文献情報
文献番号
201407016A
報告書区分
総括
研究課題名
人工水耕栽培システムにより生産した甘草等漢方薬原料生薬の実用化に向けた実証的研究
課題番号
H24-創薬総合-一般-007
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
吉松 嘉代(独立行政法人医薬基盤研究所 薬用植物資源研究センター筑波研究部育種生理研究室)
研究分担者(所属機関)
- 川原 信夫(独立行政法人医薬基盤研究所 薬用植物資源研究センター)
- 河野 徳昭(独立行政法人医薬基盤研究所 薬用植物資源研究センター 筑波研究部)
- 穐山 浩(国立医薬品食品衛生研究所 食品添加物部)
- 工藤 善(鹿島建設株式会社 技術研究所)
- 小松 かつ子(富山大学和漢医薬学総合研究所 資源開発研究部門・生薬資源科学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
29,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、社会の超高齢化に伴い需要が急増している日本独自の医薬品である漢方薬の安定供給及びその基原植物資源の戦略的確保のため、産学官連携の研究成果である「甘草の人工水耕栽培システム」の着実な実用化を推進し、生薬の国内生産基盤構築と推進モデル実証のため、地域産学官連携によるブランド生薬の開発を行うことを目的とする。人工水耕栽培システム等の新技術で生産された生薬は、製品化されておらず、その利用への潜在的不安が存在する。従って、着実な実用化のためには、従来生薬との同等性を評価し、品質・有効性・安全性を担保することが必要不可欠である。 また、従来の安価な輸入生薬との差別化のためには、国産生薬のブランド化が有効である。
研究方法
人工水耕栽培は圃場栽培に比べてコスト高であり、また、生薬原料の植物資源の多くは国外の野生種で良品の入手が困難なため、本研究では、経済性、汎用性を考慮した、1)「甘草」等の種苗生産システムの構築、2)ハイテク「甘草」等生産システムの構築を行う。また、人工水耕等の新技術で生産した生薬の製品化事例はなく、その使用に対しての潜在的不安が存在するため、3)生薬「甘草」等の評価(品質・有効性・安全性)を行い、水耕生薬の品質・有効性・安全性を担保し、優位性を確認する。4)ブランド生薬の開発は、国内栽培の推進が強く望まれているシャクヤク、ダイオウ、エゾウコギについて実施する。
結果と考察
「甘草」等の種苗生産システムの構築:これまでに育成したウラルカンゾウ優良株を確実に保存し活用するため、植物組織培養物バンクを確立した。ウラルカンゾウ地上茎挿し木苗を材料としたグリチルリチン酸(GL)生合成遺伝子の発現解析を行い、擬似乾燥ストレス及び塩ストレスが根におけるGL生合成酵素遺伝子の発現量を低下させることを世界で初めて証明した。麻黄の基原植物であるシナマオウ及びキダチマオウについて、増殖効率の高いシュート培養の育成に成功し、光独立栄養培養による苗化に成功した。ハイテク生薬生産システムの構築:太陽光利用型植物工場での甘草水耕栽培における培養液の循環量及び散気量を最適化し、本システムで生産した根の低温貯蔵による、GL以外の薬効成分含量増加に成功した。ウラルカンゾウ優良株の人工水耕―圃場ハイブリッド栽培(ハイブリッド栽培)を行い、北海道、筑波、神奈川での圃場栽培において、定植後わずか1~1年3ヶ月の栽培で日局規格値を満たす甘草の生産に成功した。黄連人工水耕栽培における光条件を最適化した。オタネニンジン芽切り種子を材料に人工水耕栽培を行い、ギンセノシド類の日局規格値を満たす人参の生産に成功した。生薬「甘草」等の評価(品質・有効性・安全性):ハイブリッド栽培甘草の日局試験及び有害元素測定を行い、日局規格値を満たしていることを確認した。水耕甘草、ハイブリッド甘草及び水耕黄連のLC/MSによる多成分一斉分析を実施し、従来生薬と化学的同等性が高いことを確認した。水耕黄連について変異原性試験を実施し、従来生薬より安全性が高いことを確認した。水耕甘草、ハイブリッド甘草及び水耕黄連について病態モデルマウスによる抗アレルギー活性評価を行い、いずれも従来生薬と同等であることを確認した。地域産学官連携によるブランド生薬の作出:シャクヤクについて、切り花生産と生薬生産を実現できる栽培方法の確立に成功し、異なる有効成分を加工調製方法により高めることに成功した。ダイオウについて、長野県及び北海道での栽培に適し抗炎症作用成分の含量が高い優良系統を決定した。構造が複雑なタンニン類を評価するためのLC-MS法を開発した。エゾウコギについて、水耕栽培で得られた苗の富山市の高地での野外栽培を実施し、良好に生育することを確認した。養液栽培による挿し木法を検討し、発根率が6%程度であるが、本法での増殖が可能であることを確認した。葉の成分分析を行い、機能性を有するカフェオイルキナ酸類等の10化合物を同定し、サポニン成分の含有を確認した。
結論
甘草及び黄連に関し、種苗生産システム、ハイテク生産システムの構築及び従来生薬との同等性評価(品質・有効性・安全性)を完了し、水耕生薬(甘草及び黄連)の優位性(栽培期間短縮、有害元素含量がより低値)を確認した。甘草については、さらに経済性・汎用性が高いハイブリッド栽培システムによる短期間での生薬生産に成功し、本システムが生薬国内栽培拡大に有効であることを実証した。さらに、重要生薬である麻黄の基原植物の種苗育成とオタネニンジン実生の人工水耕栽培による短期間での生薬人参の生産に成功した。ブランド生薬開発(芍薬、大黄及刺五加)においては、商品開発のための基盤技術(優良系統選抜、栽培及び加工調製法、水耕栽培条件など)の確立に成功した。
公開日・更新日
公開日
2015-06-01
更新日
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