次世代シークエンサーを用いたエクソーム配列解析による黄斑ジストロフィーの原因遺伝子と発症機序の解明

文献情報

文献番号
201331006A
報告書区分
総括
研究課題名
次世代シークエンサーを用いたエクソーム配列解析による黄斑ジストロフィーの原因遺伝子と発症機序の解明
課題番号
H23-実用化(難病)-一般-006
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
岩田 岳(独立行政法人国立病院機構 東京医療センター 臨床研究センター 分子細胞生物学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 池尾 一穂(国立遺伝学研究所/生命情報・DDBJ研究センター )
  • 三宅 養三(愛知医科大学)
  • 吉村 長久(京都大学大学大学院)
  • 角田 和繁(独立行政法人国立病院機構 東京医療センター 臨床研究センター 視覚研究部 視覚生理学研究室)
  • 近藤 峰生(三重大学大学院医学系研究科 神経感覚器医学講座)
  • 篠田 啓(帝京大学医学部 眼科学講座)
  • 國吉 一樹(近畿大学医学部 眼科学教室)
  • 林 孝彰(東京慈恵会医科大学医学部 眼科教室)
  • 上野 真治(名古屋大学医学部 眼科教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(難病関係研究分野)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
72,720,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究はこれまで実現が困難であった、網羅的な全エクソーム解析を最新の次世代シークエンサーを利用して、希少難病眼科疾患である黄斑ジストロフィーとその他の網脈絡膜疾患について、日本人患者の原因遺伝子を解明し、その発症機序と治療法を開発することを目的とする。黄斑ジストロフィーは重篤な視力障害を引き起こす眼疾患である。米国においてはすでに原因遺伝子が複数解明され、我々も日本では初めて黄斑ジストロフィーの一種であるオカルト黄斑ジストロフィーの原因遺伝子RP1L1の発見に日本で初めて成功した(Akahori et al, Am J Hum Genet 2010)。黄斑ジストロフィーの病態は疾患ごとに異なり、個々の患者に最適な治療を行うためには原因遺伝子の特定がきわめて重要となる。米国人患者とは異なり、黄斑ジストロイーを含む網脈絡膜疾患について、日本人患者の多くについては未だ原因遺伝子が明らかにされていない。本研究はこのような状況を改善するために行われるものである。特に劣性遺伝による希少難病眼疾患は将来的な遺伝子治療の有力な候補と考えられており、これらの原因遺伝子を一つでも多く明らかにすることは、治療への重要なステップと考えられる。本研究では多数の電気生理学的な診断を得意とする眼科医と国内最大規模の次世代シークエンサー施設を運営する理化学研究所(横浜研究所)、さらに遺伝子解析を専門とする国立遺伝学研究所(生命情報・DDBJ研究センター)との共同研究によって、全エクソームシークエンスによって遺伝性希少難病眼疾患の原因解明を行った。
研究方法
疾患別に家系調査を行い、家系内の患者、健常者、保因者について眼底検査、網膜断層検査、網膜電図を測定し、採血あるいは採唾液を行い、DNAを抽出し、ゲノムのエクソンのみを選択的に分画して、次世代シークエンサーによって平均100リードの塩基配列を解読した。塩基配列はレファレンスゲノム配列に対してマッピングを行い、塩基配列がホモかヘテロであるか判断し、アミノ酸配列の置換、エクソンのスプライシングに影響すると思われる遺伝変異が抽出された。さらにこれらの遺伝子変異は健常者1,000人ゲノムプロジェクト、日本人健常者1,500人のエクソームデータ、さらに当研究班の健常者のエクソームデータを用いて頻度を算出し、0.5%以下の遺伝子変異を抽出した。これらの遺伝子変異はPolyPhen2やPROVEAN2などのフィルターによってさらに絞り込みを行い、最終的には網膜の発現量をデータベースで確認して最終遺伝子変異候補を選択した。
結果と考察
当研究班はオンライン症例登録システムと遺伝子解析技術のためのインフラを整備し、優性遺伝、劣性遺伝子、X染色体遺伝、de novo変異について遺伝子変異を検出することが可能となった。今年度は新たに約50家系を収集し、約150検体についてエクソーム解析を行った。その多くはこれらのデータは過去2年間のエクソームデータに加えられ、日本人における疾患別の遺伝子変異リストを作成した。多くの患者において既知遺伝子変異が検出されることは稀で、日本人においては新規遺伝子変異によって発症することが明らかとなった。また、予想に反して遺伝子の種類も多い。
結論
本研究は日本では初めて行われた遺伝性網脈絡膜疾患の全エクソーム解析であり、17%の家系で既知遺伝子変異が発見され、14%の家系で既知遺伝子に新規遺伝子が発見された。また、8%の家系について新規原因遺伝子が発見された。残りの61%については現在解析が続行されている。平成26年はこれらの解析結果が家系別に論文として発表される予定である。

