難治性腸疾患等に対する安全かつ有効な非侵襲性経口ナノDDSの開発

文献情報

文献番号
201408001A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性腸疾患等に対する安全かつ有効な非侵襲性経口ナノDDSの開発
課題番号
H24-医療機器-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
堤 康央(大阪大学 大学院薬学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 吉岡 靖雄(大阪大学 大学院薬学研究科)
  • 藤尾 慈(大阪大学 大学院薬学研究科)
  • 小久保 研(大阪大学 大学院工学研究科)
  • 大江 知之(慶應義塾大学薬学部)
  • 青島 央江(ビタミンC60バイオリサーチ株式会社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 医療機器開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
超微細加工技術を活用した疾患の予防・治療戦略/技術の確立は、知財技術立国・健康立国を目指す我が国の最重要課題であり、特に原因不明で、根本的な治療法が確立されていない難治性疾患への応用はライフ/医療イノベーション5ヶ年戦略の観点からも期待されている。炭素原子60個が切頂二十面体構造に結合したC60フラーレン(直径1 nm)は、従来薬とは全く異なった作用点での抗ウイルス活性や抗菌活性、さらには圧倒的な抗炎症活性(抗酸化活性;活性酸素・ラジカル消去活性)を有するなど、エイズや肝炎、がん、炎症性疾患に対する画期的ナノ医薬として期待されている。しかし、主薬としてのC60フラーレンを実用化するには、分散性・吸収性の改善や標的指向性の付与、さらには薬効メカニズムの解明といった多くの克服課題が残されている。そこで本研究では、医用工学的にC60フラーレンの腸内放出型プロドラック化や糖・アミノ酸修飾など、腸管デリバリーの最適化に叶う「ナノ薬物送達システム(ナノDDS)」を新規開発し、これを炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)を標的とした、非侵襲的(経口投与)で、しかも安全かつ有効な予防・治療戦略/技術の確立へと展開する。
研究方法
平成24、25年度の成果を基盤としつつ、当初計画に沿って、プロリン型C60フラーレンに焦点を絞り、炎症性腸疾患に対する治療効果の精査、詳細な安全性評価、体内動態評価、物性・品質管理を推進すると共に、腸管吸収性・腸管送達性などを改善できるDDS化プロリン型C60フラーレンの創製を図った。さらに、プロリン型C60フラーレンの、抗酸化活性に依存しない抗炎症活性メカニズムの解明を図り、その作用点の解明を試みた。
結果と考察
平成24、25年度の成果を基盤としつつ、➀高度な品質保証を目指し、プロリン型C60フラーレンの作製条件の最適化および精製度の向上を図ると共に、➁平成25年度に引き続き、抗炎症活性や獲得免疫抑制作用のメカニズム解明など、プロリン型C60フラーレンの作用点を明確にすることを試みた。さらに、➂グルコース修飾プロリン型C60フラーレンなどのDDS化プロリン型C60フラーレンを新規合成すると共に、確立済みの評価系を用いて体内動態を精査した。その結果、①に関しては、❶プロリン型C60フラーレンの従来の合成法では、最終段階で原料や副生成物が残存し、それらを取り除くのは極めて困難であったが、将来的な医薬品化を念頭に、保護基を変更した合成経路を開発することで、純度の高いプロリン型C60フラーレンの合成に成功した。また、❷プロリン型C60フラーレンに関して、異性体の解析や製造ロットによる品質の違いの解析などを進めており、安定した品質のプロリン型C60フラーレンを提供できる準備が整いつつある。➁に関しては、❸プロリン型C60フラーレンは、炎症性サイトカインの翻訳に関わるeIF4Eや p70 S6Kなどのリン酸化を抑制するのみならず、eIF4Eや p70 S6Kの総タンパク質量をも低下させることを見出した。即ち、IL-8やMCP-1といった炎症性サイトカイン・ケモカインのmRNAからタンパク質への翻訳を選択的に阻害するという、これまでに無い新たな作用により抗炎症活性を発揮する可能性を先駆けて見出した。➂に関しては、❹平成25年度に創製した14C標識C60フラーレンを原料に、14C標識プロリン型C60フラーレンの合成に先駆けて成功した。さらに、❺プロリン型C60フラーレンの体内動態評価の1つとして、以前よりご指摘いただいていた代謝産物について、肝ミクロソームを用いてin vitroで評価した。シトクロムP450の化学モデルおよびラット肝ミクロソームで代謝反応を実施したところ、複数の代謝物の生成を確認し、現在、構造解析を進めている。
結論
以上、平成26年度には、特に、重点課題として挙げた項目についても有益な結果を得るなど、当初の予定以上に進捗した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201408001B
報告書区分
総合
研究課題名
難治性腸疾患等に対する安全かつ有効な非侵襲性経口ナノDDSの開発
