全国のサリドマイド胎芽病患者の健康、生活実態に関する研究

文献情報

文献番号
201328020A
報告書区分
総括
研究課題名
全国のサリドマイド胎芽病患者の健康、生活実態に関する研究
課題番号
H23-医薬-指定-023
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
吉澤 篤人(国立国際医療研究センター 総合診療科)
研究分担者(所属機関)
  • 木村 壯介( 国立国際医療研究センター 病院長)
  • 前川 高天(独立行政法人国立病院機構京都医療センター 診療部(健診担当))
  • 栢森 良二(帝京大学医学部 リハビリテーション科)
  • 小林 毅(千葉県立保健医療大学 リハビリテーション学科作業療法学)
  • 蓮尾 金博(国立国際医療研究センター 放射線診療部)
  • 和田 達矢(国立国際医療研究センター 放射線診療部)
  • 今井 公文(国立国際医療研究センター 精神科)
  • 新保 卓郎(国立国際医療研究センター 臨床研究センター 医療情報解析研究部)
  • 志賀 智子(麻生 智子)(国立国際医療研究センター 人間ドック科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
15,400,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者交替 森吉百合子(平成23年度4月1日~平成25年度6月30日まで) →志賀智子(平成25年度7月1日~平成25年度3月31日まで)

研究報告書(概要版)

研究目的
サリドマイド胎芽病の上肢および顔面・聴覚器以外の障害や生活の実態について系統的な調査・研究が行われたことはない。被害発生から約50年を経た現在、生存しているサリドマイド胎芽病者の内臓器の欠損および異常を調査すること主目的とした。また、健康状態および生活の実態を調査し、適切な支援のあり方を検討することを副次的目的とした。地域において円滑に医療を受けられることを支援するため、医療者向けの「サリドマイド胎芽病診療 Q&A」を作成し、サリドマイド胎芽病者に提供することを特異的な目的とした。
研究方法
国立国際医療研究センター、京都医療センター、帝京大学病院の3施設で計24名の健診を実施した。
過去2年間の健診結果から、頸椎の塊椎の有無、側頭骨CTによる聴覚器の無・低形成、骨密度測定をオプション検査として加えた。2種類のカフサイズの血圧計で、両下肢の血圧を測定し上肢と比較した。医療者が検査に際して特段の配慮を要すると思われた事項をQ&Aに記載することとした。2名の研究協力者をドイツに派遣し、ドイツの代表研究者等と意見交換を行った。「生活実態調査票」を用いて実施したアンケート調査から得られた生活の問題点を国民生活基礎調査と対比しながら検討した。日本、英国及びドイツの調査結果の、精神科領域に関する記述を比較した。
結果と考察
3年間で健診を実施した76名(男性31名、女性45名)の結果から10名(13%)が先天性無胆嚢症であり、そのうち4名(40%)は塊椎であることが分かった。塊椎は76名中7名(9%)で、全員に上肢低形成があった。また、腹部超音波検査で40名(52.6%)が脂肪肝であった。通常診療で用いられるMサイズカフを用いて測定した場合、予測上肢収縮期血圧は0.88x(下肢血圧+8)mmHgである。京都医療センターの上部消化管内視鏡検査では2/3が経鼻を、1/3が経口を希望した。経鼻内視鏡は嘔吐反射が少なく鎮静剤が不必要であり、サイドマイド胎芽病者の健診に適している。サリドマイド胎芽病者は、日常生活に影響する自覚症状があり、受診頻度も多い。身体障害者手帳はほとんどの者が取得していたが、障害者自立支援法による障害区分判定を受けているものは少なく、制度もほとんど利用されていなかった。加齢とともに体力が衰え、就労継続困難による収入減少や介護の必要性といった将来の不安を多く抱えていることがわかった。また、日英独の調査報告書に共通して「痛み」という言語表現があった。地域で医療機関を受診する際に役立つ医療者向けのQ&Aを作成し、被害者の財団を介して一人につき2部、送付した。また、Q&Aの英独語版を作製した。
結論
壮年になった、サリドマイド胎芽病者はメタボリック症候群や骨粗鬆症の罹患率の増加が予想されるため、定期的に健康診断を行う必要がある。聴力検査、肩関節と骨盤X線撮影、しびれを訴える者には神経伝導検査をオプションとして加えることを検討すべきである。生活面ではニーズに合った多種多様な医療・福祉サービスの供給が求められている。英国とドイツの代表研究者及び被害者財団と交流し、各国の調査結果を比較検討すべきである。健康診断の結果を包含した、94項目の「診療Q&A」の英独語版は、今後の国際交流の基礎資料となるはずである。

