文献情報
文献番号
201324086A
報告書区分
総括
研究課題名
性分化疾患の実態把握と病態解明ならびに標準的診断・治療指針の作成
研究課題名(英字)
-
課題番号
H24-難治等(難)-一般-048
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
緒方 勤(浜松医科大学 小児科)
研究分担者(所属機関)
- 堀川玲子((独)国立成育医療研究センター、内分泌代謝科、)
- 有阪治(獨協医科大学、小児内分泌)
- 島田憲次(大阪府立母子保健総合医療センター、小児泌尿器科)
- 中井秀郎(自治医科大学、小児泌尿器科)
- 深見真紀((独)国立成育医療研究センター研究所、分子内分泌研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は、性分化疾患の実態把握と病態解明ならびに標準的診断・治療指針の作成である。その背景として、性分化疾患が、社会的性の決定を必要とする新生児期の医学的救急疾患であるのみならず、思春期発来障害、性腺腫瘍易発症性、性同一性障害、不妊症などを招く難病であることが挙げられる。
研究方法
遺伝子解析は、ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針を遵守して施行した。
結果と考察
本研究期間において得られた代表的な成果は以下の通りである。(1) 性分化関連疾患の診療ガイドラインの作成: (A) 診断基準の作成:性分化疾患は、60以上の疾患群の総称であり、本研究班が担う領域は多岐に及ぶ。本研究期間では、日本小児内分泌学会性分化委員会との協力により、以下の性分化関連29疾患の診断基準を作成した。(B) 性分化関連疾患の重症度分類作成にむけて:上記29疾患において、重症度分類を開始している。ここで、以下の重要性を確認した。第1は、脳の性分化(性自認)の重要性である。ヒトは、自身の性自認に適合する性のもとで養育され、社会生活を送ることが基本である。したがって、脳の性分化に混乱を生じる状態を最も重症と位置づける。この観点から、本研究班では、脳の性分化の研究を進めている。そして、5α-還元酵素欠損症患者では、外性器の状態にかかわらず、男性を基本とすること、21-水酸化酵素欠損症患者では、特にPrader分類4-5の高度の外性器男性化が見られるときには、一般に推奨される女性ではなく、男性として養育すべきことを見いだした。(C) 性分化関連疾患の治療指針作成に向けて:以下の検討を進めた。第1は、遺伝子診断などから推測される残存活性に従う治療法である。46,XX性分化疾患として最も頻度が高い21-水酸化酵素欠損症では、遺伝子変異毎に残存活性が判明しており、これに準じて、特にストレス時の対応を検討している。第2は、現在未確定の治療法である。これには、本人の意思を確認・尊重した外性器・性腺手術時期の検討、男性低ゴナドトロピン性性腺機能低下症における精子形成能を重視したゴナドトロピン治療、21水酸化酵素欠損症における胎児治療、5α-還元酵素欠損症の遺伝的男児や21水酸化酵素欠損症の遺伝的女児における脳の性分化状態(性自認)を勘案・重視した社会的性の決定などが含まれる。特に、男性低ゴナドトロピン性性腺機能低下症における精子形成能を重視したゴナドトロピン治療においては、治療プロトコールを作成した。(2) 性分化疾患に関する情報発信と啓発活動: 性分化疾患小児期対応の手引きの作成と公表、患者・家族用ガイドブックの作成と患者会の開催、性別不詳新生児の取り扱いの作成と配布を行い、性分化疾患に関する内科的診断・治療の手引きの作成、性分化疾患に関する外科的診断・治療の手引きの作成、研究班ホームページの設置、海外性分化疾患研究グループとの連携に着手した。(3) 脳の性分化に関する研究: 性分化疾患患者の社会的性の決定においてにおいて最も重要な因子は、脳の性分化状態(性自認状態)であると考えられる。このため、どのような患者において、性同一性のゆらぎが生じやすいかを検討した。(A) 小児期性自認の現状に関する実態調査:性自認に関するアンケート調査用紙を、思春期前の小児に用いられている性同一性障害の診断基準(DSM-IV-TR)に準じて作成し、性分化疾患のうち胎児期のアンドロゲン暴露効果が異なると考えられる疾患において担当医を対象とする実態調査を行った。アンケートの回収は197症例で、回収率は35%であった。その結果は日本小児科雑誌に掲載した(性分化疾患の性自認に関する調査研究)。(B) 性指向成人患者アンケート調査:青年期(21〜30歳)となった21水酸化酵素欠損症5例(46,XXの社会的女性、Prader分類 Ⅲ)および11β水酸化酵素欠損症1例(46,XXの社会的男性、Prader分類V)を対象として実施した。その結果、脳の性分化には、胎児期のアンドロゲン暴露が根源的な効果を持つものの、養育環境やその後の疾患のコントロール状態に依存し、生後、時に思春期年齢の男性ホルモン暴露が関与していることが窺われた。また、外性器の状態に対しては満足しているとはいえないことが判明した。外性器形成手術の結果起こりうる外性器のコスメティックな問題や性交障害に関する情報提供が不十分であることが明らかであった。
結論
以上の成果は、診断基準の作成と共に、性分化疾患診療に必須の診療ガイドライン作成に直結すると考えられる。また、その学術的成果は、多数の英文雑誌掲載や海外・国内招待講演から明らかなように、国内のみならず国際的に高く評価された。
公開日・更新日
公開日
2015-06-30
更新日
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