地方衛生研究所の連携による食品由来病原微生物の網羅的ゲノム解析を基盤とする新たな食品の安全確保対策に関する研究

文献情報

文献番号
201327040A
報告書区分
総括
研究課題名
地方衛生研究所の連携による食品由来病原微生物の網羅的ゲノム解析を基盤とする新たな食品の安全確保対策に関する研究
課題番号
H25-食品-一般-016
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
調 恒明(山口県環境保健センター )
研究分担者(所属機関)
  • 小沢邦寿(群馬県衛生環境研究所)
  • 佐多徹太郎(富山県衛生研究所)
  • 四宮博人(愛媛県立衛生環境研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
8,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
米国における食中毒による社会的損失は年間7兆円との試算がある。我が国においても、食中毒患者数は発表されている実数よりも遙かに多く、食中毒による社会的損失は多大なものがあると考えられる。さらに、食品の流通は大規模、広域化し食中毒の探知は今後、古典的疫学調査による把握は、より困難になると思われる。本研究では、食中毒患者由来細菌株と食品由来細菌株のゲノムを、次世代シークエンサー(NGS)を用いて解析する事により、食中毒菌と食品との関連を明らかにすること、また広域的食中毒事例の早期探知のための新たな手法の開発のための基礎的データを得ることを目的として研究を行った。
研究方法
初年度である今年度は、NGS技術を習得するため、山口県、群馬県、愛媛県の地方衛生研究所の研究員を国立感染症研究所病原体ゲノム解析研究センターに派遣しそれぞれの研究所で分離した菌株のゲノム配列を決定した。今年度はまず、食中毒の原因菌として最も重要な菌の一つとしてサルモネラ属菌について主に解析を行った。山口県、愛媛県で患者から分離されたサルモネラ属菌O4:i:-株のゲノム配列を決定し、これまで報告されているサルモネラ属菌のゲノム配列と比較し、SNPsを抽出し、系統樹を作成した。また、鶏肉由来、豚舎由来、患者由来のSalmonella Infantis株のゲノム解析を行った。群馬県衛生環境研究所では腸管出血性大腸菌についてゲノム解析を行った。

結果と考察
本研究班により、地方衛生研究所で次世代シークエンサーを用いた解析が可能となったことは大きな成果であり、これをきっかけに公衆衛生の現場での活用が進む可能性がある。現在細菌分離株のゲノムを効率よく決定していく方法の確立を進めており、これにより我が国におけるゲノム解析に必要な予算等が試算できると思われる。同一アウトブレイクの食中毒事例から得られたサルモネラ属菌のコアゲノム配列を比較し、SNIPsを抽出したところ、完全に一致していた。また、同時期、同一地域に、食品及び患者から得られた株の配列もほぼ一致しており、ゲノム配列の決定によって同一汚染源による広域食中毒事例を検出できる可能性が示唆された。また、薬剤耐性プラスミドの解析により今後これらの知見を食品汚染対策に役立てることが可能と思われる。得られたゲノム配列を今後我が国のデータベースとしてどのように蓄積・利用していくのか、検討して行くことが重要となる。
結論
 技術的な検討では、MiSeqを用いて多検体同時ゲノム解析の条件を検討し、ほぼ満足できる結果が得られた。今後は、多数の菌株のゲノム情報を安定に得る事ができると思われる。
愛媛県、山口県で分離されたサルモネラ株のNGSゲノム解析では、H抗原の第2相の発現に関連する遺伝子領域(fljA, fljB等)が欠失するS. 4, 5, 12:i:- 株であることを明らかにした。愛媛株ではこれまで多数報告されて来たS. 4, 5, 12:i:- CVM23701株とは遺伝子欠失部分が異なっていた。一方、山口県の分離株はCVM23701株に類似していた。愛媛株プラスミドのNGS解析により、CTX-M-55遺伝子を有するESBL産生菌であり、そのほかの種々の薬剤耐性因子を保有することが判明した。一方、患者、食品(鶏肉)、家畜(豚)から分離されたS. Infantisのゲノム解析により食品と患者由来の菌の関連性を示すことが出来た。また、腸管出血性大腸菌でも同様のNGS解析により菌株の遺伝的関連を再現性よく示す事が可能なことが示された。

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201327040Z