DNAメチル化修飾に着目したうつ病のマーカー作成 -双極、単極、治療抵抗性うつ病の識別を目指して-

文献情報

文献番号
201334005A
報告書区分
総括
研究課題名
DNAメチル化修飾に着目したうつ病のマーカー作成 -双極、単極、治療抵抗性うつ病の識別を目指して-
課題番号
H25-精神‐実用化(精神)-一般-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
大森 哲郎(徳島大学 大学院ヘルスバイオサイエンス研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 純(産業医科大学医学部)
  • 森信 繁(高知大学医学部)
  • 久住一郎(北海道大学大学院医学研究科)
  • 関山敦生(大阪市立大学大学院医学研究科)
  • 松尾幸治(山口大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(精神疾患関係研究分野)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
17,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
うつ病を健常者から分ける診断指標の確立は、その早期発見と治療導入を促進する。本研究は、単極うつ病と双極うつ病および治療抵抗性単極うつ病という、治療反応の異なったうつ病の鑑別が可能な診断指標を確立することを目的とする。
研究の第一の特色は、精神疾患の病態の背景として有望視されているDNAメチル化修飾を主要指標とすることである。本研究では白血球をサンプルとしてこれを疾患マーカーとして応用する。第二の特色は、単一の指標軸では避けがたい群間のオーバーラップの回避を目指し、BDNFとサイトカインおよび特定遺伝子mRNA発現を第2の指標軸をして設定することである。
網羅的解析を起点とするが、最終的には数十以内の測定指標に絞り込む見通しである。
研究方法
研究計画の骨子は、各施設でうつ病治療前後のサンプルを収集し、徳島大学において網羅的メチル化解析を行い、平行して特定遺伝子mRNA発現解析およびBDNFとサイトカイン測定を各施設において行い、素因(trait)と状態(state)の区別のもとに対照群と比較し、診断指標を作成することである。この研究を効率的に進めるべく、平成25年度の採択決定後、主任および全共同研究者が集まって意見交換した。
研究代表者は、平成25年度はすでに収集ずみのサンプルを用いて解析を進めた。文書による同意を得た患者を対象として、静脈血を採血した。末梢白血球からフェノール・クロロフォルム法で抽出するゲノミックDNAをメチル化解析に、PAXgene Blood RNA キットを用いて精製するtotal RNAをmRNA発現解析に供した。
メチル化解析は、バイサルファイト処理を行った後、Infinium HumanMethylation450 Beadchip (Illumina社)を用いて485,764CpGサイトのDNAメチル化修飾レベルを調べた。PCRアレイは、ABI社のTaqMan array plate (96well)に候補遺伝子と内因性コントロール(GAPDH,HPRT,ACTB,B2M)を搭載しduplicateで測定した。
大用量情報からのデータ抽出には、バイオインフォーマティックス専門の石井一夫東京農工大学特任教授(研究協力者)の協力を得た。
(倫理面への配慮)
研究の目的、方法、危険性、得られる分析結果、及びその情報の管理について説明し、書面で同意を取得した。サンプルは連結可能匿名化を行いプライバシーを保護する。研究計画は、徳島大学医学部ヒトゲノム・遺伝子解析研究倫理審査委員会、徳島大学病院倫理委員会の承認を既に受けている。共同研究施設においてはDNAメチル化解析を含む本研究企画を、施設における倫理審査委員会に提出し、その承認を得たのちに研究を開始する。
結果と考察
平成25年度には、未治療うつ病20名と対照19名を対象として網羅的メチル化解析を行い、うつ病群でいくつかの遺伝子の低メチル化を認めた。低メチル化を示す17種の遺伝子を組み合わせて判別分析を行うことにより対照との区別が感度と特異度とも100%で可能であった。同じ17種の低メチル化遺伝子を利用することで、うつ病12名と対照12名の独立した第2集団においても、両群の区別が感度と特異度とも100%で可能であった。
PCRアレイによるmRNA発現を指標とするマーカーでは、25名のうつ病と対照25名を対象として解析を行い、13種のmRNA発現を組み合わせた指標を作成した。これにより感度72%、特異度84%の高精度でうつ病を識別することができた。この指標を、うつ病20名と対象18名の独立した別集団にあてはめたところ、感度70%、特異度72%の高い精度で判別できた。
これらの結果は、低メチル化を認めるサイトを利用することにより、うつ病と健常対照との区別が、再現性をもって可能であることを示している。特許申請手続きに着手し、論文発表を準備している。
mRNA発現を指標としても、再現性をもって高精度でうつ病を識別することができた。特許を出願し(特願2014‐035813)、論文発表を予定している。
メチル化修飾変化は、採血、抽出、保存などの影響を受けにくく、疾患マーカーとして扱いやすい。mRNAも特定チューブで採血することによって簡便に安定化できる。被験者負担は最終的には数mlの採血となるのは実用化の利点となる。
結論
研究成果は、白血球をサンプルとし遺伝子メチル化変化やmRNA発現を指標とすることで、単極うつ病と健常者の間の区別は高い精度で可能であることを示している。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201334005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
23,100,000円
(2)補助金確定額
23,100,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 10,225,970円
人件費・謝金 0円
旅費 104,740円
その他 7,569,290円
間接経費 5,200,000円
合計 23,100,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
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