iPS細胞を活用した血液・免疫系難病に対する革新的治療薬の開発

文献情報

文献番号
201335018A
報告書区分
総括
研究課題名
iPS細胞を活用した血液・免疫系難病に対する革新的治療薬の開発
課題番号
H25-実用化(再生)-指定-018
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
谷 憲三朗(九州大学 生体防御医学研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(再生医療関係研究分野)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
37,120,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は研究期間内(平成26年度から平成29年度)に、倫理委員会承認取得後各種難病患者iPS細胞樹立を開始し、それらを対象に、文部科学省・最先端研究基盤事業「化合物ライブラリーを活用した創薬等最先端研究・教育基盤の整備」等を活用し、各疾患治療薬候補物質を選定する。具体的には① 細胞分化障害又は細胞死が誘導されやすいことが病態である遺伝性および後天性血液・免疫疾患を対象とした創薬研究を実施する。② X染色体不活化異常によるX連鎖性無ガンマグロブリン血症、Wiskott-Aldrich症候群女性患者を同定し、iPS細胞を用いてX染色体不活化を定量し、不活化を解除されたiPS細胞の治療への応用、X染色体不活化異常のメカニズムの解明に向け網羅的解析を行い、X染色体不活化解除薬剤を選定する。これらは現在の最先端医学を駆使した研究内容であり、極めて独創性と社会への貢献度の高い研究である。
研究方法
谷らは九州大学医系地区部局ヒトゲノム遺伝子解析研究倫理委員会の承認後、臍帯血由来骨髄細胞、健常人由来繊維芽細胞および活性化T細胞よりセンダイウイルス、および新規ウイルスベクターを用いてiPS細胞の樹立を行った。また5つの異種成分不含培養液、および4つの基質を用いたiPS細胞の培養法を検討するとともに、AGMS-3細胞(京都大学、中畑龍俊教授より供与)との共培養法にて血球系分化誘導の検討を行った。同時に九州大学小児科にて採血したX連鎖性無ガンマグロブリン症候群(XLA)患者末梢血単核球よりiPS細胞の樹立を行った。
原らはX染色体不活化異常によって発症した、XLA患者およびWAS患者、および健常女性より樹立されたiPS細胞を用いて、X染色体不活化の評価を行った。
菅野らは、免疫学的機序による先天性溶血性貧血が否定されたタイ人8症例について、赤血球寿命短縮の原因を解析した。
杉山らは質量分析装置を応用して、赤血球系細胞の酸素運搬を司るグロビンタンパク質を解析する技術を開発した。
花岡らは5名のPNH患者の情報を収集し、フローサイトメトリー法で評価した。

結果と考察
谷らはSeVおよび新規ウイルスベクターを用いて臍帯血由来単核球細胞および末梢血由来活性化T細胞よりiPS細胞の樹立に成功した。樹立したiPS細胞は血球系へと分化誘導を行うとCD34、CD45両陽性細胞の出現を確認できた。今後我々が確立したフィーダーフリー、異種成分不含の条件での培養法と樹立法に関する標準手順書を作成しCPCでのiPS細胞の樹立、および培養を行う予定である。
原らはXLA患者由来iPS細胞を長期培養した結果、X染色体不活化の解除は認められなかった。他方、女性XLA患者および女性WAS患者末梢血の解析を継続中である。
菅野らは原因不明の先天性溶血性貧血症例についてその病因を検討した結果、8例に赤血球特異的な転写因子である、KLF1遺伝子の変異を同定した。KLF1 遺伝子変異は胎芽~胎児型グロビンの出現およびβグロビン発現低下、赤血球型PK活性の低下という二つの遺伝子異常による赤血球寿命の短縮を来たし、重症先天性溶血性貧血を惹起することが明らかになった。
 杉山らはサラセミアの高感度での解析に必要となるグロブリンを認識するペプチドをデザインすると共に、有望なペプチドのスクリーニングを行い、ペプチドの最終候補を11個選出した。今後本法を応用し、ヒトiPS細胞から分化誘導した赤血球系細胞の品質を解析する基盤技術の開発が見込める。
 花岡らはPNH患者情報の収集とその解析を行った。今後さらに年齢、性別、免疫抑制剤使用の有無などiPS細胞作成に最適な条件を探る必要がある。
結論
平成25年度はiPS細胞の樹立法を確立し、作成したヒトiPS細胞樹立手順書を作成した。今後新たな患者由来iPS細胞の樹立を進めていく予定である。iPS細胞樹立後、血液細胞への分化誘導を行い、薬剤スクリーニングを行っていく計画である。
 XLA患者iPS細胞では、X染色体不活化異常が確認され、長期的な培養でも不活化の解除は起こらなかった。これまで原因となる遺伝子変異は同定できていないが、今後とも解析を進める。
 先天性溶血性貧血の新たな一病型として、新たにKLF1異常症を同定することができ、今後iPS細胞を用いた病態解明および創薬の対象疾患として重要と考えられた。
サラセミア研究においては先ず患者サンプルの円滑な輸送体制を確立し、iPS細胞を樹立、質量分析装置を応用することで、創薬開発研究の加速化を図る予定である。
iPS細胞樹立によるPNH造血障害モデル作成には、造血障害を有し免疫機序の関与が示唆されるAA-PNH1またはAA-PNH2が良い候補患者であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-03-11
更新日
-

収支報告書

文献番号
201335018Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
48,256,000円
(2)補助金確定額
48,256,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 31,142,630円
人件費・謝金 2,889,145円
旅費 1,749,010円
その他 1,339,215円
間接経費 11,136,000円
合計 48,256,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-06-17
更新日
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