分野横断型全国コンソーシアムによる先天異常症の遺伝要因の解明と遺伝子診断ネットワークの形成

文献情報

文献番号
201331013A
報告書区分
総括
研究課題名
分野横断型全国コンソーシアムによる先天異常症の遺伝要因の解明と遺伝子診断ネットワークの形成
課題番号
H23-実用化(難病)-一般-013
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
小崎 健次郎(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 松永 達雄(独立行政法人国立病院機構東京医療センター・臨床研究センター聴覚障害研究室)
  • 金村 米博(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター)
  • 小崎 里華(独立行政法人国立成育医療研究センター・器官病態系内科部・遺伝診療科)
  • 工藤 純(慶應義塾大学医学部)
  • 清水 厚志(岩手医科大学 いわて東北メディカル・メガバンク機構)
  • 宮 冬樹(独立行政法人理化学研究所 総合生命医科学研究センター 医科学数理研究グループ)
  • 黒澤 健司(地方独立行政法人神奈川県立病院機構 神奈川県立こども医療センター遺伝科)
  • 齋藤 伸治(名古屋市立大学大学院医学研究科)
  • 水野 誠司(愛知県心身障害者コロニー中央病院 臨床第一部)
  • 山崎 麻美(社会医療法人愛仁会・高槻病院)
  • 岡本 伸彦(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター)
  • 加藤 光広(山形大学医学部附属病院小児科)
  • 仁科 幸子(独立行政法人国立成育医療研究センター 感覚器・形態外科部・眼科)
  • 赤松 和土(慶應義塾大学医学部)
  • 谷口 善仁(慶應義塾大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(難病関係研究分野)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
69,232,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
中枢神経系・感覚器が発生学的に頭部外胚葉という共通の由来を持ち、先天異常の発症に共通の遺伝子経路が関与する可能性が高いことに着目して、既存3コンソーシアムの複合体を新たに編成の上、臨床データ・検体・次世代シーケンサー技術という研究リソースを全国規模で共有して遺伝要因の解明を目指した。先天異常症の原因診断を促進し、治療を含めた診療全般の向上につながることを目的とし、さらには研究の実施を通じて、本研究班の参加メンバーが中核施設として全国に遺伝子診断を提供可能なネットワークを確立することを目的とした。
研究方法
前年度までに引き続き、遺伝的原因が不明な疾患については全ゲノム翻訳領域の網羅的解析(エクソーム解析)を行った。同時に原因遺伝子がすでに同定されているが、変異陽性率が数~数十パーセントに限られる疾患も解析対象とした既知の疾患原因遺伝子と同一のシグナル伝達経路上の他の全遺伝子を標的遺伝子群として解析し、第2・第3の原因遺伝子の同定をめざした。解析対象となる遺伝子について、蛋白質コーディング全領域のゲノム遺伝子配列をデータベースより抽出し、アジレント社製SureSelectターゲットエンリッチメントシステムのカスタムライブラリーを設計した。標的遺伝子・標的領域のゲノムDNAを次世代シーケンサーにより解析した。
解析システムの最適化には、中枢神経奇形・感覚器奇形・奇形症候群の各領域の先天異常症について各々のコンソーシアムが協議のもとに解析プロトコルを策定し、各種のリソース(機器類・国内外のソフトウェアの開発状況、正常多型の情報等)を共有した。
解析精度のバリデーションとして、典型的な遺伝性疾患である神経線維腫症1型の患者コホート200名を対象にバリデーション研究を行い、精度を検証した。また、次世代シーケンサーによるゲノム解析により、多数の非同義アミノ酸置換が同定されたが先天奇形に与える影響を調べるためのモデル動物を用いた解析系も作成した。
結果と考察
中枢神経奇形・感覚器奇形・奇形症候群の各領域の先天異常症について各々のコンソーシアムが、次世代シーケンサー解析をオンサイトで実施できる環境を構築した。コンソーシアム間の協議のもとに解析プロトコルを策定し、各種のリソース(機器類・国内外のソフトウェアの開発状況、正常多型の情報等)を共有した。また、次世代シーケンサーパイプラインの結果の臨床医による判定に際しては、VarSifter、NextGENe、VariantStudio等を用い、ヒト遺伝病データベースの最新情報・パスウェイ情報と患者の変異・多型データの同時表示を可能とした。
解析精度のバリデーションとして行った、典型的な遺伝性疾患である神経線維腫症1型の患者コホート200名の解析では、古典的な症状の組み合わせを有する患者の90%に変異を同定することができた。同定された変異について、感度・特異度の観点からはgold standardと考えられているサンガー法と比較・検証したところ偽陽性率・偽陰性率ともゼロであり、臨床検査として十分な精度を有することが実証できた。
先天異常症候群領域では形態形成遺伝子等を含む459遺伝子、難聴領域では119遺伝子、中枢神経奇形では284遺伝子を網羅する標的遺伝子解析パネルを完成し、エクソーム解析を組み合わせて使用した。
次世代シーケンサーを用いた患者ゲノムDNAの分析により、新規の疾患原因遺伝子の同定、新規の疾患概念の確立、新規治療法の示唆につながるなど多数の新知見が得られた。代表的な例として、先天異常症候群領域・中枢神経奇形領域では、新生児期発症の早老症を主徴とする、新しい疾患概念、Marfanoid-progeroid症候群を発見し、国際的に認知されるに至った。発達遅滞の新規原因としてYY1遺伝子を世界で初めて同定、退行を伴う新規過成長症候群の原因としてのPGDFRB遺伝子の同定など成果を得た。当該遺伝子に関しては既に分子標的薬が存在し、治療法確立の手がかりを得た。また、症状のみから原因遺伝子を特定することが困難である難聴領域では、これまで日本人で報告のない7つの遺伝子(ACTG1, DFNA5等)に遺伝子変異が認められた。本網羅的解析を難聴遺伝子検査として用いることで、患者の約70%で原因遺伝子を特定することができた。
結論
中枢神経奇形・感覚器奇形・奇形症候群の各領域の先天異常症において、次世代シーケンサーを用いた新規疾患原因遺伝子の同定、新規疾患概念の確立、新規治療法の示唆という事業全体の目標の達成に貢献した。次世代シーケンサーを用いることによって個別患者レベルで発症メカニズムを明らかにすることが可能であることを示し、小児科領域における未診断患者の問題解決に対する明快な解決策が提示できた。

