細胞毒性に虚弱である中枢神経系を対象とした、ナノマテリアルが持つ有害作用の評価手法開発

文献情報

文献番号
201329026A
報告書区分
総括
研究課題名
細胞毒性に虚弱である中枢神経系を対象とした、ナノマテリアルが持つ有害作用の評価手法開発
課題番号
H25-化学-若手-009
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
入江 智彦(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
2,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 ナノマテリアル (フラーレン,酸化チタン等) は一般的に大きさが100 nm未満と定義されている.ナノマテリアルは従来の素材には無い有用機能を持つことから,次世代の新規素材として注目されている.一方,ナノマテリアルが想定外の健康被害を及ぼす事が懸念されており,実際にカーボンナノチューブや酸化チタンが発ガン性や炎症性を持つ可能性が数多く示唆されている.それゆえ,ナノマテリアルの健康への安全性評価は喫緊の課題である.
 本研究では,中枢神経系細胞を対象とした評価手法の構築を目指す.今年度は使用する神経細胞のモデルとして汎用されているPC12細胞を用いた.平成25年度は各種金属ナノマテリアルが分化PC12細胞に毒性を与えるか否かを決定し,実際に与える場合はその濃度依存性を求める事を目標とした.
研究方法
用いたナノマテリアル 酸化亜鉛ZnO・酸化チタンTiO2の2種類を用いた.
細胞株及び培養方法 PC12細胞は,国立衛研薬理部で液体窒素中に凍結保存されていたものを培養して用いた.
PC12細胞のマルチウェルへの播種と分化誘導 コラーゲンIでコートされた96-wellプレーに,200 L培地を分注した時に,PC12細胞が2,500個/wellの密度になるように細胞懸濁液を調製した.なお,この時の培地は低血清培地にNGFを加えた分化用培地を用いた: 1%非働化HS,0.5% 非働化FBS,50 units penicillin, 50 ug/ml streptomycin, を含む培地にNGFが終濃度50 ng/mLになるように添加した.各wellには200 uLの細胞懸濁培地を分注し,細胞を播種した.
分化PC12細胞へのナノマテリアル暴露 96-wellプレートで培養したPC12細胞を1日培養した後にZnOナノ粒子懸濁液とTiO2をそれぞれ別のウェルに添加した.懸濁には,分化誘導時と同じ培地を使用した.ナノ粒子は100 ug/mLが最高濃度となるように,段階希釈して各wellに添加した.希釈には分化用培地を用いた.各物質を添加後,インキュベーター内で培養を継続しながら4日間暴露した.
細胞毒性試験 ナノマテリアルを4日間暴露したPC12細胞プレートを用いて, LDHアッセイとMTTアッセイを行った.
結果と考察
結果 TiO2とZnOの分化PC12細胞に対する細胞毒性を評価した.今回用いた中で最も高濃度であった,終濃度100 ug/mLのTiO2を添加した後,MTTアッセイとLDHアッセイを行ったが最も高濃度のTiO2暴露でも細胞毒性は生じなかった.この結果はTiO2は分化PC12細胞に対して細胞毒性を示さない事を表している.ZnOを用いて同様の実験を行った所,TiO2の場合とは全く異なった結果が得られた MTTアッセイ,LDHアッセイの両方の場合で終濃度10 ug/mL以上で細胞毒性が生じた. MTTアッセイとLDHアッセイによるそれぞれのLD50値は,9.1 ug/mL及び,9.9 ug/mLである事が分かった.
考察 金属ナノマテリアルの中で,今回はTiO2とZnOを用いた.TiO2は主に化粧品などに用いられている.本研究において,TiO2は本研究で用いた最高濃度である,100 ug/mLでも細胞毒性を示さなかった.この結果は,TiO2は化粧品に含まれているが,これまで化粧品は顕著な健康被害を及ぼしていない事と相関があると推測される.ZnOも工業製品や化粧品などに幅広く使われているが,本研究においては10 ug/mL以上の濃度で分化PC12細胞に対して細胞毒性を示すことが分かった.近年,ナノ粒子ZnOが細胞毒性を示す原因の一つとして,ZnOが溶解して生じるZn2+が主な細胞毒性を及ぼしている事が報告されている.それゆえ,次年度以降は,細胞毒性を及ぼした時の分化培地に含まれるZn2+の濃度を定量し,ナノ粒子ZnOが及ぼす細胞毒性をZnO暴露の代わりに水溶性のZnCl2暴露で再現できるか否かを来年度以降,検討することが重要であると考えられる.
結論
分化PC12細胞の金属ナノマテリアルに対する細胞毒性を検討した所,ZnOの高濃度暴露で毒性が観察された.一方,TiO2は高濃度暴露でも毒性は認められなかった.今回は細胞毒性に着目して研究を行った.PC12細胞はNGF刺激により神経突起を伸展し,これは神経細胞における神経軸索伸長のモデルとなっている.次年度以降はこの突起伸長への金属ナノマテリアル,特にZnOとTiO2をの与える影響を検討する事を予定している.神経軸索伸長は動物の発達期に特に盛んに行われるため,突起伸展への影響検討は金属ナノマテリアルが胎仔や幼児期の成長段階における影響を考察する上で非常に重要な研究になると考えられる.

公開日・更新日

公開日
2016-06-02
更新日
-

収支報告書

文献番号
201329026Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,100,000円
(2)補助金確定額
2,100,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 151,848円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 1,948,300円
間接経費 0円
合計 2,100,148円

備考

備考
148円の差額は預金利息である.

公開日・更新日

公開日
2016-06-02
更新日
-