食品中の毒素産生微生物及び試験法に関する研究 

文献情報

文献番号
201327009A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中の毒素産生微生物及び試験法に関する研究 
課題番号
H23-食品-一般-011
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
鎌田 洋一(岩手大学 農学部)
研究分担者(所属機関)
  • 西川 禎一(大阪市立大学大学院 生活科学研究科)
  • 三宅 眞実(大阪府立大学大学院 応用生命科学研究科)
  • 宇治家 武史(カイノス株式会社 開発研究所)
  • 山本 茂貴(東海大学海洋水産学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究では、食品の安全確保を推進するため、毒素産生性食中毒細菌のなかで、ブドウ球菌、およびセレウス菌が産生する嘔吐毒素、ならびにウエルシュ菌下痢毒素とそれら毒素産生性細菌について、食品中から直接検出する試験法を開発するとともに、各細菌の食品危害性に焦点をあてたリスクプロファイルを作製し、食品衛生行政における食中毒発生予防施策作製に貢献することを目的とする。さらには、それぞれの食中毒の発生機構を分子レベルで解析し、学術的な貢献を行うことを目的とする。
研究方法
 セレウス菌が産生する嘔吐毒素(セレウリド)を検出する方法として、比較的安価な分析機器であるHPLCが適応できるかどうか検討した。
セレウリド産生性セレウス菌のみを特異的に検出する遺伝子検査法を開発した。セレウリド合成酵素遺伝子を含むcesオペロンを標的とした。Nucleic Acid Sequence-based Amplification(NASBA)・核酸クロマト法を採用し、セレウリド産生セレウス菌の迅速遺伝子検出法開発を検討した。
 黄色ブドウ球菌のリスクプロファイル作成のため、国内外の疫学的情報(食中毒発生件数、原因食品、患者数等)、新たに得られた分子生物学的な情報(感染性、発症機序等)、新たな診断法、予防法、治療法、リスク評価(用量反応等)についてインターネットから情報を収集した。
 ウエルシュ菌の腸管内挙動は全くの未解析のため、実験モデルを作製し検討をしてきた。胆汁酸の一種であるデオキシコール酸の芽胞形成および毒素産生への影響を検討した。
 ウエルシュ菌食中毒は、エンテロトキシンと呼ばれる毒素によって症状発現すると説明されている。一方、一部のウエルシュ菌食中毒事例菌株が新型下痢毒素を産生することを明らかにしてきた。次世代シークエンサーを用いて事例菌株のゲノム解析を行った。
結果と考察
 HPLCで測定するとセレウリドに明瞭なピークを認めた。一方、同ピークを質量分析器/液体クロマトグラフィーシステムで分析すると、合成セレウリドのピークと一致しなかった。バイオアッセイでセレウリドの存在を確認した検体では同ピークが検出され、陰性検体には同ピークは認められなかった。
NASBA・核酸クロマト法に最適化させたプライマーやプローブを用い、標的核酸の合成RNA(10コピー)を僅か10分の増幅時間で検出する能力を持つキットを開発した。米飯やチャーハンを含む5種の食品への菌接種試験の結果、104 cfu/gの感度でセレウリド産生セレウス菌を検出した。この感度は、セレウス菌食中毒の発症菌量よりも10倍高かった。
 黄色ブドウ球菌についてリスクプロファイルを作製した。黄色ブドウ球菌は菌が産生する耐熱性のエンテロトキシンによって中毒症状を発現させる。エンテロトキシンは菌増殖に伴って産生される。毒素は耐熱性を持つため、加熱加工食品中においても毒性を保持している。
 ウエルシュ菌の芽胞形成と毒素産生について、生体内成分であるデオキシコール酸がウエルシュ菌芽胞形成のマスター・レギュレーターであるSpo0Aタンパクに直接、あるいは間接的にその上流に作用した結果、芽胞形成とそれに続く毒素産生を強く誘導していることを明らかした。
 新型エンテロトキシン産生性ウエルシュ菌事例株のゲノム解析を行い、約3 Mbpの染色体と、2種類のプラスミドが存在することを明らかにした。
結論
HPLCによるセレウリド検出については、ピークそのものではないが、セレウリド産生と同調して産生される物質について、安価なHPLCで検出できることを示している。
セレウリド産生セレウス菌の遺伝子検査法として核酸クロマト法を開発した。本検出法は市場投入され、平成25年8月1日より市販された。
黄色ブドウ球菌のリスクプロファイルを作製した。菌が食品内で増殖中に耐熱性毒素を産生し、食品加工過程を経ても毒素が失活しないため食中毒が発生する。菌増殖を制御することの有用性と、加工食品中のエンテロトキシンを検出する重要性が認識された。
腸管内でのウエルシュ菌の増殖・芽胞形成・毒素産生について、胆汁酸に分類される一部の生体成分が、ウエルシュ菌の芽胞形成と毒素産生を強く誘導していることを明らかにした。ウエルシュ菌食中毒は毒素によって症状が発現するため、生体成分が引き金になり毒素産生に至ることを明らかにした本知見は、ウエルシュ菌食中毒発生機構を考える上で有意義なものと考えられた。
新型エンテロトキシン遺伝子は、事例菌が持つプラスミド中に存在することが明らかになった。同プラスミド中の遺伝子は毒素を除いて未知のものがほとんどで、プラスミドの解析により、ウエルシュ菌属での、新型毒素遺伝子の伝播様式が明らかになることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2018-06-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2018-07-03
更新日
-

