乳幼児身体発育基準のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
199800317A
報告書区分
総括
研究課題名
乳幼児身体発育基準のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 則子(国立公衆衛生院母子保健学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
2,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)平成12年(西暦2000年)に行われる厚生省乳幼児身体発育調査並びに発育基準作成が円滑に運ばれるためには準備が必要である。本研究事業により、乳幼児の発育値の意義、発育基準の活用状況、発育値作成上の問題点と改善方法、2000年調査を行うにあたって起こりうる問題点等について議論を行い把握しておく。
2)前回(平成2年)調査結果から発育基準を導くにあたっては、月齢ごとに求めたパーセンタイル値から平滑化曲線を求めた。しかし、偶然変動が大きく、ともするとスプライン関数が偶然変動を拾いがちであり、また、得られた各々のパーセンタイル曲線の間隔が不揃いになるなどの技術的な問題が多かった。最近新しい平滑化の方法が開発されたため、これを試用することにより、前回調査の時の平滑化に関する問題がどの程度解決するかを検証することを目的とした。
3)基本的母子保健事業が市町村に移管されたことにより、2000年の厚生省乳幼児身体発育調査も市町村の協力を求めて行われることになる。このため、調査結果は市町村における乳幼児健診の現状の影響を大きく受けるものと考える。発育値作成のために得られるであろうデータの精度を知るため、市町村における乳幼児健診の実施体制や、健診の場で身体計測が実際どのように行われているか等をを明らかにする。
研究方法
1)保育施設での発育値の活用に関しては、乳児保育研修会に参加した保母から聞き取った。発育値の意義、発育値作成上の問題点及び改善点、2000年調査を実施するにあたっての問題点等については研究会を行って議論した。
2)平滑化の試行に関しては、厚生省心身障害研究で収集した出生より14カ月までの縦断的乳児身体計測データから、系統抽出法によって、厚生省の発育調査とほぼ同数になるようにデータを抽出した。今回求める方法はTibshiraniのAVASプロシージャによる方法で、よりシンプルであるが満足できる方法である。これは、一般性を失わないように平均を表す関数を求める部分と、分散を安定化させる変換の部分からなる。
3)市町村乳幼児健診の実態調査に関しては、市町村の規模別に層化して、系統抽出法により対象市町村を設定した。市町村規模分類としては、もっとも汎用されている方法の一つを用いた。調査対象となった市町村数は、人口10万以上100,人口5万以上10万未満100,人口2万以上5万未満200、人口8千以上2万未満200、人口8千未満200である。無記名自記式調査票法を用い、郵送により送付回収した。
結果と考察
1)乳幼児身体発育値の意義を考えるとそれは、母子保健の課題を探る大きな要素となることが明らかになった。保育施設においては、乳幼児における発育評価の意義の理解が必ずしも十分とはいえない。発育状態に応じた保育の実践の必要性が理解されているとはいえず、経時的評価の実施は必ずしも多くの施設では行われていないことが分かった。基準値のよりよい求め方としては、分布値を求める日齢幅を短くして求めたり、計測値を平行移動させた値から求めたり、出生体重別の基準値を作成するなどの方法が提案された。
2000年調査を行うにあたっての問題点としては、サンプルサイズの問題、基本的母子保健事業の市町村移譲に伴う健診体制の変化、集計・平滑化について、幼児健康度調査の主体について、計測項目の必要性の確認、出生体重の減少、母子健康手帳のグラフの表示について、肥満児の増加、発育基準の表し方として言われていること等が挙げられた。
発育基準を作成してくにあたっては、近年栄養と運動のバランスがうまくとれなくなったことにより肥満傾向時が増加していること、また逆に近年のやせ願望の社会的風潮によりやせ傾向児も増加していること等にも留意が必要であることが分かった。
2)試用した平滑化ソフトは、厚生省乳幼児身体発育値作成のための平滑化に適切なものであると判断された。本研究のパイロットデータにおいては、生後7日から30日までの間は、ほとんどデータがない。そのためスムーザーがかからず、ほとんどリニアな平滑化曲線を得ている。適当なたわみを持つ平滑化曲線を得るには、できたら生後7日以降30日まで、日齢毎にある程度密度を持ったデータがあったほうがよい。幼児期まで含めての検討が次年度の課題である。
3)市町村乳幼児健診の実態調査からは、健診にかかわる人員の状況は、地域の実情を反映していることが分かった。規模の小さいところでは、人員に恵まれず、保健婦の負担が大きい。計測・問診等の人員の状況においてこれが現われている。規模の小さいところでは、計測に事務職や母子保健推進員も借りだされている。計測等に関する講習会についても、小規模の場合より条件に恵まれない。小児科医の確保も小規模の場合より困難であることが伺われる。
幼児の生活に関する調査等の追加の問診については、規模の大きいところの方がやりにくい状況であることが分かった。計測手技については、前回の発育調査の手引きと異なる方法を取っているところがかなり多いことが分かった。乳児身長計測における足の押さえ方は、6割が片足を台板に付けるという調査の手引きとは異なる方法を採っているという実態が浮かび上がった。また、1歳6ヵ月児の身長計測は、一回の受診数が多くスピードを要求される大規模の場合にむしろ時間がかかると思われる仰臥位で計測していることがわかった。また、頭囲に関しては、小規模な場合の方がマニュアルどおりの眉間頭囲にしていることが分かった。このように、マニュアルとの合致性は市町村規模別にとくに一定の傾向がないことが明らかになった。
結論
乳幼児身体発育値の意義を追求することは、母子保健の課題を探る大きな要素であることが明らかになった。保育関係者の研修会に出席した保母に対して調査を行ったところ、発育状態に応じた保育の実践との関連性を十分に理解していないことがわかり、実践と理論との格差が認められた。発育値利用上の留意点を明らかにし、データのまとめ方の観点と、個別の発育対応の観点から、いくつかの提案を行った。また、近年肥満傾向児ややせ傾向児が増加していることに留意が必要であることが分かった。新しい平滑化のソフトにつき、厚生省調査とほぼ同様の規模のデータが得られたとする場合のシュミレーションを行い、良い結果が得られ、これは2000年の発育調査に基づいた乳幼児身体発育基準作成に応用できるものであると判断された。さらに、市町村における乳幼児健診の場での身体計測の実態調査を行ったところ、健診にかかわる人員の状況は、地域の実情を反映していた。計測手技については、前回の発育調査の手引きと異なる方法を取っているところがかなり多いことが分かった。これは、2000年の乳幼児身体発育調査の企画、立案、手引作成に役立つ情報であることが分かった。

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