文献情報
文献番号
201324085A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝性脳小血管病およびその類縁疾患の診断基準の確立と治療法の研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-047
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
小野寺 理(新潟大学 脳研究所)
研究分担者(所属機関)
- 水野 敏樹(京都府立医科大学 神経内科)
- 吉田 邦広(信州大学 神経難病学講座)
- 豊島 靖子(新潟大学 脳研究所)
- 池内 健(新潟大学 脳研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年,脳小血管に首座をもつ病態が高頻度で指摘されるようになった(leukoaraiosis:LA).LAは認知症,脳梗塞,出血性脳梗塞の発症に関わる.しかし病態機序は不明であり,有効な治療方法も確立されていない.さらに抗血小板薬の使用による脳出血が危惧されているが,抗血小板剤使用の是非も明らかではない.本病態の中に,家族性に LA を起こす遺伝性脳小血管病がある.本症には,常染色体性優生遺伝形式をとるCerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy (CADASIL) や,劣性遺伝形式をとるCerebral autosomal recessive arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy (CARASIL) 等がある.本申請では,若年性の脳小血管障害を疑った場合に,常に,有用な情報を与え続け,診断について提案を続けるコアステーションを形成することを目的とした.それと並立し,両者に類似する臨床症状を示す神経軸索スフェロイドを伴う遺伝性びまん性白質脳症(HDLS)についても,各々その実態を明らかとすることを目的とした.
研究方法
HTRA1遺伝子のエクソン1に遺伝子多型c.34_35delCinsTCCT (p.L11_L12insS)が脳小血管病の危険因子となる可能性を検討した.CADADILに関しては,その診断技術の向上を目的として,MRI拡散強調画像(DTI)の手法の一つで,細孔材料の内腔に満たされた水の拡散能を測定することで材料の直径を非侵襲的に計測する方法であるq-space imaging(QI)の臨床応用を試み,従来法との比較を行った.認知障害を中核症状とする成人発症の遺伝性白質脳症であるHDLSに対しては,その脳画像上の特徴,および他の白質脳症との鑑別点を明らかにすることを目的とし,患者脳,末梢血細胞を用いて細胞内のコロニー刺激因子1受容体(CSF1R)以下のシグナル伝達異常を検討した.さらに,遺伝子解析により確定診断をされたHDLS症例について,自験例および既報例をレビューすることにより,HDLSの疾患概念の確立を目指し,診断基準作成草案を作成することを目的とした
結果と考察
HTRA1遺伝子多型c.34_35delCinsTCCTの頻度は,脳小血管病患者群,対照群間に有意差は認めなかった.CADASILのQI解析では,正常者と大脳白質の全部位,特に前頭葉と側頭葉で,有意差を認めた.HDLSに関しては10名で8つのCSF1R変異を見出した.これらの患者のうち6名の画像を詳細に検討し,既報の通り白質病変は前頭葉,頭頂葉優位であることを確認した.また,信号異常を伴う脳梁萎縮は早期から見られること,側頭極,外包病変は認めないこと,microbleedは認めないこと,を示した.HDLS患者,健常対照者の末梢血から採取した単球(CD14陽性の末梢血単核球)をCSF1RのリガンドであるCSF-1,IL-34,およびCSF-2の存在下で培養し,HDLS患者由来の単球では,CSF1R遺伝子異常に伴う細胞内シグナル伝達の異常が示唆された.今回開発した診断基準案に当てはめると,probable HDLSと診断される感度90%,特異度75%となった.HTRA1遺伝子多型c.34_35delCinsTCCT多型は単独では脳小血管病発症の危険因子にならないと考えられた.CADASILにおいてはQI法は従来のMRI画像評価や拡散能を示すADC値やFA値と異なり,早期の病変ならびに,質的な定量的評価を行える可能性が示唆された. HDLSのシグナル伝達分子の検討はCSF1R異常とマクロファージ/ミクログリアの機能異常を結びつけるものであり,病態とも密接に関連することが期待される.HDLSの診断基準を用いることにより,高い診断効率を得ることができた.
結論
HTRA1遺伝子多型p.L11_L12insSは脳小血管病の発症危険因子にならない.Q-space imagingは従来の拡散強調画像よりもCADASILにおける白質病変を鋭敏に描出が可能である.HDLSは若年性認知症の主要な原因疾患と位置付けられる.画像的に他の白質脳症との鑑別はある程度可能であるものの最終的な確定診断はCSF1R検査に拠らざるを得ない.HDLSの病態解明,治療法の開発に向けては,細胞(マクロファージ/ミクログリア)レベルでの機能異常へのアプローチが必須である.HDLSに特徴的な臨床所見と画像所見を抽出できた.その知見をもとに,HDLSの診断基準を作成した.
公開日・更新日
公開日
2015-06-30
更新日
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