間葉性異形成胎盤の臨床的・分子遺伝学的診断法の開発を目指した基盤研究

文献情報

文献番号
201324115A
報告書区分
総括
研究課題名
間葉性異形成胎盤の臨床的・分子遺伝学的診断法の開発を目指した基盤研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-077
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
副島 英伸(国立大学法人佐賀大学 医学部分子生命学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 片渕 秀隆(国立大学法人熊本大学大学院生命科学研究部・産科婦人科学)
  • 大場 隆(国立大学法人熊本大学大学院生命科学研究部・産科婦人科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
4,985,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
間葉性異形成胎盤(Placental mesenchymal dysplasia:PMD)は、胞状奇胎と類似した嚢胞状変化を呈するが、組織学的にはトロホブラストの異常増殖を認めない胎盤形態異常である。分娩例の0.02%とまれな病態とされてきたが、国内外での報告が急増している。部分胞状奇胎や胎児共存奇胎との鑑別を要し、誤診されると無用の人工流産を招く。また高率に早産、胎児発育不全(FGR)、胎児死亡(IUFD)を合併し、現時点でIUFDを予知する方法はない。本研究では、病理組織学的に診断された症例を収集し、レトロスペクティブに臨床情報を解析することで、臨床診断基準を確立し、病態を解明すること、および原因遺伝子を同定し遺伝子診断の基盤開発を行うことを目的とした。
研究方法
1.症例の集積
協力医療機関での症例、論文発表あるいは関連学会で報告された症例を収集した。
2.臨床情報解析
妊娠経過、胎児発育経過、および新生児経過等を経時的に解析した。
3.病理学的解析
母性発現インプリント遺伝子p57KIP2 (KIP2)の免疫組織化学染色を行うとともに、個々の胎盤におけるPMD病変の組織学的分布を精査した。
4.エピゲノム解析
凍結PMD検体5例と正常胎盤7例を用いて、HumanMethylation450 BeadChip (Illumina社)でDNAメチル化解析(ゲノム中の47万ヵ所のCpGのメチル化を解析)を行った。
5.全ゲノム多型解析
全染色体に分布する4塩基反復配列マーカーあるいはGenome-Wide Human SNP array 6.0(Affymetrix社)を用いて全ゲノム解析を行った。一部の症例では、インプリント遺伝子KIP2とPHLDA2の遺伝子発現量を解析した。
結果と考察
1.症例収集ならびに臨床情報解析
合計症例数は41例となった。今年度収集した10例中6例が女児であり、生殖補助医療を受けた症例は1例(タイミング法)であった。1例が妊娠16週で人工流産を選択していた。妊娠を継続した9例のうち1例が妊娠20週で子宮内胎児死亡に至り、2例がFGRを呈した。生児を得た8例のうち6例が低出生体重児であった。また、3例に新生児DIC、1例に肝腫大および低血糖、1例に低アルブミン血症および胸腹水、1例に肝過誤腫が認められた。2例はBWSと診断された。胎盤重量は分娩週数に関わらず正常胎盤重量と比較して大きい傾向にあった。胎盤重量(胎盤/胎児重量比)が大きいことは、分娩週数、出生時体重、BWSの合併と相関していなかった。
2.病理学的解析
2名の病理専門医により病理組織学的に再評価し、PMDの診断を確定し得た16例についてPMD病変の分布を検討した。13例では、複数の箇所から採取された検体全てにPMDと診断し得る領域が認められるとともに、正常胎盤の構築が様々な割合で混在していた。残る3例においてはPMDの所見が認められず、正常胎盤と評価される標本があった。PMDではKIP2の発現が絨毛内間質や血管を構築する細胞で消失すると報告されている。正常胎盤の構築を示す領域ではKIP2の発現も正常であったが、PMDの構築を示す領域では、KIP2が正常発現を示す部位と発現消失を示す部位が混在していた。KIP2の発現消失は、PMD診断の十分条件ではあるが必要条件ではないことが示唆された。
3.エピゲノム解析
PMDで高メチル化を示す遺伝子2個と低メチル化を示す遺伝子を5個同定した。しかし、胎盤におけるメチル化は、妊娠週数による違い、個体差による違い、同一胎盤内での部位による違いが存在することから、これらの遺伝子については詳細且つ慎重に解析する必要がある。
4.全ゲノムSNP解析
解析できた22例中20例に11p15領域の父性片親性ダイソミー(patUPD)のモザイクを認め、17例がisodisomyで3例がheterodisomyであった。また、SNP arrayで解析した6例は、androgenetic/biparentalモザイク(モザイク率:10%程度~60%程度)であった。一方、22例中2例はpatUPDを認めず、このうち1例ではインプリント遺伝子の発現を制御するKvDMR1領域の低メチル化を認めた。さらに、KvDMR1によって制御されるインプリント遺伝子KIP2とPHLDA2の遺伝子発現を定量リアルタイムRT-PCRで解析したところ、遺伝子発現量が低下していた。ゲノム・インプリンティング異常がPMD発症に関与している可能性が示唆された。
結論
本邦PMD症例に関する臨床的・遺伝学的特徴を見出すことができた。更なる症例を集積し、臨床情報解析および遺伝子解析を進めることで遺伝子診断も含めた診断基準確立や診療ガイドラインを策定することが肝要と思われる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

