小児糖尿病・生活習慣病の発症要因、治療、予防に関する研究

文献情報

文献番号
199800337A
報告書区分
総括
研究課題名
小児糖尿病・生活習慣病の発症要因、治療、予防に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
松浦 信夫(北里大学医学部小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 松浦信夫(北里大学医学部小児科)
  • 佐々木望(埼玉医科大学小児科)
  • 貴田嘉一(愛媛大学医学部小児科)
  • 田嶼尚子(東京慈恵会医科大学内科学3)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児の糖尿病は1型糖尿病と2型糖尿病に大きく分類される。白人を中心とした欧米社会においては小児の2型糖尿病は非常にまれな疾患であり、小児糖尿病は1型糖尿病を指すのが一般である。小児期発症1型糖尿病の治療法は急速に進歩し、その長期予後も改善してきた。一方、近年食生活習慣の西欧化に伴い、小児期発症2型糖尿病が急激に増加しかつ若年化していると報告されている。これは、日本だけの問題ではなく、韓国、中国、南太平洋諸島の諸国においても見られ、東洋系人種一般に大きな問題を投げかけている。幸い我が国においては学校における集団検尿の制度があり、糖尿病を早期に発見が可能である。しかし、検尿、診断、治療、追跡体制が不十分なためせっかく発見された糖尿病児がが適切な治療を受けずに、働き盛りの20から30歳代に重篤な糖尿病性合併症に陥ることが希ではない。また、肥満、高脂血症、高血圧に伴う生活習慣病も確実に増加の傾向があり、心筋梗塞の若年化が大きな問題になっている。アメリカが国を挙げて取り組んできた、若年発症の動脈硬化症の問題が今我が国で急速に進行している。1型糖尿病の発症率が少ない反面、それを専門とする小児科医が少なく、その長期予後は欧米に比べて悪いことが明らかにされてきている。このような背景をくい止めるために、またより健全な小児の健康生活を確保するためこの研究班は組織され、実行に移されようとしている。
研究方法
研究班は4つの分担研究から成っている。
1)「小児インスリン依存型糖尿病の実態と治療法、長期予後改善に関する研究」班(分担研究者 松浦信夫)は主に1型糖尿病の実態、疫学を明らかにし、治療の中心であるインスリン療法、特に強化インスリン療法の確立、その評価のためのHbA1c標準化、診断法としての新しい自己抗体測定法の検討を中心に研究が進められる。治療の課程で問題になる重症低血糖、成長障害、心理的な問題に伴いコントロールの悪化、その背景を研究者の症例、並びに小児インスリン治療研究会に登録された患者を中心に研究を進める予定である。
2)「小児インスリン非依存型糖尿病の早期発見と治療法、長期予後改善に関する研究」班(分担研修者 佐々木望)は主に2型糖尿病の疫学、病態、治療法、長期予後の改善を目指して研究が進められる。対照となる症例は学校における集団検尿で発見される尿糖陽性児であり、このスクリーニング方法、診断方法、治療法の確立を行う。協力者は何れも、一定の地域でこの問題に深く関わってきた先生方であり、従来の研究に加え班員で共同研究を組むことで、更に大きな対象が把握され、貴重な所見が得られることが期待される。
3)「小児のライフスタイルの実態、生活習慣病の発症要因、予防に関する研究」班(分担研究者:貴田嘉一)は主に小児の肥満、高血圧、脂肪肝,糖尿病の疫学、病態、治療法を確立し、その改善に努める。研究方法としては①一定地域に於ける生活習慣病の疫学的研究、②小児血圧の基準値の設定、③骨粗鬆症の実態、予防法、④肥満に伴う脂肪代謝異常の病態、食事療法に関する研究を研究目的として研究計画が立てられた。
