住民からの不当暴力やクレーム等に対峙する地域保健従事者の日常活動の「質」を保証する組織的安全管理体制の構築に関する研究

文献情報

文献番号
201330001A
報告書区分
総括
研究課題名
住民からの不当暴力やクレーム等に対峙する地域保健従事者の日常活動の「質」を保証する組織的安全管理体制の構築に関する研究
課題番号
H23-健危-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
米澤 洋美(福井大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 中板 育美(日本看護協会)
  • 平野 かよ子(長崎県立大学)
  • 佐野 信也(防衛医科大学校)
  • 鳩野 洋子(九州大学大学院)
  • 野村 武司(獨協大学法科大学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
1,490,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 医療施設内での患者・家族からの暴力への対応は、国内外で医療安全の角度から検討があるが、地域保健従事者の対する安全確保方策の提言としては少ない。本研究班は住民からの不当暴力・クレーム等を、組織的危機管理体制の観点から地域保健従事者個人の問題ではなく、組織全体の問題として全て把握し、再発防止に向けた対応を推進するためのツールとして地域保健版インシデントレポートを開発し事例の収集を行った(H23-24)結果、理不尽/非常識な要求の繰り返しのほか性的ハラスメントや身体的暴力等の被害の実態が明らかとなった。課題の放置は明らかな心身のマイナスの影響を与え、日常活動の質の担保を著しく阻害することになりかねない。この課題を地域保健福祉活動現場で共有し、組織として取組むための仕組みを構築することが急務である。そこで、地域保健従事者の職務に関連する「暴力」に対する課題に対し組織として取組む仕組みの構築のため実行可能性の高い媒体や教材を開発し広く普及させるための活動や媒体等の検証を目的とした。
研究方法
1.保健従事者の住民からの暴力防止のための安全管理体制の取り組みの実際(事例分析)暴力被害の組織的予防に取組む先進的自治体保健師によるグループインタビューの内容から、事例分析を行った。2.暴力防止マニュアルに求められる内容の検討 暴力防止マニュアル(初版)の改訂版作成にあたり、強化すべき事項やプログラムに関して、経験した暴力体験の報告するインシデントレポートシステムの開発や組織としての教育・開発を図る研修プログラムの開発を行い、これらを暴力防止マニュアル第2版に追加した。これらの経験から暴力防止マニュアルの構成と含むべき内容の検討をした。3.暴力防止研修プログラムの開発 住民からの不当な暴言・暴力から身を守るために必要な知識や対応策について学ぶための暴力防止研修教材を作成するために、研修参加の保健師等148名を対象に新任期用プログラムを受講後、アンケートにより効果を検証した。4.研修・ワークショップの場を活用した普及・啓発効果の検討 ワークショップ参加の保健師等へのアンケート調査から普及・啓発効果を検証した。

