文献情報
文献番号
201327006A
報告書区分
総括
研究課題名
野生鳥獣由来食肉の安全性確保に関する研究
課題番号
H23-食品-一般-008
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
高井 伸二 (北里大学 獣医学部)
研究分担者(所属機関)
- 門平 睦代(帯広畜産大学 畜産生命科学部門)
- 青木 博史(日本獣医生命科学大学 獣医学部)
- 村田 浩一(日本大学 生命資源科学部)
- 前田 健(山口大学 農学部)
- 小野 文子(千葉科学大学 危機管理学部)
- 山本 茂貴(東海大学 海洋学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
10,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
わが国でも、近年、シビエとして野生動物肉の需要が増えているが、野生動物肉を安全且つ適正に利用するためのシステムは整っていない。本研究班では野生動物の生態学者、各野生動物の専門家、行政経験者、疫学者、疾病診断の専門組織などをチームとし、現地調査やアンケート調査を通じて全体像を把握し、行政のネットワークを利用して野生動物の採材、病原体保有状況の調査、疫学的背景に基づく科学的な野生動物由来肉のリスク評価を行い、ガイドラインを作成し、適正なリスク管理措置を提言することを目的とする。
研究方法
以下の7つの項目について、研究を実施した。①シカとイノシシの糞便診断結果の統計分析とリスク評価方法の応用並びに、エゾシカとイノシシの年齢分布に関する文献を参考に、直接方法を使った保有率の標準化と採取されたサンプルの年齢分布と文献データとの比較、②-1)野生鳥類とくにカモ類の食肉利用について、それらを提供している飲食店および直販業者に関する情報をインターネット等で収集、2)直販業者から購入した鳥類死体から各種病原体検査用の試料を採取し保存、3)狩猟者と業者から入手した野生カモ類の筋肉、肝臓および脳からサルモネラ菌とカンピロバクター菌の分離培養および遺伝子検出、4)同左検体からのトキソプラズマ原虫の遺伝子検出および抗体検査、③-1)平成24および25年度に本事業で収集されたシカおよびイノシシの血清について豚丹毒抗体および牛ウイルス性疾病3種の抗体測定、2)豚丹毒および牛ウイルス性疾病の抗体検査結果について、年齢、地域および動物種などを指標とした分析、3)感染様式および伝播リスク等を推察、④-1)イノシシとシカにおける普遍的な診断法の確立、2)イノシシとシカにおけるE型肝炎感染状況の調査、3)イノシシとシカにおける日本脳炎ウイルスとブルセラ菌の感染状況の調査、4)イノシシにおける仮性狂犬病ウイルスの感染状況の調査、5)すべての動物に応用できる日本脳炎ウイルス血清学的診断法の開発、6)イノシシとシカの肉眼病変部位の採集とその記録、7)寄生虫に関する記録、⑤-1)イノシシとシカにおける糞便中の寄生虫、細菌の検索、2)血清保存、3)筋肉および臓器の病理組織検索、4)野生獣肉処理施設のふき取り検査、⑥野生鳥獣食肉による海外及び国内の食中毒の発生状況調査をインターネットおよび文献から情報収集を行った。⑦3年間の研究成果に基づいて、ガイドライン「野生鳥獣食肉の安全性確保に関する報告書~より衛生的な取扱いを行うための指針策定に向けて~」の作成を行う
結果と考察
①シカ(153頭)とイノシシ(137頭)の年齢推定結果に基づき、サンプルの代表性が確認できた。2012年に実施したウェブ調査の結果と糞便細菌診断結果を活用することで、野生動物由来食肉のリスク評価を実施することができた。②-1)ネット検索エンジンやツイッター等のSNSを利用することで、野生カモ肉の国内流通に関する概要把握が可能であることが分かった。99羽の野生カモにおいて、狩猟鳥1羽(1.7%)、市販野生カモ類3羽(7.3%)からカンピロバクター菌が分離された。野生カモ類86羽の内、市販野生カモ類の肝臓1検体および筋肉3検体からトキソプラズマ原虫遺伝子が検出され全羽数の陽性率は4.7%、市販カモ類の陽性率は10.5%であった。③シカ血清46検体・イノシシ血清48検体の豚丹毒の生菌凝集抗体、ラテックス抗体検査一致率はシカ95.6%、イノシシ93.75%で、シカおよびイノシシのいずれも年齢差、地域差および動物種差はみられなかった。シカ血清から牛ウイルス性疾病3種に対する抗体はほぼ検出されなかった。④すべての哺乳類に適用できるE型肝炎ウイルス血清診断法の開発に成功した。イノシシのE型肝炎ウイルス感染率は非常に高いが、シカの感染率は非常に低いことが判明した。⑤糞便からサルモネラおよび病原性大腸菌が検出された。病理検索において肉眼的に異常は認められなくても、高率に寄生虫体および寄生虫感染に起因する病変が認められたこと。⑥食中毒の原因物質としてトリヒナ、サルモネラ属菌、腸管出血性大腸菌、E型肝炎ウイルスなどが主要なものであった。⑦ガイドライン「野生鳥獣食肉の安全性確保に関する報告書~より衛生的な取扱いを行うための指針策定に向けて~」が平成26年3月末に完成した。
結論
野生動物肉を安全且つ適正に利用するため、現地調査・野生動物の採材・病原体保有状況の調査・アンケート調査を通じて野生鳥獣肉の全体像が把握され、E型肝炎診断方法の開発を始め、疫学調査の基盤を整備し、更には、疫学的背景に基づく科学的な野生動物由来肉のリスク評価を行い、ガイドラインを作成することが出来た。
公開日・更新日
公開日
2015-06-26
更新日
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