母乳のダイオキシン類汚染の実態調査と乳幼児の発達への影響に関する研究

文献情報

文献番号
201327032A
報告書区分
総括
研究課題名
母乳のダイオキシン類汚染の実態調査と乳幼児の発達への影響に関する研究
課題番号
H25-食品-一般-008
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
岡 明(東京大学大学院 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 多田 裕(東邦大学 医学部 )
  • 中村 好一(自治医科大学地域医療学センタ-)
  • 板橋 家頭夫(昭和大学 医学部 )
  • 河野 由美(自治医科大学 小児科)
  • 松井 永子(岐阜大学 医学部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
7,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班では平成9年度より母乳のダイオキシン汚染による影響に関する調査を行いモニタ―を継続してきている。国として取り組んでいる環境対策により、環境中ダイオキシン類汚染は1970年代に比して格段に改善してきている一方で、母乳には母体に蓄積したダイオキシン類が高濃度に分泌されるために、生後1か月の乳児についてはいまだにダイオキシン類対策特別措置法に規定されている耐用一日摂取量に比較して非常に多量のダイオキシン類を摂取していることが明らかとなっている。母乳には多くの利点があり、厚生労働省も母乳は最適な栄養法として母乳育児を推進しているが、本研究では母乳中のダイオキシン類濃度を測定し汚染状況を継続的に調査するとともに、母乳栄養の安全性を検証する目的で児への影響調査を行なってきた。
研究方法
25歳から34歳までの初産婦の産後1か月の母乳の提供を受けダイオキシン類等の濃度を測定し、昨年度濃度測定した母乳で哺育された乳児の健康状態を1歳時に調査を行った。本年度は、岐阜大学医学部付属病院、自治医科大学病院、東府中病院にて30人から産後1か月の母乳提供を受けダイオキシン類の濃度測定を行うと共に、昨年度母乳提供を受けた1歳児健康調査について協力を得た。また、1997-2012年の期間について、初産婦全体における母乳中ダイオキシン類レベルの変化等経年的推移を統計的に評価した。またダイオキシン類濃度が測定された母乳で栄養された児全体をコホート群として、乳児期の発育や乳児期以後の行動発達の評価を行い、母乳を介したダイオキシン類汚染の影響を検討した。後者については、確立されている行動スクリーニング尺度「子どもの強さと困難さアンケート」を用いて行動の評価を行い乳児期の母乳を介したダイオキシン類汚染との関連を検討した。アレルギー性疾患についても、母乳中のダイオキシン類濃度と1歳時点での皮膚症状等の関連について検討した。なお本研究は東京大学医学部附属病院倫理委員会にて承認されている。
結果と考察
母乳中のダイオキシン濃度(PCDDs+PCDFs+Co-PCBsの合計)は、本年度は平均9.1 pg-TEQ/g-fat(SD 3.6 pg-TEQ/g-fat 、最低3.5pg-TEQ/g-fat、最高19.0pg-TEQ/g-fat、中央値8.7 pg-TEQ/g-fat)であり漸減傾向を示した。また1997年から2012年での統計的な検討でも、ダイオキシン類濃度の有意な低下が観察された。生後の1か月の母乳中ダイオキシン類と、ダイオキシン類対策特別措置法に規定されている耐用一日摂取量との比較については、調査開始当初は規定の約40倍を摂取していたが、近年は約20倍の摂取量となっていた。暴露は改善しているが耐用一日摂取量と比較すると依然として高い水準にあることが明らかであった。
過去に母乳中ダイオキシン類を測定した母乳で栄養されたコホート群にて、出生時および1歳の身体発育への影響評価として関連する交絡因子とともに重回帰分析を行ったが、ダイオキシン類汚染は出生時の頭囲に影響するものの、出生体重や身長、1歳時点の体格に有意な関連性はなかった。さらに、母乳を介した乳児期のダイオキシン類摂取と幼児学童期の行動との関係を行動スクリーニング尺度「子どもの強さと困難さアンケート」を用いて検討したが、行動上の問題と乳児期のダイオキシン類摂取との有意な相関を認めなかった。さらに交絡因子を加えた多変量解析を行ったが、乳児期のダイオキシン類摂取は児の行動上の問題の有意な要因とは認められなかった。また乳児期のアレルギー性疾患についても、1歳時点での皮膚症状との間に有意差は認められなかった。
結論
わが国はダイオキシン類の汚染を軽減させるために種々のダイオキシン対策を講じている。母乳中のダイオキシン類濃度は、長期間にわたる環境からの食品等を介した母体のダイオキシン類汚染を反映する指標として有用と考えられるが、母乳中のダイオキシン類濃度の年次推移では漸減傾向が認められており、母体の人体汚染についても改善傾向にあることは明らかであると考えられる。また、これまでの検討では乳児期の母乳を介したダイオキシン類摂取による発育や発達に対する明らかな影響は否定的であった。しかし、母乳中ダイオキシン類レベルから計算される乳児の摂取量は、ダイオキシン類対策特別措置法に規定されている耐用一日摂取量の約20倍であり、WHOも胎児乳児は特にダイオキシン類の影響を受けやすいことを指摘しており、今後も母乳中ダイオキシン類レベルのモニタリングと追跡調査が必要と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2018-07-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201327032Z