HTLV-1関連炎症性希少疾患の病態解析と免疫療法開発研究

文献情報

文献番号
201324144A
報告書区分
総括
研究課題名
HTLV-1関連炎症性希少疾患の病態解析と免疫療法開発研究
課題番号
H25-難治等(難)-一般-028
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
松岡 雅雄(京都大学 ウイルス研究所 )
研究分担者(所属機関)
  • 安永 純一朗(京都大学 ウイルス研究所)
  • 中村 誠司(九州大学 歯学研究院)
  • 谷原 秀信(熊本大学大学院 生命科学研究部)
  • 尹 浩信(熊本大学大学院 生命科学研究部)
  • 齊藤 峰輝(川崎医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
25,616,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HTLV-1は成人T細胞白血病およびHTLV-1関連脊髄症等、炎症性疾患の原因ウイルスである。HTLV-1に関連するその他の希少疾患として、ぶどう膜炎(HU)、魚鱗癬、紫斑病、乾癬といった皮膚疾患、シェーグレン症候群(SS)などが報告されているが、病態、臨床像には不明な点も多い。本研究班ではこれらの疾患とHTLV-1感染の関連性に着目し、新たなHTLV-1関連希少疾患患者の発掘と病態把握を目的とした。HTLV-1関連疾患の発症には、HTLV-1 bZIP factor (HBZ)が重要な役割を果たしている。HBZトランスジェニックマウス(HBZ-Tg)はHTLV-1感染者に類似した病態を呈する。HTLV-1関連疾患におけるHBZの役割をHBZ-Tgを用いて解析した。また、HTLV-1感染者と感染動態が類似するサル白血病ウイルス(STLV-1)感染ニホンザルを用いて、ワクチンの開発も目的とした。
研究方法
1. HTLV-1関連炎症性疾患の分子機構解析とワクチン有効性評価
1) HBZ-Tgを用いた炎症の分子機構解析
HBZ-Tg由来のリンパ球を用いて疾患発症に関連する分子の同定を試みた。
2)抗Tax、HBZ免疫応答の解析とワクチン開発
HBZ発現ワクシニアウイルス、Tax発現ワクシニアウイルスをマウスに接種し、免疫応答誘導能を評価した。さらにSTLV-1感染ニホンザルにおける免疫応答を解析した。
2. HTLV-1関連疾患の実態調査および病態解析
HTLV-1陽性SS 20例、HU 25例、皮膚疾患20例を目標とし症例の収集と解析を行った。
3.抗HBZモノクローナル抗体の樹立とHBZ発現量検出法の構築
組換えHBZタンパクをC57BL/6マウスに3回免疫し、抗HBZモノクローナル抗体を作製し、抗体の有用性を評価した。
結果と考察
1. HTLV-1関連炎症性疾患の分子機構解析とワクチン有効性評価
1) HBZ-Tgを用いた炎症の分子機構解析
HBZ-TgではFoxp3陽性T細胞およびIFN-γ産生Tリンパ球が増加していた。HBZ-Tgにて増加しているFoxp3陽性T細胞は末梢で誘導されるinducible Treg(iTeg)であることが判明した。一方でHBZ-Tg由来のTregはFoxp3の発現を失いやすく、IFN-γを産生するFoxp3陰性Tリンパ球(exFoxp3 Tリンパ球)へと変換されやすいことを見出した。HBZ-Tgの炎症局所において、IFN-γ産生Tリンパ球の浸潤が認められることから、HBZによるexFoxp3 Tリンパ球の増加とそれに伴うIFN-γの過剰産生が炎症に関与していると考えられる。
2) TaxおよびHBZ搭載ワクシニアウイルスの有効性評価
HBZとTaxを発現する組換えワクシニアウイルスを作成し、野生型C57BL/6野生型マウスに接種したところ、ELISPOTにてHBZおよびTaxのペプチドに反応するCD4およびCD8陽性T細胞の出現を認め、これらの組換えワクシニアウイルスがワクチンとして免疫応答を誘導しうることを確認した。HTLV-1感染者の動物モデルとして、STLV-1感染ニホンザルが有用であることを見出した。ATLに対して臨床応用されている抗CCR4抗体(モガムリズマブ)をSTLV-1感染ニホンザルに投与したところ、投与前に比較してウイルス抗原に対する特異的CD4、CD8陽性T細胞が増加していることが判明し、モガムリズマブによるTreg抑制作用の関与が示唆された。
2. HTLV-1関連疾患の病態解析
シェーグレン症候群(SS)をHTLV-1感染の有無でSS-H(+)とSS-H(-)の2つに分けて両患者群の唾液腺について比較検討を行い、病態が異なることが示唆された。
HU症例、慢性皮膚疾患症例に対して、同意の下で血液検体、前房水、皮膚生検検体を採取し、収集した。
3. 抗HBZモノクローナル抗体の樹立
抗HBZモノクローナル抗体を14クローン樹立した。FACS解析、IF解析、Western Blot解析にてHBZタンパクの発現を確認することができた。臨床検査への応用に繋がると期待される。
結論
1) HBZが炎症を引き起こす機序に、Foxp3発現の不安定化とexFoxp3細胞の増加によるIFN-γ産生亢進が関与する。
2) TaxおよびHBZワクチンは特異的免疫応答を誘導する。
3) STLV-1感染ニホンザルにおいて、抗CCR4抗体投与はSTLV-1感染細胞特異的免疫応答を賦活しうる。
4) HTLV-1関連希少疾患(後天性魚鱗癬等の皮膚疾患、SS、HUなど)症例の発掘と検体収集を行った。
5) HBZのモノクローナル抗体を樹立した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表
研究成果の刊行に関する一覧表
研究成果の刊行に関する一覧表
研究成果の刊行に関する一覧表
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201324144C

