経鼻ワクチンの挙動と安全性評価技術の開発

文献情報

文献番号
201407015A
報告書区分
総括
研究課題名
経鼻ワクチンの挙動と安全性評価技術の開発
課題番号
H24-創薬総合-一般-006
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
幸 義和(東京大学医科学研究所 感染・免疫部門炎症免疫学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 長谷川秀樹(国立感染症研究所 感染病理部 部長)
  • 奥野良信(阪大微生物病研究会 観音寺研究所・所長)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
従来、タンパク医薬の吸収排泄分布代謝(ADME)には125Iや111In標識放射性物質を用いたオートラジオグラフィや摘出臓器の放射能測定法が用いられてきた。しかし最近の分子イメージング技術は生きたままの動物での可視化とリアルタイムでの定量を可能にしている。特にPET(Positron-Emission Tomography)のような放射能ベースの分子イメージングはヒトで非侵襲的に中枢神経の活動や癌の体内検出を可能にしている。従来からのCT(Computerized Tomography)やMRI(Magnetic Resonance Imaging)のような構造イメージング技術を組み合わせることでPETの特異性と感度を高めることができる。昨年まで、肺炎球菌の組換えワクチン(PspA)や不活化全粒子インフルエンザワクチンのヘマグルチニン分子18Fを標識する技術が開発できたの、本年度はマウスのみならず大動物であるサルを用いてPETイメージングによる経鼻ワクチン投与局所である頭部の動態を解析した。
研究方法
浜松ホトニクス社の協力を得て、昨年度報告した方法で肺炎球菌の組換えワクチン(PspA)または不活化全粒子インフルエンザワクチンのヘマグルチニン分子のリジンアミノ基を介して18F-PspAを合成した。ナノゲル化18F PspAまたは単独18F PspAをアカゲザルの鼻腔領域内に投与(片鼻250µl、両鼻で計500µl)、接種直後よりPETを用いてその動態を解析した。18F標識不活化全粒子インフルエンザワクチンを添加剤カルボキシビニルポリマー(CVP)添加・非添加の条件にてアカゲザルの鼻腔領域内に噴霧し(片鼻250µl、両鼻で計500µl)、接種直後よりPETを用いてその動態を解析した。
結果と考察
サルの頭部はPETスキャナーの中に置かれ、6時間リアルタイムで測定された。脳の正確な位置を確認するためMRIイメージング重ねて解析した。(1)経鼻投与された肺炎球菌ワクチン、ナノゲルPspAは効果的に鼻腔上皮にデリバーされ、6時間以上にわたって、鼻腔上皮に滞留した。一方、ナノゲ化されていないPspAは経鼻投与後3時間以内に鼻腔内から消失された。その上、ナノゲルPspA経鼻投与において、脳及び嗅球へのPspAの沈着は6時間後でも認められなかった。これらの結果により、経鼻ナノゲルPspAワクチンはサルの系に於いても脳神経系への移行しないことが判明した。(2) 18F全粒子不活化インフルエンザワクチンの動態解析及びCVPの添加による影響の評価を実施した。PETを用いた動態解析は、ヒトに近縁の霊長類において、鼻腔内に存在するワクチンの経時的変化を観察できた。マウスと同様に、経時的にシグナルは減少するが、CVPの添加によりその減少は抑えられた。CVPの有無にかかわらず、鼻前庭でのシグナルは測定時間内において変化が見られなかった。
結論
サルの系を用いて、(1)脳神経系への肺炎球菌経鼻ワクチンの抗原PspAの輸送・沈着は観測されなかった。この結果は、経鼻PspAワクチンの効果と安全性をサルで確認し、ナノゲルPspAワクチンのヒトへの試験を期待できる結果であった。(2) 全粒子不活化インフルエンザワクチンの全身性の動態とヒトに近いサル頭部での動態の両方を検討できた。また、粘調剤CVPのワクチンへの添加が鼻腔内での貯留性の改善に寄与することを示した。本研究から得られた結果は、経鼻ワクチンにおいて懸念されている事項に対して、安全性を証明するものと示唆される。