課題番号
H24-医療機器-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
堤 康央(大阪大学 大学院薬学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 吉岡 靖雄(大阪大学 大学院薬学研究科)
  • 藤尾 慈(大阪大学 大学院薬学研究科)
  • 小久保 研(大阪大学 大学院工学研究科)
  • 大江 知之(慶應義塾大学 薬学部)
  • 青島 央江(ビタミンC60バイオリサーチ株式会社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 医療機器開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
超微細加工技術を活用した疾患の予防・治療戦略/技術の確立は、知財技術立国・健康立国を目指す我が国の最重要課題であり、特に原因不明で、根本的な治療法が確立されていない難治性疾患への応用はライフ/医療イノベーション5ヶ年戦略の観点からも期待されている。炭素原子60個が切頂二十面体構造に結合したC60フラーレン(直径1 nm)は、従来薬とは全く異なった作用点での抗ウイルス活性や抗菌活性、さらには圧倒的な抗炎症活性(抗酸化活性;活性酸素・ラジカル消去活性)を有するなど、エイズや肝炎、がん、炎症性疾患に対する画期的ナノ医薬として期待されている。しかし、主薬としてのC60フラーレンを実用化するには、分散性・吸収性の改善や標的指向性の付与、さらには薬効メカニズムの解明といった多くの克服課題が残されている。そこで本研究では、抗酸化・抗炎症活性を向上可能な官能基修飾誘導体C60フラーレンの新規創製を試み、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)を標的とした、非侵襲的(経口投与)で、しかも安全かつ有効な予防・治療戦略/技術の確立に向けた検討を図った。
研究方法
当初計画通り、1)各種官能基で修飾したC60フラーレン誘導体の創製、2)C60フラーレン誘導体の有効性・安全性評価の推進を目指した。また、3)C60フラーレン誘導体の異性体の解析といった物性・品質保証に関する評価、4)吸収性、分布、代謝、蓄積・排泄といった体内動態(ADME)の解析手法の構築、5)抗炎症メカニズムの解明を図った。
結果と考察
本研究では、1)分散性を改善できる水酸化C60フラーレンに加え、抗酸化・抗炎症活性を向上可能な官能基修飾誘導体を創製することで、従来までの「20倍以上もの抗炎症活性を有するC60フラーレン誘導体(プロリン型C60フラーレン)」を見出した。2)一般毒性試験や遺伝毒性試験などを実施し、安全性にも優れていることを明らかとすると共に、炎症性腸疾患モデルマウスを用い、C60フラーレン誘導体が優れた治療効果を発揮可能であることを見出した。また、3)これらC60フラーレン誘導体を鋳型として、異性体の存在しない4種類の官能基修飾誘導体を新規合成し、構造活性相関に資する基盤情報を得ると共に、保護基を変更した合成経路を開発することで、純度の高いプロリン型C60フラーレンの合成に成功した。さらに、4)生体内のプロリン型C60フラーレンを定量的に解析し得る方法の構築、および14C標識プロリン型C60フラーレンの合成に先駆けて成功し、体内動態評価の足がかりを掴んだ。また、5)プロリン型C60フラーレンの免疫抑制作用・抗炎症活性メカニズムの解明を図ることで、プロリン型C60フラーレンが、炎症性サイトカインのmRNAからタンパク質への翻訳を選択的に阻害する可能性を見出し、従来までの医薬品には全く存在しない抗炎症活性を発揮する可能性を明らかとした。
結論
本研究成果は、難治性腸疾患にとどまらず、世界で計6000万人以上もの患者が存在する関節リウマチなど、数多くの炎症性難病の克服にも横断的な共通治療基盤を提供可能であり、今後の薬効(抗炎症)メカニズムや動態の解明、そしてその制御(ナノDDS)が鍵を握るものの、心不全や慢性腎炎などへの広範な展開も期待される。以上、本知見は、新たな方法論・基盤技術・医療体系を提供することで大きな社会効果が期待されると共に、「健康立国」としての国際的地位の向上にも繋がることが期待できる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201408001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
当該研究課題では、原著論文8報、総説・書籍10報を公表すると共に、シンポジウム13件、国内学会発表18件、国際学会発表11件で成果発表するなど、多数の論文や学会で発表しているように、当該事業ではC60フラーレンの医薬品化に向け専門的・学術的に優れた成果を挙げたと言える。
臨床的観点からの成果
本研究では、1名の臨床医に分担研究者として参画頂くことで、臨床的視点を踏まえ検討を実施した。平成26年2月20日(木)にPMDAへの事前面談を実施済みであると共に(平成24年4月4日(水)にも実施した)、平成26年3月18日(火)に創薬支援戦略室(医薬基盤研究所)にも相談しており、実用化に向けた取組を着実に推進してきた。さらに、製薬メーカーとの協議を進め、GLP/GMPグレードの大量生産システムの構築やその物性担保についても検討し、実用化(臨床応用)および事業化に向けた準備を進めてきた。