結果と考察
1.保健従事者の住民からの暴力防止のための安全管理体制の取り組みの実際(事例分析)取り組みの状況は、ⅰヒアリング、ⅱ 実態調査、ⅲ ディスカッション、ⅳ 情報収集・学習会、ⅴ 研修会、ⅵ ガイドライン・マニュアル策定、ⅶ ガイドライン・マニュアル策定後の実践的対応、ⅷ 周知・徹底に向けた働きかけを、組織内の合意形成を行いながら継続的に実施していた。
2.暴力防止マニュアルに求められる内容の検討 組織対応の進捗状況の把握や残された課題に取り組むために、新たに精神科医と弁護士をメンバーに加え、インシデントレポートシステムの構築の検討と組織としての取り組み事例の分析等を行い、それらを学会等でのワークショップでフィードバックし、実践者や教育・研究者と意見交換を行った。結果、暴力防止マニュアル第2版の作成を通し、地域保健福祉のマニュアルとして構成要素としては、以下の6事項が必要と考えた。1.総論 2.時系列の暴力のアセスメントとリスク管理3.支援者の暴力防止の知識と技術 4.組織としてのリスク管理体制 5.暴力防止の教育・啓発 6.従事者の安全を守る法制度のあり方である。今回は「基礎教育での取り組み」と「従事者の安全を守る法制度のあり方」は扱えていない。よって今後の課題としたい。
3.暴力防止研修プログラムの開発 新任期および中堅期保健師の研修の機会を活用し、住民からの不当な暴言・暴力から身を守るために必要な知識や対応策について学ぶための暴力防止研修教材を作成した。新任期プログラムを,新任期を指導する立場の中堅期・管理期に該当する保健師に試行した結果、99%がこのようなプログラムを新任期に行うことは「必要」と回答した。
4.研修・ワークショップの場を活用した普及・啓発効果の検討 参加者のアンケート回答者38名(有効回答率63.3%)のうち、92.2%がこれまでに住民からの不当暴力等の経験があった。参加者の81.6%が自分達の組織で暴力防止問題に取組みたいと回答した。
結論
地域保健福祉従事者の持つ仕事の特性として不当な暴力を受ける危険性の高い職業であるとの認識の上に立ち、住民からの不当な暴言・暴力から身を守るために必要な知識や対応策について学ぶための暴力防止マニュアルや研修プログラムが現場で活用されることは、個々の支援者が暴力防止の知識と技術を高め、組織としての暴力防止管理体制が充実する契機となる。結果、組織風土としてリスクマネジメントが定着していくことに繋がるため、研修の場、職場会議、新任期の全体研修等の場を活用して周知する重要性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201330001B
報告書区分
総合
研究課題名
住民からの不当暴力やクレーム等に対峙する地域保健従事者の日常活動の「質」を保証する組織的安全管理体制の構築に関する研究
課題番号
H23-健危-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
米澤 洋美(福井大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 中板 育美(日本看護協会)
  • 平野 かよ子(長崎県立大学)
  • 佐野 信也(防衛医科大学校)
  • 鳩野 洋子(九州大学大学院)
  • 野村 武司(獨協大学法科大学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 医療施設内での患者および家族からの暴力への対応は国内外で検討があるが、地域保健従事者の対する安全確保方策の提言は少ない。
 これら課題の放置は、住民からの過剰な威嚇や不当クレーム、モラルを欠いた問題行動などの暴言や暴力への対処といった負の循環を招き、職員に業務の妨害、精神的負担、明らかな心身のマイナスの影響を与え、日常活動の質の担保を著しく阻害することになりかねない。 地域保健従事者の職務に関連する「暴力」に対する理解を地域保健福祉活動現場において共有し、組織として取組むための仕組みを構築することが急務である。
個々の地域保健従事者のインシデントレポート報告の意義を確認するとともに、実態をタイムリーに報告する仕組みや実行可能性の高いプログラムを開発検証し、地域保健における日常活動の「質」を保証する(「住民の排除」にならないため防止対応システム)ためのより具体的な組織的安全管理体制を提言することを目的とした。
研究方法
1.地域保健Web版インシデントレポートの運用と事例分析
 『地域保健Web版インシデントレポート』 を開発、運用し、保健従事者が住民から受けている暴力や、被害の程度、それに対する対応の実態等について把握した。
2.暴力防止研修プログラムの開発
 住民からの不当な暴言・暴力から身を守るために必要な知識や対応策について学ぶための暴力防止研修教材を作成するために、保健師の新任期および中堅期の研修参加の保健師等148名を対象に新任期用プログラムを受講後、アンケート結果により効果を検証した。
3.暴力防止マニュアルに求められる内容の検討~暴力防止マニュアル第2版の作成を通して~
 暴力防止マニュアル(初版)の改訂版作成にあたり、強化すべき事項やプログラムに関して、経験した暴力体験の報告するインシデントレポートシステムの開発や組織としての教育・開発を図る研修プログラムの開発を行い、これらを暴力防止マニュアル第2版に追加した。これらの経験から暴力防止マニュアルの構成とそこに含むべき内容の検討をした。
4.研修・ワークショップの場を活用した普及・啓発効果の検討
学会の自由集会・ワークショップによる普及・啓発効果を検証した。
先行研究での暴力に関する実態調査結果説明の後、法律家・精神科医・保健師からの仕事のリスクと安全管理体制に関する知識の啓発の後、新任期研修教材受講後の職場での実行可能性等をグループ討論ならびにアンケートにより検証した。
結果と考察
結果、1保健従事者が住民から受けている暴力や、被害の程度、それに対する対応の実態等について数量的に把握することを目的とし、地域保健版インシデントレポートを開発し協力の得られた10モデル自治体で運用し、全部で56件の回答が得られた。被害を受けた人の属性では実務担当者の保健師が最も多かった。暴力を行った人は成人がほとんどで、暴力の発生した時間は、業務時間内が多いものの時間外の場合もあり、家庭訪問先といった他者の目が届かない場所でも生じていた。2保健師の新任期および中堅期の研修機会を活用して、住民からの不当な暴言・暴力から身を守るために必要な知識や対応策を学ぶための暴力防止研修プログラムを作成した。3暴力防止マニュアル(初版)に強化すべき項目を検証し第2版を作成した。構成要素は、以下の6事項が必要と考えた。1.総論2.時系列の暴力のアセスメントとリスク管理3.支援者の暴力防止の知識と技術4.組織としてのリスク管理体制5.暴力防止の教育・啓発6.従事者の安全を守る法制度のあり方である。4普及・啓発を目的としたワークショップ参加者(保健師等)へのアンケートの結果、回答者の92.2%が過去に住民からの不当暴力等の経験があった。参加者の81.6%が自分達の組織で暴力防止問題に取組みたいと回答し保健師個人として対策の必要を感じている者は多く、組織的に暴力防止のリスクマネジメントに取組むためにマニュアルや研修プログラム、地域版インシデントレポート等、実行可能性の高い媒体等の活用によって普及を促すことの重要性が示唆された。
結論
地域保健における日常活動の「質」を保証する(「住民の排除」にならないため防止対応システム)ための具体的組織的安全管理体制として、住民からの不当な暴言・暴力から身を守るために必要な知識や対応策について学ぶための暴力防止マニュアルや研修プログラムが現場で活用されることは、個々の支援者が暴力防止の知識と技術を高め、組織としての暴力防止管理体制が充実する契機となる。結果、組織風土としてリスクマネジメントが定着していくことに繋がるものと考える。

