多臓器型ランゲルハンス細胞組織球症の啓発と標準治療の確立

文献情報

文献番号
201324114A
報告書区分
総括
研究課題名
多臓器型ランゲルハンス細胞組織球症の啓発と標準治療の確立
課題番号
H24-難治等(難)-一般-076
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
森本 哲(自治医科大学 医学部とちぎ子ども医療センター(小児科))
研究分担者(所属機関)
  • 藤本 純一郎   (国立成育医療研究センター研究所 小児がん疫学臨床研究センター長)
  • 今村 俊彦(京都府立医科大学 小児発達医学)
  • 塩田 曜子(国立成育医療研究センター病院 小児がんセンター血液腫瘍科)
  • 工藤 寿子(静岡こども病院 血液腫瘍科)
  • 東條 有伸(東京大学 医科学研究所血液腫瘍内科 )
  • 齋藤 明子(国立病院機構名古屋医療センター 臨床研究センター臨床疫学研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多臓器型ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)は主として乳児期に発症する病態不明の希少疾患である。皮膚や骨、リンパ節などに病変が出現し化学療法が必要であるが、認知度は低いためしばしば診断が遅れ、標準治療はない。約10%が致死的で、約30%は頻回に再燃し長期の経過をたどり、尿崩症や中枢神経変性症などの不可逆的病変を残す。また、成人の多臓器型LCHは本邦では全く認知されておらず、患者は医療難民化している。このような多臓器型LCHの啓発と予後改善を目的とする。
研究方法
1)社会への啓発。a)LCH患者会に協力し医療相談。b)日本LCH研究会(JLSG)と共に学術集会開催。c)日本小児血液・がん学会学術集会で同学会の組織球委員会と共にワークショップ開催。d)JLSGのホームページで広報。e)教科書・総説論文執筆、特異な症例の報告。2)小児ランゲルハンス細胞組織球症のリスク別臨床研究(LCH-12)遂行。a)JPLSG参加施設の20歳未満の新規に診断された全LCH症例の登録。b)診断ガイドラインに基づく登録例の中央病理診断、残余検体(生検組織および血漿)の国立成育医療研究センターの検体保存センターで保管。c)多臓器型と多発骨型に対する臨床試験(UMINの臨床試験登録ID:000008067)(登録期間 4年、追跡期間は登録終了後3年。プライマリーエンドポイント 病型別の無イベント生存期間・率、目標症例数 130例(多臓器型85例、多発骨型45例))。d)臨床試験対象外の病型に対する治療を規定しない前向き観察研究(登録期間 4年間、追跡期間 登録終了後3年間)。e)これらのデータのJPLSGデータセンター(NPO法人臨床研究支援機構、OSCR)で管理。3)成人多臓器型LCHの治療開発のため、JLSG-02研究の成人LCHの治療結果を基づき、成人多臓器型LCHに対する全国多施設共同臨床研究計画書の作成。4)治療開発に向けた病態解明。a)LCH細胞増殖のトリガーの解析。b)病勢や再燃、中枢神経変性発症に関わる液性因子の網羅的解析。c)未熟樹状細胞が破骨細胞に分化する機序の解明。d)LCH細胞の遺伝子変異解析。5)長期フォローアップ調査。長期フォローアップガイドラインに基づき1996~2009年にJLSG-96/02研究に登録された多病変型LCH 320例のコホートのフォローアップ調査。
結果と考察
1)社会への啓発が進んだ。a)LCH患者会に協力し、LCHに関する医療相談を行った。b)JLSGと共に学術集会(H25年11月30日:福岡、H26年3月16日:東京)を開催し、LCHの症例検討・講演を行った。c)日本小児血液・がん学会学術集会(H25年11月29日:福岡)において、同学会の組織球症委員会と共にワークショップを開催し、LCH患者血清中osteopontin(OPN)値、JLSG-96/02治療研究の長期予後について発表した。d)JLSGのホームページで、文献紹介/疾患解説/ガイドライン掲載やセカンドオピニオン案内を行った。e)総説論文の発表、特異な症例の報告を行った。2)LCH-12臨床研究が遂行された。a)20歳未満の新規LCH、60例が登録された。b)これらの中央病理診断を行った。c)LCH-12臨床試験に44例が登録された。d)LCH-12観察研究に16例が登録された。3)Special Cレジメンを基本とした、成人の多病変型LCHに対する全国多施設共同臨床研究計画書(A-LCH-13)を作成し、成人多臓器型LCHの治療開発の基盤を整備した。4)治療開発に向けた病態解明を進めた。メルケル細胞ポリオーマウイルスDNAが、LCHの病変組織および高リスク患者血清において検出されること、高リスクLCHで血清中OPNが高値であること、未熟樹状細胞が破骨細胞に分化する過程でOPNとOPN受容体の発現が亢進し、OPNを阻害すると未熟樹状細胞から破骨細胞への分化が障害され、特に切断型OPNがこの分化に重要であること、を報告した。遺伝子解析について研究代表者施設の承認を得、検体収集を開始した。5)長期フォローアップ調査により、重大な不可逆的病変である中枢性尿崩症(CDI)と中枢神経変性LCH(CNSD-LCH)の経年的増加が明らかとなった。CDIを16%、CNSD-LCHを6%に認め、両者ともに昨年に比べ1%増加した。JLSG-96/02治療研究での不可逆的病変の発症率は海外の治療研究より低かった。
結論
1)社会への啓発が進み、2)LCH-12臨床研究が遂行され、3)成人多臓器型LCHの治療開発の基盤が整い、4)治療開発に向けた病態解明が進み、5)不可逆的病変の経年的増加が明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201324114B
