文献情報
文献番号
201409031A
報告書区分
総括
研究課題名
腹膜播種を伴う胃癌に対するパクリタキセル腹腔内投与併用療法の有用性を評価する第III相臨床試験
研究課題名(英字)
-
課題番号
H25-医療技術-一般-003
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
北山 丈二(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
- 梨本 篤(新潟県立がんセンター新潟病院)
- 天貝 賢二(茨城県立中央病院茨城県地域がんセンター)
- 吉川 幸造(徳島大学病院)
- 廣野 靖夫(福井大学医学部附属病院)
- 伏田 幸夫(金沢大学医学部)
- 福島 亮治(帝京大学医学部附属病院)
- 小寺 泰弘(名古屋大学医学部附属病院)
- 夏越 祥次(鹿児島大学病院)
- 今本 治彦(近畿大学医学部附属病院)
- 今村 和広(東京都多摩総合医療センター)
- 門脇 重憲(愛知県がんセンター)
- 藤原 義之(大阪府立成人病センター)
- 竹吉 泉(群馬大学医学部附属病院)
- 三輪 洋人(兵庫医科大学病院)
- 大橋 紀文(愛知医科大学病院)
- 安井 久晃(京都医療センター)
- 藤谷 和正(大阪府立急性期・総合医療センター)
- 徳原 真(国立国際医療研究センター)
- 太田 学(浜松医科大学医学部附属病院)
- 石神 浩徳(東京大学医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 医療技術実用化総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
35,000,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者交替
高張 大亮(平成26年4月1日~平成26年6月30日)→門脇 重憲(平成26年7月1日~平成27年3月31日)
所属機関異動
研究分担者 伏田 幸夫
金沢大学附属病院(平成26年4月1日~平成26年4月30日)→金沢大学(平成26年5月1日~平成27年3月31日)
研究報告書(概要版)
研究目的
腹膜播種は胃癌患者の予後を規定する重大な因子であるが、十分なエビデンスがある治療が存在しないため、進行再発胃癌に対する標準治療であるS-1+シスプラチン併用療法が行われている。しかし、S-1+シスプラチン治療の腹膜播種に対する治療効果は十分ではなく、腎毒性予防のための水分負荷がQOLの悪化につながる事もしばしば経験するため、より有効な治療法の確立が急務である。パクリタキセルは脂溶性で分子量が大きいという特性を有し、腹腔内投与後には緩徐に吸収されるため、その腹腔内投与は播種に対して高い有効性を持つことが示唆されているが、本邦では腹腔内投与は保険収載されておらず、一般には実施できない。そこで、先進医療評価制度の下、S-1+シスプラチン併用療法を対照として、S-1+パクリタキセル経静脈・腹腔内併用療法の生存期間における優越性を検証する試験を実施し、胃癌治療ガイドラインへの掲載およびパクリタキセル腹腔内投与の保険収載を目的とする。
研究方法
多施設共同無作為化第3相試験。初発胃癌症例において腹膜播種を確認した後、S-1+パクリタキセル経静脈・腹腔内併用療法(A群)のS-1+シスプラチン併用療法(B群)2群にランダム割り付けを行い、治療を実施する。試験薬の投与は、腫瘍の進行が確認されるか、有害事象により継続困難となるか、治療が奏効して腹膜播種が消失または著明に縮小するまで反復する。主要評価項目は生存期間とし、全生存期間が両群で等しいという帰無仮説の検定を、ログランク検定を用いて有意水準両側5%で行う。副次的評価項目は治療成功期間、抗腫瘍効果および安全性とする。登録症例数はA群120例、B群60例、計180例、試験期間は登録期間2年、追跡期間2年を予定する。
結果と考察
2013年11月で予定の180例の登録が終了した。割り付け結果は、腹水貯留例が試験群(A群)で多い傾向を求めた以外は、ほぼ均等に行われていた。脱落症例は各5例であり、全体で173例が解析対象となり、現在経過観察中である。昨年度、効果安全性評価委員会による2回の中間解析が実施され、当初の計画通りでの症例登録、試験継続が決定した。重篤有害事象の報告は、今年度は試験群(A群)にて計14例あった。治療に関連するものとしてカテーテル閉塞が2件、同感染が1例発熱性好中球減少、下痢が各1件づつ存在したが、薬剤の添付文書に記載されていない有害事象で厚生労働省および地方厚生局への報告対象となるものはなく、治療関連死もみられていない。引き続き、全登録症例の治療継続、経過追跡を行い、2015年11月に生存率の最終解析を行う予定である。付随研究として、対象患者における腹水および腹腔内洗浄液中の遊離癌細胞を治療過程を通して採取し、Ficollによる遠心後、中間層の細胞群をFITC標識抗CD45抗体およびPE標識抗EpCAM(CD326)抗体にて染色し、flowcytometryを用いて細胞数を測定した。死細胞を除去した分画にて、CD326(+)細胞を遊離癌細胞(T)と規定、CD45(+)白血球(L)との細胞数比(TLR)を経時的に算出すると、細胞診陽性例(CY1)のTLRは細胞診陰性例(CY0)より有意に高かった。また、腹腔内治療を施行した症例毎の検討では、TLRは化学療法の前後で極めて鋭敏な反応を示し、その変化はCY, CEA-mRNAの変化より明らかに顕著であった。また、治療前のTLRが10%以上の症例の予後は、10%以下の症例の予後と比べて明らかに悪かった
結論
S-1+パクリタキセル経静脈・腹腔内併用療法は、生存に対する効果の最終結果は未定だが、少なくとも安全性の高いことを示唆する臨床結果が得られつつある。また、TLR値は「生きた」状態の腹腔内遊離癌細胞量や播種病変の病勢を反映し、播種患者の予後や化療に対する効果を判定する上で臨床的有用性の高いバイオマーカーになりうると考えられた。
公開日・更新日
公開日
2015-06-12
更新日
-