精神・神経疾患特異的iPS細胞を用いた創薬研究

文献情報

文献番号
201335021A
報告書区分
総括
研究課題名
精神・神経疾患特異的iPS細胞を用いた創薬研究
課題番号
H25-実用化(再生)-指定-021
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
岡野 栄之(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 佐谷 秀行(慶應義塾大学 医学部)
  • 小崎 健次郎(慶應義塾大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(再生医療関係研究分野)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
42,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究の目的は、神経疾患特異的iPS細胞を用いて慢性的・持続的で、長期にわたって生活に支障を来たす中枢神経疾患の発症機序を解明し、発症機序に基づく効率的な創薬システムの構築を通して創薬シーズを同定し、効果的な治療法の確立を目指すことである。
研究方法
1. 疾患特異的iPS細胞の樹立
 患者末梢血や皮膚から体細胞を分離し、エピゾーマルベクター等を用いて初期化因子の遺伝子を導入することでiPS細胞を樹立する。平均60個程度のiPS細胞コロニーをピックアップし、樹立に用いたベクターの残存、神経系細胞への分化能や必要に応じて点突然変異などを確認等を確認し、創薬スクリーニングに使用できるiPS細胞株を選定する。

2. 分化誘導システムと表現型の定量的アッセイシステムの開発
 1.分化誘導
 胚様体を介した神経幹細胞への分化誘導、あるいは、低分子化合物を組み合わせた神経幹細胞への分化誘導を行う。さらに、誘導した神経幹細胞からニューロンの作製は、適切な時期に増殖因子や低分子化合物などを添加することで、目的とするニューロンへの分化誘導を行う。

2.表現型の定量的アッセイ
 疾患特異的iPS細胞から分化誘導した神経細胞などを、フラックスアナライザー、in cell analyzer、CE-MSなどを用いて表現型解析を行い、健常者由来の細胞と比較検討を行う。

3. 薬剤スクリーニング
 マルチウェルプレート上で疾患特異的iPS細胞から神経系細胞への分化誘導を行い、蛍光レポーターなどを用いて細胞の可視化や細胞内の状態変化をIn cell Analyzerなどを用いて検出する実験系を構築し、化合物スクリーニングを行う。
結果と考察
(1)疾患特異的iPS細胞の樹立
 22番染色体(22q11.2)を欠失した統合失調症患者から作製したiPS細胞を用いた解析から、患者由来のiPS細胞から分化誘導した神経細胞において、LINE-1配列が増加していることを見出した。この結果は、今後、統合失調症の治療法、診断法や発症予防法の開発に寄与するものと期待できる。現在、別の統合失調症患者や双極性障害患者からiPS細胞の樹立を進めている。

 さらに、患者由来の細胞株(親株)とその親株由来で増殖能を獲得した細胞株(亜株)のゲノムDNAにおける点突然変異を検出し、得られた結果の比較検討を行うことによって遺伝子解析システムの構築を行った。これにより、点突然変異を指標としたiPS細胞の品質管理が可能となった。

(2)創薬スクリーニングを目指した分化誘導システムと表現型の定量的アッセイシステムの開発
 筋萎縮性側索硬化症患者から樹立したiPS細胞と健常者由来iPS細胞から分化誘導した神経細胞をグルタミン酸処理し、細胞死を切断型Caspase-3染色により検討した。その結果、健常者iPS細胞由来神経細胞に比較して患者由iPS細胞来神経細胞において、細胞死が2倍程度増加することを見出した。
 また、同様の刺激により、健常者由来神経細胞と比較して患者由来神経細胞において神経突起長の有意な萎縮を認めた。
 以上の結果から、我々の運動ニューロンへの分化誘導システムは、筋萎縮性側索硬化症を含む運動ニューロン病の病態解析やそれに続く創薬スクリーニングに利用できるものと考えられた。

 パーキンソン病患者と健常者由来iPS細胞を栄養因子と低分子化合物との組み合わせで処理することでドーパミンニューロンへの分化誘導を行いメタボローム解析を行ったところ、患者iPS細胞由来神経細胞において、いくつかの代謝経路が亢進していることを見出した。亢進している代謝経路を標的とした創薬研究への発展が期待される。

(3)創薬スクリーニング
 多検体での薬剤スクリーニングを可能とするために、ヒトiPS細胞を96ウェルプレートで神経系細胞へ分化誘導できる実験系を確立した。
 また、蛍光標識抗体などを用いて細胞性状をハイスループットで検出する実験系をIn cell Analyzerを用いて確立した。
 さらに、双腕ロボットを用いて薬剤スクリーニングを実施するための実験プロトコールの作成、ロボットの動作確認を行い、概ね問題なく稼働することを確認した。
 以上の基盤技術を組み合わせることによって、ロボットを活用した再現性の高い薬剤スクリーニングが可能になることが期待される。
結論
 疾患特異的iPS細胞の樹立、神経系細胞への分化誘導と病態解析、多検体を処理できる実験系などが整いつつあり、これらが有機的に結びつくことで新しい治療法の確立や創薬シーズの同定につながるものと期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-03-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-01-28
更新日
-

収支報告書

文献番号
201335021Z