報告書区分
総合
研究課題名
多臓器型ランゲルハンス細胞組織球症の啓発と標準治療の確立
課題番号
H24-難治等(難)-一般-076
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
森本 哲(自治医科大学 医学部とちぎ子ども医療センター(小児科))
研究分担者(所属機関)
  • 藤本 純一郎(国立成育医療研究センター研究所 小児がん疫学臨床研究センター)
  • 今村 俊彦(京都府立医科大学 小児発達医学)
  • 塩田 曜子(国立成育医療研究センター病院 小児がんセンター血液腫瘍科)
  • 工藤 寿子(静岡こども病院 血液腫瘍科)
  • 東條 有伸(東京大学 医科学研究所血液腫瘍内科)
  • 齋藤 明子(国立病院機構名古屋医療センター 臨床研究センター臨床疫学研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多臓器型ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)は主として乳児期に発症する病態不明の希少疾患である。皮膚や骨、リンパ節などに病変が出現し化学療法が必要であるが、認知度は低いためしばしば診断が遅れ、標準治療はない。約10%が致死的で、約30%は頻回に再燃し長期の経過をたどり、尿崩症や中枢神経変性症などの不可逆的病変を残す。また、成人の多臓器型LCHは本邦では全く認知されておらず、患者は医療難民化している。このような多臓器型LCHの啓発と予後改善を目的とする。
研究方法
1)社会への啓発。a)LCH患者会に協力し医療相談。b)日本LCH研究会(JLSG)と共に学術集会開催。c)日本小児血液・がん学会学術集会で同学会の組織球委員会と共にワークショップ開催。d)JLSGのホームページで広報。e)総説論文、特異な症例報告の執筆。2)小児ランゲルハンス細胞組織球症のリスク別臨床研究(LCH-12)遂行。a)JPLSG参加施設の20歳未満の新規に診断された全LCH症例の登録。b)診断ガイドラインに基づく登録例の中央病理診断と残余検体(生検組織および血漿)の保存(国立成育医療研究センター)。c)多臓器型と多発骨型に対する臨床試験(UMINの臨床試験登録ID:000008067)(登録期間 4年、追跡期間は登録終了後3年。プライマリーエンドポイント 病型別の無イベント生存期間・率、目標症例数 130例(多臓器型85例、多発骨型45例))。d)臨床試験対象外の病型に対する治療を規定しない前向き観察研究(登録期間 4年間、追跡期間 登録終了後3年間)。e)これらのデータのJPLSGデータセンター(NPO法人臨床研究支援機構、OSCR)での管理。3)JLSG-02研究に登録された成人LCHの治療結果を基づき成人の多病変型LCHに対する全国多施設共同臨床研究計画書の作成。4)病態解明。a)LCH細胞増殖のトリガーの解析。b)病勢や再燃、中枢神経変性発症に関わる液性因子の網羅的解析。c)未熟樹状細胞が破骨細胞に分化する機序の解明。d)LCH細胞の遺伝子変異解析。5)長期フォローアップガイドラインに基づく、1996~2009年にJLSG-96/02研究に登録された多病変型LCH 320例のコホートの長期フォローアップ調査。
結果と考察
1)社会への啓発が進んだ。a)全国患者会(H25年3月17日:東京)などで、医療相談・疾患解説を行った。b)学術集会(H24年10月20日:京都、H25年3月17日:東京、H25年11月30日:福岡、H26年3月16日:東京)を開催し、症例検討と講演を行った。c)日本小児血液・がん学会学術集会(H24年11月30日:横浜、H25年11月29日:福岡)においてワークショップを開催し、JLSG-02の治療成績、JLSG-96/02コホートの長期予後、再発LCHの治療経過、LCH患者血清中osteopontin(OPN)値について発表した。d)JLSGのホームページで、文献紹介/疾患解説/ガイドライン掲載やセカンドオピニオン案内を行った。e)総説論文の発表、特異な症例の報告を行った。2)LCH-12臨床研究を遂行した。20歳未満の新規LCHの中央病理診断を行い、60例(臨床試験44例、観察研究16例)を登録した。3)JLSG-02研究の成人LCHのパイロット試験結果を論文発表し、これに基づき、Special Cレジメンをfirst lineとした成人の多病変型LCHに対するA-LCH-13臨床研究計画書を作成し、成人多臓器型LCHの治療開発の基盤を整備した。4)治療開発に向けた病態解明を進めた。メルケル細胞ポリオーマウイルスDNAが、LCHの病変組織および高リスク患者血清において検出されること、高リスクLCHで血清中OPNが高値であること、IL-17受容体発現および血清中IL-17濃度が多臓器型で高値であること、未熟樹状細胞が破骨細胞に分化する過程でOPNとOPN受容体の発現が亢進し、OPNを阻害すると未熟樹状細胞から破骨細胞への分化が障害され、特に切断型OPNがこの分化に重要であること、を報告した。遺伝子解析について倫理委員会の承認を得、検体収集を開始した。5)長期フォローアップ調査により、重大な不可逆的病変である中枢性尿崩症(CDI)と中枢神経変性LCH(CNSD-LCH)の経年的増加が明らかとなった。CDIを16%、CNSD-LCHを6%に認め、両者ともに昨年に比べ1%増加したが、海外の治療研究より発症率は低かった。
結論
1)社会への啓発が進み、2)LCH-12臨床研究が遂行され、3)成人多臓器型LCHの治療開発の基盤が整い、4)治療開発に向けた病態解明が進み、5)不可逆的病変の経年的増加が明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201324114C

