文献情報
文献番号
201409012A
報告書区分
総括
研究課題名
進展型小細胞肺癌に対する予防的全脳照射の実施の有無を比較するランダム化比較第III相試験
課題番号
H24-臨研推-一般-013
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
山本 信之(和歌山県立医科大学 内科学第三教室)
研究分担者(所属機関)
- 瀬戸 貴司(国立病院機構九州がんセンター 統括診療部 呼吸器腫瘍科)
- 西尾 誠人(財団法人がん研究会有明病院 呼吸器内科)
- 後藤 功一(独立行政法人 国立がん研究センター東病院 呼吸器内科)
- 金田 裕靖(近畿大学 医学部 腫瘍内科)
- 山中 竹春(横浜市立大学大学院医学研究科 臨床統計学)
- 高橋 利明(静岡県立静岡がんセンター 呼吸器内科)
- 坂 英雄(国立病院機構名古屋医療センター 呼吸器科)
- 高山 浩一(九州大学大学院医学研究院 呼吸器内科学分野)
- 軒原 浩(国立がん研究センター中央病院 呼吸器内科)
- 原田 英幸(静岡県立静岡がんセンター 放射線治療科)
- 武田 晃司(大阪市立総合医療センター 臨床腫瘍科)
- 大泉 聡史(北海道大学大学院医学研究科 呼吸器内科学分野)
- 井上 彰(東北大学病院臨床試験推進センター 臨床腫瘍学)
- 澤 祥幸(岐阜市民病院 がんセンター)
- 吉岡 弘鎮(公益財団法人大原記念倉敷中央医療機構 倉敷中央病院 呼吸器内科)
- 赤松 弘朗(和歌山県立医科大学 内科学第三教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 医療技術実用化総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
所属機関異動
研究分担者 山中 竹春
国立がん研究センター 生物統計部門 →
横浜市立大学大学院医学研究科 臨床統計学(平成26年9月1日以降)
研究報告書(概要版)
研究目的
進展型小細胞肺癌(ED-SCLC)に対する予防的全脳照射(PCI)に関しては,初回治療の効果が完全寛解(CR)の症例に対しては標準的治療と考えられている。2007年にED-SCLCにおいて初回治療奏効例(CR以外も可)に対してPCIを行うことにより、生存率が有意に改善することが欧州より報告され(N Engl J Med: 357, 664-72, 2007)、これ以降、海外ではED-SCLCに対してもPCIを実施することが標準的治療とみなされている。しかしながらこの報告は、治療開始時にMRIにより脳転移の有無を確認した症例は29%にすぎないという欠点があり、脳転移検出能に優れるMRIの普及は海外と比較し抜きんでているわが国の医療事情ときく異なる状況で実施された。我が国の日常臨床に則して、治療前および治療後の経過観察中に脳画像診断にて脳転移の検索を行うことを必須として、ED-SCLC症例に対するPCIの有効性を検討する第3相試験を計画した。
研究方法
対象は、初回化学療法開始前に脳画像検査にて明らな脳転移を認めない進展型小細胞肺癌で、2コース以上の化学療法に対して腫瘍縮小を認め、初回化学療法終了後かつ登録前4週以内の脳MRI画像検査で脳転移が認められない症例。同意取得時年齢が20 歳以上。
PCI非施行群に対しPCI群の生存期間に対する優越性を検討するランダム化第III相試験
Primary endpointは全生存期間。試験中に2回の中間解析を実施。
PCIは、最終化学療法開始から4-6週以内に1回2.5Gy,1日1回,週5 日,計10 回,総線量25Gyで実施。
PCI非施行群に対しPCI群の生存期間に対する優越性を検討するランダム化第III相試験
Primary endpointは全生存期間。試験中に2回の中間解析を実施。
PCIは、最終化学療法開始から4-6週以内に1回2.5Gy,1日1回,週5 日,計10 回,総線量25Gyで実施。
結果と考察
中間解析を163例にて実施したところ、PCI施行群で生存期間が有意に延長する可能性が0.00011であったため、2013年7月17日、登録数224例にて症例登録を中止した。
2014年には、224例全例での生存期間、脳転移発生率と認知機能の指標であるMMSEの解析を実施した。全例の解析でもPCI群で有意な生存期間の延長は示されなかった(p=0.107)。ただし、脳転移の発生率はPCI群で有意に低下していた(p<0.001)。MMSEの解析では、70歳以上でPCI群にてMMSEの低下傾向を認め、高齢者ではPCIを実施することで認知機能が低下する可能性が示唆された。