公開日・更新日

公開日
2015-06-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201328020B
報告書区分
総合
研究課題名
全国のサリドマイド胎芽病患者の健康、生活実態に関する研究
課題番号
H23-医薬-指定-023
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
吉澤 篤人(国立国際医療研究センター 総合診療科)
研究分担者(所属機関)
  • 木村 壯介( 国立国際医療研究センター  病院長)
  • 栢森 良二(帝京大学医学部 リハビリテーション科)
  • 前川 高天(独立行政法人 京都医療センター 診療部 健診担当)
  • 小林 毅(千葉県立保健医療大学 リハビリテーション学科 )
  • 新保 卓郎(国立国際医療研究センター 国際臨床研究センター)
  • 蓮尾 金博( 国立国際医療研究センター  放射線診療部)
  • 和田 達矢( 国立国際医療研究センター  放射線診療部)
  • 今井 公文( 国立国際医療研究センター  精神科)
  • 志賀 智子(麻生 智子)( 国立国際医療研究センター  人間ドック科)
  • 森吉 百合子( 国立国際医療研究センター  人間ドック科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
被害発生から50年を経て、壮年期に入ったサリドマイド胎芽病者の健康と生活の実態を調査し、適切な支援のあり方を提言することを目的とした。薬害被害者の健康状態実態調査は厚生労働行政の課題であるため、本研究の結論は厚生労働行政の課題に関連するものである。
研究方法
1)健康診断
国立国際医療研究センター病院、帝京大学医学部附属病院および京都医療センターにおいて、76名(男性31名、女性45名)のサリドマイド胎芽病者に健診を行った。
2)生活実態調査
日本人のサリドマイド胎芽病者295人のうち公益財団法人「いしずえ」が住所を把握している286人を対象として「いしずえ」を通じて対象者に調査票を郵送した。回答者は201人(回収率70.3%)であった。また、全国5か所でグループヒアリング調査を行った。調査は三菱総研に委託した。
3)過去の診療記録の電子保存化
「いしずえ」倉庫内の保存されている過去の医療記録を整理し電子保存化した。目的は①本研究で調査したい過去のフィルムを閲覧可能な状態にする②本人が過去の医療情報の閲覧を希望した場合、情報が提供することができるシステムにする③災害等で記録が失われないようにする、の3点である。取り込み作業そのものはニチイ学館、電子保存化のシステム構築は小松電機に委託した。
結果と考察
1)3年間で健診を実施した76名中10名(13%)が先天性無胆嚢症であり、そのうち4名(40%)は塊椎であることが分かった。塊椎は7名(9%)で、全員に上肢低形成があった。また、腹部超音波検査で40名(52.6%)が脂肪肝であった。16人(21.1%)(男性41.9%,女性6.7%)が高尿酸血症で、同年代の日本人と比較して多かった。高尿酸血症、脂質異常症は動脈硬化、腎機能低下の危険因子と考えられ、健診による早期発見および食事・栄養指導を含めた早期介入が重要である。上肢低形成ないし欠損者の上肢収縮期血圧は0.88x(下肢血圧+8)mmHgで予測されることがわかった。健診結果に基づいた知見を纏め、サリドマイド胎芽病者の受診を支援することを目的とした94項目の医療者向けQ&Aを作成し、サリドマイド胎芽病者1名に2冊ずつ送付した。また、今後の国際交流の基礎資料となるため、Q&Aは英語およびドイツ語版も作成した。上部消化管内視鏡検査は、苦痛が少なく鎮静剤を必要としないため、訓練された医師による経鼻内視鏡を推奨することとした。採血が困難な上肢低形成者向けの健康診断手順を考案した。
2)サリドマイド胎芽病者が障害の区分と程度の個人差が大きいため、生活で困難を感じている事項が極めて多様であることがわかった。上肢障害者は家事や掃除など家庭内での作業に困っているがこれを支援するサービスが事実上ない。上肢障害者では22.1%が採血に困難を感じており、聴覚障害者の28.6%が「診察室への呼び込み、検査・診察時のコミュニケーション」が困難であることがわかった。身体障害者手帳の利用率は90%であったが、障害者自立支援法による障害区分判定を受けているのは6.5%で、89.6%が障害者福祉サービスを利用していなかった。加齢とともに体力の衰えを自覚しているため、就労継続困難による収入減少や介護の必要性といった将来像に不安を感じていることがわかった。同世代と比較して肩こりや腰痛の訴えが多いことは明らかである。精神的な問題と肩こり、腰痛については英国とドイツの報告書でも言及されており、何らかの援助が必要である。生活実態調査の概要は英語版も作成した。
3)「いしずえ」の倉庫に保存されていた紙媒体(3,081枚)の診療録等を、スキャナーで取り込んだ。過去のフィルムやスライド (3,033枚)はPDFに保存した。
結論
1)適切な支援のあり方について、10項目の勧奨と5項目の提言行い、本研究の結論とした。
2)加齢に伴う二次障害の疾患概念としてPost-thalidomide syndromeを提唱する。
3)障害者福祉サービスの制度の理解と利用を支援する必要がある。
4)本研究でサリドマイド胎芽病者の医学的問題がすべて解明されたわけではない。加齢に伴う新たな二次障害の調査と高尿酸血症、脂質異常症の診断と治療を目的とした健康診断の継続が求められる。
5)本研究の結果を、同様の障害に苦しむ英国とドイツ等の胎芽病者・研究者らと共有し、世界共通の診療ガイドラインを作成すべきである。