文献情報

文献番号
201327009B
報告書区分
総合
研究課題名
食品中の毒素産生微生物及び試験法に関する研究 
課題番号
H23-食品-一般-011
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
鎌田 洋一(岩手大学 農学部)
研究分担者(所属機関)
  • 西川 禎一(大阪市立大学大学院 生活科学研究科)
  • 三宅 眞実(大阪府立大学大学院 応用生命科学研究科)
  • 宇治家 武史(カイノス株式会社 開発研究所)
  • 山本 茂貴(東海大学海洋水産学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究は、食品の安全確保を推進するため、食品中に混入する毒素産生微生物とその産生毒素に関し、リスクプロファイルの作製、細菌の食品内および生体内増殖機構、毒素産生機構、症状発現機構について解析すること、および食品中毒素および毒素産生細菌の試験法を開発することを目的とし、学術ならびに厚生労働行政に貢献する。本研究では、ブドウ球菌とその嘔吐毒素(エンテロトキシン)、セレウス菌とその嘔吐毒素(セレウリド)、およびウエルシュ菌とその下痢毒素(エンテロトキシン)を対象とした。
研究方法
 平成23年度はウエルシュ菌、平成24年度はセレウス菌、平成25年度は黄色ブドウ球菌のリスクプロファイル作成のため、以下の項目について検討した。国内外の疫学的情報(食中毒発生件数、原因食品、患者数 等)、新たに得られた分子生物学的な情報(感染性、発症機序 等、新たな診断法、予防法、治療法、リスク評価(用量反応等)についてインターネットから各菌に関する情報を収集した。
 黄色ブドウ球菌新型エンテロトキシンの食品内産生量およびmRNA発現動態を、各種の温度で検討した。また、牛乳中のエンテロトキシンをリアルタイムで検出する方法として、水晶発振マイクロバランス(QCM)法を応用した。同法は、抗体を吸着させたセンサーに毒素が結合するシグナルを電気的にとらえる方法で、毒素の存在が直ちにシグナルに反映する。
 セレウリドの抗菌活性を指標に、セレウリドの有無を簡便かつ迅速に測定するために、また、セレウリド産生性セレウス菌のみを検出できる遺伝子検査法の導入を試みた。
 既知のエンテロトキシンを産生しないにもかかわらず、培養液中に下痢性毒素を産生するウエルシュ菌W5052株が分離され、同株から新規の下痢毒素を、ゲノム解析と網羅的タンパク質解析から同定した。ウエルシュ菌の腸管内での動態を解析するため、実験モデルを作成し、種々の生体成分を加え、菌の芽胞産生と毒素産生動態を分析した。
結果と考察
 ウエルシュ菌、セレウス菌、および黄色ブドウ球菌についてリスクプロファイルを作成した。ウエルシュ菌食中毒は、患者数が数百に達するような大規模型の発生をする。菌の芽胞形成時に産生されるエンテロトキシンによって下痢が誘発される。腸管内でのウエルシュ菌の挙動には不明のことが多い。ウエルシュ菌はエンテロトキシン以外の、下痢誘発活性を持つ毒素が存在する。黄色ブドウ球菌は嘔吐を誘発するエンテロトキシンを産生する。セレウス菌は嘔吐を誘発するセレウリドを産生する。いずれも耐熱性毒素である。
黄色ブドウ球菌では最近、新型エンテロトキシンが次々と同定された。それら新型エンテロトキシンの食品中での産生動態を検討した。新型エンテロトキシン遺伝子を持つ黄色ブドウ球菌は、室温程度での食品の放置により、毒素遺伝子mRNAの発現ならびに毒素タンパク質の産生が起こり、新型エンテロトキシンの食中毒誘発性が確認された。牛乳中のエンテロトキシンのリアルタイム検出法として、QCM法を応用した。検出用抗体に金コロイドを標識することにより、牛乳中に5 ng/mlのエンテロトキシンが存在すれば検出可能が可能だった。
セレウリドの新規バイオアッセイ法の開発を試みた。セレウス菌と類縁のB. sporothermoduransはセレウリドに対して阻止円を形成した。また、核酸クロマト法によりセレウリド産生性セレウス菌のみの検出が可能となり、製品化した。これらは新規の毒素および毒素産生菌検査法の基盤となる。
次世代シークエンサーを用いて、ウエルシュ菌新型下痢毒素の候補遺伝子を探査した。その結果、2成分毒素の存在が確認された。生体内成分でウエルシュ菌の芽胞形成と毒素産生が惹起することが分かった。既知エンテロトキシンを産生しないウエルシュ菌も多い。食品中からエンテロトキシン産生性ウエルシュ菌を検出する、核酸クロマト法を検討し、製品化した。
結論
 毒素によって食中毒症状を引き起こす細菌のリスクプロファイルを作成した。耐熱性の毒素は加工で失活しないため、喫食直前の食品からの毒素の検出方法が重要となる。黄色ブドウ球菌やセレウス菌の嘔吐毒素の検出法開発、毒素産生菌の遺伝子検査法開発を行い、新型毒素が食中毒危害性を持つこと、新規の遺伝子検査法の製品化を行った。ウエルシュ菌では新型エンテロトキシンを分離した。同菌は既知のエンテロトキシンを産生せず、従って、ウエルシュ菌食中毒原因株として同定できないという疫学上の矛盾があったが、本研究により、毒素の存在が確認され、今後ウエルシュ菌食中毒の実態が明らかになることが期待された。また、腸管内でのウエルシュ菌の動動態、特に芽胞形成と毒素産生に、生体成分が必要なことが明らかになり、同菌食中毒発生メカニズム研究に新しい切り口を開いた。