公開日・更新日

公開日
2018-06-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201331006B
報告書区分
総合
研究課題名
次世代シークエンサーを用いたエクソーム配列解析による黄斑ジストロフィーの原因遺伝子と発症機序の解明
課題番号
H23-実用化(難病)-一般-006
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
岩田 岳(独立行政法人国立病院機構 東京医療センター 臨床研究センター 分子細胞生物学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 池尾 一穂(国立遺伝学研究所/生命情報・DDBJ研究センター)
  • 三宅 養三(愛知医科大学)
  • 吉村 長久(京都大学大学院)
  • 角田 和繁(独立行政法人国立病院機構 東京医療センター 臨床研究センター 視覚研究部 視覚生理学研究室)
  • 近藤 峰生(三重大学大学院医学系研究科 神経感覚器医学講座)
  • 篠田 啓(帝京大学医学部 眼科学講座)
  • 國吉 一樹(近畿大学医学部 眼科学教室)
  • 林 孝彰(東京慈恵会医科大学医学部 眼科教室)
  • 上野 真治(名古屋大学医学部 眼科教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(難病関係研究分野)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究はこれまで実現が困難であった、日本人の遺伝性網脈絡膜疾患患者について、次世代シークエンサーを用いた網羅的な遺伝子解析(エクソーム解析)によって原因遺伝子を解明し、その発症機序と治療法を開発することを目的とする。本研究では電気生理学的な診断を得意とする眼科医と国内最大規模の次世代シークエンサー施設を運営する理化学研究所、さらに遺伝子解析を専門とする国立遺伝学研究所との共同研究によって、10種類の難治性眼疾患(黄斑ジストロフィー、網膜色素変性、レーベル黒内障、杆体錐体ジストロフィー、先天性夜盲症、遺伝性ドルーゼン、脈絡膜ジストロフィー、白点状眼底、白点状網膜炎、卵黄状黄斑変性)について全エクソーム解析によって原因解明を行った。
研究方法
エクソーム解析:
基本的には各家系において患者、患者の両親の3検体あるいは兄弟を加えた4検体のエクソーム配列解析を約250家系について解析した。全エクソンのキャプチャーとエクソームシークエンスは理化学研究所横浜研究所において行った。また、一部は外注された。各患者エクソンにおけるシークエンスは平均100リードである。エクソン塩基配列のレファレンス配列へのマッピングとアミノ酸配列変異の抽出、健常者での検出頻度は国立遺伝学研究所において行った。健常者における検出頻度は1,000人ゲノムプロジェクトのデータベースに加え、日本人1,500人エクソームプロジェクトのデータベースを用いて頻度が低いものを優先的に抽出した。アミノ酸配列への影響はPolyPhen2やPROVEAN2を参考にして絞り込んだ。特に低い頻度で検出されるアミノ酸置換、タンパク質への影響の大きいアミノ酸配列のトランケーション、インサーションに着目した。候補遺伝子については眼疾患を発症する290遺伝子を優先的に検索し、既知遺伝子変異による発症か、未知遺伝子による発症か判断した。

患者iPS細胞を用いた原因遺伝子の機能解析:
遺伝子変異による発症メカニズムを研究するために、患者iPS細胞(リンパ球由来)を作製し、視神経細胞への分化誘導によって変異体タンパク質の患者由来の細胞で解析した。

発症機序の解明とモデル動物の作製と解析:
遺伝子変異による発症メカニズムを研究するために、原因遺伝子のノックインマウスを作製中である。モデル動物は病理学的な研究に加えて、視機能障害を改善するための治療法の開発に利用される。発症機序の研究結果によって得られた分子経路に基づいて、その経路を抑制あるいは促進する生体分子をモデル動物に投与することによって発症の予防・治療を試みる。