サリドマイドによる薬害被害者は障害をかかえつつ、懸命に生きている。サリドマイド胎芽病の「発生」は史実となったが、被害者の医療と福祉は今日的な課題である。医師および医薬品開発にかかわる企業と医療行政にかかわるすべての者は、この史実が未来への重要な警告を含んでいることを忘れてはならない。

公開日・更新日

公開日
2015-06-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201328020C

成果

専門的・学術的観点からの成果
壮年期に入ったサリドマイド胎芽病者に網羅的な健康診断を実施した世界で初めての研究である。塊椎と先天性無胆嚢症の頻度を明らかにした。また、高尿酸血症や脂肪肝の頻度が高いことから、健康診断と生活指導の必要性を提唱した。201名から回答を得た結果をまとめた生活実態調査の概要版は、英語版も作成し、英国の研究者に提供した。重要な研究結果は94項目の「診療Q&A」にも記載した。研究結果は日本より被害者の多いドイツと英国の医学研究者へも提供すべきと考え、「診療Q&A」の英語版とドイツ語版も作成した。
臨床的観点からの成果
健診を実施した76名中10名(13%)が先天性無胆嚢症であり、このうち4名(40%)に塊椎を認めた。塊椎は7名(9%)で、全員に上肢低形成があった。腹部超音波検査で40名(52.6%)が脂肪肝であった。16人(21.1%:男性41.9%,女性6.7%)が高尿酸血症で、同年代の日本人と比較して多かった。上肢低形成ないし欠損者の上肢収縮期血圧は0.88x(下肢血圧+8)mmHgで予測されることがわかった。両上肢が欠損している胎芽病者の全身麻酔の経験を誌上発表した。
ガイドライン等の開発
サリドマイド胎芽病の知識がなく、診療に戸惑う医師・看護師等に向けた「サリドマイド胎芽病診療Q&A」を作成した。上肢低形者の採血方法や上肢欠損者の血圧測定方法、上部消化管内視鏡検査(経鼻)の実際等を記載した。また、看護師および診療放射線技師が配慮すべき事項を加え、聴覚障害者の検査を支援する資料も掲載した。このQ&Aは今後の国際交流の基礎資料となるため、英語版とドイツ語版を作成した。国際交流の結果、「サリドマイド胎芽病診療国際ガイドライン」が策定されることを望むものである。
その他行政的観点からの成果
適切な支援のあり方について10項目の勧奨と5項目の提言を行った。障害者自立支援法の障害区分判定を受けているのは6.5%で、89.6%が障害者福祉サービスを利用していないことから、障害者福祉サービスの理解と利用を支援する必要性が明らかとなった。薬害の原点ともいえるサリドマイド胎芽病を対象とした本研究は、医薬品副作用により健康被害を受けた者の健康および生活実態調査として先駆的なものであり、今後のモデルとなり得る。
その他のインパクト
「ETV特集」というドキュメンタリー番組の制作を担当しているNHK制作局 第1制作センター(文化・福祉番組)のディレクターから本研究について取材を受けた。本年中に放映される予定である。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
2件
栢森良二:サリドマイド胎芽症,日本臨床,2014,(増刊号in press),栢森良二:サリドマイドと医療の軌跡,西村書店,東京,2013年12月
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
9件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
栢森良二
サリドマイド胎芽病者の50年
Japanese Jurnal of Rehabilitation Medicine , 50 (12) , 957-961  (2013)
原著論文2
Yuka Shiga, Atsuto Yoshizawa,Shoji Kawachi
Measurement of blood pressure in a thalidomide-impaired patient who required ovarian cystectomy: a case report
International Journal of Surgery Case Reports  (2014)
原著論文3
Imai K1, Iida T, Yamamoto M,
Psychological and mental health problems in patients with thalidomide embryopathy in Japan.
Psychiatry Clin Neurosci. , 68 (6) , 479-486  (2014)

公開日・更新日

公開日
2014-07-01
更新日
-

収支報告書

文献番号
201328020Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
20,000,000円
(2)補助金確定額
20,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,258,998円
人件費・謝金 1,608,576円
旅費 1,350,950円
その他 8,215,301円
間接経費 4,600,000円
合計 20,033,825円

備考

備考
差異 33825円の内訳は利息 52円、自己負担 33773円である。

公開日・更新日

公開日
2014-07-01
更新日
-