公開日・更新日

公開日
2018-06-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

総合研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2018-07-03
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201327009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
・ブドウ球菌の新型エンテロトキシンが、食中毒危害性を示すことを証明した。
・ブドウ球菌のエンテロトキシンをリアルタイムで検出する方法を開発した。
・食品中から毒素産生性のウエルシュ菌およびセレウス菌を検出する方法を開発した。
・ウエルシュ菌の新型下痢毒素を単離した。
・ウエルシュ菌の、増殖・芽胞形成・毒素産生に亘る腸管内動態を始めて明らかにした。
・セレウス菌嘔吐毒素の簡便な検出方法を開発した。
・ウエルシュ菌・セレウス菌・ブドウ球菌の食中毒リスクを解析した。
臨床的観点からの成果
・ブドウ球菌のエンテロトキシンをリアルタイムで検出する方法を開発した。
・食品中から毒素産生性のウエルシュ菌およびセレウス菌を検出する新原理の分子生物学的方法を開発した。同法は、油脂の含まれる難検査性の食品についても有効だった。
・セレウス菌嘔吐毒素の簡便な検出方法を開発した。同法は、同毒素の抗菌活性を利用する方法で、応用性が非常に高い。
・ウエルシュ菌の新型毒素が同菌食中毒の原因になることを明らかにした。今後、新型毒素の検出法などの開発の必要性を示した。
ガイドライン等の開発
本研究はガイドラインを策定する方向性を持っていない。
その他行政的観点からの成果
ブドウ球菌食中毒には古典的なエンテロトキシンの検出方法があり、同毒素が検出されたときのみ、食中毒事例として届けられる。新型エンテロトキシンに食中毒気合性が証明されたことから、ブドウ球菌食中毒発生の疫学情報が刷新できる、同様に、ウエルシュ菌食中毒においても新型毒素を発見し、その病原性を証明したので、ウエルシュ菌食中毒についても、疫学情報を刷新可能となる。食中毒と並んで、食品そのものを検査し、毒素産生セレウス菌およびウエルシュ菌を含む食品を排除できる方法は、今後の行政指導に有用な手段となる。
その他のインパクト
専門の国内国際学会で発表を行った。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
16件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2018-06-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201327009Z