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-

文献情報

文献番号
201407015B
報告書区分
総合
研究課題名
経鼻ワクチンの挙動と安全性評価技術の開発
課題番号
H24-創薬総合-一般-006
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
幸 義和(東京大学医科学研究所 感染・免疫部門炎症免疫学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 長谷川秀樹(国立感染症研究所 感染病理部 )
  • 奥野良信(財)阪大微生物病研究会 観音寺研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
経鼻ワクチンは上気道感染症病原体であるウイルス、細菌の防御免疫を誘導するもっとも有効な方法の一つであるが、スイスでの不活化インフルエンザワクチンとアジュバントである大腸菌易熱性毒素(LT)の同時経鼻投与で、一部の被験者に現れた顔面麻痺による中枢神経系への影響が問題になった。加えて、毒素系アジュバントの嗅覚神経系への影響、嗅球への沈着がマウスで知られており、経鼻ワクチンの開発にはワクチン効果のほかに、ヒトに近い霊長類での安全性評価の試験方法の確立が急務となっている。そこで 本研究では (1)経鼻ワクチンの嗅覚への影響及び嗅覚神経の大脳への情報伝達の影響を最近開発されたマウス嗅球での活動イメージング解析技術等を使って試験する同時に(2)PETイメージングによる吸収排泄分布代謝(ADME)を含む中枢神経移行試験を行い、経鼻ワクチンの安全性の基準・方法の確立を目指す。
研究方法
本課題では(1)経鼻ワクチンの嗅覚神経系への影響は匂い物質を嗅がせ嗅球を外科的に露出させ、赤色光を照射するとこれらのにおいの入力があって活性化された糸球は酸素の消費量が違うためカメラで違いを確認できることを利用する活動イメージング画像解析と、ミネラルオイル、チーズなどのにおいをマウスに嗅がせ、それらのにおいを嗅ぐ時間をカウントして測定することで嗅覚が正常かを評価するマウス嗅覚行動等により評価した。試験検体としては嗅球に移行することが知られているコレラ毒素CT及びコレラトキシンB鎖CTBを用いて実施した。(2)ナノゲル肺炎球菌経鼻ワクチンのサルでの免疫効果並びに肺炎球菌経鼻ワクチン及び不活化全粒子インフルエンザワクチンのワクチン蛋白部分のリジンアミノ基を18F標識することでワクチンPETによるマウス/サルを用いたリアルタイムイメージングによる体内動態の検討を行った。
結果と考察
(1)CT及びCTBは嗅球に移行するが、CTは嗅覚や活動イメージングに傷害を与える。ところがCTBは嗅覚や活動イメージングに傷害を与えない。さらにこの嗅覚や活動イメージングによる傷害にはCTのA鎖のADPリボース転位酵素により最終的にネクローシスが起こることにより傷害されることを検証した。(2)肺炎球菌経鼻ワクチンはサルでもワクチン特異的血清IgG及び粘膜IgA及びTh17 T細胞を誘導して肺炎球菌の防御免疫を誘導する。18F標識ワクチンPETを用いる実験でワクチン自身は鼻腔上皮に長時間滞留し、嗅球に移行しないことをマウス及びサルを用いて検証できた。また不活化全粒子インフルエンザワクチンは経鼻投与後に脳内に移行することはなく、数時間で体内に吸収され代謝されていることがマウス及びサルでの18F標識ワクチンPETを用いる実験で示唆された。
以上、これらの結果から、経鼻投与されたワクチン/アジュバントの脳内移行を含む体内動態と鼻腔上皮・嗅覚神経細胞に吸着したワクチンの嗅覚への影響並びに嗅覚神経の大脳への情報伝達の影響を評価できるシステムを開発した。
結論
次世代ワクチンであるナノゲル型経鼻肺炎球菌PspAワクチン及び不活化全粒子インフルエンザワクチンの効果と安全性を評価することを目標とし、(1)嗅上皮へのワクチン投与での神経細胞の影響を調べる技術を開発した。また(2)PETを用いてその動態を明らかにするためのナノゲル化18F-PspAまたは18F-PspA及び18Fインフルエンザワクチンのマウス及びサルでのPET解析を行いそのデリバリー効果、嗅球・脳等への移行有無を評価することで、経鼻ワクチンの安全性評価の解析ツールを開発した。

