先天性免疫不全症候群の病態解明と予後改善に関する研究

文献情報

文献番号
201324065A
報告書区分
総括
研究課題名
先天性免疫不全症候群の病態解明と予後改善に関する研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-027
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
峯岸 克行(国立大学法人徳島大学 疾患プロデオゲノム研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 高田 英俊(国立大学法人九州大学 大学院医学系研究科)
  • 小原  收(理化学研究所 免疫・アレルギー科学総合研究センター)
  • 玉利 真由美(理化学研究所 ゲノム医科学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
21,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先天性免疫不全症は、ヒト免疫系遺伝子の異常が原因で発症する疾患である。代表的な病型だけでも約40種存在するが、最近同一の遺伝子異常が原因でも軽症例と重症例があることが判ってきており、予後の予測が困難である。本研究では、先天性免疫不全症の詳細な検討を行い、その臨床症状、免疫能、遺伝子多型を検討することにより、予後因子を明らかにし、各症例に適切な個別化医療を提供する基盤を整備することを最大の目的とする。その突破口として、申請者が原因遺伝子を最近発見した高IgE症候群を対象とし、次に、先天性免疫不全症全体で同様の検討を行う。我々がSTAT3のドミナントネガティブ変異が原因であることを世界で初めて発見した。その病態を明らかにしてきた。さらに、すでに高IgE症候群のマウスモデルを樹立している。しかし、本症の重症アトピーとの鑑別は困難で、病因と病態形成機構は不明の点が多く、治療には多くの課題が残されている。さらに、同じSTAT3の遺伝子変異を有する症例であっても、一部の症例においては早期から肺の器質的疾患が進行し、20歳代で死亡する症例が多数存在する。一方で対症療法のみで肺の器質的病変が出現せず、良好な経過をとる症例もある。この予後不良群と予後良好群を臨床的、遺伝学的、免疫学的方法で鑑別する方法を見出し、それぞれに対して適切な個別化医療の基盤を構築することが本研究計画の目的である。
研究方法
高IgE症候群の病態形成機構の解明我々が樹立したSTAT3-DNを全身に発現する高IgE症候群のモデルマウスを用いて、各種の皮膚炎誘発モデルの検討を行った。このモデルマウスにおいては、アトピー性皮膚炎はSPF環境下では自然発症しないことが明らかになった。そのため、各種の誘発性皮膚炎の検討を行った。ハプテン反復投与による皮膚炎モデルでは、day -6にハプテンを腹部に塗布感作し、day 0より隔日で10回耳介にハプテンを塗布した。これらの炎症誘発操作後に皮膚よりコラゲネース処理により皮膚局所の細胞を取り出し、その細胞表面形質を検討し、さらにその細胞のサイトカインやケモカイン産生を評価した。
先天性免疫不全症の予後改善を目的として、CD3δ欠損症の造血幹細胞移植後、血清IgGAM、末梢血リンパ球サブセット解析、リンパ球機能解析、ワクチン接種後の特異抗体産生能解析を行った。
次世代シーケンシングによる高IgE症候群の原因遺伝子の検討を行った。その情報解析パイプラインを稼働させ、遺伝子変異情報を構築したローカルに稼働する情報解析ツールを開発した。公的に利用できる1塩基多様性情報(特に日本人健常者の1塩基多様性情報)と研究分担者が蓄積した日本人1塩基多様性情報の両者を統合し、発症原因となる候補変異を絞り込んだ。高IgE症候群の病態を解明する目的で、重症アトピー性皮膚炎症例で、ゲノムワイド関連解析を行った。
結果と考察
今回の我々の検討により、高IgE症候群においては、ハプテン反復投与による皮膚炎モデルがヒトのアトピー性皮膚炎と類似した病態を形成することが明らかになった。今後この皮膚炎モデルと各種の遺伝子改変マウスを用いて、その病態形成機構を明らかにしていくことが可能になった。
2名のCD3δ欠損症患者において、前処置なしで、HLA一致非血縁者間造血幹細胞移植を行った。造血幹細胞移植後易感染性は改善し、T細胞機能回復が見られたが、T細胞数およびT細胞機能上は、正常範囲以下であった。この原因としては、CD3δ欠損症の場合、胸腺に残存するレシピエントの未熟T細胞が、ドナーT細胞の分化を制限している可能性が考えられた。血清免疫グロブリン濃度および特異抗体産生能は、移植後に正常に認められた。B細胞は100%レシピエント由来であることより、CD3δ欠損症で前処置なしで移植した場合、ドナーT細胞とレシピエントB細胞の相互作用によって抗体産生能が回復することが明らかになった。
計65例の高IgE症候群の全エクソンシークエンスを実施した。いくつかの有力な高IgE症候群新規原因遺伝子候補を発見し、機能解析を実施している。高IgE症候群は重症アトピー性皮膚炎との鑑別が困難であり、両者に共通の遺伝要因が存在する可能性があるため、重症アトピー性皮膚炎症例に着目して全ゲノム関連解析を行い、CCR4近傍のSNPとの間に強い関連があることを認めた。
結論
高IgE症候群の疾患モデルマウス、患児の全エクソーム解析、先天性免疫不全症の新規治療法の検討、全ゲノム関連解析を実施し、先天性免疫不全症の病態解明と予後改善に向けて多くの重要なデータを得た。特に高IgE症候群のアトピー性皮膚炎の確立、全エクソーム解析の完了は重要な進展である。これらは今後、病因の解明と早期確定診断、病態の解明と予後改善に有用と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201324065B
