文献情報
文献番号
201406019A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト幹細胞の造腫瘍性における病態解明とその克服に関する研究
課題番号
H25-実用化(再生)-一般-008
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
早川 堯夫(近畿大学 薬学総合研究所)
研究分担者(所属機関)
- 佐藤 陽治(国立医薬品食品衛生研究所・再生・細胞医療製品部)
- 安田 智(国立医薬品食品衛生研究所・再生・細胞医療製品部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
48,104,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
造腫瘍性のリスク対策には、リスクの量的把握と質的把握が必要であるが、いずれも世界的に十分な検討がなされておらず、わが国がこれらの問題解決に必要な技術基盤を世界に先駆けて構築できれば、再生医療実用化における国際的な優位性を確保できると期待される。本研究では、主に造腫瘍性リスクの質的把握に関して、とくに、原材料としての各種ヒトiPS細胞及びES細胞の造腫瘍性に関する発生頻度、悪性度と機序、その検査方法の観点から検討し、対応策等の研究開発を行うこと、これらの結果をふまえてヒトiPS/ES細胞等に由来する再生医療製品の造腫瘍性に関する行政指針案の作成に資することを目的とする。
研究方法
上記目的のため、様々なヒト多能性幹細胞株を調製し、それらの特性解析を行い、重度免疫不全動物NOGマウスに投与し、腫瘍(奇形腫)形成をモニターすることにより、どのような特性指標を持つ細胞が腫瘍形成やその悪性度にどのような影響を及ぼすか検討する。本年度は主に、本研究課題の達成に必要な各種ヒトiPS細胞を調製し、NOGマウス投与実験に供する被検細胞の充実を行うこと、ならびにそれらの性状解析を行った。また、すでに取得済みの各種iPS細胞について、初期化遺伝子の存在(量)その他の細胞特性を解析するとともに、NOGマウスに移植して腫瘍を形成させ、その発生頻度の相互比較解析を行った。
結果と考察
健常ヒトからの脂肪由来間葉系幹細胞(ASC)を材料としたiPS細胞を複数株樹立することに成功し、これらのiPS細胞株が三胚葉系への分化誘導能を有し、肝細胞、心筋細胞、メラノサイト、ケラチノサイト、神経細胞(ドパミン産生細胞)へと高効率に分化誘導できることを確認した。別に、軽度の皮膚疾患由来ASCから樹立したiPS細胞株の一つでは肝細胞、心筋細胞、神経幹細胞へ分化誘導した際、LIN28遺伝子の発現が認められた。一方、メラノサイトやケラチノサイトへの分化誘導においては、LIN28遺伝子の発現が認められなかった。これらの結果は、原材料となる細胞が異なれば誘導されるiPS細胞やその分化に伴う細胞の造腫瘍性の悪性度あるいは分化抵抗性に影響する可能性を示唆するものであり、引き続き予定するin vivo造腫瘍性評価試験への被検細胞の充実や性状解析に資するものであった。次に、重度免疫不全マウスであるNOGマウスに種類および起源の異なる各種ヒトiPS細胞10株を移植し、腫瘍(結節)を形成させることで、その発生頻度やサイズの相互比較を行った。また、各移植細胞について、造腫瘍性リスクとの関連が示唆されている核型解析およびマイクロアレイによる網羅的な遺伝子発現データの取得などの特性解析を行った。その結果、3 x 104個の細胞移植時のNOGマウスにおけるヒトiPS細胞の腫瘍形成率は各細胞株間で大きく異なり(58 ± 30%)、生着にばらつきがあることが明らかになった。また移植したiPS細胞の10株中2 株に、多能性幹細胞に頻出する12番染色体のトリソミーが観察された。細胞株の網羅的な遺伝子発現プロファイルをもとに階層的クラスタリングを行った結果、作製方法と作製元による株間の類似性に加えて、核型異常を示した2株においても株間の類似性が認められた。これらのiPS細胞株のin vivoでの挙動の違いは、細胞増殖速度、細胞分化速度、細胞生存率、悪性度などが影響することが考えられるが、機構解明のためには形成した結節の病理学的および分子生物学的な解析を行っていく必要があると思われる。
結論
前年度までにヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞より、さらに形質が安定し、増殖・分化能力の高いHx-hASCの創製に成功した。今年度は、そのHx-hASC由来のヒトiPS細胞を樹立し、その細胞特性を解析した。その結果、Hx-hASC細胞を材料としたiPS細胞を複数株樹立することに成功した。これらiPS細胞株は三胚葉系への分化誘導能を持ち、肝細胞、心筋細胞、メラノサイト、ケラチノサイト、神経細胞(ドパミン産生細胞)へと高効率に分化誘導された。また、皮膚疾患由来iPS細胞株の一つでは肝細胞、心筋細胞、神経幹細胞へ分化誘導した際、多能性細胞が残存している可能性が示唆された。来年度はこれらの細胞のNOGマウスへの投与実験を行い、造腫瘍性リスクについて詳細な検討を行う予定である。一方、昨年度までに入手していた各種iPS細胞をNOGマウスに移植し、腫瘍形成率や腫瘍サイズの経時的なモニターを行った。各種iPS細胞の造腫瘍性におけるばらつきを把握するとともに、核型解析や網羅的遺伝子発現データ取得による細胞特性解析を行った。今後は病理学的な解析等により、形成腫瘍の悪性度の評価を行い、腫瘍の形成率や悪性度等に関係する細胞特性指標の探索を行う予定である。
公開日・更新日
公開日
2015-06-18
更新日
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