文献情報

文献番号
201324115B
報告書区分
総合
研究課題名
間葉性異形成胎盤の臨床的・分子遺伝学的診断法の開発を目指した基盤研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-077
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
副島 英伸(国立大学法人佐賀大学 医学部分子生命学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 片渕 秀隆(国立大学法人熊本大学大学院生命科学研究部・産科婦人科学)
  • 大場 隆(国立大学法人熊本大学大学院生命科学研究部・産科婦人科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
間葉性異形成胎盤(Placental mesenchymal dysplasia:PMD)は、胞状奇胎と類似した嚢胞状変化を呈するが、組織学的にはトロホブラストの異常増殖を認めない胎盤形態異常である。分娩例の0.02%とまれな病態とされてきたが、国内外での報告が急増している。部分胞状奇胎や胎児共存奇胎との鑑別を要し、誤診されると無用の人工流産を招く。また高率に早産、胎児発育不全(FGR)、胎児死亡(IUFD)を合併し、現時点でIUFDを予知する方法はない。本研究では、病理組織学的に診断された症例を収集し、レトロスペクティブに臨床情報を解析することで、臨床診断基準を確立し、病態を解明すること、および原因遺伝子を同定し遺伝子診断の基盤開発を行うことを目的とした。
研究方法
1.症例の集積
協力医療機関での症例、論文発表あるいは関連学会で報告された症例を収集した。
2.臨床情報解析
妊娠経過、胎児発育経過、および新生児経過等を経時的に解析した。
3.病理学的解析
母性発現インプリント遺伝子p57KIP2 (KIP2)の免疫組織化学染色を行うとともに、個々の胎盤におけるPMD病変の組織学的分布を精査した。
4.エピゲノム解析
凍結PMD検体5例と正常胎盤7例を用いて、HumanMethylation450 BeadChipでDNAメチル化解析を行った。
5.全ゲノム多型解析
全染色体に分布する4塩基反復配列マーカーあるいはGenome-Wide Human SNP array 6.0を用いて全ゲノム解析を行った。一部の症例では、インプリント遺伝子KIP2とPHLDA2の遺伝子発現量を解析した。
6.エクソーム解析
凍結組織5例についてエクソーム解析を行った。
結果と考察
1.症例収集ならびに臨床情報解析
合計症例数は41例となった。体外受精・胚移植に代表される生殖補助医療を受けた症例はなかった。人工流産は2例で、妊娠を継続した39例はすべて単胎妊娠で33例が女児であった。早産77%、FGR 31%、IUFD 15%であった。IUFDは大半が31週から36週に生じていた。生児を得た33例のうち79%が低出生体重児でであった。BWS 9例、貧血3例、新生児DIC 3例、胎児水腫あるいは全身浮腫 2例、低血糖 4例を認めた。相対的な胎盤重量(胎盤/胎児重量比)が大きいことは、分娩週数、出生時体重、BWSの合併とは独立した重要な特徴であった。
2.病理学的解析
2名の病理専門医により病理組織学的に再評価し、PMDの診断を確定し得た16例についてPMD病変の分布を検討した。13例では、複数の箇所から採取された検体全てにPMDと診断し得る領域が認められるとともに、正常胎盤の構築が様々な割合で混在していた。残る3例においてはPMDの所見が認められず、正常胎盤と評価される標本があった。PMDではKIP2の発現が絨毛内間質や血管を構築する細胞で消失すると報告されている。正常胎盤の構築を示す領域ではKIP2の発現も正常であったが、PMDの構築を示す領域では、KIP2が正常発現を示す部位と発現消失を示す部位が混在していた。KIP2の発現消失は、PMD診断の十分条件ではあるが必要条件ではないことが示唆された。
3.エピゲノム解析
PMDで高メチル化を示す遺伝子2個と低メチル化を示す遺伝子を5個同定した。しかし、胎盤におけるメチル化は、妊娠週数による違い、個体差による違い、同一胎盤内での部位による違いが存在することから、これらの遺伝子については詳細且つ慎重に解析する必要がある。
4.全ゲノムSNP解析
解析できた22例中20例に11p15領域の父性片親性ダイソミー(patUPD)のモザイクを認め、17例がisodisomyで3例がheterodisomyであった。また、SNP arrayで解析した6例は、androgenetic/biparentalモザイクであった。一方、22例中2例はpatUPDを認めず、このうち1例ではインプリント遺伝子の発現を制御するKvDMR1領域の低メチル化を認めた。さらに、KvDMR1によって制御されるインプリント遺伝子KIP2とPHLDA2の遺伝子発現量が低下していた。ゲノム・インプリンティング異常がPMD発症に関与している可能性が示唆された。
5.エクソーム解析
いくつかの候補遺伝子を見いだすことができたので、今後サンガー法にて各症例での候補遺伝子の配列の確認を行う必要がある。
結論
本邦PMD症例に関する臨床的・遺伝学的特徴を見出すことができた。更なる症例を集積し、臨床情報解析および遺伝子解析を進めることで遺伝子診断も含めた診断基準確立や診療ガイドラインを策定することが肝要と思われる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201324115C

