iPS細胞等の安定供給と臨床利用のための基盤整備

文献情報

文献番号
201335010A
報告書区分
総括
研究課題名
iPS細胞等の安定供給と臨床利用のための基盤整備
課題番号
H25-実用化(再生)-指定-010
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
西田 幸二(大阪大学 大学院医学系研究科 脳神経感覚器外科学(眼科学))
研究分担者(所属機関)
  • 澤 芳樹(大阪大学 大学院医学系研究科 心臓血管外科学)
  • 吉川 秀樹(大阪大学 大学院医学系研究科 器官制御外科学)
  • 森 正樹(大阪大学 大学院医学系研究科 消化器外科学)
  • 大薗 惠一(大阪大学 大学院医学系研究科 情報統合医学小児科学)
  • 吉峰 俊樹(大阪大学 大学院医学系研究科 脳神経外科学)
  • 玉井 克人(大阪大学 大学院医学系研究科 再生誘導医学)
  • 齋藤 充弘(大阪大学 大学院医学系研究科 未来医療開発部再生医療組織工学)
  • 高島 成二(大阪大学 大学院医学系研究科 生化学分子生物学医化学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(再生医療関係研究分野)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針において、移植を受ける被験者等が感染症を発症した場合等の原因究明のために、採取したヒト幹細胞又はヒト分化細胞の一部等の適当な試料について、適切な期間保存しなければならないと定められている。そこで本研究ではコンピュータ管理の液体窒素保管庫を専任のオペレータとともに大阪大学に設置して、全国から再生医療に使用した体性幹細胞ならびにiPS細胞を受け入れ、厳密に管理することとする。本研究により再生医療の品質管理や追跡に関する体制が整備できれば今後の再生医療の発展に大きく寄与するものと考えられる。
研究方法
1.体性幹細胞ならびにiPS細胞等の細胞凍結保存装置細胞ストックルームの整備
体性幹細胞ならびにiPS細胞等貯蔵をおこなうために、平成24年度に当機関内に電子錠を備えた専用のストックルームの設置、コンピュータと連動した自動入出庫管理システムを実現する細胞凍結保管庫(クライオライブラリ)の設置および、既存の液体窒素タンクとの配管整備を行い、クライオライブラリに液体窒素が自動注入される環境を構築した。また作業者の安全確保のための環境整備を行った。
2.細胞保存のためのセキュリティシステムの整備
細胞保管と取り出しに関しては、ハードおよびソフト両面で確実性の向上を目指す。具体的には平成25年度下半期に2人のオペレータを本研究の専従研究員として配し、保管庫のオペレーションと細胞管理および細胞付帯情報管理ソフト運用の際の最適化を徹底的に図る。
3.細胞運搬における安全でセキュリティの高いシステムの構築
全国の体性幹細胞ならびにiPS細胞の保管が本研究の目的であるが、確実な運搬システムの構築は確実な保管システムの構築とともに本研究達成のための重要な要素である。運搬には液体窒素を吸収する担体が保管容器内部に仕込まれているドライシッパーと呼ばれる専用の液体窒素保管容器を用いる。また細胞の由来元の個人情報の漏洩防止策として、細胞保存チューブにはバーコードシールを貼り、バーコード情報と個人をリンクする対応表は鍵のかかる保管庫で保管することとする。
4.体性幹細胞を用いた臨床研究の推進ならびにiPS細胞からの誘導法の確立や最適化
臨床研究で用いる体性幹細胞ならびにiPS細胞から特定の組織細胞に分化誘導させたものについては、次年度に運用開始する予定のクライオライブラリで実際に保存していくことを予定しており、今年度は臨床研究の推進ならびにiPS細胞からの誘導法の確立や最適化について行った。
結果と考察
H24年度に設置したクライオライブラリについてはH25年11月より液体窒素の充填を開始し、配管漏れや液体窒素タンクの漏れがないことを確認した。またストックルームにおいて酸素濃度不足が生じる危険性を排除し作業者の安全確保を図るために、酸素濃度計とそれに連動したパトランプを設置した。また業者立会のもと、正常動作することを確認した。さらにランダムに振り分けた100個のストック部位(ケーンとケーン内の部位をランダムに設定)について、クライオライブラリへの入庫と出庫作業を行い、すべての作業でハードおよびソフトの両面でエラーが発生しないことを確認した。
またクライオライブラリで使用可能なクライオチューブについても検討し、機械のトラブルが発生しないように、基本的には固有のチューブのみを用いることに決定した。
また購入したドライシッパーの機器固有の問題の可能性をみるため、液体窒素をマニュアル通りにしみこませた後の温度変化を記録した。結果、メーカーの公表どおり、10日間にわたって-190℃以下の低温維持が可能であった。
実際にドライシッパーで3日間保管し、その後に8日間クライオライブラリで保管した後に細胞を融解、培養したことによる影響を調べた。その結果、これらの操作による細胞生存率は90%前後と良好で、また細胞形態、細胞増殖能、コロニー形成能、遺伝子発現には影響は見られなかった。
国内で行われる再生医療治療のサンプルを保管するシステムとして、最低限のハードおよびソフトのシステムとしては今回の検討で確認できた。来年度上半期中に、human errorをゼロにするためのルール作り(SOPの作成)と、臨床データを管理するREDCapベースのデータベースの構築を行う予定で、来年度下半期には現在大阪大学で行っている臨床研究で用いている体性幹細胞の受け入れを手始めに、日本全国のサンプル受け入れを開始する予定である。また将来的にはiPS細胞から分化誘導した組織細胞に対しても対応する予定である。
結論
我々が構築した細胞輸送システムとクライオライブラリによる保管システムは問題なく動作しており、今後国内で行われた再生医療サンプルを確実に保管・管理するのに適したシステムであると言える。

公開日・更新日

公開日
2017-06-30
更新日
-

収支報告書

文献番号
201335010Z