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
2015-05-27

行政効果報告

文献番号
201407015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
確立した嗅覚への影響と活動イメージング解析を用いて、コレラトキシン(CT)とそのB鎖(CTB)に加えて、無毒化来コレラトキシンを用いて、追試確認を行い、論文投稿(J. Immunology)を行った。サルでのナノゲル型PspAとPspA単独経鼻投与での比較実験を本年度さらに2例のサルを用いて、追試を行い、論文で発表した(Mucosal Immunol. 2015)。
臨床的観点からの成果
不活化全粒子インフルエンザワクチンの経鼻投与安全性を確立するデータを取得している。この結果は、文科省での橋渡し研究加速ネットワークプログラム シーズCで推進している治験準備データにも寄与した。
ガイドライン等の開発
経鼻ワクチンの安全性評価について、米国FDAでは2000年に我々がJ. Immunol.に発表した嗅球への移行試験が義務づけられている。今回は我々のPETによる嗅球移行試験はサルにでも適用できる試験であり、その改良版になる。また経鼻ワクチンの嗅覚への影響を調べる試験も経鼻ワクチンの安全性評価に重要な試験であると考えられる。
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
ナノゲル型PspA肺炎球菌経鼻ワクチンに関する成果が日本経済新聞で報道された(2015年4月14日)。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
27件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
7件
学会発表(国内学会)
44件
学会発表(国際学会等)
12件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
2件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

特許の名称
肺炎球菌経鼻ワクチン
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2014- 27205
発明者名: 幸 義和、清野 宏、澤田晋一、秋吉一成
権利者名: 東京大学・京都大学
出願年月日: 20140217
国内外の別: 日本
特許の名称
カチオン性ナノゲルを用いる粘膜ワクチン
詳細情報
分類:
特許番号: 5344558
発明者名: 幸 義和, 野地 智法, 秋吉一成, 清野 宏
権利者名: 東京医科歯科大学
出願年月日: 20081031
取得年月日: 20130823
国内外の別: 日本
特許の名称
Mucosal vaccine using cationic nanogel
詳細情報
分類:
特許番号: 8961983
発明者名: K. Akiyoshi, H. Kiyono, Y. Yuki, T. Nochi
権利者名: 東京医科歯科大学
出願年月日: 20140914
取得年月日: 20150224
国内外の別: 米国

