医薬品が関連した事故・インシデント事例の収集・分析システムの開発に関する研究

文献情報

文献番号
201328042A
報告書区分
総括
研究課題名
医薬品が関連した事故・インシデント事例の収集・分析システムの開発に関する研究
課題番号
H24-医薬-指定-033
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
土屋 文人(国際医療福祉大学 薬学部)
研究分担者(所属機関)
  • 澤田 康文(東京大学大学院薬学研究科)
  • 木村 昌臣(芝浦工業大学工学部情報工学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
2,920,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬局で発見あるいは発生したヒヤリ・ハット事例については、平成21年度より、日本医療機能評価によって収集・分析がなされている。しかしながら参加薬局数や報告数は当初想定されたものに比して低い状況が続いているのが現状である。
 薬局ヒヤリ・ハット報告制度が伸び悩んでいる原因としては、報告を行う側の薬局に係る問題と収集システムに係る問題を明らかにして改善策を検討することが必要と思われる。昨年の検討で、薬局側の問題としては、安全文化の醸成が不十分であることが判明した。また調剤エラー報告では確認不足で報告される事例に、更なる背景が存在することが判明した。そこで本年度は薬局に安全文化を醸成するための方策を検討すること、及び現行のシステムの疑義照会について改善すべき点があるのかについて分析を行うことにより、全体としてヒヤリ・ハット事例の報告を促進するための方策を検討する。
研究方法
①薬局からの報告促進策について
ヒヤリ・ハット事例報告を充実させるための方策として、「モバイル(動く)DI室」構想を計画し、群馬県、長崎県、鹿児島県を皮切りに、北海道、山形県、東京都、愛知県、京都府、広島県の 9 都道府県薬剤師会において試行した。
 都道府県薬剤師会の情報センターの職員を対象に2度にわたってワークショップを開催した。ワークショップの主題は「「医療現場での出来事の収集・解析から医薬品適正使用・育薬のための事例をつくる!」であり、ヒヤリ・ハット事例に関する情報素材の収集、詳細事例として作成するヒヤリ・ハット事例の提示、詳細事例として作成するヒヤリ・ハット事例の調査(インタビュー)、ヒヤリ・ハット事例の詳細解析について実践的な経験をすることができるように配慮した。

②報告システムの改善について
 報告システム改善に関する検討では、報告数が少ない原因の一つとしてヒヤリ・ハット事例発生時点と報告時点とで生じるタイムラグを解消する方法として、タブレット端末でも報告できるシステムを開発した。また、報告者を必ずしも限定する必要がないことから、当該施設の医薬品安全管理責任者の管理の下で複数の従業者が自由に報告できる仕組みも組み入れることとした。
 疑義照会については現行システムで報告された疑義照会事例を対象として、そこに含まれる単語と係り受けの関係の分析を行い、疑義照会を行う必要がありと判断した理由と疑義照会に関する情報源、疑義照会の結果を整理する、という観点が重要であることを確認した。
結果と考察
9都道府県においてモバイル(動く)DI室事業を試行的に実施したところ、高い評価を得ることができた。また、都道府県薬剤師会の情報センターの職員を対象としてワークショップを開催してモバイル DI 室でのヒヤリ・ハット事例の収集・提供(フィードバック)の意義を理解させることができた。
 薬局ヒヤリ・ハット報告システムの改善を検討するために今年度は疑義照会の報告システムについて検討を行った。過去に報告された約2000事例を解析したところ、疑義照会を行う必要があると判断した理由、疑義照会を行う必要があるかどうかを確認するための情報源、疑義照会を行ったことによって生じた結果のそれぞれの情報を収集する必要があることがわかった。疑義照会内容が時系列的にみて今後変化する可能性もあることから、今後なされる疑義照会事例を定期的に収集し同様の検討を行うことが望ましいと考えられる。
 一方、ヒヤリ・ハット事例報告を容易にできるための検討ではタブレット端末を利用して報告するシステムを構築することにより、容易に入力が行えることを確認した。このことはヒヤリ・ハット発生時期と報告時期とのタイムラグを解消する一つの方法であると考えられる。
結論
ヒヤリ・ハット事例報告促進策としてモバイルDI室事業は、報告を行う薬局薬剤師のモチベーションを上げることに大きく貢献するものと考えられる。今回は9都道府県であったが、今後この事業を拡大することにより、報告件数が大きく増加するものと思われる。都道府県薬剤師会情報センターに所属する薬剤師に対して、近接して2度のワークショップを開催したが、その参加者の啓発には有効であった。このように日常業務で発生しているヒヤリ・ハット事例をどのように報告するのか、あるいはどのように分析するのかということの理解を深めることが、結果的に報告数の向上に大きく寄与するものと考える。
 今年度開発された疑義照会報告システム、昨年度開発された調剤エラー報告システム及び各施設の医薬品安全管理責任者を中心とした複数報告者を設定可能なシステムについては、その有効性が示されたことから、今後薬局のみならず医療機関において実証実験を行うことを検討している。

