住民主導の集団移転におけるコミュニティの継承とソーシャル・キャピタルの再生・再構築

文献情報

文献番号
201403008A
報告書区分
総括
研究課題名
住民主導の集団移転におけるコミュニティの継承とソーシャル・キャピタルの再生・再構築
課題番号
H24-地球規模-一般-014
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
森 傑(北海道大学 大学院工学研究院建築都市空間デザイン部門)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 【補助金】 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
1,583,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究は、東日本大震災の被災地において住民主導により高台への集団移転の計画が進められている先進事例に注目し、そこで挑戦されている住民主体の復興まちづくりにおける関係者の合意形成・意志決定のプロセスと内容と方法、それがもたらすコミュニティの継承における効果と課題を、社会・経済・組織・建設等の複合的視点から理論的・事例的に検討することを目的とする。
研究方法
 平成24~26年度の3年間で、(A)住民主導による高台への集団移転の計画プロセスの評価、(B)集団移転計画にみる住民のコミュニティ意識の構造の解明、(C)ソーシャル・キャピタルの再生・再構築へ向けての復興支援方策の提言、の3課題に取り組む。
 平成26年度は、課題(A)住民主導による高台への集団移転の計画プロセスの評価へ向けて、宮城県気仙沼市の防災集団移転事業の先行5地区についての協議会活動の分析に注力した。具体的には、被災地域で具体的にどのような活動が行われてきたのかと、その結果としての集団移転の計画内容を明らかにするため、協議会活動プロセスと協議会活動内における主体関係の変遷について把握した。
 また、オーストラリア・クイーンズランド州ロッキヤーバレー地方における大規模洪水被害と集団移転について、学術的・政策的な観点から制度・システムの国際比較を行った。具体的には、グランサム地区における土地交換プログラム(voluntary land-swap)に注目し、その実施実態の分析を行った。
結果と考察
 気仙沼市先行5地区における協議会活動を分析した結果、そのプロセスのフェーズごとに要点が明らかとなった。
 平成23年度第3次補正予算成立時期と協議会設立時期に関して、市が防集事業の活用を決定する前から協議会活動をしていた事例と、通常想定される自治体が事業活用を決定した後に協議会活動を開始する事例があった。気仙沼市としては、協議会が先行して設立されたことによりスムーズに事業の活用に移ることができた。
 被災直後の主体関係に関して、先行5地区のいずれの地区でもアンケートや住民説明会などの意向調査を自主的に行っており、組織の有無によって協議の始動へ向けての活動とその内容には大きな差がない。
 外部支援者の有無に関して、専門知識の不足から外部支援者に頼ることが少なくないものの、それへ頼らずに活動を進めている事例もある。しかし、宅地計画にあたっては、協議会の意見を反映させコンサルタントと協議を行うためには、相当の専門知識が必要とされる。
 外部支援者の探索に関して、協議会としては可能であれば外部の力を借りずに活動を進めたい意向があるものの、専門知識の不足により被災者だけで協議や計画を進めることが困難となり、最終的にはボランティア団体等を通じて支援要請をしている。
 ロッキヤーバレー地方役場が最優先にしたのは早急な復旧・復興であり、そのために採用したのが任意型土地交換である。被災者は従前に所有していた土地の面積に応じて、新しい移転先の土地を得ることができる。宅地計画については、地域住民と連携すべく協議会を立ち上げ、ミーティングや住民ワークショップを開催し、被災者インタビューも実施しながら検討が重ねられた。
 グランサムの任意型土地交換プログラムは、移転の判断は被災者の自主的な判断に委ねられ、移転が強制されるものではない。被災者の居住の権利を最大限に尊重している手法である。ただし、元の場所で継続して居住する被災者も、その選択としての責任のもと、自宅をリフトアップするなどの対策を行っている。
結論
 気仙沼市内の先行5地区の協議会活動の詳細な分析により、防集事業における宅地計画を行う上で、①住民が自身の生活などからリアリティを持った上で協議を行い、計画策定主体に対して提案すること、②早期段階で専門分野は専門知識を持つ主体へ依頼し、住民側は要望を適切に伝えること、③専門家が計画提案をする場合は、専門家は早期段階で行政・コンサルタントに対して計画作成委託申請を行うこと、が要点であると指摘できる。
 ロッキヤーバレーの任意型土地交換は、移転への参加はあくまで任意であることから、地区として面的にまとまった公有地が確保されることにはならない。一方、防集事業は災害危険区域とセットで実施される。本来の防集事業は強制移転ではないが、実際には自発移転とはいいがたい。また、防集事業に参加しなくとも災害危険区域内の土地は建築制限を受ける。
 東日本大震災の被災地の多くは、被災前から既に人口減少が深刻であった。グランサムのような等価交換(所有)ではなく、土地は自治体所有のままで借地であることの方が、人口減少を前提とした場合に、自治体が主導的に縮退をマネジメントするためには有効な側面がある。