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Y. Yuki, M. Mejima, S. Kurokawa,et.al
RNAi suppression of rice endogenous storage proteins enhances the production of rice-based Botulinum neutrotoxin type A vaccine.
Vaccine , 30 , 4160-4166  (2012)
10.1016/j.vaccine.2012.04.064
原著論文2
Sasaki I, Hoshino K, Sugiyama T, Yamazaki C,et.al.
Spi-B is critical for plasmacytoid dendritic cell function and development
Blood , 120 , 4733-4743  (2012)
doi: 10.1182/blood-2012-06-436527
原著論文3
S. Sato, S. Kaneto, N. Shibata, Y. Takahashi, H. Okura, Y. Yuki, et.al
Transcription factor Spi-B–dependent and –independentpathways for the development of Peyer’s patch M cells.
Mucosal Immunol , 6 , 838-846  (2013)
10.1038/mi.2012.122
原著論文4
IG. Kong, A. Sato, Y. Yuki,et .al.
Nanogel-based PspA intranasal vaccine prevents invasive disease and nasal colonization by Pneumococcus.
Infect. & Immun. , 81 , 1625-1634  (2013)
10.1128/IAI.00240-13
原著論文5
Y. Fukuyama, D. Tokuhara, S. Sekine, K. Aso et.al.
Potential roles of CCR5+CCR6+ dendric cells induced by nasal ovalbumin plus Flt3 ligand expressing adnovirus for mucosal IgA responses.
PloS One , 8  (2013)
10.1371/journal.pone.0060453
原著論文6
D. Tokuhara, B. Álvarez, M. Mejima, et.al. & Y.Yuki
Rice-based orally administered antibody fragment prophylaxis and therapy against rotavirus infection.
J. Clin. Invest. , 123 , 3829-3838  (2013)
10.1172/JCI70266
原著論文7
S. Kurokawa, R. Nakamura, M. Mejima, et.al. & Y.Yuki
MucoRice-cholera toxin B-subunit, a rice-based oral cholera vaccine, down-regulates the expression of α-amylase/trypsin inhibitor-like protein family as major rice allergens
J. Proteome Res. , 12 , 3372-3382  (2013)
doi: 10.1021/pr4002146
原著論文8
Senchi K, Matsunaga S, Hasegawa H, Kimura H et.al.
Development of oligomannose-coated liposome-based nasal vaccine against human parainfluenzavirus type 3.
Front Microbiol. , 4  (2013)
10.3389/fmicb.2013.00346
原著論文9
Ainai A, Tamura S, Suzuki Te.al. & H. Hasegawa
Intranasal vaccination with an inactivated whole influenza virusvaccine induces strong antibody responses in serum and nasal mucus of healthy adults
Hum Vaccin Immunothe , 9 , 1962-1970  (2013)
10.4161/hv.25458
原著論文10
Niikura K, Matsunaga T, Suzuki T, Kobayashi S et.al.
Gold nanoparticles as a vaccine platform: influence of size and shape on immunological responses in vitro and in vivo
ACS Nano , 7 , 3926-3938  (2013)
10.1021/nn3057005
原著論文11
Inoue, Y., Kubota-Koketsu, R., Yamashita et.al.
Induction of anti-influenza immunity by modified green fluorescent protein (GFP) carrying hemagglutinin-derived epitope structure
J Biol Chem , 288 , 4981-4990  (2013)
10.1074/jbc.M112.420547
原著論文12
Yasugi, M., Kubota-Koketsu, R., Yamashita et.al.
Human monoclonal antibodies broadly neutralizing against influenza B virus.
PloS Pathog , 9  (2013)
10.1371/journal.ppat.1003150
原著論文13
M. Abe, Y. Yuki, S. Kurokawa, M. Mejima et.al.
A rice-based soluble form of a murine TNF-specific ll ama variable domain of heavy-chain antibody suppresses collagen-induced arthr itis in mice
J. Biotechnol. , 175 , 45-52  (2014)
10.1016/j.jbiotec.2014.02.005
原著論文14
D. Tokuhara, T. Nochi, A. matsumura, M et.al. Y. Yuki
Specific Expression of Apolipoprotein A-IV in the Follicle-Associated Epithelium of the Small Intestine
Dig. Dis. Sci. , 59 , 2682-2692  (2014)
10.1007/s10620-014-3203-6
原著論文15
Sakai K, Ami Y, Tahara M, Kubota T,et.al.
The host protease TMPRSS2 plays a major role in in vivo replication of emerging H7N9 and seasonal influenza viruses
J Virol. , 88 , 5608-5616  (2014)
10.1128/JVI.03677-13
原著論文16
Ohshima, N., Kubota-Koketsu, R., Iba et.al.
Receptor mimicry by antibody F045-092 facilitates universal binding to H3 subtype of influenza virus
Nature Com , 5  (2014)
10.1038/ncomms4614
原著論文17
Haredy, AM., Yamada, H., Sakoda, Y., Okamatsu et.al.
Neuraminidase gene homology contributes to the protective activity of influenza vaccines prepared from the influenza virus library.
J Gen Virol , 95 , 2365-2371  (2014)
10.1099/vir.0.067488-0
原著論文18
Y. Fukuyama, Y. Yuki, Y. Katakai et.al.
Nanogel-based pneumococcal surface protein A nasal vaccine induces microRNA-associated Th17 cell responses with neutralizing antibodies against Streptococcus pneumoniae in macaques
Mucosal Immunol , 8 , 1144-1153  (2015)
10.1038/mi.2015.5
原著論文19
Y. Fukuyama, K. Okada, M. Yamaguchi, et.al.
Nasal administration of cholera toxin as a mucosal adjuvant damages the olfactory system in mice
Plos One , 10  (2015)
10.1371/journal.pone.0139368
原著論文20
S. Saito, A Ainai, T. Suzuki, et.al.
The effect of mucoadhesive excipient on the nasal retention time of and the antibody responses induced by an intranasal influenza vaccine
Vaccine , 34 , 1201-1207  (2016)
10.1016/j.vaccine.2016.01.020

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
2018-06-11

収支報告書

文献番号
201407015Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
24,000,000円
(2)補助金確定額
24,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 9,593,221円
人件費・謝金 6,462,442円
旅費 684,282円
その他 7,260,055円
間接経費 0円
合計 24,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2016-01-28
更新日
-