報告書区分
総合
研究課題名
先天性免疫不全症候群の病態解明と予後改善に関する研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-027
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
峯岸 克行(国立大学法人徳島大学 疾患プロデオゲノム研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 高田 英俊(国立大学法人九州大学 大学院医学系研究科)
  • 小原 收(理化学研究所 免疫・アレルギー科学総合研究センター)
  • 玉利 真由美(理化学研究所   ゲノム医科学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先天性免疫不全症は、ヒト免疫系遺伝子の異常が原因で発症する疾患である。その原因として150個以上の遺伝子が同定されている。最近同一の先天性免疫不全症で同一の遺伝子異常があっても軽症例と重症例があり、予後の予測が困難であることが明らかになってきた。本研究では、先天性免疫不全症の詳細な検討を行い、予後因子を明らかにし、各患児に適切な個別化医療を提供する基盤を整備することを目的とする。高IgE症候群の原因は、一部明らかにされているが、いまだ不明な症例も多数残されている。また、その病態形成機構はほとんど明らかにされていない。そこで、我々は原因不明の高IgE症候群の病因を追及し、その疾患モデルマウスを樹立してその病態を詳細に検討する。特に、高IgE症候群では、アトピー性皮膚炎や骨粗鬆症などの日本国民に高頻度で見られる疾患を合併するので、その病態の解明は臨床的重要性が高い。さらに、高IgE症候群と重症アトピーとの鑑別は困難で、高IgE症候群の詳細な臨床経過を全国調査し、正確な早期診断を可能にする診断基準を策定し、重症度分類を用意する。
研究方法
日本人高IgE症候群症例の臨床像を解明するために、全国の高IgE症候群症例を診療している施設にアンケート調査を行った。この調査を基にして、日本人の高IgE症候群の診断基準を策定した。
高IgE症候群の病態形成機構を検討するために、STAT3-DNを発現するモデルマウスを樹立した。このマウスを用いて、アトピー性皮膚炎の発症機構の検討を行った。
高IgE症候群の高IgE血症に関する遺伝要因の探索するために、アトピー性皮膚炎で高IgE血症を伴う症例(149例)とコントロールで全ゲノム関連解析を行なった。
高IgE症候群の病因を解明するために、既知の原因遺伝子が正常である高IgE症候群症例において、次世代シークエンシングを行った。イルミナ社のTruSeqエクソーム濃縮キットによりエクソームの濃縮を行い、1ugの患児の末梢血由来のDNAをコバリスM220にて断片化し、末端を平滑化、リン酸化、アダプターを添加し、マルチプレックスの検討に対応した。これをイルミナ社HiSeq1000により塩基配列を決定した。その情報解析パイプラインを稼働させ、発症原因となる候補変異を絞り込んだ。
重症複合免疫不全症の根治的療法として、造血幹細胞移植を実施した。移植後、血清IgG, IgA, IgM、末梢血リンパ球サブセット、リンパ球機能解析、ワクチン接種後の特異抗体産生能等の検討を行った。
結果と考察
日本人高IgE症候群の臨床的特徴を明らかにするために、全国疫学アンケート調査をおこなった。対象の総患者数は46名で、男女比は25:20、年齢は0歳から50歳で中央値は11歳であった。責任遺伝子は、STAT3遺伝子変異20例、TYK2遺伝子変異1例であった。骨系統の異常は、STAT3変異例のみで認められたが、STAT3変異の有無で細菌・真菌・細胞内寄性菌に有意差は認めなかった。これを基にして、高IgE症候群の診断基準と重症度分類を作成した。
今回の我々の検討により、高IgE症候群においては、ハプテン反復投与による皮膚炎モデルがヒトのアトピー性皮膚炎と類似した病態を形成することが明らかになった。
2名のCD3δ欠損症患者において、前処置なしで、HLA一致非血縁者間造血幹細胞移植を行った。造血幹細胞移植後易感染性は改善し、T細胞機能回復が見られたが、T細胞数およびT細胞機能上は、正常範囲以下であった。この原因としては、CD3δ欠損症の場合、胸腺に残存するレシピエントの未熟T細胞が、ドナーT細胞の分化を制限している可能性が考えられた。血清免疫グロブリン濃度および特異抗体産生能は、移植後に正常に認められた。B細胞は100%レシピエント由来であることより、CD3δ欠損症で前処置なしで移植した場合、ドナーT細胞とレシピエントB細胞の相互作用によって抗体産生能が回復することが明らかになった。
計65例の高IgE症候群の全エクソンシークエンスを実施した。いくつかの有力な高IgE症候群新規原因遺伝子候補を発見し、機能解析を実施している。
高IgE症候群は重症アトピー性皮膚炎との鑑別が困難であり、両者に共通の遺伝要因が存在する可能性があるため、重症アトピー性皮膚炎症例に着目して全ゲノム関連解析を行い、CCR4近傍のSNPとの間に強い関連があることを認めた。
結論
高IgE症候群の疾患モデルマウスの樹立、患児の全エクソーム解析、先天性免疫不全症の新規治療法の検討、全ゲノム関連解析を実施した。特に高IgE症候群のアトピー性皮膚炎モデルの確立、全エクソーム解析の完了は重要な進展である。これらは今後、病因の解明と早期確定診断、病態の解明と予後改善に有用と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201324065C

