課題番号
H23-実用化(がん)-一般-012
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
野口 正典(久留米大学 先端癌治療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 末金 茂高(久留米大学 医学部)
  • 守屋 普久子(久留米大学 医学部)
  • 伊東 恭悟(久留米大学 がんワクチンセンター)
  • 山田 亮(久留米大学 先端癌治療研究センター)
  • 笹田 哲朗(神奈川県立がんセンター)
  • 松枝 智子(久留米大学 がんワクチンセンター)
  • 内藤 誠二(九州大学 大学院医学研究院)
  • 大山 力(弘前大学 大学院医学研究科)
  • 新井 学(獨協医科大学越谷病院)
  • 松本 和将(北里大学 医学部)
  • 植村 天受(近畿大学 医学部)
  • 那須 保友(岡山大学病院 新医療研究開発センター)
  • 江藤 正俊(熊本大学 大学院生命科学研究部)
  • 頴川 晋(東京慈恵会医科大学)
  • 中川 昌之(鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科)
  • 角間 辰之(久留米大学 バイオ統計センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、去勢抵抗性前立腺がん(以下、CRPC)に対する新規ペプチドワクチンの開発及び標準治療であるドセタキセルを用いた化学療法との併用療法の確立である。具体的には、医師主導治験によるCRPC患者を対象とした新規ペプチドワクチンの安全性、免疫学的最小免疫反応有効量を推定する第I相臨床試験、並びにペプチドワクチンとドセタキセル(以下、DTX)との併用による有効性及び安全性の探索的検討を行う早期第II相臨床試験を実施し、早期のproof of concept(POC)を得た後に、製薬企業へ技術移転し、併用療法における新規ペプチドワクチンの実用化を目指す。
研究方法
本研究では、まずはCRPC患者15症例を対象に、前立腺がん患者用に関発されたHLA-A2、A24、A3スーパータイプ、A26拘束性の20種類のがんペプチドから構成される20種混合ペプチドワクチン(以下、KRM-20)の投与量を3群設定し、無作為割付により各群に割り付ける。割付結果に従い、割付用量のKRM-20を合計6回投与し、安全性、特異的免疫能変化、免疫学的最小免疫反応有効量等について探索的検討を行う第I相臨床試験を実施する。本試験の主要評価項目は安全性(全有害事象)である。次に、CRPC患者46症例を対象として、無作為割付によりKRM-20群又はプラセボ群に割り付け、第Ⅰ相臨床試験により決定された至適投与量のKRM-20又はプラセボ製剤を10回投与、及び治験薬6回目投与日よりDTXを5コース併用し、併用療法におけるKRM-20の有効性、安全性の探索的検討を行う早期第II相臨床試験を実施する。本試験の主要評価項目は血清PSA値の50%以上低下率である。
結果と考察
1.第I相臨床試験
本試験を開始するにあたり、平成24年1月30日PMDA薬事戦略相談対面助言においてKRM-20の非臨床試験実施の助言を受け、2月より4週間及び26週間反復皮下投与毒性試験を実施した結果、ヒトにおける臨床試験実施に問題はないとの評価であった。その後、IRBの審査・承認を経て、5月28日PMDAへ治験計画届出を行い、6月より本試験を開始した。同意取得した被験者を無作為割付により0.3mg群、1mg群、3mg群に割り付け、各投与量のKRM-20を毎週1回、6回投与し、安全性、免疫学的最小免疫反応有効量等の検討を行った。試験期間中、被験者17名にKRM-20が投与され、うち2名が重篤な有害事象(以下、SAE)の発現により中止となったが、いずれの事象も治験薬との因果関係は否定され、また、因果関係の否定できない有害事象として「注射部位反応」等を認めたが、いずれの事象も軽微なものであり、安全性に問題はなかった。有効性については液性免疫及び細胞性免疫より、免疫学的最小免疫反応有効量は1mgと評価され、次相試験の至適投与量は1mg/peptideと判断された。平成25年1月に本試験が終了し、平成25年6月14日PMDAへ治験終了届出を行った。
2. 早期第II相臨床試験
平成25年4月3日PMDA薬事戦略相談対面助言後、IRB審査・承認を経て、6月10日治験計画届出の後、7月より本試験を開始した。同意取得した被験者をKRM-20群又はプラセボ群の2群に割り付け、まずは治験薬を毎週1回、6回投与し、6回目投与日よりDTX(70mg/m2)を3週間隔で併用投与して、治験薬10回及びDTX5コース投与、並びに治験薬1回目投与日よりデキサメタゾン1mg/日を経口投与し、最終的に同意取得55名、症例登録51名、治験薬投与49名にて平成26年12月に試験終了となった。平成27年3月18日にキーオープンし、データ解析を行った結果、有効性については、「血清PSA値の50%以上低下率」においてKRM-20群56.5%、プラセボ群53.8%と有意差は認められなかった。安全性については、被験者12名にSAEが発現したがいずれの事象も治験薬との因果関係は否定され、また、因果関係が否定できない有害事象として「注射部位反応」等を認めたが、いずれの事象も軽微なものであり、安全性に問題はなかった。本試験終了後、各IRBへ治験終了報告を行い、平成27年5月に治験終了届出を行う予定である。
 2つの臨床試験において、KRM-20の安全性に問題は認められなかったが、有効性については残念ながら有意差は認められなかった。そのため、今後副次評価項目においても評価し、KRM-20の有効性について更に検討する。
結論
当初の計画より遅れは生じたものの、2つの医師主導治験を完遂することができ、当該研究課題は達成できたと評価している。今後は、当該研究により得られた結果をもって製薬企業へ技術移転し、国内初のがんペプチドワクチンの実用化を目指す。

