妊産婦のメンタルヘルスの実態把握及び介入方法に関する研究

文献情報

文献番号
201410017A
報告書区分
総括
研究課題名
妊産婦のメンタルヘルスの実態把握及び介入方法に関する研究
課題番号
H24-次世代-指定-006
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
久保 隆彦(独立行政法人国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター産科)
研究分担者(所属機関)
  • 森臨太郎(国立成育医療研究センター研究所 政策科学研究部部長)
  • 立花良之(国立成育医療研究センターこころの診療部乳幼児メンタルヘルス診療科医長)
  • 吉田敬子(九州大学病院子どものこころの診療部特任教授)
  • 葛西圭子(公益社団法人日本助産師会専務理事)
  • 竹原健二(国立成育医療研究センター研究所政策科学研究部研究員)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
妊娠期および産後の女性のメンタルヘルスは公衆衛生上、大きな課題となっている。そこで、測定時期によるEPDSの有病割合や関連要因の影響の大きさの変化を明らかにすること、児童虐待予防のために「特定妊婦」として注意すべき因子を明らかにすること、妊婦から出産後、育児中の女性の精神面の評価の方法を確立し、それに基づくケアを継続的に行い母子と家族の支援をする上での多領域支援チームのあり方を明らかにすることを対象とする専門職である助産師によるメンタルヘルスの評価を明らかにすることを目的とした。
研究方法
世田谷区内全分娩施設で出産した妊婦を対象に、妊娠中期、出産直後、2週間・1・2・3か月後の計6回アンケートを行い、メンタルヘルスに関連する評価スコアとアウトカムからデータベースを作成し、解析した。産科と精神科との医療連携のあり方について日本産婦人科医会、小児科医、精神科医、保健福祉行政で検討した。各分担研究者の研究を基に日本の周産期医療制度の現状を勘案し、理論的に最も適切な政策についての検討を行った。
結果と考察
我が国で初めての1400件以上の縦断データが集積され、妊産婦メンタルヘルスに特化したデータベースが構築できた。メンタルヘルスに関係する「うつ病自己評価」「自閉症尺度」「WHO-5精神的健康状態表」「徳永のchild maltreatmentスコア」「赤ちゃんへの気持ち質問票」「育児支援チェックリスト」「育児ストレスインデックスフォーム」「衝動障害質問票」「注意欠陥・多動障害質問票」さらに、社会的・身体因子として妊娠状況・経済状態・支援体制・育児休暇取得・共働きなどの状況と分娩状況、身体的不調、母乳状況などからデータベースを作成し、今後の妊産褥婦メンタルヘルス研究に寄与することが期待される。EPDS陽性者の割合は、初産婦では、妊娠20週から9.6%、17.0%、25.0%、17.6%、10.0%、6.1%と推移し、産後2週時にかけて顕著なピークがあることが明らかになったが、経産婦は横ばいであった。EPDS因子分析では初産婦はすべての時点でAnxiety因子の得点が最も高かった。妊娠20週時にEPDS陽性だった者は産後のすべての時点のオッズ比が有意に高かった。妊婦は約1割が精神的ハイリスクであり、分娩直後にハイリスク率は上昇し、産後2週間がそのピークとなり、産後1ヶ月でもまだハイリスク率は高く、妊娠中のハイリスク率となるのは分娩後3ヶ月まで要する。このことは、産後2週間健診・1ヶ月健診の公的補助を支持する我が国初めてのエビデンスといえる。EPDSの得点は測定時期によって異なり、カットオフ値を用いた単純なスクリーニングツールとしてではなく、より多くの観点から評価することが重要である。本研究により産前・産後の乳幼児虐待の危険因子が明らかになった。乳幼児虐待・養育不全についての産前・産後における危険因子は就労形態、パートナーの家事手伝いがない、赤ちゃんをあやした経験が乏しい、喫煙、会陰部の痛み、赤ちゃんの気持ち「愛情の欠如」、EPDS、腰痛であった。地域の助産師・保健師などのコメディカルと保健福祉行政スタッフが共有していた育児支援チェックリスト、産後うつ病質問票、赤ちゃんへの気持ち質問票を共有できることが明らかになった。
結論
これまで懸案であった母親の産後健診、特に、産後2週間と4週間での母親健診が重要であることが判明した。産後3ヶ月時の母親のハイリスクあるいは乳幼児虐待の可能性に関連する産前・産後の危険因子が明らかになったことから、産後2週間、4週間健診で大切なチェックリストが提案できた。しかし、評価する時期、初産婦・経産婦によってもそのリスク因子が異なることから妊産褥婦健診では個別化した対応が求められる。一般産後健診で頻用されるEPDSは測定時期や集団の特性により陽性者の割合が大きく異なることから、より効果的なEPDSの使用・評価への道を開いた。我が国における女性と子どもの健康のため、妊産婦のメンタルヘルスを考慮した以下の政策が可能性として挙げられた。
産後2週間と4週間での分娩施設を舞台とした産褥婦・新生児の健診制度を構築し、産褥婦の身体的・精神的課題の評価と対応を行う。本研究で得られたリスク因子から特定妊婦を抽出し、自治体と連携をとる。妊娠出産を通して、社会的またメンタルヘルス上のハイリスクと考えられる場合、自治体と情報が共有できるように、個人情報共有の問題を凌駕できるような制度を構築する。自治体(保健所、保健師)と地域医師会、分娩施設、精神科医、小児科医が情報交換できる協議会を自治体毎に構築する。メンタルヘルスや社会的ハイリスクの産褥婦が母児入院加療できる施設を高次医療圏ごとに設定し、診療報酬上の配慮も検討する。

