日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究

文献情報

文献番号
201405037A
報告書区分
総括
研究課題名
日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究
課題番号
H26-特別-指定-036
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
二宮 利治(九州大学大学院 医学研究院附属総合コホートセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 清原 裕(九州大学大学院医学研究院 環境医学)
  • 小原 知之(九州大学大学院医学研究院 精神病態医学)
  • 米本 孝二(久留米大学バイオ統計センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 【補助金】 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
12,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国は4人に1人が高齢者という超高齢社会をむかえ、急増する認知症高齢者が大きな医療・社会問題となっている。認知症施策の規模や有効的な資源活用などを検討する上で、今後さらに増え続ける認知症の患者数を正確に予測することは極めて重要である。
福岡県久山町では、1985年から65歳以上の高齢住民を対象に精度の高い認知症の疫学調査(久山町研究)が継続中である。本研究では、この研究で得られた経時的な認知症調査の成績を基に、わが国の年齢分布や危険因子の頻度の推移を考慮に入れた将来の認知症の患者数を推計した。
研究方法
福岡県久山町では、これまでに1985年、1992年、1998年、2005年、2012年の計5回、65歳以上の全住民を対象とした認知症調査を行った。各調査の受診率はそれぞれ95%(受診者887人)、97%(1,189人)、99%(1,437人)、92%(1,566人)、94%(1,904人)といずれも高かった。全ての調査でほぼ同一の2段階方式の調査法がとられ、第1 段階のスクリーニング調査では、神経心理テストを用いて認知機能を評価した。さらに認知症が疑われる者に対して2次調査を行い、病歴と神経・理学的所見により認知症の有無、重症度、病型を判定した。
久山町の認知症調査5集団の統合データを用いて、年齢、性、各危険因子(糖尿病、高血圧、肥満、現在・過去の喫煙習慣)の頻度と認知症有病率との関係を検討し、認知症有病率の推定モデルを作成した。モデルから算出された性・年齢階級別認知症有病率と将来のわが国の65歳以上の年齢分布(国立社会保障・人口問題研究所による推計値)や危険因子の頻度の推計値を基に、認知症および認知症各病型の有病率、患者数の将来推計を行った。
認知症の各病型別にみた有病率の推定には、2012年の久山町認知症調査時に得られた年齢階級別の各認知症病型の有病率を用いた。認知症の病型はアルツハイマー病、血管性認知症、その他の認知症の3群に分類した。
さらに、2012年の調査時に得られた認知症患者のADLレベル別および要介護認定のレベル別の頻度を用いて、要介護認定のレベル別およびADLレベル別にみた将来の認知症患者数を推計した。ADLレベルはバーセル指数により、正常~軽度(95-100点)、中等度(25-90点)、高度(0-20点)の3群に分類した。要介護認定のレベルは、非該当/申請なし、要支援/要介護1、要介護2-3、要介護4-5の4群に分類した。
結果と考察
久山町認知症調査の成績を用いて認知症有病率に関連する危険因子を検討したところ、年齢、女性、糖尿病の頻度と認知症有病率の間に有意な正の関連を認めた。そこで、この3変数を含む数学モデルを作成した。まず各年齢層の認知症有病率が2012年以降一定であると仮定して、将来の認知症患者数を推計した。その結果、認知症の推定患者数は2025年675万人、2040年 802万人、2060年 850万人であり、時代とともにその数は増加した。糖尿病の頻度が2012年から2060年までに20%上昇すると仮定した場合、将来の認知症患者数は、2025年 730万人、2040年 953万人、2060年 1154万人と推定された。認知症の病型別にみると、アルツハイマー病の患者数は、各年齢層の認知症有病率が一定であると仮定した場合は2025年466万人、上昇すると仮定した場合は504万人であった。さらに、その数は、2040年に約550-650万人、2060年に600-800万人となり、血管性認知症やその他の認知症の患者数に比べ顕著に増加することが示唆された。
ADLレベル別に検討すると、高度ADL障害を有する認知症患者数は、各年齢層の認知症有病率が一定であると仮定した場合は129万人、上昇すると仮定した場合は140万人であった。同様に、要介護認定レベル別にみると、要介護4-5の認知症患者数は、それぞれの仮定において92万人、99万人と推計された。これらの高度ADL障害を有する認知症患者や要介護4-5の認知症患者の数は、今後も増加すると予測された。
結論
久山町の認知症調査の成績を用いて将来の認知症患者の将来推計を行った結果、わが国の認知症患者数は2025年に約650-700万人、2040年に約800-950万人、2060年に約850-1150万人と、時代とともに増加することが予測された。病型別にみると、アルツハイマー病の増加が顕著であった。さらに、重度の介護を要する認知症患者の数は今後も増加することが示唆された。認知症の病態解明のための基礎および臨床研究をさらに推進していく必要があると同時に、より健全な超高齢社会を迎えるための効率的な介護行政の確立が急務であると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-05-13
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201405037C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では、久山町における経時的な認知症調査の成績を基に認知症患者の将来推計を行った。その結果、わが国の認知症患者数は2025年に約650-700万人、2040年に約800-950万人、2060年に約850-1150万人と時代と共に増加することが予測された。病型別にみると、アルツハイマー病の増加が顕著であった。さらに、糖尿病有病率の増加が認知症有病率の増加に関与することを示すなど、認知症の病態解明における学術的意義は大きいと考える。
臨床的観点からの成果
高度ADL障害をきたし重度の介護を要する認知症患者の数は今後も増加することが示唆された。より健全な超高齢社会を迎えるために、認知症対策と効率的な介護行政の確立が急務であると考えられる。さらに、急増する認知症を予防するためには、認知症の危険因子・防御因子を同定することが不可欠である。
ガイドライン等の開発
本研究の成果は、認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)(平成27年1月27日発表)の策定の際に活用された。
その他行政的観点からの成果
本研究で算出された将来の認知症患者数は、認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)の策定の際に活用された。このように、本研究の成果は、認知症施策の追加や見直しを含めた個々の施策を策定する上で極めて有用であり、わが国における「認知症高齢者等にやさしい地域」の構築に貢献し、将来の認知症対策と効率的な介護行政の確立に活用できると期待される。
その他のインパクト
本研究の成果は、西日本新聞や週刊文春、週刊ダイヤモンド、その他のマスコミ等でも紹介され、社会的な反響を呼び、認知症予防の必要性の啓発に寄与している。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
2019-05-23

収支報告書

文献番号
201405037Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
16,380,000円
(2)補助金確定額
16,380,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,403,721円
人件費・謝金 3,633,515円
旅費 561,720円
その他 6,001,044円
間接経費 3,780,000円
合計 16,380,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2016-04-05
更新日
-