文献情報
文献番号
201328024A
報告書区分
総括
研究課題名
薬剤性肺障害に関する包括的研究
課題番号
H24-医薬-指定-012
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
久保 惠嗣(信州大学医学部 内科学第一講座)
研究分担者(所属機関)
- 巽 浩一郎(千葉大学大学院医学研究院呼吸器内科学)
- 弦間昭彦(日本医科大学医学(系)研究科(研究院)呼吸器内科)
- 徳田 均(社会保険中央総合病院呼吸器内科)
- 斎藤 嘉朗(国立医薬品食品衛生研究所)
- 服部 登(広島大学大学院医歯薬学総合研究科呼吸器内科)
- 太田 正穂(信州大学医学部法医学)
- 花岡 正幸(信州大学医学部内科学第一講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
2,240,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
薬剤性肺障害は、分子標的治療薬や生物学的製剤の開発・上市に伴い、頻度の増加のみならず、新病態の出現など新展開をみせている。本研究では、薬剤性肺障害を、臨床的な観点および、基礎的な観点などから幅広く包括的に研究する。
研究方法
臨床的検討として、本邦における薬剤性肺障害の実態を把握するため、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA) のホームページ上で公開されている薬剤性肺障害の医薬品毎の集計値を収集した。
各薬剤性肺障害の臨床経過、画像所見などを検討するために研究者の所属施設で発症した症例および、製薬企業による医薬品副作用症例報告に報告された、全国の医療機関で診断された症例を解析した。
基礎的検討として、薬剤性肺障害の発症機序を検討するため、ボルテミゾブに注目した。本薬剤は薬剤性肺障害のパターンがcapillary leak syndrome様あるいは非心原性肺水腫パターンであることが報告されている。血管内皮細胞株 (HUVEC)を用いてCultrex® in vitro血管透過性アッセイキット (Trevigen, Inc.)によりボルテミゾブなど各種薬剤による血管透過性を測定した。
遺伝子学的検討として、間質性肺炎の血清学的マーカーに着目して検討を行った。特発性間質性肺炎と診断された232例と健常人 440例を対象とし、血清SP-D値をELISA法で測定した。さらに末梢血から抽出したゲノムDNAを用いてSFTPD遺伝子内の4種類の単塩基多型(SNPs)についてタイピングを行った。
発症に関与する遺伝子多型を検討するため、薬剤性肺障害群58例と薬剤性肺障害を高頻度に発症する薬剤を使用しながら発症していない非発症群66例を対象とした。血液から自動DNA抽出器を用いてDNAを得た。Genome-Wide Association Study (GWAS)で同定された薬剤性肺障害に統計学的有意な相関を示す遺伝子のSNPsのうち、HIVEP3とNME7遺伝子の相関に関する確認試験を行った。
各薬剤性肺障害の臨床経過、画像所見などを検討するために研究者の所属施設で発症した症例および、製薬企業による医薬品副作用症例報告に報告された、全国の医療機関で診断された症例を解析した。
基礎的検討として、薬剤性肺障害の発症機序を検討するため、ボルテミゾブに注目した。本薬剤は薬剤性肺障害のパターンがcapillary leak syndrome様あるいは非心原性肺水腫パターンであることが報告されている。血管内皮細胞株 (HUVEC)を用いてCultrex® in vitro血管透過性アッセイキット (Trevigen, Inc.)によりボルテミゾブなど各種薬剤による血管透過性を測定した。
遺伝子学的検討として、間質性肺炎の血清学的マーカーに着目して検討を行った。特発性間質性肺炎と診断された232例と健常人 440例を対象とし、血清SP-D値をELISA法で測定した。さらに末梢血から抽出したゲノムDNAを用いてSFTPD遺伝子内の4種類の単塩基多型(SNPs)についてタイピングを行った。
発症に関与する遺伝子多型を検討するため、薬剤性肺障害群58例と薬剤性肺障害を高頻度に発症する薬剤を使用しながら発症していない非発症群66例を対象とした。血液から自動DNA抽出器を用いてDNAを得た。Genome-Wide Association Study (GWAS)で同定された薬剤性肺障害に統計学的有意な相関を示す遺伝子のSNPsのうち、HIVEP3とNME7遺伝子の相関に関する確認試験を行った。
結果と考察
PMDAの公表資料の解析では肺障害の原因薬剤上位30品目中、21品目を抗悪性腫瘍薬が占めていた。
