切除可能膵癌の術前化学療法の有効性・安全性に関する臨床試験

文献情報

文献番号
201409019A
報告書区分
総括
研究課題名
切除可能膵癌の術前化学療法の有効性・安全性に関する臨床試験
課題番号
H24-被災地域-一般-009
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
海野 倫明(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 元井 冬彦(東北大学病院)
  • 片寄 友(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 小菅 智男(国立がん研究センター中央病院)
  • 山上 裕機(和歌山県立医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 医療技術実用化総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
34,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 膵癌は代表的な難治性癌で、5年生存率は約5%であり、本邦癌死の第5位である。早期診断は困難で、多くの患者が切除不能な進行癌として診断され、また治癒切除後も早期に再発を来すためと治療成績は不良である。治療成績向上には、放射線療法や化学療法と外科療法の有機的連携が必須であるが、集学的治療戦略は確立していない。外科的切除+術後補助化学療法の標準治療に対して、術前化学療法(NAC)としてのGS(Gemcitabine+S-1)療法(NAC-GS)の上乗せ効果を検証するために本研究を実施した。
研究方法
本研究は、全国70施設の膵癌治療に精力的に取り組むセンター施設による、大規模無作為比較第II/III相試験であり、目標症例数は360例(片群180例)とした。第II相部分(80症例)と第III相部分(280症例)に大別される。第II相部分では肉眼的癌遺残のない切除が可能な膵癌を対象とし、NAC-GS治療の安全性と切除率を担保するために、主要評価項目を有害事象と切除率とした。第III相部分では、同対象にNAC-GSの有用性を、標準療法(切除先行治療)を対照として、ランダム化比較試験(RCT)で検証するため、主要評価項目を全生存率とした。
 本研究では切除企図膵癌360例が集積され、画像データ及び病理検体が得られ、臨床アーカイブとリンクされた貴重なデータとなる。病理検体に関しては、独立した2名の膵臓専門病理医による病理組織検討委員会を組織し、膵癌化学療法の病理学的治療効果判定の統一した基準の確立を目指した。画像データに関しては、放射線診断専門医による画像診断検討委員会を組織し、膵癌治療前画像による病期診断・切除可能性診断及び、膵癌術前治療の画像治療効果判定の統一した基準の確立を目指した。
結果と考察
・平成24年12月に多施設共同無作為比較試験(Prep-02/JSAP-05試験)のプロトコールが確定され、臨床試験登録(UMIN-CTR)を行って、臨床試験を開始した。
・平成25年1月4日より症例集積を開始、平成25年9月までに計91例を集積し、予定通り症例集積を休止した。①に記載した第II相部分の主要評価項目である、試験治療群の切除率が標準治療群と同等であること、試験治療が安全に施行可能(周術期成績の低下がない)であることを確認するために、第II相部分症例の解析を行った。第II相部分の解析結果から、試験治療は標準治療(対照群)と比較して、治療機会の喪失はなく、治療安全性も確認できたことから、第III相部分に移行し、平成27年5月までに289例(第III相部分195例)の登録を得ている。最終症例目標360例の80%が集積された。平成26年度(2014年4月1日~2015年3月31日)の期間では、128例の症例が集積され、平成27年3月31日までに、261例の症例を集積した。
・本研究の安全性を後ろ向き研究で確認する、関連学会プロジェクト研究の結果を論文化した(J Hepatobiliary Pancreat Sci. 2014 Feb;21(2):148-58.)。
・各関連学会で発表し、本試験実施の意義を周知するとともに、試験の進捗状況を公表した(第114回日本外科学会定期学術集会, 第45回日本膵臓学会大会, 26回日本肝胆膵外科学会学術集会, 第68回日本消化器外科学会総会, 第100回日本消化器病学会総会, 第76回日本臨床外科学会総会)。
結論
 平成26年度に切除可能膵癌として本臨床研究にエントリーした症例は128例であった。急送報告に該当する有害事象はなく安全に臨床研究が施行されていると考えている。主要評価項目である全生存率に関してはまだ結論は出ていないが、術前化学療法(NAC)としてのGS(Gemcitabine+S-1)療法(NAC-GS)は有望である可能性がある。

