文献情報
文献番号
201324126A
報告書区分
総括
研究課題名
乳児特発性僧帽弁腱索断裂の病因解明と診断治療法の確立に向けた総合的研究
課題番号
H25-難治等(難)-一般-010
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
白石 公(独立行政法人国立循環器病研究センター 小児循環器部)
研究分担者(所属機関)
- 武田充人(北海道大学医学部 小児科)
- 中西敏雄(東京女子医科大学 循環器小児科)
- 賀藤均(独立行政法人国立成育医療研究センター 循環器科)
- 山岸敬幸(慶応義塾大学医学部 小児科)
- 吉田恭子(今中恭子)(三重大学医学部 修復再生病理学)
- 森崎隆幸(独立行政法人国立循環器病研究センター 分子生物学部)
- 市川肇(独立行政法人国立循環器病研究センター 小児心臓外科)
- 宮本恵宏(独立行政法人国立循環器病研究センター 予防検診部)
- 黒嵜健一(独立行政法人国立循環器病研究センター 小児循環器部)
- 北野正尚(独立行政法人国立循環器病研究センター 小児循環器部)
- 坂口平馬(独立行政法人国立循環器病研究センター 小児循環器部)
- 池田善彦(独立行政法人国立循環器病研究センター 臨床検査部病理)
- 檜垣高史(愛媛大学病院小児総合医療センター 小児循環器部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
生来健康である乳児に、数日の感冒様症状に引き続き突然に僧帽弁の腱索が断裂し、急速に呼吸循環不全に陥る疾患が存在する。本疾患は原因が不明で、過去の報告例のほとんどが日本人であるという特徴をもつ。発症早期に的確に診断され、専門施設で適切な外科治療がなされないと、急性左心不全により短期間に死に至る。また外科手術により救命し得た場合も人工弁置換術を余儀なくされるもしくは神経学的後遺症を残すなど、子どもたちの生涯にわたる重篤な続発症をきたす。しかしながら本疾患は国内外の小児科の教科書に独立した疾患として記載されておらず、多くの小児科医は本疾患の存在を認識していない。またその急激な臨床経過の特徴から、過去の死亡例は「乳児突然死症候群」と統計処理された可能性があり、実際の発症はさらに多いと考えられる。これまでの我々の調査の結果、僧帽弁腱索が断裂する原因として、ウイルス感染(心内膜心筋炎)、母体から移行した血中自己抗体(抗SSA抗体)、川崎病(回復期以降)、細菌性心内膜炎などが明らかになっており、これら何らかの感染症や免疫学的異常が僧帽弁腱索断裂の引き金になると考えられているが、各々の病態の詳細は不明である。また最近数年間、国内での症例報告が増加しており、早期の実態調査、早期発見の啓蒙、診断治療方針の確立が急務である。
研究方法
全国主要小児科施設にアンケート調査を実施し、過去16年間に発症した95症例の詳細な臨床経過をまとめ、本疾患の診断基準を確立するとともに診断治療に必要なガイドラインの確立を進めた。今回の研究では、平成22年度、平成25年度の調査記述研究をさらに発展させて、詳細な疫学データを収集するのみならず、全国で新たな症例が発症した際に、患者からの新鮮血清および弁や腱索組織を凍結収集し、免疫組織学的診断、ウイルス分離、分子生化学的診断を実施することにより、病因と腱索断裂のメカニズムの解明に向けた研究を実施するとともに、病因に基づいた新しい内科的治療法の導入および的確な外科的治療法の時期と方法に関する前向き研究を行った。
結果と考察
難治疾患克服研究事業における後ろ向き全国調査の結果、過去発症した95例の臨床データを得た。発症は生後4~6ヶ月に集中し(85%)、やや男児に多く、春から夏の頻度が高かった(66%)。全体的に近年増加傾向にある。基礎疾患として、川崎病10例、抗SSA抗体陽性2例、細菌性心内膜炎1例が認められた。CRPの上昇は軽度で、外科治療は、弁形成が52例(55%)、人工弁置換が26例(27%)に行われた。死亡例は8例(8.4%)で、中枢神経系後遺症は10例(11%)認められた。全体では35例(40%)が何らかの後遺症/続発症を残し、本疾患の罹病率は極めて高い。腱索の病理組織(21例)では、単核球を主体とする心内膜下の炎症細胞浸潤が認められた。
結論
乳児特発性僧帽弁腱索断裂は、その原因は不明であり今後の更なる研究が必要であるが、今回の研究の結果、何らかのウイルス感染による心内膜炎、川崎病後遺症、母親由来の抗SSA抗体、僧帽弁の粘液様変化などが引き金となる可能性が示唆された。夏に発症した症例および断裂した腱索数の多い症例ほど弁置換になる可能性が高く、注意が必要であることも判明した。しかしながら本年度の研究期間では新たな発症例が少なかったため、発症に関連するウイルスの分離や免疫組織化学での新たな陽性所見は得られなかった。
公開日・更新日
公開日
2014-07-23
更新日
2015-06-30