成果

専門的・学術的観点からの成果
STAT3の遺伝子異常が原因で発症する高IgE症候群の骨病変の発症メカニズムを明らかにした。また病因不明の高IgE症候群の原因遺伝子を網羅的に探索するため、その患児の全エクソンシークエンスを実施し、多数の新規原因遺伝子候補を抽出することに成功した。
高IgE症候群と重症アトピー性皮膚炎は鑑別が困難で、両者に共通の遺伝要因が存在する可能性があるため、重症アトピー性皮膚炎症例に着目して全ゲノム関連解析を行い、CCR4近傍のSNPとの間に強い関連があることを認めた。
臨床的観点からの成果
日本人高IgE症候群の臨床的特徴を明らかにするために、全国疫学アンケート調査をおこない、日本人高IgE症候群の臨床的特徴を明らかにした。その臨床経過の解析より、STAT3の遺伝子異常により発症する高IgE症候群においては、同一の遺伝子異常があっても軽症例と重症例があり、予後の予測が困難であることが明らかになった。CD3δ欠損症患者において、前処置なしでHLA一致非血縁者間造血幹細胞移植を実施し、B細胞機能の回復を見たが、T細胞機能の回復には何らかの前処置が必要との知見を得た。
ガイドライン等の開発
日本人高IgE症候群の臨床像調査を基にして、日本人の高IgE症候群の診断基準と重症度分類を作成した。診療ガイドライン、特に治療指針の開発に向けては、対象の患者集団を適切に設定するための更なる検討が必要であることが明らかになった。
その他行政的観点からの成果
-
その他のインパクト
-

発表件数

原著論文(和文)
31件
原著論文(英文等)
59件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
74件
学会発表(国際学会等)
21件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
2019-05-24

収支報告書

文献番号
201324065Z