公開日・更新日

公開日
2015-06-18
更新日
-

文献情報

文献番号
201409019B
報告書区分
総合
研究課題名
切除可能膵癌の術前化学療法の有効性・安全性に関する臨床試験
課題番号
H24-被災地域-一般-009
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
海野 倫明(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 元井 冬彦(東北大学病院)
  • 片寄 友(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 小菅 智男(国立がん研究センター中央病院)
  • 山上 裕機(和歌山県立医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 医療技術実用化総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 膵癌は代表的な難治性癌で、5年生存率は約5%であり、本邦癌死の第5位である。早期診断は困難で、多くの患者が切除不能な進行癌として診断され、また治癒切除後も早期に再発を来すためと治療成績は不良である。治療成績向上には、放射線療法や化学療法と外科療法の有機的連携が必須であるが、集学的治療戦略は確立していない。外科的切除+術後補助化学療法の標準治療に対して、術前化学療法(NAC)としてのGS(Gemcitabine+S-1)療法(NAC-GS)の上乗せ効果を検証するために本研究を実施した。
研究方法
本研究は、全国70施設の膵癌治療に精力的に取り組むセンター施設による、大規模無作為比較第II/III相試験であり、目標症例数は360例(片群180例)とした。第II相部分(80症例)と第III相部分(280症例)に大別される。第II相部分では肉眼的癌遺残のない切除が可能な膵癌を対象とし、NAC-GS治療の安全性と切除率を担保するために、主要評価項目を有害事象と切除率とした。第III相部分では、同対象にNAC-GSの有用性を、標準療法(切除先行治療)を対照として、ランダム化比較試験(RCT)で検証するため、主要評価項目を全生存率とした。
 本研究では切除企図膵癌360例が集積され、画像データ及び病理検体が得られ、臨床アーカイブとリンクされた貴重なデータとなる。病理検体に関しては、独立した2名の膵臓専門病理医による病理組織検討委員会を組織し、膵癌化学療法の病理学的治療効果判定の統一した基準の確立を目指した。画像データに関しては、放射線診断専門医による画像診断検討委員会を組織し、膵癌治療前画像による病期診断・切除可能性診断及び、膵癌術前治療の画像治療効果判定の統一した基準の確立を目指した。
結果と考察
・平成24年12月に多施設共同無作為比較試験(Prep-02/JSAP-05試験)のプロトコールが確定され、臨床試験登録(UMIN-CTR)を行って、臨床試験を開始した。
・平成25年1月4日より症例集積を開始、平成25年9月までに計91例を集積し、予定通り症例集積を休止した。①に記載した第II相部分の主要評価項目である、試験治療群の切除率が標準治療群と同等であること、試験治療が安全に施行可能(周術期成績の低下がない)であることを確認するために、第II相部分症例の解析を行った。第II相部分の解析結果から、試験治療は標準治療(対照群)と比較して、治療機会の喪失はなく、治療安全性も確認できたことから、第III相部分に移行し、平成27年5月現在で289例(第III相部分195例)の登録を得ている。最終症例目標360例の80%が集積された。
・本研究プロトコールと同レジメンで治療された対象患者の多施設前向き試験の結果に関して論文化した(Ann Surg Oncol. 2013 Nov;20(12):3794-801)。
・本研究の安全性を後ろ向き研究で確認する、関連学会プロジェクト研究の結果を論文化した(J Hepatobiliary Pancreat Sci. 2014 Feb;21(2):148-58.)。
・本研究プロトコールと同じレジメンで治療された対象患者の単施設後ろ向き研究の結果に関して論文化した(膵臓. 2013. 28(1): 24-33, 癌と化学療法. 2013. 40(12): 1632-1636)。
・2013年版 膵癌診療ガイドラインにおける「術前治療」の解説部分に、本研究が実施中であることが公表され、実施状況が周知された(科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン2013年版. 金原出版)。
・各関連学会で発表し、本試験実施の意義を周知するとともに、試験の進捗状況を公表した(第114回日本外科学会定期学術集会, 第44, 45回日本膵臓学会大会, 第25, 26回日本肝胆膵外科学会学術集会, 第68回日本消化器外科学会総会, 第100回日本消化器病学会総会, 第76回日本臨床外科学会総会)。
結論
主要評価項目である全生存率に関してはまだ結論は出ていないが、術前化学療法(NAC)としてのGS(Gemcitabine+S-1)療法(NAC-GS)は有望である可能性がある。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201409019C