公開日・更新日

公開日
2018-06-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-06-21
更新日
-

文献情報

文献番号
201328042B
報告書区分
総合
研究課題名
医薬品が関連した事故・インシデント事例の収集・分析システムの開発に関する研究
課題番号
H24-医薬-指定-033
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
土屋 文人(国際医療福祉大学 薬学部)
研究分担者(所属機関)
  • 澤田 康文(東京大学大学院薬学研究科)
  • 木村 昌臣(芝浦工業大学工学部情報工学科データ工学研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国の医薬品に関する事故あるいはヒヤリ・ハット事例の報告は、医療機関の場合は日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業として平成16年より、薬局におけるヒヤリ・ハット事例収集は同じく日本医療機能評価機構により薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業として平成21年より実施されている。医薬品に関する医療事故やヒヤリ・ハット事例は発生頻度が高いことから、これらの情報収集がなされ分析結果が年報や医療安全情報として臨床の場にフィードバックされるという形は定着しているといえよう。しかしながら、薬局ヒヤリ・ハット事例収集は医療機関の場合に比べ開始が遅かったこともあるが、参加薬局数や報告数は当初想定されたものに比して低い状況が続いているのが現状である。
 そこで本研究では、薬局ヒヤリ・ハット報告の伸び悩みの原因を薬局(薬剤師)の面からとシステム面との両面から検討し、報告制度をより活性化するために必要な点について検討を行う。
研究方法
システム開発面では初年度に調剤エラー報告に関して、2年目に疑義照会報告に関するシステムについて、日本医療機能評価機構で稼働している薬局ヒヤリ・ハット報告システム及び年報等の分析結果等を参考にしながら、報告システムの在り方について検討を行った。
 一方、報告する側の課題を明確にするために、初年度は日本薬剤師会のDI委員会において都道府県薬剤師会の薬事情報センターの職員を対象としてワークショップを開催し、ヒヤリ・ハット報告がなぜなされないのか、あるいは医療安全に関する意識調査を実施した。また、2年目はモバイル(動く)DIを9都道府県において実施しするとともに、前年同様に薬事情報センターの職員を対象にワークショップを開催し、ヒヤリ・ハット事例等を臨床現場で活用できるための方策について検討を行った。
 また、システムにおいて報告しやすさを検討するため、タブレット端末で報告できるような検討を行うとともに、1施設内で複数の者が報告できるようにするための方策についても検討を行った。
結果と考察
調剤エラーの報告ではその理由として確認不足が大多数を占めている。また、数量違いも多く報告がなされている。しかしながら、どのようなエラーが発生した場合であっても薬剤師は「確認不足」を選択することが避けられないことから、確認不足に至る背景を浮き出させることが必要と思われる。また、数量不足についても同様に、どのような包装形態において発生しているのかの背景情報を把握することが必要と思われる。
 また、疑義照会においては疑義照会の動機と結果は必ずしも一致しないことから、過去に報告された疑義照会事例について単語及びその係り受け状況を調査し、疑義照会に至った理由」「判断のもとになる情報源」「疑義照会を行った結果」が必要であることがわかり、それぞれに対しての選択肢を決定した。疑義照会事例は非常に幅が広いことから、今後更なる検討を加えることが必要と考える。
 タブレット端末による入力は薬局において利便性が増すことが確認された。また、セキュリティを考慮しながら医薬品安全管理責任者の下で施設内の誰もが報告できるような仕組みを構築した。この種の機能は今後医薬品のヒヤリ・ハット事例を医療機関に対しても拡大した場合に非常に有効となると思われることから、医療機関を対象として今回構築したシステムの検討を行う予定である。
 薬局(薬剤師)の医療安全に関する意識を高めるための方策として、モバイルDI活動の有用性が示された。また、都道府県薬剤師会の薬事情報センターの職員等を対象として、医療現場のトラブル事例などのヒヤリ・ハット事例について薬学的解析手順を経験し、「詳細事例」を完成させるためのワークショップを開催したが、ヒヤリ・ハット事例などの市販後情報を収集して解析することの重要性の認識と意識改革、さらには薬学的解析手法の習得に有効であったと考えられた。
結論
薬局ヒヤリ・ハット事例収集事業をより活性化させる方策を、薬局側と報告システム機能の2つの面から検討を行った。システム面においては、確認不足、数量違いについて、エラーの背景要因をもう一段階深く確認するシステムに変更することが重要とお思われる。疑義照会や報告方法の利便性を増す方法については、医療機関からの報告を可能にするためにも更なる検討が必要と思われる。
 報告するためのモチベーションを高めるための方策については、モバイルDI活動を全国に展開すること及び、今回都道府県薬剤師会の薬事情報センター職員等を対象としたワークショップの開催が有効であったことから、今後、各薬剤師会の支部レベルでこのような活動を行うことにより、薬局に勤務する薬局や薬剤師に対して安全文化を醸成するための有用な方策であると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2018-06-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-06-21
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201328042C

収支報告書

文献番号
201328042Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,790,000円
(2)補助金確定額
3,790,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,199,520円
人件費・謝金 1,337,100円
旅費 261,580円
その他 122,663円
間接経費 870,000円
合計 3,790,863円

備考

備考
自己資金863円

公開日・更新日

公開日
2014-06-10
更新日
-