成果

専門的・学術的観点からの成果
SNPアレイ解析では病変部の約6割にandrogenetic/biparental mosaicを認めた。CNVの平均個数は、gain 5.8個、loss 3.3個、平均サイズはgain 3.4 Mb、loss 7.2Mbであり、すべてDatabase of Genomic Variantsに登録されていた。エクソーム解析で病的なvariantは同定されなかった。biparental検体でインプリントDMR 52ヵ所のメチル化解析を行ったところ、15ヵ所のDMRで有意なメチル化異常を認めた。
臨床的観点からの成果
計41例中、人工流産2例で、妊娠継続39例ですべて単胎妊娠(女児33例)であった。早産77%、FGR 31%、IUFD 15%であった。Phamらの報告のIUFD率が35.6%であったことから、本邦の周産期医療体制がPMDの管理にも有効であることが示唆された。生児33例のうち低出生体重児26例、BWS 9例、貧血3例、新生児DIC 3例、胎児水腫あるいは全身浮腫 2例、低血糖 4例を認めた。胎盤/胎児重量比が大きいことは、分娩週数、出生時体重、BWSの合併とは独立した重要な特徴であった。
ガイドライン等の開発
発症機序にPMDの発症と高齢妊娠、あるいは生殖補助医療との関連は見いだせなかったが、女児に好発し、早産、FGRやIUFDの危険が高いこと、インプリンティング異常が関与していることは臨床の現場においてPMDを診断する一助となると考えられる。本邦の周産期医療体制がPMDの管理にも有効であることが示唆されたが、妊娠33週以降のIUFDを回避することは今後の課題である。
その他行政的観点からの成果
今回の研究はパブリケーションベースの調査を基にしているため、胞状奇胎として流産を選択され、報告されることのなかった症例も少なくないと推定される。PMDという疾患概念の啓発に務める必要があると考えられる。
その他のインパクト
第21回日本胎盤学会学術集会において臨床情報解析に関する発表を行い、学会賞である相馬賞を受賞した。本研究の学術性が評価されたと考えている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
17件
その他論文(和文)
7件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
41件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Court F, Tayama C, Romanelli V, Martin-Trujillo A, et al.
Genome-wide parent-of-origin DNA methylation analysis reveals the intricacies of the human imprintome and suggests a germline methylation independent establishment of imprinting.
Genome Res , 24 (4) , 554-569  (2014)
10.1101/gr.164913.113
原著論文2
Higashimoto K, Jozaki K, Kosho T, Matsubara K, et al.
A novel de novo point mutation of the OCT-binding site in the IGF2/H19-imprinting control region in a Beckwith-Wiedemann syndrome patient.
Clin Genet  (2013)
10.1111/cge.12318
原著論文3
Rumbajan JM, Maeda T, Souzaki R, Mitsui K, et al.
Comprehensive analyses of imprinted differentially methylated regions reveal epigenetic and genetic characteristics in hepatoblastoma.
BMC Cancer , 13 , 608-  (2013)
10.1186/1471-2407-13-608
原著論文4
Miyazaki H, Higashimoto K, Yada Y, A. Endo T, et al.
Ash1l methylates Lys36 of histone H3 independently of transcriptional elongation to counteract Polycomb silencing.
PLoS Genet , 9 (11) , e1003897-  (2013)
10.1371/journal.pgen.1003897
原著論文5