公開日・更新日

公開日
2018-06-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201331013B
報告書区分
総合
研究課題名
分野横断型全国コンソーシアムによる先天異常症の遺伝要因の解明と遺伝子診断ネットワークの形成
課題番号
H23-実用化(難病)-一般-013
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
小崎 健次郎(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 松永 達雄(独立行政法人国立病院機構東京医療センター・臨床研究センター聴覚障害研究室)
  • 金村 米博(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター)
  • 小崎 里華(独立行政法人国立成育医療研究センター・器官病態系内科部・遺伝診療科)
  • 工藤 純(慶應義塾大学医学部)
  • 清水 厚志(岩手医科大学 いわて東北メディカル・メガバンク機構 生体情報解析部門)
  • 宮 冬樹(独立行政法人理化学研究所 総合生命医科学研究センター 医科学数理研究グループ)
  • 黒澤 健司(地方独立行政法人神奈川県立病院機構 神奈川県立こども医療センター遺伝科)
  • 齋藤 伸治(名古屋市立大学大学院医学研究科)
  • 水野 誠司(愛知県心身障害者コロニー中央病院 臨床第一部)
  • 山崎 麻美(社会医療法人愛仁会・高槻病院)
  • 岡本 伸彦(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター)
  • 加藤 光広(山形大学医学部附属病院小児科)
  • 仁科 幸子(独立行政法人国立成育医療研究センター 感覚器・形態外科部・眼科)
  • 赤松 和土(慶應義塾大学医学部)
  • 谷口 善仁(慶應義塾大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(難病関係研究分野)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
中枢神経系・感覚器が発生学的に頭部外胚葉という共通の由来を持ち、先天異常の発症に共通の遺伝子経路が関与する可能性が高いことに着目して、既存3コンソーシアムの複合体を新たに編成の上、臨床データ・検体・次世代シーケンサー技術という研究リソースを全国規模で共有して遺伝要因の解明を目指した。先天異常症の原因診断を促進し、治療を含めた診療全般の向上につながることを目的とし、さらには研究の実施を通じて、本研究班の参加メンバーが中核施設として全国に遺伝子診断を提供可能なネットワークを確立することを目的とした。
研究方法
遺伝的原因が不明な疾患については全ゲノム翻訳領域の網羅的解析(エクソーム解析)を行った。同時に原因遺伝子がすでに同定されているが、変異陽性率が数~数十パーセントに限られる疾患も解析対象とした既知の疾患原因遺伝子と同一のシグナル伝達経路上の他の全遺伝子を標的遺伝子群として解析し、第2・第3の原因遺伝子の同定をめざした。解析対象となる遺伝子について、蛋白質コーディング全領域のゲノム遺伝子配列をデータベースより抽出し、アジレント社製SureSelectターゲットエンリッチメントシステムのカスタムライブラリーを設計した。標的遺伝子・標的領域のゲノムDNAを次世代シーケンサーにより解析した。