臨床背景検討のために、85例を解析した。胸部画像所見は種々のびまん性肺疾患と類似した陰影であり、多様であった。治療としては原因薬剤の中止、副腎皮質ステロイド薬の投与などが行われ、重症例では免疫抑制薬が併用された。多くの症例は改善したが、2例の死亡例もあった。薬剤性肺障害の臨床像は薬剤ごと、また基礎疾患ごとに多彩であり、積極的に疑うことが診断には必要であると思われる。
血管内皮透過性に及ぼす薬剤の影響を検討した結果、ボルテゾミブでは細胞のviabilityに影響のない濃度かつ臨床用量の血中濃度に近い条件下(20 ng/mL)で有意に透過性亢進が認められた。ボルテゾミブで見られる非心原性肺水腫様あるいはcapillary leak syndrome様の肺障害は、ボルテゾミブ投与後離脱時のサイトカイン発現に伴う炎症の誘導など様々なシグナル伝達経路への影響による肺胞上皮傷害などが提唱されている。しかし今回の検討から、肺胞上皮傷害以外に直接的な血管透過性亢進作用も肺障害の病態に関与している可能性が示唆された。
血清学的マーカーに関する検討では3種類のSNPsと血清SP-D値の間には有意な相関を認めた。SP-D分子は、N-terminal domain (NTD)、collagen domainなどの4領域から成り、NTD領域のジスルフィド結合によって多量体を形成することが知られている。これまでにNTD領域に位置するSNPsとSP-D分子の重合の程度が関連していることが報告されており、この重合の違いが血清SP-D値に影響を与えていることが推測される。本研究結果では、collagen domainに位置するSNPsと血清SP-D値の関連が明らかになり、この領域もSP-D分子の重合に関与している可能性が示唆された。
発症に関与する遺伝子に関してはHIVEP3遺伝子内の3種類のSNPs、NME7遺伝子内の3種類のSNPsが相関を示した。HIVEP3は急性炎症やアポトーシスなど免疫反応に中心的役割を果たす転写因子と競合作用し、転写因子を調節すると言われている。また、NME7は細胞分裂時に働く重要な分子、さらに遺伝子発現の減弱は癌抑制遺伝子の活性に影響すると言われている。これら遺伝子と薬剤肺障害発症との因果関係について機能的解析を含めた、より詳細な解析が必要である。
臨床背景検討のために、85例を解析した。胸部画像所見は種々のびまん性肺疾患と類似した陰影であり、多様であった。治療としては原因薬剤の中止、副腎皮質ステロイド薬の投与などが行われ、重症例では免疫抑制薬が併用された。多くの症例は改善したが、2例の死亡例もあった。薬剤性肺障害の臨床像は薬剤ごと、また基礎疾患ごとに多彩であり、積極的に疑うことが診断には必要であると思われる。
血管内皮透過性に及ぼす薬剤の影響を検討した結果、ボルテゾミブでは細胞のviabilityに影響のない濃度かつ臨床用量の血中濃度に近い条件下(20 ng/mL)で有意に透過性亢進が認められた。ボルテゾミブで見られる非心原性肺水腫様あるいはcapillary leak syndrome様の肺障害は、ボルテゾミブ投与後離脱時のサイトカイン発現に伴う炎症の誘導など様々なシグナル伝達経路への影響による肺胞上皮傷害などが提唱されている。しかし今回の検討から、肺胞上皮傷害以外に直接的な血管透過性亢進作用も肺障害の病態に関与している可能性が示唆された。
血清学的マーカーに関する検討では3種類のSNPsと血清SP-D値の間には有意な相関を認めた。SP-D分子は、N-terminal domain (NTD)、collagen domainなどの4領域から成り、NTD領域のジスルフィド結合によって多量体を形成することが知られている。これまでにNTD領域に位置するSNPsとSP-D分子の重合の程度が関連していることが報告されており、この重合の違いが血清SP-D値に影響を与えていることが推測される。本研究結果では、collagen domainに位置するSNPsと血清SP-D値の関連が明らかになり、この領域もSP-D分子の重合に関与している可能性が示唆された。
発症に関与する遺伝子に関してはHIVEP3遺伝子内の3種類のSNPs、NME7遺伝子内の3種類のSNPsが相関を示した。HIVEP3は急性炎症やアポトーシスなど免疫反応に中心的役割を果たす転写因子と競合作用し、転写因子を調節すると言われている。また、NME7は細胞分裂時に働く重要な分子、さらに遺伝子発現の減弱は癌抑制遺伝子の活性に影響すると言われている。これら遺伝子と薬剤肺障害発症との因果関係について機能的解析を含めた、より詳細な解析が必要である。
結論
抗悪性腫瘍薬などによる薬剤性肺障害の臨床像は多彩であり、ときに重篤な経過をとりうる。肺障害発症の予測因子あるいは発症の早期診断につながるような遺伝子学的、血清学的マーカーの研究、開発が必要である。
公開日・更新日
公開日
2015-04-28
更新日
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