Higashimoto K, Maeda T, Okada J, Ohtsuka Y, et al.
Homozygous deletion of DIS3L2 exon 9 due to non-allelic homologous recombination between LINE-1s in a Japanese patient with Perlman syndrome.
Eur J Hum Genet , 21 (11) , 1316-1319  (2013)
10.1038/ejhg.2013.45
原著論文6
Yatsuki H, Higashimoto K, Jozaki K, Koide K, et al.
Novel Mutations of CDKN1C in Japanese Patients with Beckwith-Wiedemann Syndrome.
Genes & Genomics , 35 (2) , 141-147  (2013)
10.1007/s13258-013-0079-3
原著論文7
Higashimoto K, Nakabayashi K, Yatsuki H, Yoshinaga H, et al.
Aberrant methylation of H19-DMR acquired after implantation was dissimilar in soma versus placenta of patients with Beckwith-Wiedemann syndrome.
Am J Med Genet Part A , 158A , 1670-1675  (2012)
10.1002/ajmg.a.35335
原著論文8
Maeda T, Higashimoto K, Jozaki K, et al.
Comprehensive and quantitative multilocus methylation analysis reveals the susceptibility of specific imprinted differentially methylated regions (DMRs) to aberrant methylation in Beckwith-Wiedemann syndrome with epimutations.
Genet Med , 16 (12) , 903-912  (2014)
10.1038/gim.2014.46
原著論文9
Ohtsuka Y, Higashimoto K, Sasaki K, Jozaki K, et al.
Autosomal recessive cystinuria caused by genome-wide paternal uniparental isodisomy in a patient with Beckwith-Wiedemann syndrome.
Clin Genet , 88 (3) , 261-266  (2015)
10.1111/cge.12496
原著論文10
Ohtsuka Y, Higashimoto K, Oka T, Yatsuki H, et al.
Identification of consensus motifs associated with mitotic recombination and clinical characteristics in patients with paternal uniparental isodisomy of chromosome 11.
Hum Mol Genet , 25 (7) , 1406-1419  (2016)
10.1093/hmg/ddw023
原著論文11
Rumbajan JM, Yamaguchi Y, Nakabayashi K, Higashimoto K, et al.,
The HUS1B promoter is hypomethylated in the placentas of low-birth-weight infants.
Gene , 583 (2) , 141-146  (2016)
10.1016/j.gene.2016.02.025

公開日・更新日

公開日
2014-05-09
更新日
2018-06-11

収支報告書

文献番号
201324115Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,480,000円
(2)補助金確定額
6,480,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,924,503円
人件費・謝金 334,420円
旅費 567,580円
その他 1,158,497円
間接経費 1,495,000円
合計 6,480,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-