短鎖および中鎖脂肪酸の腸管免疫修飾作用と安全性評価

文献情報

文献番号
201327041A
報告書区分
総括
研究課題名
短鎖および中鎖脂肪酸の腸管免疫修飾作用と安全性評価
課題番号
H25-食品-一般-017
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
長谷 耕二(東京大学 医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 國澤 純(独立行政法人医薬基盤研究所)
  • 飯島 英樹(大阪大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
7,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、「お腹の調子を整える」効果を謳った特定保健用食品が数多く普及しているが、これらは腸内細菌の発酵能を利用して短鎖脂肪酸など代謝物の産生を促すプレバイオティスクが主体である。短鎖脂肪酸はこれまで生体への有効性が強調されてきた。一方、腸管には多くの免疫担当細胞が存在しており、食品との不適切な免疫学的相互作用は、アレルギーや炎症などの発症を引き起こすことが判明している。つまり、食事性成分や発酵代謝産物には、腸管免疫応答の方向性を左右することで、各種免疫疾患の発症につながる潜在的な危険性が予想される。しかしながら、腸内発酵の推進を目的としたプレバイオティクスと各種免疫疾患との関連については、これまで安全性評価の観点から十分に検証されていない。同様に、体に脂肪がつきにくいことで食用油としての消費が高まっている中鎖脂肪酸についても、そのほとんどが健康への影響が懸念されている飽和脂肪酸であることから、免疫学的安全性を検証する必要がある。そこで本研究では、炎症アレルギー性疾患との関連から、短鎖・中鎖脂肪酸の安全性について、基礎的・臨床的研究を遂行する。
研究方法
マウス大腸炎モデルとして、CD45RBhi細胞移入誘発性大腸炎モデルおよび卵白アルブミン誘発性下痢モデルを用いた。大腸炎モデルでは、野生型マウスの脾臓よりCD3+CD4+CD45RBhi細胞をフローサイトメーターにより単離し、これをRag1欠損マウスに尾静脈注射した。その直後より短鎖脂肪酸脂肪酸を餌に混ぜて投与を行った。細胞移入後6週間に亘り、体重を測定した。6週目に病理組織学的解析を行った。
ヒト試料のうち炎症性腸疾患患者(クローン病、潰瘍性大腸炎)および健常者(各々30例)由来の糞便および大腸剖検サンプルを現在採取中である。
結果と考察
1)炎症性腸疾患モデルにおける各種脂肪酸の影響
炎症性腸疾患では腸内細菌叢の異常がしばしば観察されることから、主要な腸内発酵代謝産物である短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)と病態との関わりが予想される。CD45RBhi細胞移入によりRag1欠損マウスに慢性大腸炎を誘導し(図1)、本モデルマウスに短鎖脂肪酸を食餌に混ぜて投与した。短鎖脂肪酸の投与により、盲腸および糞便中の短鎖脂肪酸濃度が上昇することを確認した。
本モデルでは大腸炎に伴う体重減少や大腸粘膜組織の肥厚が観察されるが、酪酸摂取群では、これらの症状が有意に抑制された(図2)。また制御性T細胞の割合が増加することが判明した。一方で、プロピオン酸や酢酸には大腸炎の抑制効果は認められなかった。これより、短鎖脂肪酸のうち酪酸は大腸炎に改善に有効であるとの結果が得られた。

2)食物アレルギーモデルにおける各種脂肪酸の影響
水溶性脂肪酸であり、腸内発酵によって生理的に産生される各種短鎖脂肪酸の食物アレルギーに対する安全性を評価したところ、大腸組織でプロピオン酸が大量に産生される特殊餌で飼育したマウスでは特にアレルギー誘導初期における顕著なアレルギー性下痢の増悪化が認められた。一方で別の短鎖脂肪酸である酢酸群では下痢発症に変化は認められなかった。
本食物アレルギーモデルはIL-4などのTh2型サイトカインの産生、アレルゲン特異的IgE抗体の産生、マスト細胞の大腸への集積、マスト細胞の活性化と脱顆粒、といった免疫学的連続反応によりアレルギー性下痢が誘導されるI型アレルギーモデルである。そこでプロピオン酸による腸管アレルギー増悪化の作用点を解析する目的で、アレルギーの誘導と発症において重要因子となるアレルゲン特異的IgEの産生とマスト細胞の脱顆粒を測定した。その結果、プロピオン酸群ではアレルギー性下痢の発症促進が起こっているのにも関わらず、アレルゲン特異的IgE産生、マスト細胞脱顆粒マーカーmMCP-1の産生に変化は認められなかった。

結論
酪酸には大腸炎を抑制する生理作用があることが判明した。一方、プロピオン酸には食物アレルギーを悪化させる可能性が示唆された。食品の安全性を考慮した場合には、腸内発酵を初めとする腸内環境への食品の影響を十分に考慮する必要がある。特にプロピオン酸を増加させる食品については免疫学的な安全性を考慮する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-

収支報告書

文献番号
201327041Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,490,000円
(2)補助金確定額
9,490,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 7,026,815円
人件費・謝金 0円
旅費 260,060円
その他 13,125円
間接経費 2,190,000円
合計 9,490,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-