日本の保健医療体制における震災対応及び復興スキームの技術移転に関する研究

文献情報

文献番号
201403012A
報告書区分
総括
研究課題名
日本の保健医療体制における震災対応及び復興スキームの技術移転に関する研究
課題番号
H25-地球規模-一般-003
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
小井土 雄一(独立行政法人国立病院機構災害医療センター 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 甲斐 達朗(大阪府済生会千里病院)
  • 中山 伸一(兵庫県災害医療センター)
  • 森野 一真(山形県立救命救急センター)
  • 久野 将宗(日本医科大学多摩永山病院)
  • 仲佐 保(独立行政法人国立国際医療研究センター)
  • 近藤 久禎(独立行政法人国立病院機構災害医療センター 臨床研究部)
  • 石井 正(東北大学)
  • 島田 二郎(福島県立医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 【補助金】 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進研究)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
1,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
世界の災害の被害は年々増加している。そして、その災害の80%はアジアで起きている事実がある。日本は災害多発国であるので、災害に対する経験、知見、技術等のノウハウの蓄積がある。国際協力を考える上で、日本の災害医療のノウハウを技術移転することは重要である。また、アジアにおけるリーダー国の一国としても、東アジアの災害に対して、いち早く対応することはもとより、これらのノウハウを平時に供与することはアジア全体の災害対応能力の向上に役立つ。本研究班の目的は阪神淡路大震災以降、創設されたDMATや30年の歴史を持つ国際緊急援助隊などの日本の災害医療のノウハウを技術移転することである。
研究方法
本研究班は、東日本大震災において急性期から亜急性期、復興期にわたって実際に医療、公衆衛生等の支援を行った実務者や国際緊急医療支援の豊富な経験を持つ実務者、更に被災地で現在も復興支援に取り組む実務者により構成される。本年度は、標準的な技術移転モデルを提示し、海外において研修や調査を行い、技術移転手法の精緻化するとともに、技術移転の過程で明らかになった課題を抽出した。
結果と考察
各分担研究班の概要を以下に示す。国際災害における世界の潮流を考慮したうえで、技術移転の研修プログラムを策定することが重要であると考える。ASEAN10カ国の中には、救急医療体制・災害医療体制がほぼ構築され、人材育成も行われている国として、ブルネイ・マレーシア・シンガポール・タイが挙げられる。これらの国に対して日本からの特別な技術移転は必要なく、むしろASEAN先進国としての救急医療制度・災害医療制度の構築時の貴重な経験を基に、日本とともに技術移転を行う国としての位置付けが望ましい。インドネシア・ミャンマー・フィリピン・ベトナムは、救急医療制度、救急搬送システムの構築過程にあり、日本の救急車搬送システム、救急車司令システム、救急隊・救命士の教育システムの技術移転が大いに役立つ。カンボジア・ラオスは、救急医療体制の構築が始まったばかりであり、人材育成が最も重要と考える。将来、国の救急医療の中心として活躍できる医師・看護師・パラメディック等を日本で教育するのも一つの方法である。日本は、阪神大震災以降、日本DMAT(災害派遣医療チーム)の育成・EMIS(広域災害救急医療情報システム)の構築・重症患者広域搬送システムの構築が行われ、これらの経験・知見は、地震多発国であるインドネシア・フィリピン・ミャンマーの災害医療体制の構築に役立つと考える。近い将来、ASEAN地域内で発生した災害に対して、ASEAN諸国が互いに医療支援体制を構築するようになると考える。その為には、域内での災害時対応の標準化、教育の標準化、災害用語の統一、災害時サーベイランスの統一等が必要である。日本は、それぞれ参考となる標準されたものがあり、ASEANバージョンを作成する場合、大いに役立つと思われる。ラオスにおいて、外傷に関する救急医療領域への必要性は高まっており、そのことは地方都市においても例外ではなく、多数傷病者発生事案への懸念は強い。また、ラオスにおける自然災害としては、雨季における洪水が主なものであり、地震や津波などの災害はこれまでほとんど報告されていない。そのため、公衆衛生対応に関しての知識は十分とはいえず、本年度ビエンチャンにて、災害公衆衛生研修を開催したことも有用であった。また、中国は災害対応の経験に富み、我が国の災害医療研修に関する技術の移転に関し、その技術の内容のさらなる検討が必要であり、移転すべき技術の限定や質の検討が求められる。原子力災害に関しては、福島原子力発電所事故における放射線障害の現状と対応の問題点を抽出し、必要な教育内容について検討を行い、放射線の基礎を伝える英語版スライドを作成し、学会発表を行った。なお、地震に伴う放射線障害は、海外の広域災害時にも起こりうるもので、技術移転のItemとなり得ると考えられる。
結論
以上のように、特に開発途上国等への日本の震災対応及び復興対応が貢献できると考えられた。これらの検討は、国内にもフィードバックされ、本邦における効果的な災害対応、震災からの復興体制を構築することにもつながり、被災地の復興に資するものと考えられる。実際の海外への災害医療の技術移転する際には、検証すべき事項がある。我が国の災害医療研修に関する技術の移転のためには、我が国で行われている災害医療研修の独自性を検証し、移転先が活用できる内容を移転すべきである。救急医療体制あるいは災害医療体制が十分に構築されていない途上国に対して、日本の救急医療・災害医療体制の構築に関する教育研修プログラムを提供することは、途上国に対し、非常に有意義であり、国際協力に貢献するものであると考える。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201403012Z