解析システムの最適化には、中枢神経奇形・感覚器奇形・奇形症候群の各領域の先天異常症について各々のコンソーシアムが協議のもとに解析プロトコルを策定し、各種のリソース(機器類・国内外のソフトウェアの開発状況、正常多型の情報等)を共有した。
解析精度のバリデーションとして、典型的な遺伝性疾患である神経線維腫症1型の患者コホート200名を対象にバリデーション研究を行い、精度を検証した。また、次世代シーケンサーによるゲノム解析により、多数の非同義アミノ酸置換が同定されたが先天奇形に与える影響を調べるためのモデル動物を用いた解析系も作成した。
結果と考察
中枢神経奇形・感覚器奇形・奇形症候群の各領域の先天異常症について各々のコンソーシアムが、次世代シーケンサー解析をオンサイトで実施できる環境を構築した。コンソーシアム間の協議のもとに解析プロトコルを策定し、各種のリソース(機器類・国内外のソフトウェアの開発状況、正常多型の情報等)を共有した。また、次世代シーケンサーパイプラインの結果の臨床医による判定に際しては、VarSifter、NextGENe、VariantStudio等を用い、ヒト遺伝病データベースの最新情報・パスウェイ情報と患者の変異・多型データの同時表示を可能とした。
解析精度のバリデーションとして行った、典型的な遺伝性疾患である神経線維腫症1型の患者コホート200名の解析では、古典的な症状の組み合わせを有する患者の90%に変異を同定することができた。同定された変異について、感度・特異度の観点からはgold standardと考えられているサンガー法と比較・検証したところ偽陽性率・偽陰性率ともゼロであり、臨床検査として十分な精度を有することが実証できた。
先天異常症候群領域では形態形成遺伝子等を含む459遺伝子、難聴領域では119遺伝子、中枢神経奇形では284遺伝子を網羅する標的遺伝子解析パネルを完成し、エクソーム解析を組み合わせて使用した。
次世代シーケンサーを用いた患者ゲノムDNAの分析により、新規の疾患原因遺伝子の同定、新規の疾患概念の確立、新規治療法の示唆につながるなど多数の新知見が得られた。代表的な例として、先天異常症候群領域・中枢神経奇形領域では、新生児期発症の早老症を主徴とする、新しい疾患概念、Marfanoid-progeroid症候群を発見し、国際的に認知されるに至った。発達遅滞の新規原因としてYY1遺伝子を世界で初めて同定、退行を伴う新規過成長症候群の原因としてのPGDFRB遺伝子の同定など成果を得た。当該遺伝子に関しては既に分子標的薬が存在し、治療法確立の手がかりを得た。また、症状のみから原因遺伝子を特定することが困難である難聴領域では、これまで日本人で報告のない7つの遺伝子(ACTG1, DFNA5等)に遺伝子変異が認められた。本網羅的解析を難聴遺伝子検査として用いることで、患者の約70%で原因遺伝子を特定することができた。
結論
3年間の研究を通じ、中枢神経奇形・感覚器奇形・奇形症候群の各領域の先天異常症において、次世代シーケンサーを用いた新規疾患原因遺伝子の同定、新規疾患概念の確立、新規治療法の示唆という事業全体の目標の達成に貢献した。次世代シーケンサーを用いることによって個別患者レベルで発症メカニズムを明らかにすることが可能であることを示し、小児科領域における未診断患者の問題解決に対する明快な解決策が提示できた。

公開日・更新日

公開日
2018-06-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201331013C

収支報告書

文献番号
201331013Z