ガイドライン等の開発
ナノマテリアルが主薬・主剤であるナノメディシンは、「このC60フラーレンが国内外を問わず、最初」であることを鑑みると、「品質保証や体内挙動、ベネフィット・リスクバランスをどう考えるか」といった個々のガイドラインと、これらを取り纏めたガイダンスの発信など、レギュラトリーサイエンスの進展にも当該成果は寄与するものである。我が国の知財を活用し、我が国発の非侵襲性ナノDDSを最初に事業化することは、安全・安心の提供のみならず、産業的にも、我が国の国益に叶うものと考えられる。
その他行政的観点からの成果
昨今、当該領域での抗体医薬の開発が進展しているが、高額かつ侵襲的であり、安全性にも一部懸念を残していることを考えると、安価かつ安全で有効な経口投与型ナノDDS化C60フラーレンの併用療法あるいは予防投与は、医療経済的にも波及効果に優れている。本取組は、新たな方法論・基盤技術・医療体系を提供することで大きな社会効果が期待されると共に、「健康立国」としての国際的地位の向上にもつながることが期待できる。
その他のインパクト
特記事項なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
8件
学会発表(国内学会)
18件
学会発表(国際学会等)
24件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
潰瘍性大腸炎の予防または治療剤と新規フラーレン誘導体
詳細情報
分類:
特許番号: PCT/JP2014/053950
発明者名: 堤 康央、吉岡 靖雄、東阪 和馬、増野匡彦、大江 知之、山名 修一、青島 央江
権利者名: 国立大学法人大阪大学、ビタミンC60バイオリサーチ株式会社、増野匡彦、大江知之
出願年月日: 20140219
国内外の別: 国際特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yamashita K, Yoshioka Y, Pan H, et al.
Biochemical and hematologic effects of polyvinylpyrrolidone-wrapped fullerene C60 after oral administration.
Pharmazie.  (2013)
原著論文2
Ueno H, Kokubo K, Kwon E, et al.
Synthesis of a New Class of Fullerene Derivative Li+@C60O–(OH)7 as a “Cation- Encapsulated Anion Nanoparticle”.
Nanoscale.  (2013)
原著論文3
Ueno H, Kokubo K, Nakamura Y, et al.
Ionic conductivity of [Li+@C60](PF6–) in organic solvents and its electrochemical reduction to Li+@C60•–.
Chem. Commun.  (2013)
原著論文4
Ueno H, Kawakami H, Nakagawa K, et al.
Kinetic study of the Diels–Alder reaction of Li+@C60 with cyclohexadiene: Greatly increased reaction rate by encapsulated Li+.
J. Am. Chem. Soc.  (2014)
原著論文5
Ueno H, Yamakura S, Arastoo R. S, et al.
Systematic evaluation and mechanistic investigation of antioxidant activity of fullerenols using β-carotene bleaching assay.
J. Nanomater.  (2014)
原著論文6
Watanabe T, Nakamura S, Ono T, et al.
Pyrrolidinium fullerene induces apoptosis by activation of procaspase-9 via suppression of Akt in primary effusion lymphoma.
Biochem Biophys Res Commun.  (2014)
原著論文7
Ikuma N, Yamamoto H, Kokubo K, et al.
Synthesis of pyrrolidinofullerenes via single electron transfer reaction of aryldienamines with C60.
Heterocycles.  (2015)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
2019-05-30

収支報告書

文献番号
201408001Z