大量出血症例に対する最適輸血療法の確立に関する研究

文献情報

文献番号
201328045A
報告書区分
総括
研究課題名
大量出血症例に対する最適輸血療法の確立に関する研究
課題番号
H24-医薬-指定-036
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
宮田 茂樹(独立行政法人国立循環器病研究センター 輸血管理室)
研究分担者(所属機関)
  • 上田 裕一(公益財団法人 天理よろづ相談所病院)
  • 大北 裕(神戸大学医学部 心臓血管外科)
  • 碓氷 章彦(名古屋大学大学院医学系研究科 心臓外科)
  • 志水 秀行(慶應義塾大学医学部 心臓血管外科)
  • 佐々木 啓明(独立行政法人国立循環器病研究センター 心臓血管外科)
  • 西脇 公俊(名古屋大学大学院医学系研究科、機能構築医学専攻生体管理医学講座 麻酔・蘇生医学分野)
  • 香取 信之(慶應義塾大学 麻酔科)
  • 大西 佳彦(独立行政法人国立循環器病研究センター 手術部、麻酔科)
  • 前田 平生(埼玉医科大学総合医療センター 輸血・細胞治療部)
  • 松下 正(名古屋大学医学部附属病院 輸血部)
  • 紀野 修一(旭川医科大学 臨床検査・輸血部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
大量出血やそれに伴う濃厚赤血球製剤(RCC)大量輸血が患者予後を悪化させると報告されている(Ann Thorac Surg 2006;81:1650-1657など)。大量出血時には消費性凝固障害がおこり、止血機能の悪化を招く。しかし、循環動態の改善を優先し、まず、RCCや晶質液、人工膠質液などの大量投与を行うため、希釈性凝固障害を引き起こし、さらに止血機能を悪化させる。術中大量出血で、最も問題となるのは、大動脈置換術症例である。この患者群を対象として、フィブリノゲン製剤を中心とした大量出血症例に対する最適輸血療法を確立し、患者予後改善、血液製剤の有効利用につなげることを目的とする。
研究方法
主に以下の4つの臨床研究を実施した。
1)国内における大量出血症例[1日にRCC10単位以上輸血された症例]の輸血実態についてアンケート調査を用い、大量出血症例の実態把握を行った。
2)人工心肺補助下胸部大動脈手術症例に対する多施設共同後向き観察研究を実施し、フィブリノゲン製剤(フィブリノゲン濃縮製剤およびクリオプレシピテート)投与を受けた283症例を含む1056症例で、主にその安全性に対する検証を行った。
3)胸部、胸腹部大動脈瘤手術における輸血療法に対するランダム化比較試験の再解析を実施した。
4)フィブリノゲン濃縮製剤の早期薬事承認のための治験実施体制を構築した。

結果と考察
実施した主な4つの臨床研究の結果ならびに考察は以下の通りである。
1)本邦で、大量出血症例は、年間2.3万症例と推定され、RCCを約42万単位、新鮮凍結血漿(FFP)を約33万単位使用していると推計された。大量出血症例の47%は、心臓血管外科症例であった。よって、本研究で、心臓血管外科症例を中心とした大量出血症例の早期止血を図る最適輸血療法が確立されれば、RCCとFFPの全国年間使用量を大幅に減少させ得る可能性が示唆された。
2)フィブリノゲン濃縮製剤およびクリオプレシピテート投与による術後新たなウイルス感染症(B型肝炎、C型肝炎ウイルス、HIV)発症症例は認めなかった。多変量解析の結果、フィブリノゲン製剤投与は、術後血栓症(オッズ比1.489; 95%信頼区間 0.936-2.369, p=0.093)および感染症発症(オッズ比1.09; 95%信頼区間 0.579-2.053, p=0.79)に対して独立したリスク因子とはならなかった。
3)大量出血による人工心肺離脱直後に急性低フィブリノゲン血症を示した症例において、FFP投与と比較してフィブリノゲン製剤投与による急速なフィブリノゲン値の上昇が認められた(人工心肺離脱後1時間のフィブリノゲン値の上昇; フィブリノゲン製剤36.5±28.8 mg vs FFP 2.1±29.4 mg, p=0.0048)。また、術中フィブリノゲン最低値が、術中出血量もしくは術後24時間出血量と相関する傾向が認められた。
4)人工心肺使用大動脈置換術症例を対象とした国際共同多施設共同二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験の実施体制を構築し、治験を開始した。2013年10月から症例登録が開始され、順調に症例登録が進んでいる。
結論
既にoff-labelでフィブリノゲン製剤を使用している施設を含んだ多施設共同後向き観察研究では、フィブリノゲン製剤投与による術後新たなウイルス感染症発症は認められず、術後の血栓症、感染症発症についても独立したリスク因子とはならなかった。懸念された安全性に対して、ある程度のその安全性が実証されたと考える。また、大量出血による急性低フィブリノゲン血症症例に対するフィブリノゲン製剤の、フィブリノゲンの急速な補充に対する有効性が示され、それが、出血量減少につながることが示唆された。よって、本研究の最終目標である、患者予後改善、血液製剤の効果的有効利用を目指した大量出血症例に対する最適輸血療法の確立のためには、フィブリノゲン製剤を中心とした血液製剤の使用基準の策定が重要となる。実際、心臓血管外科症例を中心とした大量出血症例の早期止血を図る最適輸血療法が確立されれば、RCCとFFPの全国年間使用量を大幅に減少させ得る可能性がある。現在、フィブリノゲン濃縮製剤は本邦において薬事承認、保険適応がなく、この解決が喫緊の課題となる。このため、国際共同多施設共同二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験(治験)の実施体制を確立し、治験を開始した。現在、順調に症例登録がすすんでおり、今後も、早期薬事承認に向けた活動を継続する。今後、さらに、患者予後改善、血液製剤の効果的有効利用を目指した大量出血症例に対する最適輸血療法の確立を目指し、フィブリノゲン濃縮製剤を中心とした血液製剤の使用基準の策定のための研究を継続していく。

公開日・更新日

公開日
2017-05-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201328045Z