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201330001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
地域保健福祉従事者のインシデントレポート報告の意義を確認し、実態をタイムリーに報告する仕組みや実行可能性の高いプログラムを開発検証し、地域保健における日常活動の質を保証するためのより具体的な組織的安全管理体制の提言を目的としインシデントレポートシステムの構築の検討と組織的取り組み事例分析を行い、学会等ワークショップでフィードバックし、実践者や教育・研究者と意見交換を行った。結果、暴力防止マニュアル第2版の作成し、広く組織のリスクマネジメントに貢献できる活動や媒体を通し啓発しその必要性を提言した。
臨床的観点からの成果
地域保健版インシデントレポートを開発運用し、住民からの暴力、被害の程度や対応の実態等を把握した。被害は実務担当者の保健師が最も多く家庭訪問先等他者の目が届かない場所でも生じていた。暴力の種類は、理不尽/非常識な要求の繰り返しが多かった。これらに対し、警察官への通報、所内での話し合い等は一定程度実施されてはいるが、当事者職員への対応や報告が実施されていない状況も見られた。暴力の実態を組織が共有し、組織として対応する組織風土を高めるために、職場風土づくりと報告システムを構築する必要性が示唆された。
ガイドライン等の開発
暴力防止マニュアル第2版を作成した。インシデントレポートのシステムの構築等の職場風土の改善、暴力を受けた支援者や同僚への組織としてのメンタルヘルス支援体制の整備、担当者レベルでの外部機関との連携努力に終わらせない連携体制の整備、従事者の安全を保障する法制度の検討に重点を置いた組織対応の進捗状況の把握や残された課題に対し、システムの構築の検討と組織としての取り組み事例の分析、ワークショップでフィードバック、実践者や教育・研究者と意見交換の上、暴力防止マニュアルに含めるべき内容を決定した。
その他行政的観点からの成果
保健師の新任期および中堅期の研修機会を活用して、住民からの不当な暴言・暴力から身を守るために必要な知識や対応策について学ぶための暴力防止研修プログラムを作成した(別冊暴力防止マニュアル資料1-1、資料1-2)。
新任期は、公衆衛生看護活動についての理解を深め、住民からの理不尽な暴言暴力の理解と対応をリスクマネジメントの考え方で捉えるためのプログラムであり、中堅期は、実践事例を通して、個々に被る精神的ダメージとともに組織としてのあり方への再考を促す教材として活用が期待される。
その他のインパクト
平成23-25年度の各年において学会において自由集会ならびにワークショップを開催した。
平成23年日本公衆衛生学会自由集会
平成24年日本公衆衛生学会自由集会
平成25年日本公衆衛生看護学会ワークショップ
平成26年日本公衆衛生看護学会ワークショップ 他、27年度、28年度自治体地域保健関係者研修会にて見出しのテーマで研修を行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
1件
地域保健従事者に対する住民からの暴力被害と対応 鳩野洋子 米澤洋美 保健師ジャーナルvol.70 No.12 1054-1058 2014
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
第16回日本地域看護学会2013年 第1回日本公衆衛生看護学会2013年 第2回日本公衆衛生看護学会20141年
学会発表(国際学会等)
1件
第44回アジア・太平洋地区公衆衛生学校連合体学会.2012年
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
8件
自治体保健福祉職員研修会での研修 学会自由集会、ワークショップの開催 自治体オリジナル暴力防止マニュアルへの本マニュアルの転用

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
2018-06-21

収支報告書

文献番号
201330001Z