厚生労働省縦断調査における因果効果推定と脱落による影響に関する研究

文献情報

文献番号
201402008A
報告書区分
総括
研究課題名
厚生労働省縦断調査における因果効果推定と脱落による影響に関する研究
課題番号
H26-統計-指定-004
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
星野 崇宏(慶應義塾大学 経済学部)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋 雄介(京都大学大学院教育学研究科)
  • 宮崎 慧(関西大学 商学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 【補助金】 政策科学総合研究(統計情報総合研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
3,680,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究の目的は我が国初の公的パネル調査である21世紀縦断調査における脱落による解析結果への影響の把握、ならびに脱落による解析結果のバイアスの補正を行うことである。
 厚生労働省による21世紀出生児縦断調査、21世紀成年者縦断調査、中高年者縦断調査は我が国初めての政府による大規模な縦断調査である。解析結果は保育政策や少子化対策、高齢者向け政策等の政策立案に非常に有用である。しかしこれらの調査では結婚や転職などに伴う一部調査対象者の脱落が生じており、脱落による解析結果への影響が懸念される。そこで本研究では脱落要因の特定、脱落によるバイアスの大きさの検証、さらに脱落によるバイアス補正のための方法の比較検証を行う。本研究における脱落有無を決定するモデルを利用した補正法を実際に適用することや、同時期に実施された調査を基準調査としてバイアスの大きさを推定することなどは国外でも行われておらず、本研究の独創的な点である。
研究方法
 調査対象者の脱落によるバイアスの影響度を調べるため、計10回の調査の間で脱落した回答者と最終回まで脱落しなかった回答者の初回調査における回答結果の比較を行った。また同時に各調査回において同時期に実施されたクロスセクショナルな外部調査データと当該調査の共通変数項目を探索し、共通項目について分布が等しいかどうかを検討した。加えて調査間で比較できるようにするために共通変数化を行い、検定や信頼区間の算出等を通して分布の違いが標本変動によるものかを確認した。
 パネル調査内での各回の脱落の状況を理解し、脱落有無を説明するモデルを作成するためのデータ整備を行った。脱落過程についてのモデリングについては、初回から各回にかけてそれぞれ連続回答者と脱落者がどのような要因について生じているかについての解析を実施し、脱落有無を複数の説明変数で説明するモデルを構築した。また初回調査での項目の分布が「回答群」「脱落群」で合うように、統計的に補正を行った。また各回での外部調査データとの分布比較から特に共通変数として利用しやすくかつ脱落後のパネル調査のバイアスを説明するような調査項目を探索した。加えて成年者縦断調査の一部項目について脱落の補正を実施し、次年度の本格的研究への課題を明確にする取り組みを行った。また成年者縦断調査の一部項目について脱落の補正を実施し、次年度の本格的研究への課題を明確にした。
結果と考察
 脱落によるバイアスの程度については一定程度存在することが分かった。本来脱落のメカニズムは複雑になるが、今回の結果からは脱落する人は基本的に社会経済的地位が低い人が多いことがわかった。これについては調査初回で得た情報を利用し、適切な方法で補正できる可能性がある。しかし調査に対するそもそもの非協力態度があり、事前の設計として協力へのインセンティブ付けの方略を考える必要があるだろう。
 また完全に同じ調査項目ではなく選択肢の統合などが必要であることから、選択肢を統合した変数間での一定の比較とならざるを得なかった。バイアスの補正の可能性については、バイアス補正に利用する変数に関連する項目については補正効果が見られたが、一般化するほどの知見は得られていない。
 理論上は脱落の補正は縦断的あるいは横断的の2つの方法で可能であるが、実際には共通変数化が可能なのは国民生活基礎調査のみであり、また項目の構造の違いが交絡することが脱落単独のバイアスとその補正を困難にしていることが分かった。補正については、ベンチマークとなる変数が限定的であるため研究ベースであり、一般化することは現状では困難である。
 ここまでの研究から、利用可能な外部調査について変数レベルでの同一性がすでにそれほど存在しないこと、枝分かれや選択肢合併の問題、設問位置や枝分かれ、選択肢の回答内容への効果の測定の問題が明らかとなった。
結論
 初年度である現時点での結論としては、まず縦断調査の脱落の集計への影響は一定程度存在することが明らかとなった。また理論上は脱落の補正は縦断もしくは横断の2つの方法で可能である。次に、実際に共通変数化が可能なのは国民生活基礎調査ということが分かった。
 脱落の補正についてのモデリングでは外部調査との共通変数項目が非常に少ないことから、年齢や居住地域等非常に基礎的な属性変数のみを用いる場合と、すべての共通項目を用いる場合の2パターンで脱落補正を行う程度しか可能ではなかった。
 また脱落のモデリングについては、成年者・中高年の補正についてはベンチマークとなる変数が限定的であるため、いまだ研究ベースである。傾向スコア補正、外部調査との共通変数化による補正のいずれも研究ベースでは試行することは可能であるが、公的統計としての国の公表は現時点では困難である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201402008Z