建築物環境衛生管理及び管理基準の今後のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
201330005A
報告書区分
総括
研究課題名
建築物環境衛生管理及び管理基準の今後のあり方に関する研究
課題番号
H23-健危-一般-009
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
大澤 元毅(国立保健医療科学院 )
研究分担者(所属機関)
  • 鍵 直樹(東京工業大学)
  • 田島 昌樹(高知工科大学)
  • 池田 耕一(日本大学)
  • 中館 俊夫(昭和大学)
  • 射場本 忠彦(東京電機大学)
  • 百田 真史(東京電機大学)
  • 柳 宇(工学院大学)
  • 東 賢一(近畿大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
建築物における環境衛生管理方法及びその管理基準に着目して,建築物の環境衛生の実態調査,現状の把握及び問題点の抽出,原因の究明,対策の検討等を実施し,公衆衛生の立場を踏まえた,今後の環境基準のあり方についてとりまとめる。
研究方法
1.衛生管理基準に適合しない特定建築物の割合(不適率)の上昇傾向に着目し,全国調査結果から選別した建築物(冬期11件、夏期13件)の執務者(107名207名)を対象に質問紙調査を実施し,SBS関連症状と室内空気質の測定値との関連性に関する解析を行った。
2.個別空調設備を有する建築物を含む事務所建築物を対象に室内環境実態を調査した。また,保健所環境衛生監視員を対象として,建築物衛生法に係わる設備の設置指導に関する認識と実情を問う質問紙調査を実施した。
3.首都圏及び蒸暑地域を含む地方の,中央方式或いは個別方式の空調設備を有する12件の事務所ビルを対象として連続測定を実施した。多様な建築物の検討を行うため大規模から小規模,竣工年数も様々な建築物を選択している。また,既往研究で得られた全国質問紙調査資料を用いて,冬期における室内温度,相対湿度,二酸化炭素濃度の解析,検討を行った。
4.事務機器から発生する汚染物質の生体影響に関する文献調査を実施した。
結果と考察
1.冬期では,非特異症状と高い粉じんレベル(5μm以上),上気道症状と高いアルデヒド類濃度や高い室内温度,皮膚症状と低い室内温度との間に関連性がみられた。また,皮膚症状と低湿度にも有意な傾向があった。夏期では,上気道症状と高いトルエン濃度,皮膚症状と低い室内温度との間に有意な関係がみられた。
2.空調設備により中央式と個別方式に分けて違いを検討した結果,個別方式の建物において浮遊微生物及びPM2.5濃度が高い状況が生じており,空調機のエアフィルタの性能及び運用方法などが理由として挙げられた。また、環境衛生監視員への質問紙調査結果では,湿度についての認識が低いこと,加湿時の結露に悩んでいること,運用に関するマニュアル,設置義務化の法整備を望んでいることなどが判明した。第3種のような粉じんの浄化能力のない換気方式についても,半数以上の機関が機械換気設備と認めており,近年の空調設備の多様化に対応できていない面も明かとなった。
3.既往の調査結果を用いて解析を行い,同建物内の同室内・同時刻においても温度分布が避けられず,相対湿度の分布が生じている状況を示した。また,換気装置の管理運営方法がCO2濃度に影響を受け,室内環境を大きく左右していることを示唆した。
4.文献調査により,培養細胞を用いた一連の in vitro 実験研究の報告,複写機/レーザープリンタで使用されるトナー粒子が炎症反応や,小核試験で示唆される遺伝毒性を示すとした文献を見出した。エミッションを吸入した際の生体影響については,種々の研究デザイン,種々の報告が散見されるが,まだハザードとして評価を行うだけの科学的知見は集積されておらず,今後の研究の進展が期待されるとしている。実際の事務機器使用条件下における粒子状物質曝露に関する情報も限られており,今後のリスク評価のために,曝露評価に役立つデータの集積が必要であると考えられる。
結論
本研究で収集した建築物における環境衛生に関する実測調査及び質問紙調査結果については,温湿度,ほこり,薬品臭,不快臭とSBS関連症状との間に有意な関係が示唆された。また,本調査は限られた建築物での断面調査であったが,室内空気質の実測調査によって,温湿度,粉じん,アルデヒド類やトルエンがSBS関連症状に影響していることを示唆し,全国規模の質問紙調査結果を裏付ける重要なデータを得ることができた。この結果を基に,今後の建築物衛生管理のあり方について,基礎資料となるものと考えられる。
保健所環境衛生監視員を対象とした建築物衛生法に係わる設備の設置指導に関する質問紙調査の結果より,湿度についての認識が低いこと,加湿と共に結露の問題が起こること,運用に関する適切なマニュアル,設置の義務化など法整備に関しても要望があった。第3種のような粉じんの浄化能力のない換気設備についても,半数以上が機械換気設備と認めており,法律が近年の空調設備の複雑化に対応できていない面も見えた。このことより,今後は特定建築物管理技術者に対して環境衛生監視員が指導しやすいガイドラインなどの整備の重要性が示唆される。また,これらの問題が建築設備にあれば,設備の設計時,図面審査時など建築前に改善指導することが有効であること,維持管理に問題があれば,適切な対策手法について情報を提供することも可能であると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-08-04
更新日
-

