文献情報
文献番号
201325032A
報告書区分
総括
研究課題名
地理的境界を超えた安全な医療情報連携に関する研究
課題番号
H24-医療-一般-033
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
松本 武浩(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
- 廣瀬 弥幸(長崎大学病院 医療情報部)
- 川崎 浩二(長崎大学病院 地域医療連携センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
6,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
質の高い地域完結型医療の実現に向け、地域医療ICT連携ネットワークは極めて有効であるが、臨床現場で真に有益なネットワークは少ない。ましてや医療圏を超えた広域ネットワークの有効運用事例はさらに少ない。本研究では臨床現場で有用で、継続可能なネットワークの条件を検討し明らかにするとともに、地理的境界を超えた広域ネットワークを構築する上での課題を示し、実効性のある「どこでもMY病院」モデルを導きだすことを目的としている。
研究方法
1.全国最大規模の成功例とされる長崎県の「あじさいネット」の仕組みと運用方法を詳細に分析し 全国の他の事例と比較した。「臨床現場で利用価値のあるネットワーク構築の検討」
2.全国47都道府県県庁健康福祉関連部署および各県医師会に対し、地域医療ICT連携ネットワーク構 築状況に関するアンケート調査を実施した。「全国アンケートによる地域医療IT連携の取り組み 状況と医療圏を超えた連携ニーズの評価」
3.「あじさいネット」ユーザーに対し医師、薬剤師、看護師毎に「あじさいネット」の有用性と効 果を評価した。「ユーザーアンケートによるあじさいネットの有用性と地理的境界を超えた医療 情報連携に必要な条件についての研究」
4.長崎大学病院の退院支援を担う病棟看護師を対象に継続看護に向けての情報共有に関するアンケ ート調査を行った。「患者情報共有ツールとしての看護サマリー関する意識調査」
5.病院の診療所や他の医療機関との間を結ぶ地域連携部門の視点から「あじさいネット」を評価し た。「地域医療連携を担う実務者の連携に関する検討」
6.佐賀県のNHO嬉野医療センターが佐賀県の地域医療ICTネットワークと長崎県の「あじさいネット 」の両者を利用している点から、二つの異なるシステムを利用する上での課題と対応を検討した 。「複数の地域医療連携システムへの対応についての研究」
2.全国47都道府県県庁健康福祉関連部署および各県医師会に対し、地域医療ICT連携ネットワーク構 築状況に関するアンケート調査を実施した。「全国アンケートによる地域医療IT連携の取り組み 状況と医療圏を超えた連携ニーズの評価」
3.「あじさいネット」ユーザーに対し医師、薬剤師、看護師毎に「あじさいネット」の有用性と効 果を評価した。「ユーザーアンケートによるあじさいネットの有用性と地理的境界を超えた医療 情報連携に必要な条件についての研究」
4.長崎大学病院の退院支援を担う病棟看護師を対象に継続看護に向けての情報共有に関するアンケ ート調査を行った。「患者情報共有ツールとしての看護サマリー関する意識調査」
5.病院の診療所や他の医療機関との間を結ぶ地域連携部門の視点から「あじさいネット」を評価し た。「地域医療連携を担う実務者の連携に関する検討」
6.佐賀県のNHO嬉野医療センターが佐賀県の地域医療ICTネットワークと長崎県の「あじさいネット 」の両者を利用している点から、二つの異なるシステムを利用する上での課題と対応を検討した 。「複数の地域医療連携システムへの対応についての研究」
結果と考察
全国の地域医療ICTネットワークは病診連携が中心で、汎用の中継サーバ利用が多い等「あじさいネット」と類似したシステムや運用で展開されている地域が多いことが判明した。これは10年もの「あじさいネット」の広域化と規模拡大化の経過の中で全国のシステム形態と運用方法に影響を与えている可能性があるものと思われた。一方、医療圏を超えた連携については、県境の医療圏間の連携ニーズのみが存在することが明らかになった。一方、「あじさいネット」のようなICT連携は、地域医療連携・医療安全・多職種連携・患者満足・業務負担軽減にも寄与することが明らかとなった。このような事実や効果を全国に広く啓蒙することで自然な「地理的境界を超えた連携ニーズ」を生むものと考えられた。看護連携においては、現状の看護サマリーだけでは不十分であり、特に「診療の補助に関する情報」が不足していた。このため今後、地域内継続看護で必要な情報を再定義、標準化し、地域医療ICT連携ネットワーク上で共有することが必要と考えられた。病診連携における急性期病院側の評価では、「あじさいネット」の病診連携機能が、退院後の安全でスムーズな診療所や在宅への移行に効果的であることが示された。また患者本人や家族が安心して在宅医療を受けられるための退院時共同指導に対し「あじさいネット」の「TV会議機能」を利用した参加と担当者の教育の面で「あじさいネット」の「オンデマンドビデオ配信」機能が有効と判断された。実際に運用している実務者による異なるネットワーク間の連携における課題は、運用方法とセキュリティポリシーの違いであったが、運用に関しては、両者の運用を熟知し同意書の違いで運用を切り替えることで解決した。セキュリティポリシーの違いについては両者のセキュリティポリシーを同時に満たす新たなセキュリティポリシーを内部で設定することで対応が可能であった。
結論
地理的境界を超えた安全な医療情報連携を実現する上で、「あじさいネット」の運用やシステムはモデルとして有効であることが明らかになった。現時点で県境を大きく超えた連携ニーズは乏しいが、全国で地域医療ICT連携ネットワークの効果がより明確になりその必要性が認識されていくことで自然な連携ニーズが生まれるものと推測される。その際には運用とセキュリティポリシーの相違が課題となるため、早急な全国共通のセキュリティポリシーが必要である。これは政府主導でなければ進まないものと思われる。本研究により、高品質な地域完結型医療の実現に向け、地域医療ICTネットワークの重要性の啓蒙と実際の普及が極めて重要であることが示唆された。この知見に関し多くの地域において認識を深めていく必要があるものと思われる。
公開日・更新日
公開日
2015-06-09
更新日
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