加齢及び加齢関連疾患に対する薬物による干渉に関する実験的研究

文献情報

文献番号
199800269A
報告書区分
総括
研究課題名
加齢及び加齢関連疾患に対する薬物による干渉に関する実験的研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
木谷 健一(国立療養所中部病院長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 丸山和佳子(国立療養所中部病院長寿医療研究センター)
  • 道川誠(国立療養所中部病院長寿医療研究センター)
  • 井上正康(大阪市立大学医学部)
  • 杉山雄一(東京大学大学院薬学系研究科)
  • 大澤俊彦(名古屋大学大学院生命農学研究科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
15,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
加齢(老化)及び加齢関連疾患(いわゆる老年病)の発症機序に対する酸化的ストレスの役割が次第に強調されてきているがその直接証明は容易でない。本研究では、酸化ストレスの作用機序の解明に努めると共に逆に抗酸化剤の効果を検討することにより酸化ストレスの役割を明らかにすることを目的としている。これらの抗酸化ストラテジーの部分的な成功すら、加齢のフリーラジカル説の間接的証明となると共に現実的に加齢関連疾患の予防及び治療に結びつきうるものであり実際的なアプローチとして極めて必要性が高い。
研究方法
マウス(BDF1)、ラット(F-344)を用い、異なった投与量のデプレニルを18月齢より週3回皮下注し、その生存曲線を生食投与の対象群と比較し、一部ではと殺後脳内スーパーオキサイドディスミュテース(SOD)、カタレース(CAT)活性を測定した。他にラジサリンの抗酸化酵素活性への効果及びBN/Biラット脳の酵素活性の加齢変化を検討した。更にウルソデオキシコール酸(UDCA)の肝内CAT、GST活性に対する効果を老(27月齢)若(7月齢)C57BLマウスで検討した(木谷)。マウスを用いて1,2―ジメチルヒドラジン、アゾキシメタンによる長期発癌実験に対するクルクミンの介入実験を行った。同様に1%コレステロール投与家兎に発症する動脈硬化症に対する用いて、セサミノールの効果を検討した(大澤)。生体エネルギー代謝を活性酵素クロストークが制御する様相を分子、ミトコンドリア(Mt)、細胞及び組織各レベルでオキシメーター及びESRによる酵素関連代謝を中心に解析した(井上)。ヒトドーパミン神経芽細胞腫であるSH-SY5Y細胞をNMSで処理、コメットアッセイにてDNA損傷と細胞死を定量した。デプレニルによりあらかじめ培養系を処理した後にNMSを与え、そのアポトーシス効防止効果を検討した(丸山)。ラット胎児脳より調整した神経細胞培養系を作り、ApoE3、ApoE4、compactin、β-VLDL及びその組合せを培養系に作用させ、その細胞死への影響を調べた(道川)。?管・脳関門を生理的に通過させうるdrug delivery system(DDS)を開発のため?液脳内関門に存在する有機アニオントランスポーター(OAT)の同定を行った(杉山)。
結果と考察
加齢・加齢関連疾患の病因にフリーラジカルが関与すると唱えられてから約半世紀が過ぎ、その可能性は次第に現実的なものとなってきているが、なお、生体内での作用機序の詳細は不明である。本班研究では井上がin vivoにおけるスーパーオキサイドを主とする活性酸素とNOのクロストークが?液循環動態やエネルギー代謝を部位特異的に制御するスーパーシステムを形成していること又そのバランスの歪みが種々の病態を引き起こすことを示した。この結果から加齢関連疾患が極めて長期の歪みの連続により起こると考えると、その対策は抗酸化物質を長期間食品に添加するか、食品内抗酸化物の摂取が有効であろうと予想している。事実、大澤により食品内抗酸化物による発癌、動脈硬化予防に極めて明確な有効性が実験的に示され、この方向にある更に多くの可能性を追求する重要性が示された。内因性抗酸化酵素を修飾するデプレニルやラサジリンの動物寿命に対する効果、特にその機序は尚不明な点が多く、更に検討の余地が残されているが、脳組織の抗酸化ストラテジーとしては抗酸化物質投与による第1の方法が?液・脳関門の存在のため限界のある現在、それを補う抗酸化ストラテジーとして更に追求すべきテーマと考えられる。特にデプレ
ニルをはじめとする多くのアリファティックプロパジラミン類はそれ自体極性が低く、?管・脳関門を通過しえ、既にパーキンソン病の治療にも用いられ、人への使用が可能な薬物である。その抗アポトーシス効果と共に生存曲線延長効果の機序は更に検討に値しよう。道川の研究はApoE4のリスクファクターとしての作用はコレステロール濃度低下により引き起こされるというアルツハイマー病の病因論としても極めて興味あるモデルであるが、このプロジェクト内ではむしろ特異な神経細胞死のin vitroモデルとして、将来種々の薬物の薬効スクリー ニングに応用され得よう。最後の杉山によるDDSの完成は容易でないが、脳・神経系の抗酸化ストラテジーとしては何としても解決すべき重要問題であり、杉山らが初めて明らかにした脈絡叢における有機イオントランスポーターは本研究がその方向に数歩踏み出すものと考えられる。井上のin vivo実験の結果にも示されるように酸化的組織障害が多くの老人病の原因となっている可能性は益々たかまってきたが、一方NOとの微妙なクロストークが明らかとなり、抗酸化ストテラジーにもより高度のものが求められる。しかし、大澤の試みの成功は多くの食物中の抗酸化物質からのnutriceuticalsの開発の重要であることを強調すると共にこれらを含有する食物の摂取の意義についても、より科学的な根拠をもたらした。デプレニルより代表される一連のアリファティックプロパジラミンの多様な薬理作用は将来加齢・加齢関連疾患に対し、より高度の薬理学的ストラテジーをもたらそう。
結論
井上のin vivo実験の結果にも示されるように酸化的組織障害が多くの老人病の原因となっている可能性は益々たかまってきたが、一方NOとの微妙なクロストークが明らかとなり、抗酸化ストテラジーにもより高度のものが求められる。しかし、大澤の試みの成功は多くの食物中の抗酸化物質からのnutriceuticalsの開発の重要であることを強調すると共にこれらを含有する食物の摂取の意義についても、より科学的な根拠をもたらした。デプレニルより代表される一連のアリファティックプロパジラミンの多様な薬理作用は将来加齢・加齢関連疾患に対し、より高度の薬理学的ストラテジーをもたらそう。

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