文献情報

文献番号
201330005B
報告書区分
総合
研究課題名
建築物環境衛生管理及び管理基準の今後のあり方に関する研究
課題番号
H23-健危-一般-009
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
大澤 元毅(国立保健医療科学院 )
研究分担者(所属機関)
  • 鍵 直樹(東京工業大学)
  • 田島 昌樹(高知工科大学)
  • 池田 耕一(日本大学)
  • 中館 俊夫(昭和大学)
  • 射場本 忠彦(東京電機大学)
  • 百田 真史(東京電機大学)
  • 柳 宇(工学院大学)
  • 東 賢一(近畿大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
建築物における環境衛生管理方法及びその管理基準に着目し,建築物の環境衛生の実態調査,現状の把握及び問題点の抽出,原因の究明,対策の検討を実施し,公衆衛生を踏まえた今後の環境基準のあり方についてとりまとめる。
研究方法
1.衛生管理基準に適合しない特定建築物の割合(不適率)上昇に着目し,建築物の管理者や利用者に対する全国規模の質問紙調査により冬期夏期の2回の調査から夫々三百以上の企業の管理者及び三千名以上の従業員から回答を得て,事務所勤務者の健康状態と職場環境を精査した。
2.健康配慮が必要な高齢者施設等の温熱空気環境や,個別空調設備を有する建築物内の環境実態及び空調設備の汚染状況を調査すると共に,予てから指摘のあった学校や事務所用途における不適実態と,建築物衛生法の改正により適用範囲に加わった個別空調設備の維持管理の問題点に関する検討を行った。パッケージ内に小型温湿度計を設置しての連続測定や微生物調査も実施した。
3.省エネ手法の中には換気低減や高温低湿など,建築物衛生法と相容れ難い問題や,かつての法制定・改正時に想定されていなかった状況を生む危険がある事を調査により把握した。特に冬季相対湿度の基準不適合には,事務所用途等で普及が進んでいる個別部分空調設備に特有な維持管理及び運用方法が関連しているとの指摘があることから,環境衛生データの収集と解析に注力し,省エネと環境衛生の両立に資する適切な維持管理手法・監視方法の提案を行った。管理基準項目に加え,浮遊微生物,揮発性有機化合物,PM2.5の実態も把握した。また管理技術者に質問紙調査を行い,維持管理実態を明らかにした。
4.建築物内には空気質の劣化をもたらす種々の汚染物質発生源が存在し,シックビル症候群(以下SBS)やシックハウス症候群など健康問題との関連が示唆されることから,室内空気汚染物質の新たな発生源として,急速に普及した電子複写方式の事務機器(プリンタ等)に着目して文献調査を行った。
結果と考察
1.疑いのあるSBS関連症状(NIOSH基準)の有症率は,非特異症状14.4%/18.3%,目の症状12.1%/14.1%,上気道症状8.9%/6.7%,下気道症状0.8%/0.9%,皮膚症状4.5%/2.2%であった(数字は冬と夏)。関与する環境要因を解析した結果,冬期・夏期共通に,温湿度環境,薬品・不快臭,ほこりや汚れ,騒音などの環境要因とSBS関連症状との関係が、更に夏期では,カーペットや3月以内の壁塗装との関連性が示唆された。維持管理では,冬期の湿度基準の不適合と目の症状や上気道症状や皮膚症状,冷却加熱装置の汚れと上気道症状との関連性,夏期のCO2不適合と非特異症状との関連性が示唆された。SBS関連症状と室内空気質について冬期には非特異症状と粉じんレベル,上気道症状とアルデヒド類濃度や高温,皮膚症状と低温との間に関連を認めた。
2.高齢者施設では,基準逸脱施設はあったが,温湿度は概ね基準範囲に設定され,適正な操作状況が伺えた。CO2超過は,在室者の増減や全熱交換器停止による換気不足が原因と見られる。また,浮遊微生物としては真菌濃度が高く,好湿性のCladosporium spp.が全施設で検出された。細菌濃度の高い施設は換気不足が主原因と考えられる。学校教室環境については,地域・気候・設備別による影響を明らかにするため,国内及び中国の計5大学(9教室)で調査を行い、在室者変動に伴う超過実態を明らかにした。
3.個別空調設備と中央式に分けて違いを検討したところ,個別方式の建物において浮遊微生物及びPM2.5濃度が高い状況が顕著で,空調機のエアフィルタの性能及び運用方法の相違が理由として挙げられた。また,相対湿度不適率の改善のための空気調和設備のあり方と保健所の指導のあり方について,全国の保健所の建築物衛生担当者を対象に加湿装置及び機械換気設備の解釈に関する質問紙調査を行い、指導や管理等の現況を把握した。
4.原著論文を対象に医学中央雑誌,Medlineを用いて"エミッション""複写機""レーザープリンタ""シックビル症候群"などのキーワードで探索した。
結論
SBS関連症状と粉じん濃度など室内空気質に係る複数要因に関連を認め「省エネ・経済性等に由来する社会的要請」と「部分空調等に代表される技術革新」による影響を俯瞰して,今日もSBSは潜在していることを指摘した。対策や基準の構築にはエビデンスレベルの高い資料整備が必要である。また,建築物衛生管理のあり方については,実態把握を通して,高齢者福祉施設や住宅の衛生環境整備などの重要さと必要性を確認した。新しい空調技術・社会的要請への対応をめざし,個別空調に代表される新技術について衛生管理や監視・指導に対応した指針やマニュアルの整備普及を提言する。

