精神障害者及び家族のホームヘルプニーズに関する研究

文献情報

文献番号
199800279A
報告書区分
総括
研究課題名
精神障害者及び家族のホームヘルプニーズに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
飛鳥井 望(東京都精神医学総合研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
精神障害者ホームヘルプ事業の今後の展開のために,全国規模でのサービス需要を予測し,また実際のサービス利用者におけるサービス効果を検証する。
研究方法
全国各地方より16自治体計74の保健所ないし精神保健福祉センターを任意に抽出した。各施設に所属する保健婦ないし精神保健相談員全員を対象として,調査期間(3ヶ月カ月間)に1度以上自宅訪問するか,あるいはデイケア通所などを通じて,本人の生活状況を把握している精神障害者全例について,診断や生活状況と生活能力,ホームヘルプや訪問のニードなど21項目に関する質問紙調査を行った。
また別に世田谷区における精神障害者ホームヘルプ事業の利用者30名に関して,ヘルパーと地区担当保健婦ないしケアマネージャー等の2者を対象として,各利用者に関する聞き取り面接調査を実施し,利用者の人口動態的データ,派遣の決定者,実際の派遣開始からの月数と頻度,ホームヘルプの援助領域,ヘルパーによる援助量,社会的機能及び家族の負担軽減等9項目のレベルを評価した。それぞれの機能レベルを,サービス開始時点,開始後1ヶ月,現在(ないし最終)の3時点について評価し,ホームヘルプサービスの1次効果として援助量の減少度,2次効果として社会的機能及び家族の負担軽減等の改善度を検討した。
結果と考察
調査した各施設において,調査期間中に保健婦ないし精神保健相談員がかかわった精神障害者は4,184例であった。性別は男性が55%で,診断は精神分裂病及び近縁障害(精神分裂病圏)が75%と多数を占めた。日常生活技能の現状評価では,何らかの援助が必要とされた者の割合が多かったのは,「バランスのよい食事摂取」43%,「身体健康の管理」35%,「最低限の掃除」33%,「金銭管理」32%などであった。ヘルパー派遣のニーズは,週3回以上5%,週2回7%,週1回12%,月1-2回13%であり,月1-2回以上を合わせると37%,週1回以上を合わせると24%であった。これに比べて,現在ホームヘルプサービスを受けている者の割合は6%のみであった。調査参加した各自治体保健所が管轄する人口の合計は約15.8百万人であり,これは全国人口の約12.5%に相当した。これらの割合をもちいた結果からすると,少なくとも地域の保健婦ないし精神保健相談員が生活状態を把握できている精神障害者にかぎったとしても,ヘルパー派遣を必要とする者は,全国で約12,400人程度存在すると推測された。当然ながら,生活状態がまだ把握されていない精神障害者や,今後退院可能性のある入院精神障害者の需要を含めれば,この人数はさらに増加するであろう。ちなみに今回の調査対象者の75%を占めた精神分裂病圏にかぎってみると,ヘルパー派遣の必要ありとされた者は36%であった。精神分裂病患者の全国総数は24万6500人と推計されている。したがって仮に,保健婦等により生活状態を把握されていない外来精神分裂病患者についても,今回の調査結果とほぼ同等のホームヘルプニーズが存在するとしたならば,外来精神分裂病患者でヘルパー派遣を必要とされる者は8万9千人程度となる。
世田谷区における精神障害者ホームヘルプサービス利用者30名に関する調査では,最も優先度が高いとされた援助領域は,食事12名,掃除9名,生活リズム5名,買い物3名,身だしなみ1名であった。援助領域の種類によらず,優先度順に上位2位までの領域の評価ポイントを利用者ごとに合計し,開始時,開始後1ヶ月,現在の各時点を比較することで援助量の変化を見た。その結果,ヘルパーによる評価では,開始時点と比べて1ヶ月後時点の援助量は1.4ポイント,現時点(ないし最終)の援助量は2.6ポイントと有意に減少していた。同じく保健婦ないしケアマネージャー等の評価においても,開始時点と比べて1ヶ月後時点の援助量は2.1ポイント,現時点(ないし最終)の援助量は3.3ポイントと有意に減少していた。この結果より,利用者の生活技能の向上というホームヘルプサービスの1次効果が確かめられた。一方,意欲,人付き合い,生活の広がりといった社会的機能や家族の負担軽減等に関しても有意に改善が認められ,ホームヘルプサービスには1次効果のみでなく,あきらかに2次効果が存在することも同様に確かめられた
結論
全国16自治体の保健婦及び精神保健相談員を対象とした調査の結果,居宅精神障害者のうちで,ヘルパー派遣が必要と判断された者の割合は37%であり,週1回以上の派遣が必要とされた者は24%であった。援助が必要とされた者の割合が大きかったのは「バランスのよい食事摂取」,「身体健康の管理」,「最低限の掃除」であった。また別に,すでに実施されている精神障害者ホームヘルプサービスの利用者30名について効果調査を実施した。その結果,ホームヘルプサービスには,1次効果(生活技能の向上とそれに伴う援助量の減少)だけではなく,2次効果(社会的機能の改善及び家族の負担軽減等)も存在することが検証された。

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