フィブロインのcell delivery機能を利用した若年者重度関節症に対する新しい治療法の開発

文献情報

文献番号
201408014A
報告書区分
総括
研究課題名
フィブロインのcell delivery機能を利用した若年者重度関節症に対する新しい治療法の開発
課題番号
H24-被災地域-一般-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
中川 晃一(東邦大学 医学部医学科整形外科学講座(佐倉))
研究分担者(所属機関)
  • 齋藤 知行(横浜市立大学医学部整形外科)
  • 富田 直秀(京都大学大学院工学研究科)
  • 玉田 靖(信州大学繊維学部)
  • 中島 新(東邦大学 医学部医学科整形外科学講座(佐倉))
  • 鈴木 昌彦(千葉大学フロンティアメディカル工学センター)
  • 和田 佑一(帝京大学ちば総合医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 医療機器開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
31,749,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、培養過程を経ない自家骨髄細胞を移植細胞とし、フィブロインスポンジに播種させて軟骨欠損部に直接移植することによって関節軟骨修復を促進する軟骨再生技術の確立である。最終年度は、骨髄間葉系細胞を効率良くフィブロインスポンジへ播種させる手段として遠心播種を試みた。また、せん断方向の力学刺激が培養軟骨細胞の軟骨形成に及ぼす影響、ヒト軟骨細胞および骨髄細胞のフィブロインスポンジ内での軟骨分化、軟骨形成能を検討した。さらに、本治療法の導入が予想される高位脛骨骨切り術の関節軟骨修復を予測する関節液マーカーについて探索を行った。近い将来、本治療システムを臨床試験へ進めることを見据えて、臨床治験体制、ガイドラインの策定も行った。
研究方法
1)フィブロインスポンジへの遠心播種条件等の評価
2)せん断方向の力学刺激が培養軟骨細胞の軟骨形成に及ぼす影響
3)ヒト軟骨細胞および骨髄細胞のフィブロインスポンジ内での軟骨分化、軟骨形成能の検討
4)イヌ膝関節軟骨欠損モデルを用いたフィブロインによる関節軟骨修復効果
5)本治療法の導入が予想される高位脛骨骨切り術の関節軟骨修復を予測する関節液マーカーについての探索
6)本治療法の臨床試験導入に向けて、ガイドラインの策定
結果と考察
我々は本治療システムを可能な限り早期に臨床試験へと進めるために培養過程を経ない、軟骨欠損部への細胞移植を第一に考えている。従来の骨髄刺激法により骨髄から流出する骨髄液の成分は赤血球をはじめとする血球成分が主であり、間葉系幹細胞も含まれているもののその割合は少ない。今回フィブロインに播種した細胞は、間葉系幹細胞分離専用デバイス(Kaneka)により分離した。これにより、骨髄由来幹細胞を高濃度に含んだ(Kaneka社データで約90%)細胞分画を局所へ供給することが可能であった。今回の検討で、骨髄刺激後のフィブロイン被覆を行った群(BS+F群)と骨髄刺激後に骨髄細胞を播種したフィブロインで被覆を行った群(BS+BMC-F群)は、肉眼所見ではほぼ同等の組織修復像を示したが、病理組織学的検討では、BS+BMC-F群の方が、線維軟骨組織の形成に優れる傾向を認めた。これは骨髄幹細胞を播種した効果であると考えられた。このように、培養過程を経ずに骨髄細胞を播種したフィブロイン被覆法は、広範囲関節軟骨欠損の修復に対して一定の有効性を示したが、硝子軟骨組織による再生までは達成できなかった。今後はまず培養細胞を用いない方法で、広範囲軟骨欠損に対するフィブロインスポンジ被覆法の臨床応用をめざし、効果と安全性を考慮しながら、培養細胞を用いた再生法に移行していく予定である。
結論
フィブロインスポンジ内への細胞播種を行うことで軟骨欠損部を‘貼って治す’ことを可能にすることが期待される。我々は本治療システムを可能な限り短期間で臨床応用することを目指し、現時点では培養過程を経ない細胞移植法を第一に考えている。そのためにはより効率の良い播種方法を考案することが必須である。また、本治療システムはHTOと併用して行うことを想定しており、臨床試験に向けてガイドラインの内容を細部まで決定していかなければならない。

公開日・更新日

公開日
2016-01-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201408014B
報告書区分
総合
研究課題名
フィブロインのcell delivery機能を利用した若年者重度関節症に対する新しい治療法の開発
課題番号
H24-被災地域-一般-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
中川 晃一(東邦大学 医学部医学科整形外科学講座(佐倉))
研究分担者(所属機関)
  • 齋藤 知行(横浜市立大学 医学部整形外科)
  • 富田 直秀(京都大学 大学院工学研究科)
  • 玉田 靖(信州大学 繊維学部)
  • 中島 新(東邦大学 医学部医学科整形外科学講座(佐倉) )
  • 鈴木 昌彦(千葉大学 フロンティアメディカル工学研究開発センター)
  • 和田 佑一(帝京大学 ちば総合医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 医療機器開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は平成24年度から26年度の3年間に渡って本事業における新しい軟骨再生技術の近い将来の臨床試験を考慮し、培養過程を経ない自家骨髄細胞を移植細胞とし、フィブロインスポンジに播種させて軟骨欠損部に移植することによって軟骨再生を期待する技術開発に着手した。
研究方法
1-1) 企業にて製造されたフィブロインの軟骨再生評価と適正化
1-2) フィブロイン上における軟骨細胞の細胞凝集形成、基質合成
1-3) 大型動物(イヌ)膝軟骨欠損モデルの作成と軟骨修復効果
1-4) 変形性膝関節症に対する高位脛骨骨切り術後の軟骨修復
2-1)  フィブロイン微細ファイバーとフィブロインスポンジの複合化
2-2) フィブロインスポンジ表面近傍における細胞動態とその分布の定量評価
2-3)  ビーグル犬膝関節軟骨欠損部へのフィブロインスポンジ移植による軟骨再生とフィブロイン内への骨髄由来細胞播種の効果
3-1)  フィブロインスポンジへの遠心播種条件等の評価
3-2)  せん断方向の力学刺激が培養軟骨細胞の軟骨形成に及ぼす影響
3-3)ヒト軟骨細胞および骨髄細胞のフィブロインスポンジ内での軟骨分化、軟骨形成能の検討