公開日・更新日

公開日
2015-09-08
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201411035C

成果

専門的・学術的観点からの成果
従来のペプチドワクチンは、HLA型別に異なるワクチンを必要とする上、治療薬としての汎用性に欠けるという短所を有していたが、当該ペプチドワクチンはその短所の克服のみならず、ペプチドワクチンの長所(がんのCTLエピトープのみ)とテーラーメイド型の長所(2次免疫賦活)および蛋白ワクチンの長所(HLA非拘束)を有しており世界初の研究といえる。
臨床的観点からの成果
去勢抵抗性前立腺がん患者を対象として、新規ペプチドワクチンの安全性、最小有効免疫反応量を推定する第I相臨床試験、ならびに推奨用量と標準治療であるドセタキセル併用における早期第II相臨床試験を実施し、併用療法の有効性、安全性を確認し、早期のproof of concept(POC)を得た。
ガイドライン等の開発
特記事項なし。
その他行政的観点からの成果
進行・再発・難治がんへの新規治療薬の開発は、分子標的薬や抗体医薬も一段落した現在、新規の分野への期待、とりわけ第4の分野である免疫療法への期待が高まっている。当該研究によりがんペプチドワクチンが実用化された場合には、本邦初の副作用の少ない新規がんペプチドワクチンの開発となり、大多数を欧米からの輸入医薬に頼っている現状ならびに厚生労働行政の観点からも大きな意義を有すると思われる。
その他のインパクト
新規がんペプチドワクチンに係るカクテルペプチドワクチンおよび腫瘍抗原ペプチド等に関する特許出願中である。また、普及・啓蒙活動の一環として、がんワクチン療法に関する市民公開講座を2013年7月13日(福岡市)、2014年7月13日(長崎市)にて開催し、その他に、2013年11月10日のTBSテレビ「夢の扉+」他5番組にてテレビ放送され、新聞(全国版、地方版)および週刊誌の計22誌にがんワクチン療法に関する記事が掲載された。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
109件
その他論文(和文)
21件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
63件
学会発表(国際学会等)
48件
その他成果(特許の出願)
2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
4件
http://www.med.kurume-u.ac.jp/med/sentanca/、http://www.med.kurume-u.ac.jp/med/cvc/、市民公開講座「がんを制する」他

特許

特許の名称
がんの検査用試薬及び検査方法
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2013-521633
発明者名: 伊東恭悟、笹田哲朗、松枝智子、小松誠和、野口正典、山田 亮、七條茂樹
権利者名: 伊東恭悟、笹田哲朗、松枝智子、小松誠和、野口正典、山田 亮、七條茂樹
出願年月日: 20120622
国内外の別: 国内
特許の名称
腫瘍抗原ペプチド
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2015-510038
発明者名: 伊東恭悟、松枝智子、七條茂樹
権利者名: 伊東恭悟、松枝智子、七條茂樹
出願年月日: 20140327
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Noguchi M, Arai G, Matsumoto K, et al.
Phase I trial of a cancer vaccine consisting of 20 mixed peptides in patients with castration-resistant prostate cancer: dose-related immune boosting and suppression.
Cancer Immunol Immunother , 64 (4) , 493-505  (2015)

公開日・更新日

公開日
2016-06-02
更新日
2018-06-25

収支報告書

文献番号
201411035Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
110,696,000円
(2)補助金確定額
110,696,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 29,121,614円
人件費・謝金 5,620,529円
旅費 1,670,870円
その他 55,836,987円
間接経費 18,446,000円
合計 110,696,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-10-21
更新日
-