日本人網膜色素変性の遺伝子変異と臨床情報のデータベース化、診断キットの開発:
本研究によって得られる新規遺伝子変異を将来の診断基準に役立てる目的で、個々の患者の臨床データをデータベース化し、遺伝子変異別に公開する予定である。また診療の現場でも簡単に利用できる診断キットを開発中である。
結果と考察
当研究班はオンライン症例登録システムと遺伝子解析技術のためのインフラを整備し、優性遺伝、劣性遺伝子、X染色体遺伝、de novo変異について遺伝子変異を検出することが可能となった。この3年間に約250家系を収集し、約500検体についてエクソーム解析を行った。多くの患者において既知遺伝子変異が検出されることは稀で、日本人においては新規遺伝子変異によって発症することが明らかとなった。また、予想に反して遺伝子の種類も多い。
結論
本研究は日本では初めて行われた遺伝性網脈絡膜疾患の全エクソーム解析であり、17%の家系で既知遺伝子変異が発見され、14%の家系で既知遺伝子に新規遺伝子が発見された。また、8%の家系について新規原因遺伝子が発見された。残りの61%については現在解析が続行されている。平成26年はこれらの解析結果が家系別に論文として発表される。

公開日・更新日

公開日
2018-06-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-03-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201331006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は日本では初めての遺伝性網脈絡膜疾患に対する次世代シークエンサーを用いた網羅的な遺伝子解析(エクソーム解析)である。10種類の遺伝性眼疾患(黄斑ジストロフィー、網膜色素変性、レーベル黒内障、杆体錐体ジストロフィー、先天性夜盲症、遺伝性ドルーゼン、脈絡膜ジストロフィー、白点状眼底、白点状網膜炎、卵黄状黄斑変性)を対象に解析した。その結果、17%の家系にのみ既知遺伝子変異が検出されず、日本人の特色が明らかになった。
臨床的観点からの成果
患者、兄妹、両親らの検体を全エクソーム解析することによって高い確率で原因遺伝子を解明できる技術であり、症候群のような複雑な臨床所見の家系についても有効な手段と判断された。
ガイドライン等の開発
同じ遺伝子変異をもつ家系の臨床情報を蓄積することによって、遺伝子変異別の傾向が明らかにされる。これらの情報を集積して、疾患あるいは遺伝子別のデータベース化を構築し、ガイドライン作成に向けて検討を開始した。
その他行政的観点からの成果
本研究によって得られる新規遺伝子変異を将来の診断基準に役立てる目的で、個々の患者の臨床データをデータベース化し、遺伝子変異別に公開する予定である。また診療の現場でも簡単に利用できる診断キットを開発中である
その他のインパクト
日本人で発見された新規遺伝子変異は東洋人に共通するものもあり、東洋人向けの診断キットを開発中である。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
7件
その他論文(英文等)
22件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
第9回感覚器シンポジウム

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kuniyoshi K et al.
Longitudinal clinical course of three Japanese patients with Leber congenital amaurosis/sever early childhood onset retinal dystrophy with RDH12 mutation.
Documenta Ophthalmologica , 128 , 219-228  (2014)
原著論文2
Katagiri S et al.
Autosoma recessive cone-rod dystrophy associated with compound heterozygous mutations in the EYS gene.
Documenta Ophthalmologica , 128 , 211-217  (2014)
原著論文3
Katagiri S et al.
Whole-exome sequencing identifies a novel ALMS1 mutation (p. Q2051X) in two Japanese brothers with Alstrom Syndrome.
Molecular Vison , 19 , 2393-2406  (2013)
原著論文4
Sakuramoto H et al.
Two siblings with late-onset cone-rod dystrophy and no visible macular degeneration.
Journal of Clinical Ophthalmology , 7 , 1703-1711  (2013)
原著論文5
Nakamura N et al.
Long-term observation over ten years of four cases of cone dystrophy with supernormal rod electoretinogram
Nihon Ganka Gakkai Zasshi , 117 , 629-640-  (2013)
原著論文6
Fujinami K et al.
Molecular characteristics of four Japanese cases with KCNV2 retinopathy: report of novel disease-causing variants.
Molecular Vision , 19 , 1580-1590  (2013)
原著論文7
Kabuto T et al.
A new mutation in the RP1L1 gene in a patients with occult macular dystrophy associated with depolarizing pattern of focal macular electroretinograms.
Molecular Vision , 18 , 1031-1039  (2012)
原著論文8
Tsunoda K et al.
Clinical characteristics of occult macular dystrophy in a large family with mutation of RP1L1 gene.
Retina , 32 , 1135-1147  (2012)

公開日・更新日

公開日
2019-05-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
201331006Z