結果と考察
骨髄刺激とフィブロイン被覆を組み合わせた方法では、骨髄刺激によって流出した骨髄細胞がフィブロインスポンジ上で細胞凝集体を形成し、それが軟骨欠損部に白色の修復組織形成を促したと考えられる。そして、術後12週においてこれらの組織は軟骨細胞へ分化していた。骨髄刺激法とフィブロインスポンジ被覆を併用する方法は、広範囲関節軟骨欠損の治療の応用できる可能性がある。
さらに、より高い軟骨再生効果を得る手段として、骨髄内の間葉系細胞を濃縮してフィブロイン内に効率よく播種し、欠損部へ移植する方法が考えられる。そこで、関節軟骨欠損部に、骨髄間葉系細胞(専用フィルターにより分離)を播種したフィブロインスポンジを被覆する方法を試みた。
この実験では、術後4週で骨髄間葉系細胞播種群において軟骨欠損部に白色の修復組織が多く認められる傾向にあったが、12週では明らかな差は認められなかった。また、この時点では両群ともに軟骨下骨の骨破壊や変形性関節症性変化の進行がみられた。これは、本事業の2年目以降フィブロイン強度を改良し、フィブロインの欠損部への固定性を向上させたことで、フィブロインが12週間という長期間にわたって欠損部に存在したためと考えられた。フィブロインが長期間にわたって関節面に機械的負荷を与えると、軟骨欠損部の修復には悪影響を与える可能性が示唆された。また、フィブロインに分離した骨髄間葉系細胞を播種するだけでは細胞数が不十分であった可能性があり、骨髄刺激法と分離骨髄細胞の播種を併用する方法も有効と考えられた。
結論
関節軟骨再生治療は小範囲の欠損であれば骨髄刺激、骨軟骨移植(mosaic plasty)など既存の方法で関節軟骨用組織を修復可能である。現在、求められているのはこのような既存の治療法で対応できない広範囲軟骨欠損に対する再生治療である。膝関節に限って言えば、関節温存手術として高位脛骨骨切り術があるが、関節軟骨修復率は決して良いとは言えない。
フィブロインスポンジは高い細胞凝集能、cell delivery機能を有することから従来のバイオマテリアルと異なり広範囲軟骨欠損にも対処することが期待できる新しいマテリアルである。しかし、イヌを用いた動物実験の結果からは単に欠損部を被覆するだけでは十分な関節軟骨修復は期待できない。従って、臨床試験においてはフィブロインスポンジ内への細胞播種を行うことで軟骨欠損部を‘貼って治す’ことを可能にすることが期待される。我々は本治療システムを可能な限り短期間で臨床応用することを目指し、現時点では培養過程を経ない細胞移植法を第一に考えている。そのためには、手術室で関節温存手術と同時に骨髄液を採取し簡便かつ迅速な細胞分離装置を用いることにより、効率の良い播種方法を考案することが必須である。また、臨床試験に向けてガイドラインの内容を細部に渡って決定していかなければならない。

公開日・更新日

公開日
2016-01-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201408014C

成果

専門的・学術的観点からの成果
フィブロインスポンジの最外層にフィルム構造を付加することで強度を持ったバイオマテリアルとして実用化できること、フィブロインスポンジ上での線維芽細胞、軟骨細胞の細胞動態について観察を行い、定量化を行い、論文化した。
イヌ膝関節に広範囲軟骨欠損を作成し、骨髄刺激後に骨髄細胞を播種したフィブロインスポンジで被覆して軟骨修復に及ぼす影響を検討した。術後12週の組織学評価では、骨髄細胞添加フィブロインを適用した群で、対照群に比べて線維軟骨による充填が高い傾向が認められた。
臨床的観点からの成果
本治療システムの適応や対象症例の選択を含めた治療ガイドラインを作成するにあたり、高位脛骨骨切り術単独での軟骨修復について評価を行った。Opening wedge法ではClosed wedge法に比較して修復は劣っていた。修復に影響する因子として、部位、変性Grade、性別、BMIが関与した。
ガイドライン等の開発
本治療法の対象となる主要疾患は変形性膝関節症であり、現在本邦で広く行われている高位脛骨骨切り術と併用して行うことを想定している。臨床試験を進めるにあたり、治療ガイドラインの策定を行った。
その他行政的観点からの成果
行政的観点からの成果は特にない
その他のインパクト
我々はフィブロインに播種する細胞を培養過程を経ないで回収する方法を目指している。これまでの研究成果から、フィブロインと培養を経ない骨髄細胞移植によって現在は未解決な広範囲軟骨欠損に有効な治療手段となる可能性があると考えている。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2016-01-28
更新日
2017-06-13

収支報告書

文献番号
201408014Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
34,923,000円
(2)補助金確定額
34,923,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 11,801,224円
人件費・謝金 2,534,567円
旅費 1,262,168円
その他 16,165,622円
間接経費 3,174,000円
合計 34,937,581円

備考

備考
自己負担金 14581円 があるため。

公開日・更新日

公開日
2017-06-13
更新日
-