公開日・更新日

公開日
2015-06-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-23
更新日
-

文献情報

文献番号
201410017B
報告書区分
総合
研究課題名
妊産婦のメンタルヘルスの実態把握及び介入方法に関する研究
課題番号
H24-次世代-指定-006
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
久保 隆彦(独立行政法人国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター産科)
研究分担者(所属機関)
  • 森臨太郎(国立成育医療研究センター研究所政策科学研究部部長)
  • 立花良之(国立成育医療研究センターこころの診療部乳幼児メンタルヘルス診療科医長)
  • 吉田敬子(九州大学病院子どものこころの診療部特任教授)
  • 葛西圭子(公益社団法人日本助産師会専務理事)
  • 竹原健二(国立成育医療研究センター研究所政策科学研究部研究員)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本縦断研究の目的は、妊娠期から産後における妊産婦のメンタルヘルスのハイリスク者の割合を把握すること、妊娠中期の妊婦のメンタルヘルスの状態が、産後のメンタルヘルスのリスクを予測できるか検討すること、妊産婦のメンタルヘルスのリスク因子を探索的に検討すること、妊産婦のメンタルヘルスが子どもへの愛着や養育行動に及ぼす影響を検討すること、日本における妊産婦のメンタルヘルスを支援するための適切な政策について検討することを目的とした。
研究方法
本縦断研究の対象者は東京都世田谷区内で分娩を取り扱っている全ての産科施設で分娩を予定し、本研究に同意を得られた妊婦とした。2012年11月末から2013年4月末に妊娠20週以前にリクルートをおこない、妊娠20週時にベースライン調査、その後、産後数日、2週、1か月、2か月、3か月の計5回のフォローアップ調査を含め、全6回のアンケート調査を実施した。各時点の質問票には、「うつ病自己評価」「自閉症尺度」「WHO-5精神的健康状態表」「徳永のchild maltreatmentスコア」「赤ちゃんへの気持ち質問票」「育児支援チェックリスト」「育児ストレスインデックスフォーム」「衝動障害質問票」「注意欠陥・多動障害質問票」などのパラメータを、さらに、社会的・身体因子として妊娠状況・経済状態・支援体制・育児休暇取得・共働きなどの状況と分娩状況、身体的不調、母乳状況など多方面のアンケートを実施し、データベースを作成する。そのデータを用い、産後2週の抑うつ状態、3か月の乳幼児虐待傾向・乳幼児虐待を予測する妊娠20週頃及び産後の因子についてロジスティック回帰分析した。
最後に、各研究班の成果をレビューし、検討を加え、政策提言する。倫理面への配慮は国立成育医療研究センター倫理委員会による承認を得た。
結果と考察
妊娠20週時に参加した対象者は1,717名であり、産後3か月時には1,406名からの回答を得た。EPDS陽性者(9点以上)の割合は、初産婦では、妊娠20週から9.6%、17.0%、25.0%、17.6%、10.0%、6.1%と推移し、産後2週時にかけて顕著なピークがあることが明らかになった。経産婦では、妊娠20週から、8.8%、8.8%、8.4%、5.8%、7.4%、6.8%となりほぼ横ばいとなることが示された。EPDSの10項目を5つの構成概念に分け、推移を調べたところ、初産婦・経産婦ともにAnxietyに関する因子がいずれの時点においても、もっとも高かった。妊娠20週時にパートナーからのサポートがない場合のEPDS陽性のオッズ比は8.16、産後数日時の実母・義母からのサポートがない場合は2.11であった。