成果

専門的・学術的観点からの成果
切除可能膵癌に対しての標準治療は、外科切除を先行し術後に補助化学療法を行う、である。しかしながら、術前診断の正診率は未だ低く、開腹してみると切除境界膵癌であったり切除不能膵癌であることはしばしばある。そこで術前治療が注目され近年良好な結果が報告されつつあるが、後ろ向き研究、あるいは小規模の第II相研究であり、術前治療が明らかに優れている、というエビデンスはない。本研究は、切除可能膵癌に対する術前治療の全生存期間に対する有効性を明らかにする世界初の大規模臨床試験であり、全世界から注目されている。
臨床的観点からの成果
術前治療には、切除可能であった症例が術前治療を行い手術までに時間が経過したため、切除不能になる、という可能性がある。その一方で、術前治療により、切除不能であった症例が切除可能になることも予想され、術前治療を行うことで、切除率が低下するか、上昇するかは不明であった。本研究の第II相部分により、切除率は同等(むしろ術前治療軍で高い傾向にある)ことが判明し、第III相部分に移行することになった。このように術前治療により切除機会を逃すことがない、という倫理的担保が得られたことは大きな成果である。
ガイドライン等の開発
膵癌診療ガイドライン第3版において、CQ3-1「膵癌に対する術前治療(①化学放射線療法,②化学療法)は推奨されるか?」において、”術前治療としてのS-1 併用放射線療法とゲムシタビン塩酸塩+S-1 併用療法のランダム化比較試験(JASPAC-04)や,切除+補助療法例に対する術前治療としてのゲムシタビン塩酸塩+S-1 併用療法の有効性・安全性に関するランダム化比較試験(Prep-02/JSAP-05)などのRCT がわが国で行われようとしており,その結果が待たれる。”との記載がされている。
その他行政的観点からの成果
NPO法人パンキャンジャパンに賛同し、ドラッグ・ラグ解消のための政策提言などに協力した。また膵癌術前治療は、いまや多くの学会・研究会で取り上げられており、社会に対して一定の影響を与えていることが推察される。また膵癌患者の治癒率が向上することで、医療経済学的には、多くのメリットがあるものと考える。
その他のインパクト
膵癌の治療に関して、2014年1月26日にNPO法人NEXTSURG第1回市民公開講座が行われ海野が司会をした。また2014年4月、2016年4月、2017年4月には河北新報社主催の「元気!健康!フェア」に出演し海野が講演した。また河北新報2015年8月5日の記事で「医療最前線ー健康講座/膵臓がんの外科治療/再発減へ術前に化学療法」として取り上げられた。また2017年6月14日-15日のNHKきょうの健康に海野が出演し、膵臓がんの最新治療法および臨床研究を紹介した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
元井冬彦、海野倫明
切除企図膵癌に対する術前化学療法の意義
日本臨床 , 73 (増刊3) , 12-158  (2014)
原著論文2
海野倫明、元井冬彦
膵癌術前化学療法の進歩と展望
膵臓 , 29 (6) , 873-877  (2014)

公開日・更新日

公開日
2016-01-28
更新日
2017-07-03

収支報告書

文献番号
201409019Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
44,460,000円
(2)補助金確定額
44,460,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 280,773円
人件費・謝金 13,708,779円
旅費 4,709,103円
その他 15,501,345円
間接経費 10,260,000円
合計 44,460,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2016-01-28
更新日
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