成果

専門的・学術的観点からの成果
HTLV-1による炎症誘導の分子機構に関して、HBZの重要性とHBZによる免疫異常の機序について重要な知見が得られた。またTaxおよびHBZ発現ワクシニアウイルスによる特異的免疫誘導能の評価ができた。さらにSTLV-1に自然感染しているニホンザルを用いて、抗CCR4抗体投与が感染細胞に対する免疫応答を増強するという所見を見出すことができ、より有効なワクチン療法の開発に貢献できる結果が得られた。
臨床的観点からの成果
HTLV-1に関連する疾患として、ぶどう膜炎(HU)、魚鱗癬、紫斑病等の炎症性皮膚疾患、シェーグレン症候群(SS)に着目し、潜在するこれらのHTLV-1関連希少疾患患者の発掘を試みた。SSをHTLV-1感染の有無で二群に分けて比較検討を行ったところ、HTLV-1陽性症例では組織学的に軽度であり、各々異なる病態の関与が示唆された。またHTLV-1陽性皮膚疾患の病変は非常に多様性に富んでいた。これらの所見は、HTLV-1感染が臨床的に多彩な病態を惹起する可能性を示している。
ガイドライン等の開発
本研究課題ではガイドライン等の開発を目的としないため、該当無し。
その他行政的観点からの成果
本邦には約108万人のHTLV-1感染者が存在すると推定されており、これは人口の約1%に達する。しかしながら、関連疾患の発症を予防もしくは治療するワクチンは未だ存在せず、これらの開発が急務である。本研究ではHBZが免疫原となり得るということ、また抗CCR4抗体により宿主の抗HTLV-1免疫が賦活されるということを見出した。今後の展開として、抗CCR4抗体とワクチンの併用は有望な治療戦略となり得ると期待される。
その他のインパクト
本研究課題に係る成果を学会発表した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
13件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
3件
総説
学会発表(国内学会)
17件
学会発表(国際学会等)
9件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2014-05-21
更新日
2018-05-22

収支報告書

文献番号
201324144Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
33,300,000円
(2)補助金確定額
33,300,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 23,781,319円
人件費・謝金 0円
旅費 203,600円
その他 1,631,942円
間接経費 7,684,000円
合計 33,300,861円

備考

備考
不足分の861円は自己資金にて補填した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-