難治性炎症性腸疾患の腸内フローラ・メタゲノム解析と抗菌薬療法の有効性の評価解析

文献情報

文献番号
201324147A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性炎症性腸疾患の腸内フローラ・メタゲノム解析と抗菌薬療法の有効性の評価解析
課題番号
H25-難治等(難)-一般-031
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
黒田 誠(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター )
研究分担者(所属機関)
  • 大草 敏史(東京慈恵会医科大学附属柏病院 消化器・肝臓内科)
  • 加藤 公敏(日本大学医学部附属板橋病院)
  • 杉山 敏郎(富山大学医学部第3内科・消化器造血器腫瘍制御内科学)
  • 廣田 良夫(大阪市立大学大学院医学研究科公衆衛生学)
  • 神谷 茂(杏林大学医学部感染症学)
  • 福田 真嗣(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
22,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 潰瘍性大腸炎(UC)は、個有の遺伝的背景に“特有の腸内細菌フローラ”が増悪に関与しているとの報告がある。もし感染症であれば抗菌薬による治療が有効だと想定され、実際に、三種の抗菌剤(ATM: アモキシシリン/テトラサイクリン/メトロニダゾール)を二週間投薬するだけで1年以上緩解する治験成績が報告されている。この成果報告から、抗菌薬治療の前後で変動する細菌フローラ組成を深く理解し、寛解・健常維持に不可欠な細菌フローラのバランスを解明できるものと考えられている。本研究では、難病の発症・増悪を環境因子(後天的因子)としてヒト微生物フローラに着目し、先天的な遺伝型と複合的に生じうる発症メカニズムの解明を目的とする。将来的には、本研究により特定した病原体ゲノム情報を基盤とした迅速診断法の開発や、最適な抗菌薬選択にも資する基盤となる。
研究方法
 H22-24年度において厚労班研究課題「抗菌剤治療により寛解する難治性炎症性腸疾患患者の網羅的細菌叢解析と病因・増悪因子細菌群の解明(H22-新興-若手-019、代表:黒田誠)」で8名のUC患者便・腸内フローラ解析を行った。H24年度終了時点では、治療前において特有の系統群である大腸菌が優勢に検出されることを見出した。本研究課題では更に患者人数を追加して、抗菌剤治療前と2週間、3ヶ月および1年後で腸内細菌フローラの比較解析を行い、抗菌薬治療により減少(消失)する菌種および生理・代謝産物を特定し、UC発症に深く関与する因子を探索する。
結果と考察
 AFM治療を受けたUC患者25名の自然排泄便のメタゲノム解析を行った。サンプルあたり、メタゲノム解読として300万本~3000万本の解読リードを得た。塩基レベルで相同性解析した結果をATM/AFM抗菌薬治療前後において検出された細菌科(family)ごとに検出数を算出し、さらに検出割合を指標にした群平均法にて分類・系統樹作成した。治療前でBacteroidaceae, Leuconostocaceae, Ruminococcaceae 科の3つのそれぞれが優勢なクラスターに分けられ、治療後に減少している傾向が見られた。さらに科Family、属Genusレベルにまで分解能を上げて分類すると、治療前ではやはり Bacteroides属が多く検出され、次に大腸菌 Escherichia属が優勢になっている様子が見られた。(代表:黒田誠、分担:大草敏史)
 潰瘍性大腸炎患者に対してATM治療を行い、治療効果のあった9例の治療前後の腸上皮細胞付着腸内フローラの変動をT-RFLP法により予備的に検討した。ATM治療後に最も顕著に回復、増加していた腸内細菌をT-RFLP法で解析すると、培養可能細菌ではRuminococcus obeumであった。(研究分担者:杉山敏郎)
 腸内フローラの解析法として選択培地を組み合わせた培養法や菌属菌群特異的プライマーを用いた定量的リアルタイムPCR法による解析を行った。次世代シーケンサによる腸内フローラの網羅的解析と比べて、未知の細菌や培養不能細菌についての情報が不足する可能性が指摘された。(研究分担者:神谷茂)
 インフォームドコンセントを得た中等症、重症の活動期潰瘍性大腸炎に対する2週間の抗菌剤多剤療法を行い、その臨床的有効性があることを、症状の(、内視鏡所見)の改善より確認し、抗菌剤治療前後の糞便検体と血清検体を解析のため、(二名分)提供した。(研究分担者:加藤公俊)
 当研究班で収集している便検体について、臨床情報、メタゲノム、メタボローム、に関するデータを、多変量解析手法により統合的に解析し、潰瘍性大腸炎(UC)の発生に対する独立した要因を明らかにする。(研究分担者:廣田良夫)
 患者の血清中に含まれる低分子化合物について網羅的に解析するメタボローム解析手法の構築を行った。今後は、これまでに得られている健常者の血清中代謝産物プロファイルと詳細な比較解析を実施し、難治性潰瘍性大腸炎患者の早期診断や新規治療法に有効な血清中バイオマーカー探索を実施する。(研究分担者:福田真嗣)
結論
 本研究課題は近年発症患者数が増加の一途を辿るUCの発症機序を腸内細菌叢側から理解することを目的としている。本計画で25名のUC患者の抗菌薬治療前後の排泄便からUC発症に関連する細菌の同定を試みた。UC発症時は大腸菌などが優勢に検出され、dysbiosis といわれる健常バランスが乱れた腸内細菌フローラになっていることを明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-03-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201324147C