本試験ではPCIの有用性が示されなかったため、抗がん剤治療後に脳MRIで真に脳転移がないことが確認された症例で、他の臓器に腫瘍が残存している場合にはPCIが不要であることが証明されたと考えている。前報の欧州の試験では、PCI施行前のMRI実施率が低頻度であったため、実際は既に脳転移を有していた症例が一定頻度で含まれており、それらの症例に放射線治療を行うことで脳転移の治療になり、結果として生存期間が延長された可能性があるのではないかと類推される。
欧米では、MRIの普及率はわが国と比較して低率であり、治療後の脳転移の有無を全症例でMRIを用いて確認することは困難である。逆に、放射線治療医はわが国と比較して充足しているため、放射線治療を実施することに困難を感じることは少ない。そのため、MRIで脳転移を確認することなく脳症状がないものを脳転移がない症例としてPCIを実施するのは、日常臨床に則していると思われる。しかしながら、わが国では逆に放射線治療医は少なくMRI装置は潤沢に普及している。そのため、化学療法後にMRIを実施して脳転移の有無の確認することは普通に実施できるのに対し、放射線治療の実施件数を増やすことは容易ではない。
それぞれの地域の医療事情に則した臨床試験を実施することが重要であることは言うまでもない。海外で報告された全ての重要なエビデンスをわが国で確認する必要がないが、明らかにわが国の医療環境と異なった状況下で得られたエビデンスについては、海外の結果を鵜呑みにせず、再確認する必要があるということが確認されたことも今回の試験の重要な成果の一つであると考えている。
全症例での生存期間解析の結果でもPCI施行群で有意に生存期間の延長は示せず、逆に未施行群と比較して逆に生存期間で劣っているような生存曲線が得られている。PCIを実施することで70歳以上の高齢者では認知機能が低下する傾向があり、これが原因の可能性も考えられる。この研究機関終了後も生存期間を追跡し、PCIで生存期間を短縮してしまう傾向があるかどうかについても確認したいと考えている。
2014年には、224例全例での生存期間、脳転移発生率と認知機能の指標であるMMSEの解析を実施した。全例の解析でもPCI群で有意な生存期間の延長は示されなかった(p=0.107)。ただし、脳転移の発生率はPCI群で有意に低下していた(p<0.001)。MMSEの解析では、70歳以上でPCI群にてMMSEの低下傾向を認め、高齢者ではPCIを実施することで認知機能が低下する可能性が示唆された。
本試験ではPCIの有用性が示されなかったため、抗がん剤治療後に脳MRIで真に脳転移がないことが確認された症例で、他の臓器に腫瘍が残存している場合にはPCIが不要であることが証明されたと考えている。前報の欧州の試験では、PCI施行前のMRI実施率が低頻度であったため、実際は既に脳転移を有していた症例が一定頻度で含まれており、それらの症例に放射線治療を行うことで脳転移の治療になり、結果として生存期間が延長された可能性があるのではないかと類推される。
欧米では、MRIの普及率はわが国と比較して低率であり、治療後の脳転移の有無を全症例でMRIを用いて確認することは困難である。逆に、放射線治療医はわが国と比較して充足しているため、放射線治療を実施することに困難を感じることは少ない。そのため、MRIで脳転移を確認することなく脳症状がないものを脳転移がない症例としてPCIを実施するのは、日常臨床に則していると思われる。しかしながら、わが国では逆に放射線治療医は少なくMRI装置は潤沢に普及している。そのため、化学療法後にMRIを実施して脳転移の有無の確認することは普通に実施できるのに対し、放射線治療の実施件数を増やすことは容易ではない。
それぞれの地域の医療事情に則した臨床試験を実施することが重要であることは言うまでもない。海外で報告された全ての重要なエビデンスをわが国で確認する必要がないが、明らかにわが国の医療環境と異なった状況下で得られたエビデンスについては、海外の結果を鵜呑みにせず、再確認する必要があるということが確認されたことも今回の試験の重要な成果の一つであると考えている。
全症例での生存期間解析の結果でもPCI施行群で有意に生存期間の延長は示せず、逆に未施行群と比較して逆に生存期間で劣っているような生存曲線が得られている。PCIを実施することで70歳以上の高齢者では認知機能が低下する傾向があり、これが原因の可能性も考えられる。この研究機関終了後も生存期間を追跡し、PCIで生存期間を短縮してしまう傾向があるかどうかについても確認したいと考えている。
結論
進展型小細胞肺癌(ED-SCLC)で化学療法で腫瘍縮小を認めた症例に対しては、予防的全脳照射(PCI)の実施で生存期間の延長は認めなかった。
公開日・更新日
公開日
2015-06-18
更新日
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