成果

専門的・学術的観点からの成果
メルケル細胞ポリオーマウイルスDNAが、LCHの病変組織および高リスク患者血清において検出されること、高リスクLCHで血清中OPNが高値であること、IL-17受容体発現および血清中IL-17濃度が多臓器型で高値であること、未熟樹状細胞が破骨細胞に分化する過程でOPNとOPN受容体の発現が亢進し、OPNを阻害すると未熟樹状細胞から破骨細胞への分化が障害され、特に切断型OPNがこの分化に重要であること、を報告した。
臨床的観点からの成果
JLSG-02研究の結果をInt J Hematolに論文発表した。20歳未満のLCH患者を対象としたLCH-12臨床研究を遂行し190例余りを登録した。JLSG-02研究の成人LCHのパイロット試験結果を基に、成人の多病変型LCHに対するA-LCH-13臨床研究計画書を作成し、成人多臓器型LCHの治療開発の基盤を整備した。
ガイドライン等の開発
日本小児血液・がん学会編「小児白血病・リンパ腫診療ガイドライン2016年版」に小児ランゲルハンス細胞組織球症のガイドラインを発表した。
その他行政的観点からの成果
その他のインパクト
全国患者会(H25年3月17日:東京)、学術集会(H24年10月20日:京都、H25年3月17日:東京、H25年11月30日:福岡、H26年3月16日:東京)を開催した。日本小児血液・がん学会学術集会(H24年11月30日:横浜、H25年11月29日:福岡)のワークショップにおいて、JLSG-02の治療成績、JLSG-96/02コホートの長期予後、再発LCHの治療経過、LCH患者血清中osteopontin(OPN)値について発表した。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
12件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
14件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
5件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Morimoto A, Shimazaki C, Takahashi S, et al.
Therapeutic outcome of multifocal Langerhans cell histiocytosis in adults treated with the Special C regimen t formulated by the Japan LCH Study Group.
Int J Hematol. , 97 (1) , 103-108  (2013)
原著論文2
Murakami I, Morimoto A, Oka T, et al.
IL-17A receptor expression differs between subclasses of Langerhans cell histiocytosis, which might settle the IL-17A controversy.
Virchows Arch. , 462 (2) , 219-228  (2013)
原著論文3
Oh Y, Oh I, Morimoto J, et al.
Osteopontin has a crucial role in osteoclast-like multinucleated giant cell formation.
J Cell Biochem. , 115 (3) , 585-595  (2014)
原著論文4
Morimoto A, Oh Y, Shioda Y, et al.
Recent advances in Langerhans Cell Histiocytosis.
Pediatr Int. , 56 (4) , 451-461  (2014)
原著論文5
Oh Y, Morimoto A, Shioda Y, et al.
High serum osteopontin levels in pediatric patients with high risk Langerhans cell histiocytosis.
Cytokine. , 70 (2) , 194-197  (2014)
原著論文6
Morimoto A, Shioda Y, Imamura T, et al.
Intensified and prolonged therapy comprising cytarabine, vincristine and prednisolone improves outcome in patients with multisystem Langerhans cell histiocytosis: results of the Japan Langerhans Cell Histiocytosis Study Group-02 Protocol Study.
Int J Hematol. , 104 (1) , 99-109  (2016)
原著論文7
Morimoto A, Oh Y, Nakamura S, et al.
Inflammatory serum cytokines and chemokines increase associated with the disease extent in pediatric Langerhans cell histiocytosis.
Cytokine. , 97 (1) , 73-79  (2017)

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
2017-06-13

収支報告書

文献番号
201324114Z