公開日・更新日

公開日
2016-08-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-08-04
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201330005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
事務所、学校や高齢者福祉施設などの建築物における調査により、管理基準を満足しない割合が高いなど問題のある衛生状況を把握し、設計上の人員密度や換気回数の想定が使用実態と乖離し管理が行き届いていない実態を指摘した。また、微生物汚染状況の調査などから、個別或いは部分空調設備の整備不良などが汚染発生源となりうるなど問題のある実態を把握し、今後の課題として指摘した。
臨床的観点からの成果
実態調査資料などの蓄積を踏まえて、全国的な居住者へのアンケート調査を夏期及び冬期に実施し、建築物或いは建築環境に由来する健康影響(SBS:シックビル症候群)の存在を確認した。重篤な症状ではないし定量的な把握には更なる詳細な調査が必要だが、冬期には非特異的症状と高い粉じん濃度、上気道症状と高いアルデヒド濃度・室温など、夏期には上気道症状と高いトルエン濃度、皮膚症状と低い室内温度などとの間に関係が見られている。
ガイドライン等の開発
本研究で収集し、取りまとめた建築物における環境衛生性に関する実測資料及び立ち入り検査データ、アンケート調査結果等の資料は、その現状と課題を示唆する希少な基礎データである。また、全国保健所へのアンケート調査により、加湿機能のない換気設備に対する解釈・指導の相違など整合性が不十分な運用の実態を明らかにした。建築物衛生の施策に係る検討・立案に供され、管理基準や運用手続きの改善、ガイドラインへの反映等が期待される。
その他行政的観点からの成果
管理基準不適合の詳細を明らかにするとともに、衛生管理体制の実態や課題を明らかにしたことは、建築物衛生監視に係る運用や解釈の不整合・不統一を解消し、効率的な行政監視体制を改善・構築していく上で大きな意義を持つ。また、SBSの実情をいち早く指摘したことは、その顕在化を予防するうえで有益な情報となった。
その他のインパクト
建築物衛生法における特定建築物に該当するものではないが、高齢者福祉施設において環境衛生管理が不十分な場合が見出されたことは、今後の高齢化進展などに対応するために検討を要する問題と考えられる。また、管理基準不適合割合が継続的に上昇している事態に対しては、公衆衛生学会シンポジウムにおいて、指導或いは啓発の手立てを考える必要があるとの指摘があった。

発表件数

原著論文(和文)
2件
空気調和・衛生工学会論文集
原著論文(英文等)
2件
International Journal of Environmental Health Research
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
空気調和衛生工学会、室内環境学会、日本建築学会
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
厚生労働省生活衛生関係技術担当者研修会

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Azuma K, Ikeda K, Kagi N, Yanagi U, et al.
Effects of water-damaged homes after flooding: health status of residents and environmental risk factors
International Journal of Environmental Health Research , 24 (2) , 158-175  (2014)
10.1080/09603123.2013.800964
原著論文2
K.Azuma, K.Ikeda, N.Kagi, U.Yanagi, H.Osawa
Revalence and riscfactors associate with non specific building related simptoms in office employees in Japan: Relationships between work environment, indoor air quality, and occupational stress
INDOOR AIR , 1-13  (2014)
10.1111/ina.12158
原著論文3
柳宇,鍵直樹,大澤元毅,池田耕一
個別方式空調機内におけるカビ増殖特性に関する研究
空気調和・衛生工学会論文集 , No.218 (5) , 31-38  (2015)
原著論文4
柳宇,鍵直樹,東賢一,鎌倉良太,他
高齢者福祉施設における室内環境に関する研究 第二報ー室内温湿度・CO2濃度の長期間連続測定結果
空気調和・衛生工学会論文集 , No.229 (4) , 15-22  (2016)

公開日・更新日

公開日
2014-06-05
更新日
2018-07-26

収支報告書

文献番号
201330005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
10,000,000円
(2)補助金確定額
10,000,677円
差引額 [(1)-(2)]
-677円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,837,651円
人件費・謝金 933,935円
旅費 2,323,154円
その他 1,905,937円
間接経費 0円
合計 10,000,677円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2014-06-04
更新日
-