4)「小児糖尿病(インスリン依存型糖尿病)の予後に関する疫学研究」(分担研究者:田嶼尚子)はDERI, DIAMOND国際研究を更に発展させ、コホートの追跡調査を継続した。1965年~1979年に18歳未満で診断された小児糖尿病患者1410名を対象に、1995年現在の生存状況及び慢性合併症の発生状況を明らかにすることである。
結果と考察
1)1型糖尿病の実態、治療の分担研究班では①群馬県、新潟県における疫学研究が行われた。②HbA1cの標準化は施設間の変動が3%以内にすることが可能になり、これにより、施設間の比較、至適治療法の確立が可能になる。③強化インスリン療法に伴う重症低血糖症の発症は高くないこと、小児期発症1型糖尿病の最終身長が低下している可能性が有ること、HbA1c10%以上のコントロール不良例の存在などが明らかにされた。④専門医による診療所に於ける糖尿病診療が病診連携をすることにより、多くの利点のあることが明らかにされた。
2)2型糖尿病の診断、治療に関する分担研究では①横浜市、東京都、三重県、福岡市に於ける2型糖尿病の診断、病因、疫学的研究が行われ、横浜市で明らかに増加している事実が明らかにされた。②東京都で発見された症例の家族歴は著しく高く、3世代にまたがって発症している症例も多く見られた。これは、成人2型糖尿病の家族歴に比し非常に高く、病因的に異なる可能性を示唆している。③東京女子医大糖尿病センターにおける若年発症2型糖尿病の合併症が多いことが明らかにされ、途中で脱落することが重要な要因であることが明らかにされた。
3)生活習慣病に関する分担研究では①松山市、千葉県、静岡県に於ける肥満児に関する疫学調査を行い、併せて脂肪代謝異常の背景について検討した。肥満児の割合は少しずつ増加し、高コレステロール血漿の頻度も高かった。肥満症外来に於ける食事や生活、即ちライフスタイルを変える治療の実際について報告された。②血圧測定は生活習慣病の病態、予後を予測する上で重要な検査である。小児は身長、体重、腕の太さなど個々人で大きく異なり、一定した測定方法の確立が重要性が示された。③骨粗鬆症は生活習慣病の1つとして注目されている。肥満症とは対照的に「やせ願望」によるやせ、骨塩量の低下による将来の骨粗鬆症の発症が大きな問題である。
4)1型糖尿病の長期予後に関する研究は1965年~1979年に18歳未満で診断された小児糖尿病患者1410名を対象に、1995年現在の生存状況及び慢性合併症の発生状況を明らかにすることである。死亡症例は計137例で、追跡開始後25年の時点の累積生存率は81%(95%信頼区間77-85)であった。また、診断年代別にみると、1960年代診断群の追跡15年後の累積生存率は88%(84-91)であったのに対して、1970年代診断群では96%(95-97)と著明な改善を認めた。合併症に関しては、追跡25年後における累積発生率は光凝固療法45%(40-50)、失明13%(10-17)、人工透析26%(21-31)であった。また、診断年代別の生命表解析を行ったところ、光凝固療法は1960年代診断群と1970年代診断群で施行率がほぼ同等であったのに対して、失明発生率には有意な差がみられた。人工透析導入率も1970年代診断群では減少していた。発症年代が新しいほど、その予後が改善してきたことを明らかにされた。
結論
1)1型糖尿病研究班でHbA1cの標準化、疫学、インスリン治療に伴う問題点などが明らかにされた。2)2型糖尿病研究班で学校検尿健診システムが確立され、その疫学が報告された。発症率は増加し、濃厚な家族歴の存在が明らかにされた。3)生活習慣病研究班では肥満、高脂血症、高血圧、骨粗鬆症の分野で研究が推進され、有病率の増加、早期介入の必要性がしめされた。4)1型糖尿病の予後に関する研究班では1960年代発症群と70年代発症群において、失明、人工透析に移行する率が減少し、死亡率が著しく改善したことが明らかになった。

公開日・更新日

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