成果

専門的・学術的観点からの成果
潰瘍性大腸炎(UC)の三種の抗菌剤(ATM: アモキシシリン/テトラサイクリン/メトロニダゾール)治療前の急性期便から大量に大腸菌が検出され、ATM治療後において健常な腸内細菌フローラに戻る傾向を示した。追加解析した結果(計25名)からも、治療前および治療後数週間は大腸菌群の検出頻度が高いことが示された。UC急性期便は腸管出血性大腸菌EHEC粘血便と類似しており、EHEC下痢便の腸内フローラ解析においてもEHECの存在量よりもBacteroides属の検出比率が高いことが明らかとなった。
臨床的観点からの成果
メタゲノム解析で得られた大腸菌ゲノムワイドSNPs解析では、ある固有の大腸菌株が過剰に増殖しており、ある単一の細菌種に固定され多様性を失っていることが示唆された。寛解時の健常便ではBacteroides, Firmicutes, Proteobacteria等、様々な細菌種が混在して健常性を維持しているため、UC患者はその多様性をなくした腸内細菌フローラであると示唆された。増悪に係る細菌種の特定が目標であり、UC検査法を開発し、ATM治療に代わる抗菌薬処方を提案できるものと考えている。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
該当なし
その他のインパクト
潰瘍性大腸炎(UC)は、個有の遺伝的背景に“特有の腸内細菌フローラ”が増悪に関与しているとの報告がある。もし感染症であれば抗菌薬による治療が有効だと想定され、実際に、三種の抗菌剤(ATM: アモキシシリン/テトラサイクリン/メトロニダゾール)を二週間投薬するだけで1年以上緩解する治験成績が報告されている。この成果報告から、抗菌薬治療の前後で変動する細菌フローラ組成を深く理解し、寛解・健常維持に不可欠な細菌フローラのバランスを解明できるものと考えられている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tsuyoshi Sekizuka, Yumiko Ogasawara, Toshifumi Ohkusa, et al.
Characterization of Fusobacterium varium Fv113-g1 isolated from a patient with ulcerative colitis based on complete genome sequence and transcriptome analysis
PLoS One , 12(12) (e0189319)  (2017)
10.1371/journal.pone.0189319

公開日・更新日

公開日
2016-05-26
更新日
2018-06-11

収支報告書

文献番号
201324147Z