産後のメンタルヘルスハイリスクと関連する因子は、精神疾患既往あるいは罹病中、ADHD傾向を含めた精神的不安定、夫を含めた精神的あるいは実質的サポートの欠如、就労状況、産後の肉体的苦痛であった。同様に、分娩直後から産後3か月の虐待の危険因子は、「会陰縫合部または帝王切開時の傷の痛み」「腰痛」「パートナーの家事・手伝いが乏しい」「赤ちゃんがなぜ泣いているのかわからない」「赤ちゃんの気持ち質問票で愛情の欠如」「抑うつ状態(EPDS高得点)」「AD/HD傾向」であった。
本班の妊産褥婦メンタルヘルスの縦断的データベースは稀有、特異なものであることから、このデータベースを用いて、わが国の妊産婦のメンタルヘルスの研究が実施されれば、具体的な予防方法などの極めて大切な政策提言につなげていくことが期待される。
 現時点で明らかになったことの一つは、妊産褥婦のメンタルヘルスは時期によって大きく異なり、特に初産婦では産後2週時にEPDS陽性者が25%と顕著なピークがあることが認められた。使用する評価スコアに関係なく妊婦は約1割が精神的ハイリスクであり、分娩直後にハイリスク率は上昇し、産後2週間がそのピークとなる。産後1ヶ月でもまだハイリスク率は高く、妊娠中のハイリスク率となるのは分娩後3ヶ月まで要する。このことは、産後2週間と産後1ヶ月の時点で母親への対応が必要であることを意味し、産後2週間健診・1ヶ月健診の公的補助を支持する我が国初めてのエビデンスといえる。
結論
3年間の研究から妊産褥婦のメンタルヘルスを考慮した以下の政策の可能性が導かれたので提案する。
◆メンタルヘルスを念頭においた妊産褥婦健診の導入  
◆産褥期母親健診の構築
◆産褥期における母児同時入院施設の設置と拡充
◆特定妊婦抽出のスコアツールの開発と制度の運用の推進
◆分娩施設と他の医療施設との連携を可能とする行政の介入
◆周産期メンタルヘルス地域協議会の推進
さらには、医療だけではなく保健、福祉・教育をも巻き込んだ地域協議会の構築を目指す。

公開日・更新日

公開日
2015-06-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-23
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201410017C

成果

専門的・学術的観点からの成果
世界で初めて妊産褥婦のメンタルヘルスの縦断的データベースを構築した。今後のこの分野における研究の基礎を築いた。
臨床的観点からの成果
これまでは確立していなかった産後の母親健診(産後2週間、1か月)の必要性のエビデンスを証明し、妊産褥婦のメンタルヘルスへの対応の道を開いた。
ガイドライン等の開発
特にない
その他行政的観点からの成果
健やか親子21の最新課題に貢献した
その他のインパクト
特にない

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-11
更新日
-

収支報告書

文献番号
201410017Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,000,000円
(2)補助金確定額
4,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 124,612円
人件費・謝金 2,071,669円
旅費 391,920円
その他 1,411,799円
間接経費 0円
合計 4,000,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2016-04-28
更新日
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