ヒト幹細胞を用いた再生医療の臨床実用化のための基盤構築に関する研究

文献情報

文献番号
201335001A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト幹細胞を用いた再生医療の臨床実用化のための基盤構築に関する研究
課題番号
H25-実用化(再生)-指定-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
中井 謙太(東京大学医科学研究所 機能解析イン・シリコ分野)
研究分担者(所属機関)
  • 今井 浩三(東京大学医科学研究所 附属病院)
  • 秋山 昌範(東京大学政策ビジョン研究センター)
  • 藤渕 航(京都大学iPS細胞研究所)
  • 中畑 龍俊(京都大学iPS細胞研究所)
  • 中辻 憲夫(京都大学再生医科学研究所)
  • 岡野 栄之(慶應義塾大学)
  • 梅澤 明弘(国立成育医療研究センター)
  • 西田 幸二(大阪大学)
  • 高橋 政代(理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター)
  • 大和 雅之(東京女子医科大学先端生命医科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(再生医療関係研究分野)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
347,827,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者交替 秋山 昌範((平成26年4月1日~平成26年9月30日))→藤渕 航(平成25年10月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒト等の幹細胞を用いた再生医療技術の早期実用化に向け、再生医療に関わる我が国の研究機関が情報共有を図ることによって、オールジャパンともいうべき体制で研究を加速させるための情報基盤の構築を目的とする。これにより、途中で断念された研究など、これまで活用されなかった研究情報に関しても再生医療実用化のために活用したり、臨機応変にコンソーシアム的研究を立ち上げたりできる環境を実現する。たとえば、臨床応用を目指していた幹細胞が造腫瘍性を示したために、研究対象から外されてしまっていた場合でも、本研究の枠組みで、その細胞の特徴を詳しく調べ、その結果を共有できれば、同じ失敗を繰り返すことが避けられるだけでなく、予め造腫瘍性を示すリスクの高い細胞を選別するための道が開ける可能性がある。また、幹細胞やその誘導細胞を様々な条件で培養したときの性質の安定性などに関する知識やコンセンサスのとれたプロトコルを創出し、国内外の研究者に積極的に発信できれば、我が国の再生医療研究の競争力向上に大きく貢献できる。なお、本研究のアプローチ自体は、他の多くの厚生労働行政課題(がん研究や感染症研究のネットワーク等)にも応用可能である。
研究方法
1. 情報基盤システムの拠点機関への導入:前年度までに導入ができなかった3拠点(京大iPS研、京大再生研、理研CDB)と今年度加わった拠点(東大医科研病院)へのシステムの導入を行った。
2. システム利用規則の制定:システムの利用を円滑化するために、生命倫理・知財・情報セキュリティ等の専門家によるELSI委員会を本格的に開催し、研究データの共有と公開に関するルールを制定した。
3. 班員からの意見聴取に基づくソフトウェア開発:データ共有を促進させるために、各拠点に配置した専任作業者等を対象とするシステム(ハード、ソフト、ルール、運用)の利用説明会をこれまでに5回開催し、各拠点におけるシステムの活用状況や課題を聴取した結果に基づいて、今年度のソフト開発課題の仕様5件をまとめ、発注した。
4. 班員によるデータ提供と活用:班員からのデータ登録については、まず各拠点内での実験ノートの電子化に取り組んだ。また、データ提供を加速するために、中核機関で研究協力者の協力を得て、次世代シークエンシングとそのデータ解析の受託サービスを行ったほか、研究内容が近い拠点間での共同実験を企画したり、拠点をまたぐ共同実験で、幹細胞の性質の違いなどの特徴付けを行ったりした。
結果と考察
本研究で情報共有のためのシステムを構築することで、具体的に再生医療の臨床応用の実用化にどう役立つのかを実証していくために、本来想定している自発的なデータの提供を待つ受け身のスタイルとは別に、今後は以下の研究を中心に積極的に仕掛けていく。
 すなわち、幹細胞(およびその誘導細胞)の安全性管理、品質管理にかかわる情報、たとえばES細胞(iPS細胞も)が、共通の株由来のものを扱っていても、培養条件の違いなどによって、品質に様々なばらつきを生じることが経験的に知られているので、それを様々な方法で定量化して、共有する。画像データに関しては、班員である国立成育医療研究センター 梅澤再生医療センター長からテラトーマ形成による幹細胞の全能性検査に関わるものを大量に提供していただく。これらのデータは、一般公開されれば、レファレンスとして、多くの関係者にとって有用であるはずである。また、平成25 年度後半から新たに加わっていただいた藤渕教授には、たとえば機械学習法を利用した画像からのパターン認識研究のご経験をいかして、提供されたデータの横断的情報解析による新たな知識発見に取り組んでいただく。
 また、平成26年度からは、基礎的研究データの共有にとどまらず、実際に再生医療を臨床応用していくステップを直接的に支援する新次元の試みも行うべきであろう。すなわち規制科学に関する知識の共有である。これらの分野は、従来、医学生物学が専門の研究者が苦手にしている分野なので、この分野の知見が容易に入手できるようになれば、臨床応用の実用化に要する時間は、大きく短縮できる可能性がある。
結論
今年度を含めた過去3年間の努力により、情報共有システムのあるべき形はほぼ姿が見えてきた状態であるので、今後は実際の活用を通して、より安全でかつ使い易いシステムとなるように改良を重ねていく。さらに、このシステムを使った班員同士のデータ共有の促進を一層はかり、本システムが再生医療の臨床応用加速に実際に役立つサクセスストーリーを積み上げていく。もちろんこれらの目標の実現は容易なことではないが、そのための準備は十分整えられたと結論できる。

公開日・更新日

公開日
2015-03-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-05-11
更新日
-

収支報告書

文献番号
201335001Z