公開日・更新日

公開日
2015-05-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201403008B
報告書区分
総合
研究課題名
住民主導の集団移転におけるコミュニティの継承とソーシャル・キャピタルの再生・再構築
課題番号
H24-地球規模-一般-014
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
森 傑(北海道大学 大学院工学研究院建築都市空間デザイン部門)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 【補助金】 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究は、東日本大震災の被災地において住民主導により高台への集団移転の計画が進められている先進事例に注目し、そこで挑戦されている住民主体の復興まちづくりにおける関係者の合意形成・意志決定のプロセスと内容と方法、それがもたらすコミュニティの継承における効果と課題を、社会・経済・組織・建設等の複合的視点から理論的・事例的に検討することを目的とする。
研究方法
 平成24~26年度の3年間で、(A)住民主導による高台への集団移転の計画プロセスの評価、(B)集団移転計画にみる住民のコミュニティ意識の構造の解明、(C)ソーシャル・キャピタルの再生・再構築へ向けての復興支援方策の提言、の3課題に取り組んだ。研究代表者がコミュニティ・アーキテクトとして参画している、宮城県気仙沼市小泉地区(以下、小泉地区)の集団移転協議会による高台移転への取り組みに注目し、東日本大震災から4年が経過した小泉地区の住民の生活実態や復興へ向けての状況を把握するとともに、それらへの住民意識について調査・分析を行い、災害に対して復元力のあるコミュニティとソーシャル・キャピタルの再構築へ向けて考察した。
 小泉地区は、被災間もない2011年4月に「小泉地区の明日を考える会」を結成した。同年6月には「小泉地区集団移転協議会」を設立し、被災直後の避難所生活の中で100世帯を超える地区住民の意向を集約、移転先の土地の候補を決めた。協議会が主催するワークショップやフォーラムは30回以上を重ねた。住民主導による集団移転計画の成果はそのまま大臣同意を得て事業化され、2013年6月には造成工事の着工となった。2015年夏に二次造成が完了し、災害公営住宅への入居も始まる見通しである。
結果と考察
 小泉地区における2012年度および2014年度のアンケート調査・ヒアリング調査の分析結果から、被災4年を経た現状として、①集団移転に向けた継続的、着実な準備、②ワークショップでの社会的繋がり、相互扶助への手応えと、現在の生活から考慮されるそれらへの不安、③周囲をうかがいながらの慎重な自宅再建の検討、④集団移転計画だけではない住環境全般に対する不安、が明らかとなった。被災4年を経て状況はより複雑化するとともに、被災者の置かれた現状の問題は一層深刻化している。
 ①および②からは、被災後4年という状況を一連の被災経験で捉えることの重要性が指摘できる。現在も続く仮設住宅の住環境の質の向上や、それ以前の避難状況の格差による人間関係の亀裂といった事柄が、被災後4年を経た現状に大きな影響を及ぼしている。さらに追跡的な調査を行い、一連の被災経験の中でのそれぞれの出来事の作用や役割を明らかにしていく必要がある。
 ③からも震災特有の状態が現れている。住民は被災の程度、経済状況、家族の問題等、それぞれが抱える問題が個人個人の文脈で全く異なる中、集団移転の事業が進められている。現在の自宅再建という段階では、そのような個人差が顕著に現れる。被災前の元の暮らしをいち早く回復することが望まれるが、集団移転とは新しいまちをつくっていくことであり、コミュニティとしての一体性への熟慮が継続的に必要である。
 ④からは、復興事業全体を俯瞰することの重要性が指摘できる。2012年度の調査からも三陸縦貫道事業との調整が問題として明らかとなった。様々な事業が複層的・同時多発的に行われる復興事業において、被災者の住環境の回復を第一とし、復興事業全体を総合的・統括的に判断していくことが求められる。
結論
 小泉地区は、気仙沼市では第1期事業にあたる先行5地区の一つである。極めて順調なトップランナーと評されることもあるが、実際は幾度ものハードルと向き合ってきている。例えば、小泉に限った課題ではないが、集団移転への参加者が大臣同意を得た時点に比べ大きく減ったことである。集団移転希望者の減少と災害公営住宅希望者の増加に対応すべく、希望者が少なかった区画の一部を公営住宅用地とするなどの検討を行っていた。着工前に一度は宅地の割り当てが決まっていたにも関わらず、小泉の人々は再調整を厭わず、一つのコミュニティとしての再生を願い地道な協働を続けてきた。
 復興まちづくりにおいて合意形成が不全になる多くのケースは、複雑な利害関係が絡む場合である。ケースバイケースで、ファシリテーションという機能をどのように担保するのかを、当事者が自覚的に確認し共有しながら事業をマネジメントしていくことが必要である。小泉の事例だけで断言的に指摘はできないが、将来の災害に対するリスクを判断しなければならない当事者において、事業(組織、構造、システム)としてのファシリテーション機能への関心と自覚があるのかないのか、それが合意形成の質とレベルを大きく左右するものだと省察している。

公開日・更新日

公開日
2015-05-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201403008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
東日本大震災合同調査報告書(建築編10)への研究成果の掲載(予定/編集中)
臨床的観点からの成果
気仙沼市小泉地区の集団移転に関する復興まちづくりの継続支援
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
なし

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
石丸時大・森傑・野村理恵
復興整備計画からみる防災集団移転促進事業の空間的特徴 気仙沼市の協議会型集団移転に注目して
日本建築学会計画系論文集 , 80 (715)  (2015)

公開日・更新日

公開日
2015-06-18
更新日
2019-06-04

収支報告書

文献番号
201403008Z