乳幼児死亡率改善の為の研究

文献情報

文献番号
199800343A
報告書区分
総括
研究課題名
乳幼児死亡率改善の為の研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
澤口 彰子(東京女子医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 仁志田博司(東京女子医科大学)
  • 宮坂勝之(国立小児病院)
  • 高嶋幸男(国立精神神経センター)
  • AndreKahn(ブリュッセル自由大学)
  • 澤口聡子(東京女子医科大学・ブリュッセル自由大学)
  • 戸苅創(名古屋市立大学)
  • 藤田利治(国立公衆衛生院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、乳幼児死亡原因に大きな割合を占める乳幼児突然死症候群(SIDS)の研究を通じ、本邦の乳幼児死亡率を改善することにある。
研究方法
乳幼児死亡率の改善に、主要疾患の病因解明、予防および行政的対応の3つの側面から取り組む。病因解明については、疫学的、分子生物学的、生理学的かつ病理学的な各側面からアプローチする。疫学的行政評価、即ち、死因精度の向上に関し、行政解剖率等とSIDS発症率との関連を全国的に解析すると共に、監察医務体制の医療経済的評価を試みる。SIDSで微細な異常の指摘される脳幹を素材として、in situ hybridization、differential cloning等の分子生物学的アプローチを行う。更に、あらかじめ生理学的に解析された事例について病理学的に解析し、二つの方法論の統合的結果を得る。予防面では、新しいモニタリング方法論の開発と最近のアメリカにおける大規模研究の評価、モニタリング対象群の選定方法の検討、睡眠時体位と自律神経系の関与に関する方法論の開発と検討を行う。行政的対応としては、社会的啓蒙活動の国際調査、SIDS判例日米比較調査、監察医務体制の医療経済評価を行う。
結果と考察
疫学的検討の結果として、行政解剖率とSIDS発症率との間に共通の関係はなく、解剖の有無による疫学的特性の相違、死亡診断書改訂前後での発症率の相違は見い出されなかった。これらの結果は、"剖検"および剖検にかかわる行政制度がSIDSの診断確定に果たす役割を再考する必要性を示唆する。SIDS脳幹の分子生物学の結果として、セロトニン受容体が延髄呼吸中枢で減少し、より上位の中脳灰白質で増加していることが確認された。その他コリンアセチルトランスフェラーゼのcDNAが準備され、脳幹バンクが構築された。生理学および病理学の統合研究の結果として、中脳背側縫線核、中脳中心灰白質、網様体等の覚醒反応と関連する部で、低酸素性負荷を示唆する病理学上の所見(GFAP陽性反応性アストロサイト、アポトーシス)と無呼吸の特徴を示す生理学上の所見との間に有意な相関がみられた。この事実は、SIDSの病因仮説として、従来の無呼吸説と覚醒反応仮説を結ぶ役割を果たす。予防面における検討の結果として、米国における大規模研究CHIMEが呼吸心拍解析の手段としてはすぐれていること、非侵襲性モニタ開発の可能性、Suckometerによる基礎的検討とSIDS予防の可能性が示された。モニタリング対象群の選定については、健康乳幼児に対するリスク因子数の同定が有効であることが示された。社会的啓蒙活動に関する国際調査は世界24か国26団体について行ったが、うつぶせ寝キャンペーンによるSIDS発生率の低下は国によっては90%を超える。SIDS判例日米比較においては、啓蒙の盛んなアメリカではSIDS判例は非常に少なく、窒息とSIDSの鑑別診断に憂慮する日本型の判決傾向は国際的にみて特殊なものであることが明らかにされた。このことより、日本における啓蒙特に警察検察司法関係者への啓蒙が重視されよう。監察医務体制の医療経済評価の結果として、乳幼児解剖率向上の為に、2歳以下の乳幼児解剖の条例化・行政解剖に対する国から地方自治体への補助の必要性と監察医務制度・準監察医務制度を減量化した形で全国化する必要性が確認された。
結論
(病因解明)SIDSの病因は、呼吸の上位中枢のカテコールアミン系・セロトニン系の微細な異常にある可能性が高いが、グルタメート系等他系統のニューロンについても検討する必要がある。更に、これらの器
質的な病因と覚醒反応遷延仮説のような機能的な病因仮説との関連を精査する必要があり、その為に、本研究班で現在行っている生理学的および病理学的統合研究(対ベルギー)が唯一の手段である。1998年の統合研究の結果より従来の無呼吸説と現在の覚醒反応説とが関連づけられた。更に、現在の蛋白レベルでの精査の他遺伝子レベルでの精査を行い、異常の有無を確認する必要がある。今回の疫学的研究により、SIDSの診断に際して、通常の剖検は不十分な手段であることが確認されており、その補助手段として細胞レベル分子レベルの手段を検討し、その必要性の有無を確認すべきである。(予防)従来のモニタリング方法の評価として米国における大規模研究CHIMEの評価は慎重に行うべきであり、仮に有効であるとの結果がでたとしてもその導入には慎重な検討が必要である。モニタリング対象群の選定方法としてはリスク因子数の同定が有効視されるがリスクの選定は慎重に行い固定しないことが必要である。新しいモニターの開発として非侵襲的モニターは有効視される。モニタリング以外の予防手段の開発としてSuckometerの試行は意義があり、病因解明の上でもこの機器が有用である。いずれも、すぐに実用化の域に達せず、今後の早急な検討が必要である。(行政的対応)日本における啓蒙活動は始められたばかりであり今後の長期継続と警察検察司法関係者を対象とした教育的啓蒙が必要である。現行の承諾解剖制度・準監察医制度は実際には解剖率向上に寄与していないことが確認された。剖検はSIDSの診断において、不十分であるが必須であり、行政解剖率の向上施策は日本において必須である。その為に、(1)2歳以下の乳幼児解剖を義務づける条例の制定とその為の国からの指導・(2)国から地方自治体への行政解剖の為の経済的補助・(3)監察医務体制の経済的減量と業務内容の充実及び全国展開の3点において、行政的配慮をかかすことができない。(総合的結論)今後の乳幼児死亡率の改善の為には、国の指導による行政的配慮が必須である。

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