疾患由来iPS細胞を利用した難治性疾患の創薬研究

文献情報

文献番号
201335024A
報告書区分
総括
研究課題名
疾患由来iPS細胞を利用した難治性疾患の創薬研究
課題番号
H25-実用化(再生)-指定-024
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
門脇 孝(東京大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 齊藤 延人 (東京大学医学部附属病院 )
  • 高戸 毅(東京大学医学部附属病院 )
  • 黒川 峰夫(東京大学医学部附属病院 )
  • 小野 稔(東京大学医学部附属病院 )
  • 瀧本 禎之(東京大学医学部附属病院 )
  • 森田 啓行(東京大学医学部附属病院 )
  • 山内 敏正(東京大学医学部附属病院 )
  • 星 和人(東京大学医学部附属病院 )
  • 今井 浩三(東京大学医科学研究所)
  • 大津 真(東京大学医科学研究所)
  • 長村 登紀子(井上 登紀子) (東京大学医科学研究所)
  • 東條 有伸(東京大学医科学研究所)
  • 渡辺 すみ子(東京大学医科学研究所)
  • 宮島 篤(東京大学分子細胞生物学研究所 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(再生医療関係研究分野)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
38,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
iPS細胞はさまざまな疾患の原因解明、特に、適切な動物モデルがなく患者数が非常に少ないために臨床研究を進めにくい希少難病疾患の病態解明や新規治療法の開発に役立つ可能性がある。そこで本研究は患者から非侵襲的に大量の罹患組織を採取することが困難な難病疾患等について、iPS細胞を経て分化細胞やがん幹細胞を大量に得られるメリットを活かして病態研究や治療開発を行うことを目的とする。
研究方法
iPS細胞化技術の最適化によって効率的に疾患由来iPS細胞を樹立する取り組みを進め、ゲノムへの外来遺伝子の組み込みがなく形質転換などのリスクが最小限に抑えられた疾患由来iPS細胞の樹立技術を確立する。さらに樹立したiPS細胞から各疾患組織細胞への分化系を確立し、各組織における幹細胞分画の性質を確認した上で病態解析・創薬研究に用いる。さらに、多能性幹細胞としての品質評価法、創薬研究に向けたフィーダーフリー培養系の整備を行う。ヒト、マウスiPS細胞に特異的なmiRNA発現パターンを把握する。また、ゲノム倫理審査の承認を受け、拠点全体で倫理面等の不備なく共同研究が推進できるよう基盤整備を行う。
結果と考察
血液領域では、iPS細胞化技術の最適化によって効率的に造血器疾患由来iPS細胞を樹立する取り組みを進めた。また、多能性幹細胞としての品質評価法、創薬研究に向けたフィーダーフリー培養系の整備を行った。これらの技術を用いてt(8;9)転座型白血病患者の血液腫瘍細胞からiPS細胞を樹立した。このiPS細胞から血液細胞を分化誘導すると、マクロファージの異常増殖が認められた。imatinibはマクロファージ増殖を抑制できなかったが、ponatinibなどのtyrosine kinase inhibitorは有意にマクロファージ増殖を抑制できた。また、医科学研究所ステムセルバンクと共同研究を行い、骨髄異形成症候群患者細胞由来のiPS細胞株の樹立に成功した。脳神経領域では4人の患者検体より脳腫瘍幹細胞株の樹立に成功した。続いて、樹立された細胞株が、脳腫瘍幹細胞の特性を持っているかを確認した。幹細胞培地にてsphereを形成すること、無限増殖能を持つことを確認した。さらにこれらの細胞株の腫瘍原性、多分化能を確認した。腫瘍幹細胞では各種幹細胞マーカーの発現が上昇していることを確認した。心臓領域ではヒト皮膚線維芽細胞由来のiPS細胞を心筋に分化誘導させた。このiPS細胞由来心筋細胞から細胞シートを作製した。細胞シートをヌードラット皮下で積層化して3次元構造を有するヒト心筋組織の再構築を試みた。さらにこの組織を吻合可能な栄養動静脈とともに摘出し、血管吻合による別個体への移植にも成功した。iPS細胞樹立の対象として適切な症例を選ぶため、遺伝性循環器疾患患者の遺伝子変異スクリーニングを行った。代謝領域における疾患特異的iPS細胞作製に関して、遺伝的な異常が想定され候補ゲノム異常が同定された脂質異常症患者、後天性の脂肪織炎を伴う脂肪萎縮性糖尿病患者、MODYの罹患患者を対象として絞り込んだ。またオミクス解析を駆使した病態研究や創薬研究の標的同定のための基盤技術としてChIP-seqおよびFAIRE-seqの解析の系を確立した。また、代謝の中心である肝臓、脂肪、膵β細胞をヒトiPS細胞から分化誘導し創薬研究に利用可能な系を開発することを試みた。軟骨無形成症の原因はFGFR3の恒常的発現であることが判明しているため、FGFR3の恒常的発発現変異を有するヒトiPS細胞を、gene editing技術で作製した。FGFR3の下流シグナルである、p38、ERK、STAT及び、それぞれのリン酸化タンパクの発現量を同様に比較検討した。臍帯血と臍帯の採取・調製・凍結保管・提供システムを構築し検体を得た。研究倫理・臨床倫理上の検討において、iPS細胞を利用した医学研究に対する市民の意識を調査した。その結果、iPS細胞を利用した医学研究に関して、市民はとりわけ難病のための治療薬の開発に期待を寄せていることが明らかとなった。また、当事者は特に、iPS細胞を利用した医学研究への期待が高いことが明らかとなった。これらの結果から、iPS細胞およびiPS細胞から各対象組織に分化させた細胞は疾患の病態解析や幹細胞研究、創薬開発に向けた強力なツールとなるものと考えられた。
結論
本研究によって様々な難治性疾患の病態解明や治療法の開発が期待され、さらに難治性疾患をモデルとした一般的な慢性疾患の治療法開発にもつながる可能性がある。高品質な疾患特異的iPS細胞をバンク化し配布可能とすることで、民間企業をも巻き込んだ創薬研究の発展が期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-03-11
更新日
-

収支報告書

文献番号
201335024Z